イタリアとフランスで建築を学び、現在は東京で住宅や店舗などの設計を手掛けている建築家の野口淳さん。約2年前に故郷の千葉県市川市に自宅を新築した。
「以前は神奈川県川崎市の賃貸マンションに住んでいましたが、自宅を建てるなら、生まれ育ち、両親も住んでいる市川市にと決めていました」
|
物件データ |
所在地/千葉県市川市
面積/86m²
築年月/2015年12月
設計/野口淳(㈱タンポポデザイン一級建築士事務所)
www.tampopo-d.com
|
お父さまが犬の散歩中にたまたま見つけたという旗竿敷地。野口さんはグーグルマップで土地の形状や周辺環境を入念に調査し、事前に家のプランを作成。現地を見てすぐに購入を申し込んだ。
|
緑豊かな住宅地に建つ野口邸。外壁は1階が杉板張り。2階は墨入りモルタルで仕上げた |
|
玄関のドアと一部の壁に外壁と同じ杉板を採用。大きなFIX窓が庭の景色を絵のように切り取る |
「市川市でも珍しいくらい周辺に緑が多いし、東側はパノラマのように開けている。大きい家を建てなければ、庭のスペースも十分に取れると判断しました」
家と同じくらい、庭を大切に考えていたという野口さん。そこで、家の平面を風車の形にプランニング。そうすることで、4つの庭を生み出せると考えた。「大きな庭が1つあるより、いろいろなシーンがあった方が楽しいと思いました」
|
LDKの床はヨーロピアンオーク。一部の壁を杉板張りにして、温かみのある北欧インテリアを目指した |
現在は芝生とデッキの庭、菜園を目指す庭、朝食やお茶をする庭、薪割りをする庭が家の周りを囲み、ヤマボウシやコブシの他、モモの木、リンゴの木など実のなる樹木がたくさん植えられている。
「目指したのは、花が華やかに咲き誇ったいかにもつくられた庭ではなく、本当の自然の中にあるような緑の庭。そこで木を植えたり、土や草いじりをしたりする生活に憧れていたんです」
|
玄関のドアと一部の壁に外壁と同じ杉板を採用。大きなFIX窓が庭の景色を絵のように切り取る |
|
昨年、庭に植えたエゴマを収穫。「庭で採れたエゴマで料理できるなんて、とても豊かな気持ちです」と奥さま |
風車型の家には開口部がたくさん設けられ、どこにいても庭を眺められる。家と庭の一体感があり、室内にいても外にいるような感覚だ。
「大きな家を建てて、立派な家具や家電を置くより、外とつながって、庭で食事やパーティーを楽しんだり、空・風・陽などの自然を感じられる暮らしが、僕たちにとっての豊かさなんです」
種をまいて芝生を育てたという奥さまは、花を植えて花壇をつくったり、野菜を植えて家庭菜園を楽しんだりすることが、子育て後の夢だという。
|
子ども室は勉強と遊びのスペースに分けているが、将来は3部屋にできるように設計 |
|
2階の子ども室の一角には、子ども3人で悠々と描ける大きな黒板が。黒板用塗装でDIYした |
|
風車型プランの中心部に配置した薪ストーブで暖を取る。スペイン製で窓が大きく、炎がよく見える |
以前は熊谷市内の中古一戸建てに住んでいた田島さんご夫妻。いずれは家を建てたいと建築雑誌で研究していたある日、1軒の住宅に釘付けになった。
「敷き瓦の土間や梁を見せたダイナミックな空間がとても新鮮で、自分たちもこんな家に住みたいと思いました」とご夫妻。その住宅を手掛けた設計事務所「きらくなたてものや」と施工を担当した岡部材木店に家づくりを依頼した。
|
物件データ |
所在地/埼玉県熊谷市
面積/127.25m²
リノベーション竣工年月/2014年6月
設計/日高保(きらくなたてものや)
www.kirakunat.com
設計/岡部材木店
