雄大な自然が広がる富士山の麓、朝霧高原で生まれ育ったご主人は、大学時代を都会で過ごす中で地元の魅力を再認識してUターン。実家の牧場を継ぎ、結婚して子どもを授かったのを機に住まいを新築することにした。
設計を依頼したのは、自分たちのライフスタイルを知りつくした友人であり建築家の菊田康平さんと村上譲さん。冬の寒さが厳しいこの地域では、暖かく過ごせる住環境が不可欠。また、富士山の眺めをどう取り込むかも大切なポイントになった。これらのテーマを体現するのが1階の中央に設けた薪ストーブと土間空間だ。
右手の開き戸が玄関扉だが、正面にも格子の引違い戸を設けて土間からも出入りできるようにした |
「牧場経営は始終、大自然と触れ合う仕事です。外界との接点をつくりながらも〝こもり感〞を出すことが重要と考えました」と菊田さん。 土間の西側に景色を望む大きな窓を備えているが、左右に振り分けたリビングとダイニングキッチンの窓は小さめに。2階はプライベートなエリアだが、階下とは吹抜けでつながっているため、家族の気配を感じられ、暖気も家全体に広がる。
土間は表面に細かい凹凸があり、触れたときにひんやりしない福島産の白河石。住まいは薪ストーブだけで全体が暖まるよう断熱性能も備えている |
「じんわりとした暖かさを感じながら揺らめく炎を見るのが、この季節の癒やしです」(奥さま)薪ストーブの周りは、富士山の特別な瞬間を捉えられる特等席。朝日に照らされる様子や夕日に赤く染まる姿、星明りに浮かぶシルエットなど毎日異なる姿を見ていると、新鮮な気持ちになれる。
「大きな窓を一つに絞ったことで富 士山を身近に感じられるように。住むこと以上の体験ができています」(ご主人) 3人の子どもがいるこの家では、週末に友人家族を招いてバーベキューを楽しむことも多い。表情の異なる複数の居場所は、一家の日常の幅を広げるのはもちろん、子ども連れのゲストが来たときも活躍。傍らで遊ばせたり、昼寝をさせたり、思い思いに過ごしている。 ベランダ向かいの一帯は、自ら所有する牧草地。自然とつながる職住一体の暮らしが、今日も家族に充足感を届けている。