岐阜駅から車で5分ほどの寺島町は、昭和40年代に起こったアパレルブームにより、服飾系の町工場が次々に建てられたエリア。その一角にある小さなビルが、井藤さん一家の住居兼ショップ兼工房だ。
ご夫妻がこの古いビルを購入して暮らし始めたのは2004年。複数の拠点を構える生活を見直そうと考えたのがきっかけだったという。
「デザイナーの妻は駅ビル内に洋服店を出店、私はプロダクトデザインの事務所を別に借り、住居は賃貸住宅でした。3つの拠点に家賃を払い続ける生活から、全てを一つにできないだろうか、ビルのような建物ならそれができると考えたのです」(隆志さん)。
この辺りの建物は、1階が車庫、2階が倉庫や事務所、3・4階が住居というつくりが多く、このビルもその典型だった。 築39年で全体的に傷みが激しかったが、とりあえず設計士に頼んで1階を洋服店に改装することに。 2階より上は自力で塗装するなど、DIYで手を加えながら住み始めた。 ほどなく長男の環くんが誕生し、各階が居住空間の外にある階段でつながるつくりは、子育てには極めて不便であったことから、3・4階の住居部分の大規模なリノベーションを行うことにした。
「以前の間取りは、キッチンとリビングがかなり離れていて使いづらかったんです。
また、3階からは4階の寝室の様子がまるで分からなかったために、幼い息子を一人で寝室に寝かせておくことができませんでした」(麻紀さん)。
そこで、3階と4階を内階段でつなげ、キッチンを移動してリビングと一続きに。また、建物の購入時は室内の断熱がされておらず、冬は寒さがこたえたため、この機会に断熱工事も行った。
「この限られた空間では、家具を極力置かない生活がいいと思い、収納はつくり付けにしてもらいました。お気に入りの直径26㎝の大皿を手放したくなかったので、キッチンの収納棚は、このお皿がぴったり収まるサイズになっています。」(隆志さん)。
自分たちの暮らしに合わせた、快適な空間につくり替えてゆくリノベーションは、これからももっと身近なものになってゆくはずだ。
ペイントとシンプル家具で作り上げた愛着が生まれるDIY賃貸
「賃貸なのに改装OK」という、ユニークな物件に暮らすのは、映像作家のUさん(24歳)。
現在、専門学校で非常勤講師を務めながら、企業のプロモーション映像などを作成している。
以前は、横浜の実家に暮らしていたが、通勤や仕事の打ち合わせに便利な都内に住みたいと思い、インターネットで物件を探し始めた。
「事務所を兼ねたかったので、安くて広い物件を探していました。初めて内見したのがここ。43m²と広く、専用庭に緑もあり、何より『改装OK』という条件にひかれました。部屋を改装するなんて大変そうだなとも思いましたが、もともとモノづくりは好きでしたし、その場で書類にサインしました」
改装は、その内容を事前にオーナーに相談して承諾が得られれば、原状回復義務なしという条件だった。
Uさんは物件をひと目見た段階で、壁と天井は白く塗ろうと決心。
6畳2間ほどある居室の壁と天井は、友人に手伝ってもらい、丸1日で塗り上げたという。
キッチンと浴室、洗面室、トイレは、1人で2日間かけてペイントした。
壁と天井を白く塗っただけで、部屋が見違えるように明るく、清潔感あふれる空間になった。
リビング兼寝室の床はインターネットの通販でプリント床材を購入し、自分で敷き込んだ。
「使ったペンキは相当な量ですね。身体に悪いものは使いたくなかったので、かなり吟味して良いものを選びました。それでもDIYにはあまりお金はかかっていません。ペンキ代が約3万円、床材は1万円程度。あとはカーテンレールを付け替えたぐらいでした」
家具は壁の色に合わせて白で統一。
今後は友人とこの家で一緒に仕事をする予定とのことで、仕事スペースとなるダイニングには、大きな机を置いたという。かくして仲介した不動産会社も驚くスタイリッシュな部屋が完成した。
「思い通りの部屋づくりができて、かなり気に入っています。そのせいなのか、以前は夜型の生活だったのが朝型に変わりましたね」
住まいに愛着を持ち、暮らしを楽しめる「DIYが可能な賃貸」。賃貸住宅の新スタイルだ。