zaimokuten.com
|
新しい住まいへの要望は、前述以外にも、「エアコンをなるべく使わない生活をしたかったので、風通しの良い涼しい家にしたいと伝えました。L字型の平屋造りや、木をふんだんに使うことも希望していました」(奥さま)
設計を担当した日高保さんは、設備機器に頼らず快適に暮らせる家にするために、あえて壁に断熱材を施さない工法を選択。内外真壁構造にして、壁材に荒壁土を使うことを提案した。
|
周囲を田んぼに囲まれた平屋住宅。植栽豊かな石畳のアプローチが家族や訪れる人を出迎える |
|
リビングの板間は子どもたちのプレイスペースになっている。庭に面した開口には障子戸も設けられ、太陽の日差しを優しい光に変える |
「土壁は熱を蓄える力があるので、夏や冬の急激な温度変化を抑えてくれるのです。また、調湿作用にも優れ、湿度を一定に保つ効果もあります」(日高さん)
開口部には外の景色と風をたっぷり取り込む幅広の引違い窓を採用し、防犯しながら夜間の通風・換気ができる格子戸も設置。他にも、日
差しをコントロールする軒の出、夏はひんやり心地良く、冬は太陽の日差しを蓄熱する敷き瓦の土間など、自然の恵みを有効利用する工夫を随所に盛り込んでいる。
|
涼感をもたらす敷き瓦の土間。冬には陽当りの良い土間が蓄熱体となり、長時間室内を暖め続ける |
|
玄関から板間のリビングの向こうに庭が見える。障子戸を開け放つと家中に風が通る |
土間に張った敷き瓦は、屋根と同じ瓦を焼いたものです。焼きむらで1枚1枚表情が違う瓦が並んでいる様子が美しく、とても気に入っています」(奥さま)
「3年前の夏にこの家に引っ越してきて、今 までの家の暑さは何だったんだ!と思うほど涼しくて感激したことを覚えています。今もほとんどエアコンをつけずに、自然の風の程よい涼しさで気持ち良く暮らしています」(ご主人)
|
LDKの出隅に柱を入れず、引違い窓で開放できるように設計。室内に居ながら景色との一体感を楽しめる |
|
キッチンカウンターはクリの木のオイル仕上げ。シンクには銅板を使った。レンジフードは鉄で製作 |
今年、米寿を迎えたYさんは、今住む敷地に、江戸時代中期の1716年に建築された武家屋敷で生まれ育った。
「茅葺き屋根の家だったことをよく覚えています。その屋敷が築250年を迎えた1966年、トタン屋根の2階建ての家に建て替えました」(Yさん)
それから50年近くたった2013年、Yさんが転倒して怪我を負い、両膝とも人工関節に。住まい環境の見直しが必要になり、現在、岐阜県に住む次女夫婦が定年になったら山形に戻り同居する計画で、二世帯住宅に建て替えることを決めた。
|
物件データ |
所在地/山形県上山市
面積/383.34m²
リノベーション竣工年月/2014年3月
設計/山本学(アトリエガク一級建築士事務所)
agak.lomo.jp
|
設計は、家づくりのイベントで次女のご主人が気に入ったアトリエガク一級建築士事務所の山本学さんに依頼した。Yさんからのリクエストは、「160年前に建てられ、先祖代々受け継がれてきた蔵を残すことだけ。あとは娘夫婦に任せました」
当初、物置として使われていた蔵は、一度目の建替えの前にものを整理し、蔵座敷にしていた。
|
既存の蔵を生かした部分だけ2階建てになっている。屋根はガルバリウム鋼板。外壁はサイディング |
|
蔵座敷と庭の間に広縁をつくり、開口を大きく設けて、先祖代々引き継がれる景色を取り込む |
「蔵座敷は母屋と離れていたため、あまり使われておらず、もったいない状態でした。しかし、保存状態が良く、特に入口の扉の意匠が素晴らしかったので、積極的に新しい家に生かそうと思いました」(山本さん)
