南北に開けた日当たりの良い敷地に一戸建てを新築したYさん。庭をくの字で囲むように建つ平屋造りの住まいは、玄関を中心にパブリックとプライベートスペースの2つのエリアに分かれていて、どちらも南北に大きな開口が設けられている。全開にすると内と外が一体になり、家中にフレッシュで気持ちのいい風が通り抜けてゆく。
「しょっちゅう蝶々の通り道になっています(笑)。室内にいても、ほとんど外にいるような感覚ですね」(ご主人) 抜群の開放感のカギを握っているの が、枝をのばす木のように放射状に広がる柱だ。構造壁の代わりに屋根を支え、遠くまで視線が抜けるのびやかな空間を獲得している。柱にはキッチンカウンターやワークデスクのほか、食器棚やディスプレイに活用できるオープン棚をつくり付けて、家族の溜まり場とした。設計を手掛けた建築家の岸本貴信さんは、「新たな芽から大きな木が育ち、木陰ができる。そんなイメージで家族の居場所をつくりました」と話す。
庭に面した縁側は、家族3人の憩いの場所。深い軒や背の高い樹木が夏の強い日差しを和らげてくれるため、涼しく、のんびりと過ごせる。庭ではテーブルを持ち出してバーベキューをしたり、ビニールプールで息子さんを遊ばせたりと、アウトドアライフを満喫。ユーカリやドウダンツツジ、ジューンベリー、マイヤーレモンといった多彩な樹木が育ち、イチゴやレタスといった家庭菜園も楽しんでいる。
カフェのような木製ドアを造作。玄関を中心として右にパブリックスペース、左にプライベートスペースを配置し、玄関上部に屋上を設けた |
「庭ができて暮らし方ががらりと変わりました。実のなる木は鳥を呼び寄せます。収穫したものをすぐキッチンで使えるのも便利だし、豊かだなと思いますね。家で過ごす楽しみが増えました」と奥さま。自然に囲まれ、クリーンな空気を家のどこにいても満喫できる健康的で心地よい夏の日々を叶えている。
70代で建てる終の住処
平屋で、夫婦の趣味を満喫
子を巣立たせ、仕事も無事勤め上げた後、第二の人生を過ごす「終の住処」づくりにあこがれる熟年層は多い。70代の石渕利男さんと奥さまもそんな一組だった。小学校の教員だったご主人は26歳で結婚。3人の子どもに恵まれ、結婚10年目には2階建ての一軒家を建てた。若い頃からさまざまな趣味に没頭してきたご主人だったが、40代にさしかかる頃、旅先で偶然、オカリナ奏者の宗次郎氏に出会ったことから人生が一変する。
「目の前で吹いてくれたオカリナの音色に感動し、自作していると聞いて自分でもつくりたくなりました。それで何も分からないのにすぐ土を買って帰ったんです」(ご主人)。
まったくの独学で土をこね、試行錯誤をくり返すうちに音が出るようになり、さらに吹き方も独自で研究を重ねた。そのうちに地域の公民館でオカリナ教室を開講してほしいと声がかかり、あちこちでコンサートも行うまでになった。一方、奥さまは土いじりを趣味としていたが、庭が狭く、広い畑で思い切り野菜や花を育てたいと思っていた。
「足腰が弱く、階段の昇降がつらくなってきたし、子どもたちが独立してからは広い家を持て余していました。それで、ゆくゆくは畑仕事ができて程よい狭さの平屋で暮らしたい、と話していたんです」(奥さま)。
ご主人の退職を機に、趣味を存分に楽しめる家づくりを考えるようになり、最初の家からほど近く、庭が広く取れる土地を探した。設計は、以前住まいの修理を頼んだことのある馴染みの工務店に依頼。間取りはシンプルでも互いの趣味が楽しめ、人を呼びやすい平屋の住まいに、という希望を伝えた。子どもたちも、両親が充実した老後を過ごせるなら、と生まれ育ったわが家を手放すことに同意してくれた。ご主人は杉の無垢材の床やオカリナの製作作業ができる広い土間の玄関が、奥さまは畳敷きの和室と、落ち着ける洋間の寝室がそれぞれ気に入っているという。庭で育てた新鮮な野菜や果物を使って料理の腕を振るい、軒先に構えた窯でオカリナを焼く。新たな住まいで趣味を満喫する2人には、これからもますます充実した毎日が待っているようだ。
愛車とのミニマムライフを楽しむ
ガレージ付き賃貸住宅
東京都内最長を誇る商店街「パルム」をはじめ、いくつもの商店街が賑わう武蔵小山。
町工場も多く、下町の風情を漂わせる親しみやすい街だ。
そんな武蔵小山の駅から徒歩4分の場所に建つ、メカニカルな外観の集合住宅。
