「若い頃から本が好きで、ジャンルを問わずさまざまな本を買い集めていました。気付けば家中が本だらけ。正確に数えたことはないけど2万冊くらいはあるんじゃないかな」とOさん。会社を定年退職したころからこの地に家を建て、本とともに暮らしたいと考えていたという。
「平屋みたいに生活のしやすい家に住みたかったのはもちろんですが、一番の希望は長年にわたって収集した大量の蔵書を見やすく取り出しやすくすること。そのための大きな書棚をつくってもらうようお願いしたんです。また小さくてもいいから、野菜を育てられる畑も欲しかったですね」(Oさん)
設計を託されたのは佐久間徹設計事務所の佐久間徹さん。Oさんのそんな希望を受けて導き出されたのは、道路から少し離れた位置に平屋の「箱」を配置し、少しずらして2階建ての「箱」をつなげたプラン。道路側には塀を付けず植栽を植え、その内側に小さな畑を設けた。道路側からは緑の向こうに小ぶりな家がたたずんでいるように見える。玄関を入った右手は大量の蔵書が収められたリビングダイニング。庭に面した大きな開口からは植栽の緑が楽しめる。家の中央に置かれたキッチンを囲むように寝室と洗面浴室が配された回遊型の間取りで、日常の暮らしはここで完結する。
玄関ホールから寝室を見る。寝室の奥にも小さな庭があり、日陰に強い植物が植えられている |
2階は和室と洋室、納戸。しかし、納戸はもちろん洋室も今では書庫と化している。「書庫コーナーはリビングの半分近くのスペースを割き、北側に配置しました。ここには三方の壁を利用した書棚と独立型の書棚を2本、造り付けの書斎コーナーを設けています。収納量は7250冊程度と想定し、いろいろなサイズの本を収納できるよう棚の高さや奥行きを計算。もちろん荷重も考慮していますが、1階なのでピアノを置く程度の補強で大丈夫でした」(佐久間さん)
「中学3年までこの町に住んでいた私にとってここは故郷のようなもの。この家で本を読んだり、畑の世話をするのは本当にうれしいですね。春になったらハツカダイコンや絹サヤ、インゲンなどを植える予定です」(Oさん) 好きな本に囲まれ、緑に癒やされる暮らし。この家にはOさんの至福の時間が流れている。