|
40畳のLDK。庭に植わる樹齢400年の松の木が開口部の真ん中に見えるように設計した |
建替えプランは、母屋と蔵座敷を通路で連結させるのではなく、蔵座敷を住居で囲み、蔵座敷を中心に東西に大きく羽を広げるように各居室を配置。蔵座敷の東側は仏間とし、Yさんは毎日ここで仏壇に手を合わせているという。西側の間は、次女の茶室にあつらえた。
|
対面キッチンだが、手元がリビング側から見えないように立ち上がり壁を高くした。奥に勝手口と応接間が続く |
|
蔵座敷の2階。古いダイニングセットやタンスなどが置かれ、サブリビングやゲストルームとして使用 |
また、敷地の南側には植栽豊かな庭があり、LDKや寝室、茶室から眺められるよう建物の南に連続窓を設置。屋外と室内を緩やかにつなぐ広縁もつくり、明るく伸びやかな住まいを実現した。
「この辺りは住む人がいなくなっている空き家がたくさんあります。次女夫妻から孫の代に続き、この家を末長く継いでいってくれれば、本望です」(Yさん)
|
蔵座敷の仏間(手前)と茶室(奥)。茶室は今後一緒に暮らす次女が使う予定で、炉も切ってある |
朝5時に起床して朝食を済ませると、早速庭へ。夜、灯りがつくまで草花と過ごす。
「庭仕事は木々や球根を植えるだけではありません。雑草を取ったり、咲き終わった花を摘んだり、肥料を施したり、害虫駆除をしたり、やることがいっぱい。この辺はモグラやアナグマが根をダメにしてしまいますので、彼らとも戦わなければなりません。1日があっという間に過ぎてしまいます」
そう話す伏見さんは、今では毎日ガーデニング三昧の日々を送っているが、以前は東京都に住む公務員だったそう。
|
物件データ |
所在地/山梨県
面積/67.08m²
築年月/2012年3月
設計/岸本和彦(acaa建築研究所)
www.ac-aa.com
|
「定年後はどこに住もうかと、海外も視野に入れて考えたのですが、結局、近場の山梨に。ここは母の土地なのです」と、庭を育てながら、草原の中に暮らすライフスタイルを選んだ。
新居の設計は、家づくりのセミナーに参加して出会ったacaa建築研究所の岸本和彦さんに依頼。草原となじむレッドシダー張りの小屋のような外観。それとは一転、室内は光が美しく拡散する白い世界。コンパクトだが、内壁が複雑に入り込み、全体を見通せない奥行きのある空間が広がる。そして外と接する「外の間」が4つ、DKや寝室など生活を営む「中の間」が3つある。
「風景を求める、つまり外に向かって開く開放感と、シェルターとしての安心感を18坪の小さな家の中に共存させています」(岸本さん)
|
自然の風景に違和感なく佇むレッドシダーの小屋。赤味が強い木だが、竣工から4年が経ち、味わいが出てきた |
|
西側の庭が堪能できる「外の間3」の玄関まわり。綺麗な夕日を見ながら、ベンチに腰掛けて過ごしている |
|
「外の間1」から寝室や和室を見通す開口部。開口が切り取る部屋の様子が重なり、ひとつの風景になる |
|
空や緑を眺めながら入浴できるバスルーム。壁はレッドシダー |
|
3つの「中の間」の床には磁器質タイルを張った。天窓からの光が刻々と動いて、白い空間に美しい陰影をつくる |
ここでの生活の最大の魅力は「景色」だと伏見さんは言う。濃い霧に包まれた雲海の景色は、とても幻想的で感 激 するそう。一方、不便なことは、店舗や病院などが近くにないこと。買物は1週間に1度車で買出しに行き、まとめ買いしている。
ちょっとあれが欲しいなんていうとき困りますけどね」(伏見さん)自然な感じできれいだな、気持ちいいな」という庭を目指しているが、まだ目標とする庭の30〜50%しか達していないという。カメラを勉強して、庭の木々や花々、庭を訪れる小鳥や蝶々などを撮るのが次の楽しみだ。
