若者の街、渋谷区原宿に建つ「THE SHARE」は、企業の独身寮だった、当時築48年の建物をリノベーションしたアパートメント、ショップ、オフィス空間を併せ持つシェア型複合施設。
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物件データ |
所在地/東京都渋谷区
面積/3,822.91m²
リノベーション竣工年月/2011年11月
総合企画・運営/㈱リビタ
www.rebita.co.jp
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「当社はこれまで中古住宅や遊休化した建物など、さまざまな不動産ストックの再生活用を手掛けてきました。シェアハウスでも、住人の間に豊かな人間関係ができて、いろいろなコラボレーションが生まれています。次の段階として、住宅だけでなく、オフィスやショップなども取り入れた複合施設をつくったら、もっと面白いことが起こるのではと、企画しました」
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明治通りに面した角地に建つ。1階にはカフェ、ショップなど、コミュニティー性の高いテナントを誘致 |
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3~5階がアパートメントフロアで、3階は女性専用。各階にトイレ、シャワーブースがある |
そう話すのは、企画担当の井上聡子さん。地上6階+地下1階の建物内には、1階にテナントショップ、2階にオフィス、3〜5階にワンルームのアパートメント64室が収まり、6階には居住者用のキッチンやダイニング、ライブラリー、ラウンジ、シアタールームといった贅沢な共用スペースを備えている。
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広いスペースと本格的な設備がある共用キッチン。休日は大勢で料理をすることもある。食器やキッチン家電も完備 |
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6階のライブラリー。本は居住者なら誰でも読める。勉強会が開かれることも |
居住者は主に20代後半から30代の単身者。その中の一人、2015 年に入居した建築事務所に勤める阿部彩華さんは、「仕事で遅く帰ってきても、ラウンジやライブラリーに行くと誰かが居て、おしゃべりしたり、お茶をしたり、時には食事の仲間に入れてもらったり。とてもアットホームな雰囲気です」と、シェアメイトと共に過ごすオフタイムを楽しんでいる。
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4階にある阿部さんの個室。7.6畳で洗面所、クローゼット、デスク、ミニ冷蔵庫、ベッドを完備 |
「THE SHARE」では、居住者同士のコミュニケーションにフェイスブックを活用している。例えば、「これからシアタールームで〇〇を観ます」と投稿すると、共感した住人たちが集まってドラマや映画を観たり、「休日に○○に行きます」と告知して、皆でドライブに繰り出したりすることもある。(中斉さん)
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会員制のシェアオフィス。壁際は固定デスク、フロア中央はフリーデスク |
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6階のシアタールーム。上映される映画やドラマの内容が住人同士内のフェイスブックで告知されることも |
また、ラウンジは、オフィス利用者も使うことができ、住人とも気軽に交流している。いろいろな仕事や趣味を持った人たちが時間を共有し、自分一人では得られない情報やスキルをゲットしながら、刺激的な毎日を送っている。
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スタイリスト・熊谷隆志氏がデザインした屋上ガーデン。パーティーやイベントなど、使い方は自由 |
富山県は日本全国で持ち家率1位、1軒当たりの延べ床面積も、もっとも広いといわれる。富山県砺波市でチューリップ農園を営む伊藤さんは、奥さまと2人のお子さんとの4人家族。昨秋、実家の田んぼを宅地に転用して新居を建てた。それまでは市内のアパートに住んでいたが、長女が小学校に上がるまでには家を建てたいと、3年前から家づくりに動いたという。
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物件データ |
所在地/富山県砺波市
面積/200.12m²
築年月/2016年10月
設計//中斉拓也(中斉拓也建築設計)
www.nkstky.jp
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「この辺の人は、結婚して1~2年、32~35歳で一軒家を建てる人が多いです。うちは決して早い方ではありません」と伊藤さん。
