カフェのような大きな土間キッチンは 食事や家族の団らんに仕事、コワーキングスペースも兼ねる万能空間

東京の私鉄駅から徒歩5分程の場所に建つEさんの家。この家はEさん家族の住居であるとともにEさんの仕事場、コワーキングやイベントができるレンタルスペース、賃貸住宅を併用している。
1階にはメインキッチン、ダイニング、小上がり、個室が一つ。ここはコワーキングスペースやイベントスペースとしても使われる広い土間空間。2階はスタディコーナーのあるリビングにミニキッチン、個室、洗面浴室、ロフトなどからなるEさん家族のスペース。隣には賃貸住宅を併設した。1軒の建物にたくさんの要素とさまざまな使い方ができる空間が共存している。

物件データ 所在地/東京都世田谷区
延床面積/191.85㎡
築年月/2018年10月
設計/江頭豊(DOTEMA)
dotema.com/architecture
越浦太朗建築設計事務所
建物外観。奥がEさんの住居部分で手前が賃貸住宅。細い路地とその先はさまざまな植物が植えられた小さな庭。この庭でバーベキューを楽しむこともある

元はEさんが会社員のときに購入した中古の戸建住宅であったが、建替えを機に多様な使い方ができる併用住宅を計画。「仕事の独立を考えていた時期で、私の仕事場を併設するとともに地域に開かれたスペースをつくりたかった。建物はたくさんの人たちに使ってもらえると新しい価値が生まれると思うので。コワーキングスペースや賃貸住宅を併設したことで、仕事以外の収入が担保できるという精神的な安定感も大きいです。自宅で仕事をしながら、プライベートの時間も大切にできる家をイメージしていました」(Eさん)。

2階のLDK。上部にはロフトも設けられた。壁の一部を白いペイントで仕上げ、全体の印象に柔らかみを与えている
2階のリビングは南側に大きな開口が設けられた明るい空間。窓の外は線路敷地なので遮るものがなく抜け感があり空も大きく感じられる

違う職業の人たちが同じ空間で働くことで自然と生まれるコミュニケーションや賃貸住居の入居者と庭を共有することで生まれる親密さなど、他者との緩やかな関係性はプライベートでも仕事上でもいい刺激になるという。
1階の土間がコワーキングスペースとして使用できるのは18時まで。「それを過ぎると、ここはうちのキッチンに変わります。料理をつくる、食べる、くつろぐ空間です。私も利用者さんもそれまでに仕事を終わらせるよう調整しています」(Eさん)。

カフェのような1階のキッチン&ダイニングは、業務用の設備を使用している。カウンターがダイニングテーブル。テレビは置かず会話を楽しむ場に
リビングの一角に設けられたスタディコーナーと構造柱間に可動棚を付けた収納スペース。隣家の迫る東側には大きな窓を設けず、小さな窓を複数配置して風と光を取り込む

一つの空間をオンとオフに切り分けて使いメリハリをつける。これは家族との時間と仕事の両方を大切にしていくことにも通じている。
近年定着しつつあるテレワークやセカンドワークなどの新しい働き方。これからはこんなスタイルの暮らし方も支持されていくのかも知れない。

すっきりとしたワンルームの賃貸住宅部分は、部屋ごとに壁の色を変えたモダンなデザイン。1階は土間付き、2階はロフト付きとプラスアルファのある間取り
text_Yoko Maru photograph_Ayako Mizutani
取材協力

東京郊外で楽しむ農ライフ 家庭菜園で育てた新鮮な野菜を満喫

3人のお子さんと暮らすKさんご夫妻。ご主人は、かつて畑教室に通った経験から農業の奥深さを知り、以降、日常で野菜づくりを楽しんでいた。奥さまも緑や土と触れ合える自然豊かな環境で子どもたちを育てたいと考えていた。
そんなご夫妻の家づくりのテーマは、「庭でのびのび過ごせる住まい」。しかし、約2年かけても条件に見合う土地が見つからず、頭を悩ませていた。

物件データ 所在地/東京都清瀬市
延床面積/133.09㎡
築年月/2021年5月
設計/松本翔平(相羽建設(株))
aibaeco.co.jp

そんな矢先、ご主人の職場がフルリモートワークを導入することに。通勤の必要がなくなったため、エリアを広げて土地探しを進め、急浮上したのが清瀬市だ。幸運にも視界の開けた約70坪の敷地を見つけ、相羽建設(株)に設計を依頼した。