|
和室である「外の間2」。大きな窓から庭の様子が楽しめる。桜の花見時には、友人が大勢集まる |
|
コンパクトなアイランドキッチン。「とても使いやすく、窓から庭を見ながら作業できるのがうれしい」と伏見さん |
姫路城の西方向、古民家と新築が混在するエリアに建つ星山邸。地上3階建て鉄筋コンクリート造の建物は、前面道路から駐車スペース分をセットバックし、前後に2つのボリュームを持つ。
「緑が見えて、繁華街からも近い場所が理想だったので、お城の近くで土地を探していました」とご主人の星山政義さんは話す。
|
物件データ |
所在地/兵庫県姫路市
面積/55.13m²
築年月/2009年5月
設計/木下昌大建築設計事務所(キノアーキテクツ)
yumekikou-happy.com
|
以前は同じ市内のご実家でご両親と暮らしていたが、2人のお子さまの成長とともに手狭になり、新築での家づくりを考えはじめたという。その際、影響を受けたのがご夫妻が足しげく通っていたアンティーク家具「オコンネルズ」オーナーの住まいだった。そしてアドバイスを請いに向かったオーナー宅で同物件の設計者、キノアーキテクツの木下昌大さんと知り合う。土地が見つかってすぐに相談、設計を依頼した。
|
ボリュームを前後に分けることで周囲への圧迫感を抑えた。周辺には植栽を積極的に施している |
|
2階階段。老後を考えて2人乗りできるエレベーターも設置済み |
「リビングから姫路城を眺められる家にしたいと話したら、3階建てが必須条件となりました。ほかに来客用を含めた車5台分の駐車スペースと庭をリクエストしましたが、それ以外はほぼお任せです」(奥さま)
リビングは優先的に3階かつ南東方向に大きな開口をとるプランで進められた。さらに木下さんは上層に行くに従い姫路城への眺望が開けていくように壁を回転させて開いていく形を見いだす。
|
ダイニングからリビング方向を見る。左の小さな正方形の窓からも姫路城がのぞける |
|
お子さまがパパッと朝食をとれるようカウンターキッチンに。収納が少ないため、食器は厳選 |
|
大学生と高校生のお子さまの部屋。間の壁は将来リノベーションした場合に取り払うことを検討 |
「模型の段階ですでにシンボリックな外観に驚きつつも、期待以上で心躍ったという政義さんは、「希少なアンティーク家具と同じで、ほかにないデザインがいいと思いました」と嬉しそうに当時を振り返ってくれた。現在リビングには白壁を背にお気に入りのアンティークコレクションを配置。放物面ゆえの難しさもまた、インテリアを考える楽しみになっているようだ。
竣工から7年を経て庭の木々は少しずつ生長し、周辺環境とも緩やかになじみつつある星山邸。リビングの窓からは、姫路城が今日も優美な姿をのぞかせる。
|
リビングからダイニング方向を見る。モルソーのストーブを愛用中。薪は政義さん自ら調達する |
長年、賃貸アパートに住んでいたNさん一家。約2年前にそろそろ家を建てようとご夫婦で話し合い、神奈川県厚木市内に土地を探し始めた。
厚木市はご主人の通勤に便利なことと、子どもの医療費が中学生までは無料だったり、2人目からは幼稚園の補助金がもらえるなど、子育て支援がとても充実していて、暮らしやすいから選んだそう。
|
物件データ |
所在地/神奈川県厚木市
面積/134.26m²
築年月/2016年2月
設計/前田工務店+N
maedakoumuten.jp
協力/すまいポート21
|