はじめは大手ハウスメーカーの住宅展示場や地元の工務店の内覧会などを精力的に訪れた。しかし、ピンとくるものがない。「家づくりって、そんなにワクワクするものではないのか…」と意気消沈して友人に話すと、建築家との家づくりを勧められる。それが富山市に拠点を置く中斉拓也建築設計の中斉拓也さんだった。
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外壁と屋根にはホワイトグレーのガルバリウム鋼板を採用し、
シンプルに仕上げた |
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玄関土間からのびる通路の奥にLDKがある。幅広のフローリングは落ち着いた色のウォールナット |
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広々としたポーチと引き戸の玄関ドア。ガルバリウム鋼板とスギがマッチしてモダンな雰囲気に |
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玄関土間から続く中庭とデッキ。中庭には今後シンボルツリーを植え、バーベキューを楽しむ予定 |
中斉さんが導いたプランは、間口31mの敷地に見合う、どっしりとした平屋に近い家。また、ガレージ→玄関土間→ 廊下→LDKまで、約30m同じ天井の梁を続け、空間のつながりを強調した。
「梁が細かいのは、雪の荷重を分散して家に負担をかけないためですが、この構造がデザインにもなっています」(中斉さん)
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ダイニングの窓から実家が見える。ナラの古材に黒皮鉄の脚を組み合わせた造作テーブルはご主人の自信作 |
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ダイニングチェアはデンマークを代表するデザイナー、ハンス・J・ウェグナーが手掛けた「CH88」をセレクト |
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洗濯物を乾かす場も兼ねた広いユーティリティ。洗面台は造作。床は白×黒の塩ビタイルで市松模様に |
庭を挟んでご両親が暮らす家があるが、家の中に入ってしまえば、お互いに気配を感じることなく過ごせるという。
「延べ床面積は60坪強ありますが、近隣の家と比べるとそんなに大きく感じません。でも、居心地のいい家になったと思います」と伊藤さん。家づくりは楽しく、いつか、もう1軒建ててみたいと思っているそうだ。
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2階の子ども部屋。今はワンルームで使っているが、将来2部屋に分けられるようドアは2つ設けてある |
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キッチンのステンレス天板、大きなシンクは奥さまの希望。ダイニングの照明は北欧のルイスポールセン |
朝5時に起床して朝食を済ませると、早速庭へ。夜、灯りがつくまで草花と過ごす。
「庭仕事は木々や球根を植えるだけではありません。雑草を取ったり、咲き終わった花を摘んだり、肥料を施したり、害虫駆除をしたり、やることがいっぱい。この辺はモグラやアナグマが根をダメにしてしまいますので、彼らとも戦わなければなりません。1日があっという間に過ぎてしまいます」
そう話す伏見さんは、今では毎日ガーデニング三昧の日々を送っているが、以前は東京都に住む公務員だったそう。
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物件データ |
所在地/山梨県
面積/67.08m²
築年月/2012年3月
設計/岸本和彦(acaa建築研究所)
www.ac-aa.com
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「定年後はどこに住もうかと、海外も視野に入れて考えたのですが、結局、近場の山梨に。ここは母の土地なのです」と、庭を育てながら、草原の中に暮らすライフスタイルを選んだ。
新居の設計は、家づくりのセミナーに参加して出会ったacaa建築研究所の岸本和彦さんに依頼。草原となじむレッドシダー張りの小屋のような外観。それとは一転、室内は光が美しく拡散する白い世界。コンパクトだが、内壁が複雑に入り込み、全体を見通せない奥行きのある空間が広がる。そして外と接する「外の間」が4つ、DKや寝室など生活を営む「中の間」が3つある。
「風景を求める、つまり外に向かって開く開放感と、シェルターとしての安心感を18坪の小さな家の中に共存させています」(岸本さん)