細長い路地に面して並ぶ、倉庫のようなスチール製のドアの一つを開けると、目に飛び込んで来たのは真っ赤なイタリアンバイク。この部屋に暮らすSさん(26歳)の愛車「ドゥカティ・749R」だ。
「最初は400ccのドゥカティ・モンスターに乗っていたのですが、よりドゥカティらしい大型車に乗りたくなって。
大型免許の取得前に今の愛車に出会って即購入し、3カ月後に晴れて大型免許を取得しました。
以前の家では屋根のない屋外駐車場に停めていたんですが、風が強い日にカバーが吹き飛び、
車体が倒れて大破損してしまったんです」
Sさんは慌ててガレージ付き物件を探し、出会ったのが現在暮らす『ガレージスペック武蔵小山』だった。
「同じ屋根の下で愛車とともに暮らす安心感は格別。気が付くとちょこちょこ磨いていたり、こまめに手入れができるし、毎日帰宅するたびに、思わず眺めてしまいますね(笑)」
1階にマルチに使えるガレージを備え、上階が生活空間という間取りのガレージスペック武蔵小山。
Sさんの部屋はトリプレットタイプで、最上階にはロフトも付いている。
専有面積は28m²とコンパクトだが、「この部屋に引っ越すにあたり、ベッドやテーブル、ソファ、
本などを思い切って手放しました。
必要最低限のものと空間での暮らしはかなり快適です。
面積的には以前の家より狭くなりましたが、天井が高くて開放感があるので苦になりません。
トリプレットというのも使い勝手がいいですね。2階は丸ごと洋服を置くスペースにしていますが、
空間の使い分けがきちんとできるので気に入っています」
今後は、打ちっ放しコンクリートの壁面にあるセパ穴を利用してテレビを壁掛けにしたり、
棚を取り付けたりと、少しずつカスタマイズしていきたいと話すSさん。
要るものと要らないものの足し引きを楽しみながら、ライフスタイルを見極めていく。
愛車とのミニマムな暮らしを叶えるコンセプチュアルな住まいは、住む人を「暮らしの達人」にしてくれるようだ。
町家の良さを最大限に残し次の世代に引き継ぎたい
京都市上京区の西陣は500年以上の伝統を誇る西陣織の工房が軒を連ねるエリア。
小川昌敏さん(44歳)・美保子さん(38歳)ご夫妻の住まいは、昔ながらの町家が多く残るこの町の路地奥に佇んでいる。
大阪府吹田市に住み、京都の会社に通勤していた昌敏さんと、名古屋市で2匹の猫と暮らしていた美保子さんは、
写真の投稿サイトが開催したオフ会を通じて知り合った。
「最初は賃貸マンションを探していたのですが、猫を飼いたいと思っていたのになかなかペット可の物件がなかったんです。いつかは町家に住んでみたいと漠然と思っていましたが、たまたまネットで見つけた手頃な物件がこの町家でした。ところが実際に見に行ったら、何年も人が住んでおらず、床を踏み抜いてしまったぐらい荒れ果てていて(笑)」(昌敏さん)
それでも構造はしっかりしており、「通り庭」もきれいに残っていたことが決め手となり、購入。
そしてそれを機に美保子さんと結婚。ローバー都市建築事務所にリフォームを依頼して、「猫とともに暮らす町家」づくりに取り組むことになった。
小川さんご夫妻が目指したのは、町家らしさを最大限に生かすこと、そして町家の良さを次の世代にも引き継いでいけること。伝統的な町家は、「火袋」と呼ばれる吹き抜けを持つ土間の「通り庭」に台所を配してあるが、住み継がれていく過程で改装されてしまうことも多い。小川邸では通り庭本来の形が保たれ、「おくどさん」と呼ばれるかまどや井戸までもが残っており、貴重な財産であるこれらはそのまま生かされた。
一方で、もともとなかったバスルームを裏庭の一角につくり、天井を撤去して小屋裏にロフトを設置するなど、極力もとの町家の形を変えない範囲でリフォームを行った。
さらに、猫にとっても快適な空間にしながら、それが前面に出ないように施した工夫も、こだわったポイント。
猫のトイレとキャットタワーは押入れの中に収まり、キャットステップは飾り棚を兼ねている。
これらは昌敏さんが発案したものだ。
「次にこの町家に住む人が猫を飼っていなくても、そのまま快適に暮らせるようにと考えました」(美保子さん)
新たな命を吹き込まれた町家は、本来の建物が持つ心地良い陰影とともに、長く受け継がれていくだろう。