新興住宅地より昔ながらの街並みが好きだったご夫妻は、不動産会社が紹介してくれた毛利台の土地をひと目で気に入り購入する。設計の依頼先選びは、家を建てるためのあらゆるサポートをしてくれる「すまいポート21」を利用した。
「こんな家を、このくらいの予算で建てたいと希望を伝えると、「すまいポート21」と契約している工務店や設計事務所でコンペをしてくれるんです。私たちは5社でコンペをして、『自分たちに合った家を建ててくれそう』と選んだのが前田工務店でした」
とご夫妻は声をそろえる。
|
生活の場である母屋と離れから成り立つ一戸建て。外壁には太陽光で汚れを分解するスイス漆喰を採用 |
|
離れの1階はご主人のガレージ。バイク、登山グッズ、雑誌など、好きなものに囲まれた隠れ家のような空間 |
Nさんの住まいへの要望は大きく3つ。「細々とした部屋はつくりたくない」、「絵本作家、イラストレーター、デザイナーである奥さまのアトリエとご主人のバイクガレージが欲しい」、そして「アトリエやキッチンから、子どもたちの様子を見守りたい」ということ。
設計を担当した前田工務店の前田哲郎さんは、生活空間である母屋と、アトリエとガレージがある離れをつくり、この2棟を大きなデッキでつないだ。アトリエはデッキに面しており、窓からはデッキを介してリビングやダイニング、子ども部屋が確認できる。
|
子ども部屋はロフト付き。現在は壁を設けず2人で広々と使用。みんなでごろ寝ができる畳間にした |
|
1階にある子ども部屋の前の廊下は、コンクリートブロックを並べ、路地のような雰囲気に |
また、1階と2階の間に隙間をつくることで、奥さまが2階のキッチンで作業しながら、1階で遊ぶ子どもたちの姿が分かるように計画した。
「どこにいても常に子どもたちの様子を把握できるので安心です。アトリエで仕事をしていても、窓を開けておけば声も聞こえてきます。伸び伸び遊んでいる気配が感じられて、居心地がいいですね」(奥さま)
手すりや窓台など、大人が考えもしなかったところに遊び場を見つけて、すくすくと育っている子どもたち。そこに向けられたまなざしは、とてもおだやかで優しい。
|
離れの2階にある奥さまのアトリエ。窓を開ければ、リビングや子ども部屋で遊ぶ声も聞こえる |
|
2階フロア全体を家族が集まる場所に。リビング、ダイニング、キッチン、デッキが縦横につながる |
スギ張りの建物の外側を、さらにレッドシダーのルーバーで囲んだ個性的な住まいは、青森県むつ市の閑静な住宅地でひときわ目を引く。
「ルーバーが自然光と風を室内にうまく取り入れてくれるんです」そう話すのは、設計を手掛けた松浦一級建築設計事務所の松浦良博さん。140㎜間隔のルーバーが、夏は高い位置からの強い日差しを緩和し、冬は横から差し込む日差しを通して、夏涼しく、冬暖かく室内環境を調整しているという。さらに松浦さんは続ける。
|
物件データ |
所在地/青森県むつ市
面積/101.12m²
築年月/2015年5月
設計/松浦一級建築設計事務所
www.matsuura-home.co.jp
|
「むつ市の夏の太陽高度は約72度。冬は約22度です。この太陽高度から計算して、一番効果的なルーバー間隔を求めました。これ以上広いと夏の直射日光が入りすぎるし、狭すぎると冬の日光が入りにくい。夏は直射日光を遮りたい、反対に冬は光を入れたいという矛盾を解決しています」
この家で暮らすのはTさんご夫妻と娘さん2人の4人家族。さぞ熱心にこだわって家づくりに臨んだと思いきや、家を建てる予定はなく、「まだまだ先のこと」と思っていたそう。
|
軒がルーバーを雨から守る。ルーバー角度を3度傾斜させ、雨水が自然に流れ落ちるようにしている |
|