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自然の風景に違和感なく佇むレッドシダーの小屋。赤味が強い木だが、竣工から4年が経ち、味わいが出てきた |
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西側の庭が堪能できる「外の間3」の玄関まわり。綺麗な夕日を見ながら、ベンチに腰掛けて過ごしている |
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「外の間1」から寝室や和室を見通す開口部。開口が切り取る部屋の様子が重なり、ひとつの風景になる |
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空や緑を眺めながら入浴できるバスルーム。壁はレッドシダー |
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3つの「中の間」の床には磁器質タイルを張った。天窓からの光が刻々と動いて、白い空間に美しい陰影をつくる |
ここでの生活の最大の魅力は「景色」だと伏見さんは言う。濃い霧に包まれた雲海の景色は、とても幻想的で感 激 するそう。一方、不便なことは、店舗や病院などが近くにないこと。買物は1週間に1度車で買出しに行き、まとめ買いしている。
ちょっとあれが欲しいなんていうとき困りますけどね」(伏見さん)自然な感じできれいだな、気持ちいいな」という庭を目指しているが、まだ目標とする庭の30〜50%しか達していないという。カメラを勉強して、庭の木々や花々、庭を訪れる小鳥や蝶々などを撮るのが次の楽しみだ。
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和室である「外の間2」。大きな窓から庭の様子が楽しめる。桜の花見時には、友人が大勢集まる |
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コンパクトなアイランドキッチン。「とても使いやすく、窓から庭を見ながら作業できるのがうれしい」と伏見さん |
姫路城の西方向、古民家と新築が混在するエリアに建つ星山邸。地上3階建て鉄筋コンクリート造の建物は、前面道路から駐車スペース分をセットバックし、前後に2つのボリュームを持つ。
「緑が見えて、繁華街からも近い場所が理想だったので、お城の近くで土地を探していました」とご主人の星山政義さんは話す。
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物件データ |
所在地/兵庫県姫路市
面積/55.13m²
築年月/2009年5月
設計/木下昌大建築設計事務所(キノアーキテクツ)
yumekikou-happy.com
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以前は同じ市内のご実家でご両親と暮らしていたが、2人のお子さまの成長とともに手狭になり、新築での家づくりを考えはじめたという。その際、影響を受けたのがご夫妻が足しげく通っていたアンティーク家具「オコンネルズ」オーナーの住まいだった。そしてアドバイスを請いに向かったオーナー宅で同物件の設計者、キノアーキテクツの木下昌大さんと知り合う。土地が見つかってすぐに相談、設計を依頼した。
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ボリュームを前後に分けることで周囲への圧迫感を抑えた。周辺には植栽を積極的に施している |
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2階階段。老後を考えて2人乗りできるエレベーターも設置済み |
「リビングから姫路城を眺められる家にしたいと話したら、3階建てが必須条件となりました。ほかに来客用を含めた車5台分の駐車スペースと庭をリクエストしましたが、それ以外はほぼお任せです」(奥さま)
リビングは優先的に3階かつ南東方向に大きな開口をとるプランで進められた。さらに木下さんは上層に行くに従い姫路城への眺望が開けていくように壁を回転させて開いていく形を見いだす。
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ダイニングからリビング方向を見る。左の小さな正方形の窓からも姫路城がのぞける |
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お子さまがパパッと朝食をとれるようカウンターキッチンに。収納が少ないため、食器は厳選 |
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大学生と高校生のお子さまの部屋。間の壁は将来リノベーションした場合に取り払うことを検討 |
