朝5時に起床して朝食を済ませると、早速庭へ。夜、灯りがつくまで草花と過ごす。 「庭仕事は木々や球根を植えるだけではありません。雑草を取ったり、咲き終わった花を摘んだり、肥料を施したり、害虫駆除をしたり、やることがいっぱい。この辺はモグラやアナグマが根をダメにしてしまいますので、彼らとも戦わなければなりません。1日があっという間に過ぎてしまいます」 そう話す伏見さんは、今では毎日ガーデニング三昧の日々を送っているが、以前は東京都に住む公務員だったそう。
「定年後はどこに住もうかと、海外も視野に入れて考えたのですが、結局、近場の山梨に。ここは母の土地なのです」と、庭を育てながら、草原の中に暮らすライフスタイルを選んだ。 新居の設計は、家づくりのセミナーに参加して出会ったacaa建築研究所の岸本和彦さんに依頼。草原となじむレッドシダー張りの小屋のような外観。それとは一転、室内は光が美しく拡散する白い世界。コンパクトだが、内壁が複雑に入り込み、全体を見通せない奥行きのある空間が広がる。そして外と接する「外の間」が4つ、DKや寝室など生活を営む「中の間」が3つある。 「風景を求める、つまり外に向かって開く開放感と、シェルターとしての安心感を18坪の小さな家の中に共存させています」(岸本さん)
ここでの生活の最大の魅力は「景色」だと伏見さんは言う。濃い霧に包まれた雲海の景色は、とても幻想的で感 激 するそう。一方、不便なことは、店舗や病院などが近くにないこと。買物は1週間に1度車で買出しに行き、まとめ買いしている。 ちょっとあれが欲しいなんていうとき困りますけどね」(伏見さん)自然な感じできれいだな、気持ちいいな」という庭を目指しているが、まだ目標とする庭の30〜50%しか達していないという。カメラを勉強して、庭の木々や花々、庭を訪れる小鳥や蝶々などを撮るのが次の楽しみだ。
町家の良さを最大限に残し次の世代に引き継ぎたい
京都市上京区の西陣は500年以上の伝統を誇る西陣織の工房が軒を連ねるエリア。
小川昌敏さん(44歳)・美保子さん(38歳)ご夫妻の住まいは、昔ながらの町家が多く残るこの町の路地奥に佇んでいる。
大阪府吹田市に住み、京都の会社に通勤していた昌敏さんと、名古屋市で2匹の猫と暮らしていた美保子さんは、
写真の投稿サイトが開催したオフ会を通じて知り合った。
「最初は賃貸マンションを探していたのですが、猫を飼いたいと思っていたのになかなかペット可の物件がなかったんです。いつかは町家に住んでみたいと漠然と思っていましたが、たまたまネットで見つけた手頃な物件がこの町家でした。ところが実際に見に行ったら、何年も人が住んでおらず、床を踏み抜いてしまったぐらい荒れ果てていて(笑)」(昌敏さん)
それでも構造はしっかりしており、「通り庭」もきれいに残っていたことが決め手となり、購入。
そしてそれを機に美保子さんと結婚。ローバー都市建築事務所にリフォームを依頼して、「猫とともに暮らす町家」づくりに取り組むことになった。
小川さんご夫妻が目指したのは、町家らしさを最大限に生かすこと、そして町家の良さを次の世代にも引き継いでいけること。伝統的な町家は、「火袋」と呼ばれる吹き抜けを持つ土間の「通り庭」に台所を配してあるが、住み継がれていく過程で改装されてしまうことも多い。小川邸では通り庭本来の形が保たれ、「おくどさん」と呼ばれるかまどや井戸までもが残っており、貴重な財産であるこれらはそのまま生かされた。
一方で、もともとなかったバスルームを裏庭の一角につくり、天井を撤去して小屋裏にロフトを設置するなど、極力もとの町家の形を変えない範囲でリフォームを行った。
さらに、猫にとっても快適な空間にしながら、それが前面に出ないように施した工夫も、こだわったポイント。
猫のトイレとキャットタワーは押入れの中に収まり、キャットステップは飾り棚を兼ねている。
これらは昌敏さんが発案したものだ。
「次にこの町家に住む人が猫を飼っていなくても、そのまま快適に暮らせるようにと考えました」(美保子さん)
新たな命を吹き込まれた町家は、本来の建物が持つ心地良い陰影とともに、長く受け継がれていくだろう。