ウッドデッキは大きな屋根付きなので、雨天でも食事が可能。BBQ(バーベキュー)のときは納屋の開口部からお皿を渡したり、窓枠に材料を並べたりしている

「いかに日々の食卓と畑に関わりを持たせるかを考えました」そう話すのは、設計を担当した松本さん。K邸では家族や友人とだんらんできるよう1階にゆとりを持たせている。LDKに入ると、まず目に飛び込んで来るのが窓の向こうに広がる芝生の庭。庭にはウッドデッキを介して下りられるが、庭に面して納屋と一体になった勝手口があり、向かいの自家菜園に気軽にアクセスできるようになっている。

アイランドキッチンの広いカウンターを机にして、ご主人が仕事することも。ピザ生地をこねられるよう天板はステンレスを選んだ
「火を眺めながら食事がしたい」と、ダイニングに大きなのぞき窓がついた薪ストーブを設置。煮込み料理にも大活躍
LDK横の畳の小上がりで遊ぶ子どもを、料理をしながら見守れる。客室としても使えるようにロールスクリーンを設置

9㎡の自家菜園で育てているのは、キャベツ・ジャガイモ・ナス・トマトなど。コンパクトながら本格的な栽培を楽しんでいる。普段使いの野菜はほぼこの菜園で賄えているという。
「料理中に、『ニンジンがないな、採ってこよう』と思い付き、菜園に出ることもよくあります。成長を見られるためか、子どもは苦手だった野菜を食べられるように。農作業に没頭すると、童心に帰ってリフレッシュできるのも魅力です」と奥さま。

納屋には農具やBBQグッズを収納。混合水栓の水場を設置しているため、冬場も野菜を洗うのが苦にならない
K邸で採れた野菜は、どれも大ぶりで立派。「収穫できたものに合わせて献立を考えるようになりました」と奥さま。日々、料理の腕を振るっている

ご主人は、「BBQ(バーベキュー)のときは火をおこしたりお皿を出したり、準備がつきものですが、わが家はキッチンと庭がひとつながりなのでスムーズに行えます。週末ごとにみんなで楽しんでいますね」と話す。自然体で〝農〞を実践できる住まいが、実りある暮らしをかなえている。

子ども部屋は将来、2部屋に分けることを想定して設計。お子さんが色を選んだアクセントウォールは、作品が飾れるようマグネット式に
text_Makiko Hoshino photograph_Akira Nakamura
取材協力

和歌山から長野へ移住。北アルプスの麓、風景になじむ家で穏やかに暮らす

雄大な北アルプスの山々を望む長野県安曇野市。この地に移住してアトリエを併設した家を建てたYさん夫妻。元々は和歌山県で設計事務所を開いていたという。
「初めは北欧の国に移住したいと考えていたんです。しかし調べてみると実際に暮らすのはなかなか難しい。そこで北海道か、よく訪れていた長野のどちらかがいいかなと。仕事は住む場所を選びませんが、仕事で行き来する東京や和歌山との距離を考えると長野が妥当だと思いました」(ご主人)。
幸い北アルプスが目の前に見える理想の土地に出会い、家づくりが始まった。

物件データ 所在地/長野県安曇野市
延床面積/136.54㎡
築年月/2011年5月
設計/山下和希
(アトリエ・アースワーク)
www.aew-style.com

夫妻の希望はいつでもどこからでも山々を眺められること、寒冷地でも家の中では寒さを我慢せずに過ごせること、この土地の気候、風土にふさわしい家にすることなど。「特別な要望は出さず、設計は夫に任せました。工事中に細かな部分を調整してもらっただけ」(奥さま)。

建物をZ型にずらしてつくった庭には、クヌギやハナモモなどを植えた。庭は山を眺め、人が集う場所。建物に回した深い庇には雪を防ぎ、壁の劣化を遅らせる効果も
2面に窓を設けたダイニング。断熱と気密性を考慮して複層ガラスの樹脂サッシを採用。雄大な眺めと四季折々の自然の移ろいを身近に感じて暮らせる