「模型の段階ですでにシンボリックな外観に驚きつつも、期待以上で心躍ったという政義さんは、「希少なアンティーク家具と同じで、ほかにないデザインがいいと思いました」と嬉しそうに当時を振り返ってくれた。現在リビングには白壁を背にお気に入りのアンティークコレクションを配置。放物面ゆえの難しさもまた、インテリアを考える楽しみになっているようだ。
竣工から7年を経て庭の木々は少しずつ生長し、周辺環境とも緩やかになじみつつある星山邸。リビングの窓からは、姫路城が今日も優美な姿をのぞかせる。
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リビングからダイニング方向を見る。モルソーのストーブを愛用中。薪は政義さん自ら調達する |
佐賀県南西部の有明海沿岸の農村地域には、数百棟の茅葺き屋根の古民家が点在する。これらは江戸時代末期から明治時代にかけて建てられたものが多く、今も昔ながらの景観を残している。
5年前に長崎県から鹿島市に引っ越してきた中尾さん一家が住む古民家も、大正時代の初期に建てられ、築約100年という。
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物件データ |
所在地/佐賀県鹿島市
面積/332.76m²
築年月/2012年12月
設計/㈲夢木香
yumekikou-happy.com
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「有明海の干潟の写真を撮ったり、調査したりするために40年間、長崎県大村市から通いました。秋から春先まで野鳥が来ているときの干潟は、それはそれは美しく、老後はこの近くに住みたいと思っていたんです」と中尾さん。干潟が見える所まで徒歩10分の場所にある、くど造りの古民家をひと目で気に入った。
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母屋(右の棟)は「くど造り」。茅葺き屋根は、棟の補修程度に留めた。左の棟は元々は座蔵だった建物 |
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玄関土間は、中尾さんが撮影した写真を飾ってギャラリーとして使用。懐かしい8×10のカメラも |
くど造りとは、佐賀平野でよく見られる伝統的な民家形式。棟がコの字型になっており、台風に強い構造で、雨降り時にも軽作業ができるよう土間が広くつくられているのが特徴だ。中尾さんは、くど造りの母屋の改修は一部の畳の床を板張りに変える程度にとどめ、現状を生かした。
隣接する座蔵は梁をできるだけ残し、力強い構造を楽しめるLDKに。その上に2階を増築して夫婦の寝室をつくり、バスルームも新しくして快適な生活空間に再生した。
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蔵の下屋の上に夫婦の寝室を増築。床はスギ材。屋根を支える小屋組は、スギの丸太梁を組んで現しとした |
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現しにした柱や梁が力強さを感じさせるLDK。リビングは板間に畳を敷き詰めている |
「茅葺き屋根は改修にお金がかかるのですが、大切にしていた前の住人に敬意を表して、なるべく元の姿を残しました。茅葺きの家は静かなんですよ」(中尾さん)
改修工事を手掛けた夢木香の松尾進さんは、昨今、若い世代が古民家をリフォームして二世帯住宅にする仕事が増えていると話す。
「佐賀県の人は古い家の良さ、強さを知っている人が多い。伝統的な木組みの家は100〜200年、雨漏
りがしないように保守管理すれば残っていくし、高温多湿の日本には金物を使わない昔の工法が風土に合っています。また木や塗り壁は呼吸して、空気中の水分を調湿し、人が住みやすい空間を与えてくれます。その環境が、木も土壁も長持ちさせるのです。その結果、町並みも守られていきます」(松尾さん)
住み継がれてきた町で、今も現役で働いている中尾さんは今年で83歳。野鳥観察や撮影、干潟漁の撮影など、有明海を記録し続けている。
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造作キッチン。「炊事道具でいっぱいになるのは嫌」(奥さま)と、出窓には好きな野草を飾っている |
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バスルームは在来工法で、白タイルとヒノキで仕上げた。ヒノキは水の乾きが早く、腐りにくい |
長年、賃貸アパートに住んでいたNさん一家。約2年前にそろそろ家を建てようとご夫婦で話し合い、神奈川県厚木市内に土地を探し始めた。
厚木市はご主人の通勤に便利なことと、子どもの医療費が中学生までは無料だったり、2人目からは幼稚園の補助金がもらえるなど、子育て支援がとても充実していて、暮らしやすいから選んだそう。
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物件データ |
所在地/神奈川県厚木市