シンボルツリーが真ん中に佇む中庭。夏はリビングに木陰をもたらしてくれる |
|
吹抜のリビング。床は青森産のスギ材。大きな開口部を配し、ルーバー越しの柔らかな光が室内に降り注ぐ |
「たまたまふらっと展示場に寄っただけなのですが、松浦さんの説明を聞いて、合理的で素晴らしい家だと感激してしまって。当時建設中だった建売りを購入することにしたんです」
(ご主人)
いわゆる衝動買いをしたTさんご夫妻だが、結果は大正解。室内にも木がふんだんに使われ、中庭から心地よい風が流れ込み、森の中に住んでいるような気持ち良さを毎日味わっている。昨年の10月から住み始め、冬は想像以上に暖かく過ごせた。
|
奥さまの希望でもあった対面式のシステムキッチン。カウンターを付けて調理スペースを広く確保 |
|
2階の子ども部屋は、現在はワンルーム。吹抜で1階とつながり、2階で遊んでいる子どもの声が届く |
この夏も、どのくらい涼しく暮らせるか楽しみだという。
「ルーバーは直射日光を遮るだけでなく、外からの視線をカットしてくれます。プライバシーを確保できるため、窓を開けっ放しにできることも大きな効果です。風が家の中を通り抜け、木の香りを運んでくれるので、相当涼しく感じると思います」(松浦さん)
自然とのつながりやエコな暮らしがますます注目を集めている。ルーバーで周辺環境を優しく招き入れるTさん宅のアイデアは、郊外に限らず、都市部でも活用できそうだ。
|
LDKより1m40㎝高く設けた寝室や水まわりへは、スロープ状の廊下を通って行く造りに |
南方向に吉野川の土手や田園を望む敷地を購入し、マイホームを建てようと決心した藤原さんご夫妻。新居の設計は、3年間探した末、徳島市で行われた建築家展で出会ったCONTAINER DESIGNの岸本貴信さんに依頼することにした。
一生に一度建てる家として、満足できるものにしたいと祈念していたご夫妻は、A4用紙4枚にびっしり箇条書きした要望書を岸本さんに提出したという。その筆頭は「40フィートの輸送用コンテナを2基使って住まいを構築したい」という遊び心溢れる内容だった。
|
物件データ |
所在地/徳島県板野郡
面積/107.46m²
築年月/2015年3月
設計/岸本貴信(CONTAINER DESIGN)
www.cd-aa.com
施工/アークホーム
|
「コンテナを、私の趣味であるバイクいじりや音楽を楽しむ場所、妻が書道を嗜む場所にしたらどうかと思ったんです。見栄えも一風変わって、面白いのではないかと考えていました」(ご主人)
ご夫妻のユニークな発想を受けた岸本さんは、「輸送用コンテナと家族が生活を営む居住スペースをどうつなげていくかが設計の課題でした」と、建物の形状や間取りを検討。導いた答えは、輸送用コンテナに加えて20フィートのコンテナに見立てた木造の箱を3基つくり、合計5基のコンテナを横に並べて住まいを計画するというものだった。
|
両端に40フィートの輸送用コンテナを配し、間に20フィートのコンテナに見立てた箱を3基並べて住居を構成 |
|
建物の長手方向いっぱいに庭を配置。空も広く感じられる。コンクリートの塀で外部からの視線をカット |
|
コンテナに挟まれた路地のような玄関土間。回転式のガラス扉を採用し、半屋外のような空間に |
「ある程度の距離をあけてコンテナを横に並べると、コンテナ内の閉ざされた空間とコンテナ外の開放的な空間が交互に生まれます。コンテナ内には寝室や水まわり、収納などを配し、コンテナ外は、リビングダイニングと子ども部屋にしました」(岸本さん)
|
庭に面したバスルーム。庭でプール遊びをしていた子どもたちが直接入浴できる。夜空を見上げながらの入浴も |
