建築家のTさんには、住まいに対するこんな思いがあった。
「住居費は生涯支出の大半を占めます。それなら、ただローンを払い続ける一般的な家の買い方をするのではなく、暮らしながら収益を生む家に住むことで支出も減り、その分豊かな生活ができるのではないか」
そこでTさんは、友人の建築家・宇津木喬行さんとの共同設計で、シェアオフィス、コーヒースタンド、シェアリビング、自宅が一体となった賃貸・店舗併用住宅を建てることにした。
敷地の目の前にある公園に向かって開いたコーヒースタンドは、日本茶インストラクターが週末にカフェを開店。さらにTさん一家が道行く人にコーヒーを振る舞うこともあるという。
地下に設けたシェアオフィスは水回りも備えているため、住宅として貸し出すことも可能だ。
東側約20㎡のシェアオフィス。鉄筋コンクリート造なので、断熱性・遮音性が高く落ち着いた雰囲気。半地下のため窓からは散歩や通学中の人たちの姿が見える |
2階のシェアリビングはT家のプライベートリビングと兼用で、大人数で使えるように窓辺に大きなソファを設置し、アイランドキッチンも導入。料理のスチール撮影やインタビュー動画の撮影などに使われることもあるなどサイドビジネスは順調のようだ。Tさんの奥さまも当初からこのプランに大賛成だったそう。
「家に人を招くことが好きでしたし、さまざまな出会いがあり、家族だけで住むより楽しいです」(奥さま)
プライベートスペースの扉は鍵付きでセキュリティー対策も万全。貸出し受付はインターネット上のマッチングプラットフォームを利用しており、事前に利用者の情報が分かる上、手続きも簡単だという。
「家を〝所有する〞よりも多くの人に活用された方が私たちとしてもうれしいですし、賃料収入をローン返済に充てられます。各部屋の用途を限定せず、余白のある間取りにしているので、将来的に使い方を変えていけるのもメリットです」(Tさん)
現在、シェアオフィスには宇津木さんの事務所が入居しており、宇津木さんとの自然な会話から新しいプロジェクトが生まれることもあるとか。家という枠を超えた住環境から得られるものは計り知れない。