面積/134.26m²
築年月/2016年2月
設計/前田工務店+N
maedakoumuten.jp
協力/すまいポート21
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新興住宅地より昔ながらの街並みが好きだったご夫妻は、不動産会社が紹介してくれた毛利台の土地をひと目で気に入り購入する。設計の依頼先選びは、家を建てるためのあらゆるサポートをしてくれる「すまいポート21」を利用した。
「こんな家を、このくらいの予算で建てたいと希望を伝えると、「すまいポート21」と契約している工務店や設計事務所でコンペをしてくれるんです。私たちは5社でコンペをして、『自分たちに合った家を建ててくれそう』と選んだのが前田工務店でした」
とご夫妻は声をそろえる。
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生活の場である母屋と離れから成り立つ一戸建て。外壁には太陽光で汚れを分解するスイス漆喰を採用 |
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離れの1階はご主人のガレージ。バイク、登山グッズ、雑誌など、好きなものに囲まれた隠れ家のような空間 |
Nさんの住まいへの要望は大きく3つ。「細々とした部屋はつくりたくない」、「絵本作家、イラストレーター、デザイナーである奥さまのアトリエとご主人のバイクガレージが欲しい」、そして「アトリエやキッチンから、子どもたちの様子を見守りたい」ということ。
設計を担当した前田工務店の前田哲郎さんは、生活空間である母屋と、アトリエとガレージがある離れをつくり、この2棟を大きなデッキでつないだ。アトリエはデッキに面しており、窓からはデッキを介してリビングやダイニング、子ども部屋が確認できる。
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子ども部屋はロフト付き。現在は壁を設けず2人で広々と使用。みんなでごろ寝ができる畳間にした |
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1階にある子ども部屋の前の廊下は、コンクリートブロックを並べ、路地のような雰囲気に |
また、1階と2階の間に隙間をつくることで、奥さまが2階のキッチンで作業しながら、1階で遊ぶ子どもたちの姿が分かるように計画した。
「どこにいても常に子どもたちの様子を把握できるので安心です。アトリエで仕事をしていても、窓を開けておけば声も聞こえてきます。伸び伸び遊んでいる気配が感じられて、居心地がいいですね」(奥さま)
手すりや窓台など、大人が考えもしなかったところに遊び場を見つけて、すくすくと育っている子どもたち。そこに向けられたまなざしは、とてもおだやかで優しい。
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離れの2階にある奥さまのアトリエ。窓を開ければ、リビングや子ども部屋で遊ぶ声も聞こえる |
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2階フロア全体を家族が集まる場所に。リビング、ダイニング、キッチン、デッキが縦横につながる |
スギ張りの建物の外側を、さらにレッドシダーのルーバーで囲んだ個性的な住まいは、青森県むつ市の閑静な住宅地でひときわ目を引く。
「ルーバーが自然光と風を室内にうまく取り入れてくれるんです」そう話すのは、設計を手掛けた松浦一級建築設計事務所の松浦良博さん。140㎜間隔のルーバーが、夏は高い位置からの強い日差しを緩和し、冬は横から差し込む日差しを通して、夏涼しく、冬暖かく室内環境を調整しているという。さらに松浦さんは続ける。
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物件データ |
所在地/青森県むつ市
面積/101.12m²
築年月/2015年5月
設計/松浦一級建築設計事務所
www.matsuura-home.co.jp
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「むつ市の夏の太陽高度は約72度。冬は約22度です。この太陽高度から計算して、一番効果的なルーバー間隔を求めました。これ以上広いと夏の直射日光が入りすぎるし、狭すぎると冬の日光が入りにくい。夏は直射日光を遮りたい、反対に冬は光を入れたいという矛盾を解決しています」
この家で暮らすのはTさんご夫妻と娘さん2人の4人家族。さぞ熱心にこだわって家づくりに臨んだと思いきや、家を建てる予定はなく、「まだまだ先のこと」と思っていたそう。
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軒がルーバーを雨から守る。ルーバー角度を3度傾斜させ、雨水が自然に流れ落ちるようにしている |