|
子ども部屋からLDKを見る。その間にはバスルームとウォークインクローゼットが収まる |
家族が集まるリビングダイニングや子ども部屋は、南北の壁が一面ガラス窓になった、外とつながる空間に。空や庭の緑が気持ちよく感じられる場になった。
「実際に住んで『快適』のひと言です。家族が長い時間を過ごすリビングダイニングが明るいのが一番うれしいですね。室内にいながら、庭と一体感が得られるのも気に入っています」とご夫妻。
「今日もよろしくね」と毎朝、家に語りかけながら楽しく暮らすというご主人。これからの楽しみは、DIYで輸送用コンテナに音楽室をつくることだ。
|
白×木を基調にしたナチュラルなLDK。壁一面のガラス窓で外とつながり、開放感たっぷり |
栃木県宇都宮市を拠点に、住宅などの建築設計を手掛けている神原浩司さん、敦子さんご夫妻。一昨年、浩司さんが生まれ育った築45年の古家を、住まいと仕事場が一体になった2階建て一軒家に建て替えた。
玄関ドアを開けると、明るく広い大谷石の土間が目の前に広がる。「宇都宮で生まれ育った私は、どこかに地産の大谷石を使いたいと思っていて、まず思い浮かんだのがこの玄関土間でした。大谷石と木の組合せはとてもきれい。そのうえ、石自体の表情も豊かで、柔らかい雰囲気も持っている。その美しさをエントランスで表現したかったんです」(浩司さん)
|
物件データ |
所在地//栃木県宇都宮市
面積/154.15m²
築年月/2014年8月
設計/かんばら設計室
www.kan-bara.com
|
より印象的な空間に仕上げるために、石の表面をチェーン引きという方法で加工。さらにLDKの一角にある薪ストーブの炉壁にも、大谷石を採用した。
「断熱性や耐火性が高いだけでなく、熱をはね返して空間に放出するんです。だから熱効率がとてもよくなるんですよ」(浩司さん)
クリのフローリングやキリの天井材ともマッチし、インテリアのアクセントとしても大谷石が効果的に生きている。
|
建物は敷地に対して45°振って配置。外壁はモルタルの下地にアクリル系塗料のマヂックコートを吹付け |
|
エントランスと中庭をつなぐ通り土間の床は大谷石。ここで仕事の打合せをすることも |
|
娘さんがピアノの練習をしたり、浩司さんが趣味のエレキギターを弾く音楽室。外壁側の壁は防音仕様とした |
「家づくりでは、いつも人や家族、自然とのつながりを重視している」と話す神原さんご夫妻。自邸では敷地の東側にある県立公園のイチョウ並木を取り込むように大きな開口部を取り、LDKから緑や紅葉が常に眺められるように設計。空とつながるハイサイドライトをふと見上げると、きれいな夕日や月明かりにハッとすることもある。そんな日々の気づきを大切に生活しているという。
|
イチョウ並木が見える東側に大きな窓とデッキを設けた。LDKや子ども部屋からも緑が眺められる |
|
キッチンからリビングダイニングを見る。食卓のペンダント照明はこの部屋に合わせてオリジナルで製作 |
気持ち良い風もふんだんに入り、夏でも余程の猛暑日でなければエアコンは使わずに過ごせるそう。自然を楽しむ快適な暮らしは、結果的に省エネルギーにも貢献しているようだ。
間取りは家じゅうどこにいても家族の気配が伝わり、自然とLDKに集まる造りに。「家には家族の拠り所となる場所が必要。家族が関わり合うことで、毎日安心して楽しく暮らすことができるのです」(敦子さん)
|
右側をベッドスペース、左側を勉強スペースに分けた子ども部屋。勉強スペースの上はロフトスペースに |
|
薪ストーブはデンマークのモルソー製。まわりを断熱性・耐火性が高い大谷石で腰壁風に囲んだ |