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シンボルツリーが真ん中に佇む中庭。夏はリビングに木陰をもたらしてくれる |
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吹抜のリビング。床は青森産のスギ材。大きな開口部を配し、ルーバー越しの柔らかな光が室内に降り注ぐ |
「たまたまふらっと展示場に寄っただけなのですが、松浦さんの説明を聞いて、合理的で素晴らしい家だと感激してしまって。当時建設中だった建売りを購入することにしたんです」
(ご主人)
いわゆる衝動買いをしたTさんご夫妻だが、結果は大正解。室内にも木がふんだんに使われ、中庭から心地よい風が流れ込み、森の中に住んでいるような気持ち良さを毎日味わっている。昨年の10月から住み始め、冬は想像以上に暖かく過ごせた。
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奥さまの希望でもあった対面式のシステムキッチン。カウンターを付けて調理スペースを広く確保 |
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2階の子ども部屋は、現在はワンルーム。吹抜で1階とつながり、2階で遊んでいる子どもの声が届く |
この夏も、どのくらい涼しく暮らせるか楽しみだという。
「ルーバーは直射日光を遮るだけでなく、外からの視線をカットしてくれます。プライバシーを確保できるため、窓を開けっ放しにできることも大きな効果です。風が家の中を通り抜け、木の香りを運んでくれるので、相当涼しく感じると思います」(松浦さん)
自然とのつながりやエコな暮らしがますます注目を集めている。ルーバーで周辺環境を優しく招き入れるTさん宅のアイデアは、郊外に限らず、都市部でも活用できそうだ。
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LDKより1m40㎝高く設けた寝室や水まわりへは、スロープ状の廊下を通って行く造りに |
南方向に吉野川の土手や田園を望む敷地を購入し、マイホームを建てようと決心した藤原さんご夫妻。新居の設計は、3年間探した末、徳島市で行われた建築家展で出会ったCONTAINER DESIGNの岸本貴信さんに依頼することにした。
一生に一度建てる家として、満足できるものにしたいと祈念していたご夫妻は、A4用紙4枚にびっしり箇条書きした要望書を岸本さんに提出したという。その筆頭は「40フィートの輸送用コンテナを2基使って住まいを構築したい」という遊び心溢れる内容だった。
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物件データ |
所在地/徳島県板野郡
面積/107.46m²
築年月/2015年3月
設計/岸本貴信(CONTAINER DESIGN)
www.cd-aa.com
施工/アークホーム
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「コンテナを、私の趣味であるバイクいじりや音楽を楽しむ場所、妻が書道を嗜む場所にしたらどうかと思ったんです。見栄えも一風変わって、面白いのではないかと考えていました」(ご主人)
ご夫妻のユニークな発想を受けた岸本さんは、「輸送用コンテナと家族が生活を営む居住スペースをどうつなげていくかが設計の課題でした」と、建物の形状や間取りを検討。導いた答えは、輸送用コンテナに加えて20フィートのコンテナに見立てた木造の箱を3基つくり、合計5基のコンテナを横に並べて住まいを計画するというものだった。
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両端に40フィートの輸送用コンテナを配し、間に20フィートのコンテナに見立てた箱を3基並べて住居を構成 |
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建物の長手方向いっぱいに庭を配置。空も広く感じられる。コンクリートの塀で外部からの視線をカット |
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コンテナに挟まれた路地のような玄関土間。回転式のガラス扉を採用し、半屋外のような空間に |
「ある程度の距離をあけてコンテナを横に並べると、コンテナ内の閉ざされた空間とコンテナ外の開放的な空間が交互に生まれます。コンテナ内には寝室や水まわり、収納などを配し、コンテナ外は、リビングダイニングと子ども部屋にしました」(岸本さん)
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庭に面したバスルーム。庭でプール遊びをしていた子どもたちが直接入浴できる。夜空を見上げながらの入浴も |
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子ども部屋からLDKを見る。その間にはバスルームとウォークインクローゼットが収まる |
家族が集まるリビングダイニングや子ども部屋は、南北の壁が一面ガラス窓になった、外とつながる空間に。空や庭の緑が気持ちよく感じられる場になった。
「実際に住んで『快適』のひと言です。家族が長い時間を過ごすリビングダイニングが明るいのが一番うれしいですね。室内にいながら、庭と一体感が得られるのも気に入っています」とご夫妻。
「今日もよろしくね」と毎朝、家に語りかけながら楽しく暮らすというご主人。これからの楽しみは、DIYで輸送用コンテナに音楽室をつくることだ。
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白×木を基調にしたナチュラルなLDK。壁一面のガラス窓で外とつながり、開放感たっぷり |
大阪市を拠点に住宅や店舗などの設計を手掛けている建築家の松村一輝さんと奥さまの香織さんは、大阪府の中心である梅田から徒歩10分ほどの場所に建つ古い長屋をリノベーションして、新生活をスタートさせた。
「家づくりは立地が最優先でした。私が梅田の近くで育ったので、街中に住み続けたかったし、何より両親が実家の近くに住むことを強く希望していたんです」(香織さん)
いっぽう、一輝さんは、自分たちの予算内で市内の好立地に家を持つことは無理だと考えていた。
「ところが、いざ探し始めてみると、梅田周辺でも大通りから1本入ると、開発されず古い長屋が並んでいるところがあったんです。リノベーション前提で考えれば、梅田エリアに2人で快適に住める家が見つかるのではと思うようになりました」(一輝さん)
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物件データ |
所在地/大阪府大阪市
面積/64.02m²
築年月/2014年8月
設計/coil松村一輝建築設計事務所
www.coilkma.com
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不動産会社に紹介された物件は、建物自体は古いが、前のオーナーが丁寧に住んでいた様子がうかがえるきれいな状態だった。2人とも気に入り、購入を即決。リノベーションの設計はもちろん一輝さんが担当した。
まず、耐震補強と断熱補強をしっかり施し、床は鉄筋を入れてコンクリートを流し込み、新築同等の住宅性能に改善。そのうえで、明るい2階にワンフロアのLDKをつくり、1階に広い玄関土間と寝室、水まわりを配した。既存の梁や柱、建具を生かし、年月を経たものの味わいが生きた住まいが完成した。
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レトロな長屋の街並み。白い2階建ての建物が松村邸。外壁に高圧洗浄を施して白く塗装した |
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既存の木製ドアをペイントして、トイレの扉に。内側の壁の一面は黄色に塗装した |
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広く取った土間玄関。既存の内装を解体したときに出た床材を使ってシューズラックをDIY |
長らく郊外で暮らしてきた一輝さんにとって、初めての都心生活は、「便利すぎるくらい便利で快適。事務所への通勤も自転車です」
近年は梅田だけでなく、家から徒歩圏内の中崎町周辺も、お洒落なカフェや雑貨屋が集まる人気スポットに成長。2人でショッピングやティータイムを楽しみに街に出かけることも多い。また、JR大阪駅直結のファッションビル「グランフロント大阪」もお気に入りの場所のひとつ。
「ケーキとコーヒー豆を買ってきて、家でゆったり食べるのも好きですね」(香織さん)
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キッチンカウンターと夫婦のワークスペースを連ね、LDKを広く使えるように工夫。見せる収納で楽しい空間に |
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キッチンからリビングダイニングを見る。食卓のペンダント照明はこの部屋に合わせてオリジナルで製作 |
近所には公園や桜並木もあり、お花見や新緑、紅葉を味わう場所もたくさんある。北の方へ歩けば淀川に出会い、夏は花火も楽しめる。
さらに現在では、梅田貨物駅跡地の再開発工事が進行中。ますます充実した都心居住が期待できそうだ。
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階段の上に構造用合板を新設し、収納スペースに。手すり壁には、解体した型ガラスのドアを再利用 |
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玄関の裏側にある寝室。壁の厚みを利用して本棚を造作。通路とはカーテンで緩やかに仕切れる |