その結果でき上がったのは、平屋のアトリエ棟と住居棟2つの建物をZ型にずらした家。アトリエ棟の低い片流れの屋根は、家の西側に広がる北アルプスの山々と連続するように延び、2階建ての住居棟も極力ボリュームを抑えた。間取りは平屋棟がアトリエと応接室。2階建ての住居棟は1階にLDKと寝室、洗面浴室とスタディコーナー、2階に子ども室が1部屋だけ。夫妻には子どもが4人いる。「移住の際には子どもたちに長野に行くか、和歌山に残るかを決めさせました。初めは2人が和歌山に、2人は長野に。後からもう1人が長野に合流。子ども室を1室しか設けていませんが、そのスペースの使い方は自分たちで決めればいいと思ったからなんです」(奥さま)。

住居棟のLDKにはオーダーメイドの白いキッチンを長い直線に配置。奥は寝室とスタディコーナー。2階には子ども室が1室あるだけ

室内はメイプルの床、漆喰の壁、タモの天井で仕上げられた、北欧のテイストを感じさせる空間。「壁や天井は内断熱と外断熱を併用し、厚さは約200㎜。積雪を考慮して1.3mと2.7mの深い庇を回しました。暖房は輻射熱暖房パネルヒーターで冬じゅう24時間運転。不凍液温水を循環させますが、それほど光熱費はかかりません」(ご主人)。「この風景は毎日でも見飽きないんです」(奥さま)。
ここには雄大な自然に抱かれた、心を満たす暮らしがある。

玄関ホールからの眺め。4段上がった正面に設けられたピクチャーウインドウから常念岳を眺められる。室内の温熱環境がいいので、植物もよく育つのだとか
アトリエ棟のトイレにはトップライトを設置。自然光が降り注ぐ明るい空間に。トップライトはもう1カ所洗面室にも付けられていて、冬場の室内干しなどで活躍する
アトリエの応接室。ここの大きな窓からも、北アルプスの山々を眼前に眺められる。来客もつい長居してしまうとか。床にはライムストーンを貼ってパブリックな印象を高めた
text_Yoko Maru photograph_Susumu Matsui
取材協力

公園に面した自宅の一部を地域にオープン。人と人がつながる新しい賃貸併用住宅

建築家のTさんには、住まいに対するこんな思いがあった。
「住居費は生涯支出の大半を占めます。それなら、ただローンを払い続ける一般的な家の買い方をするのではなく、暮らしながら収益を生む家に住むことで支出も減り、その分豊かな生活ができるのではないか」
そこでTさんは、友人の建築家・宇津木喬行さんとの共同設計で、シェアオフィス、コーヒースタンド、シェアリビング、自宅が一体となった賃貸・店舗併用住宅を建てることにした。

物件データ 所在地/横浜市西区
延床面積/183.84㎡
築年月/2019年11月
設計/宇津木喬行・高橋良弘
(333architects)
www.333architects.com
敷地前の公園に向けて、大きく2面の開口部を取り、廊下をなくすなど間取りを工夫して広々と使えるようにしている

敷地の目の前にある公園に向かって開いたコーヒースタンドは、日本茶インストラクターが週末にカフェを開店。さらにTさん一家が道行く人にコーヒーを振る舞うこともあるという。

1階のコーヒースタンドはT家の玄関でもある。カフェとして貸し出す他、気分を変えて仕事をしたり、DIYをしたり、多目的に使う

地下に設けたシェアオフィスは水回りも備えているため、住宅として貸し出すことも可能だ。

地下には内外の階段から入室可能にし、回遊できるようにした。法規上必要だったドライエリアは明るさももたらす
東側約20㎡のシェアオフィス。鉄筋コンクリート造なので、断熱性・遮音性が高く落ち着いた雰囲気。半地下のため窓からは散歩や通学中の人たちの姿が見える
西側シェアオフィス。奥に階段があるが、施錠できるため独立して使うことが可能。キッチン・バス付きなので住居としても貸し出せる

2階のシェアリビングはT家のプライベートリビングと兼用で、大人数で使えるように窓辺に大きなソファを設置し、アイランドキッチンも導入。料理のスチール撮影やインタビュー動画の撮影などに使われることもあるなどサイドビジネスは順調のようだ。Tさんの奥さまも当初からこのプランに大賛成だったそう。
「家に人を招くことが好きでしたし、さまざまな出会いがあり、家族だけで住むより楽しいです」(奥さま)
プライベートスペースの扉は鍵付きでセキュリティー対策も万全。貸出し受付はインターネット上のマッチングプラットフォームを利用しており、事前に利用者の情報が分かる上、手続きも簡単だという。

2階のダイニングキッチン。キッチン作業台の収納扉は鍵付きで、貸し出すときは貴重品などを収納できる。奥に続くプライベートエリアの扉にも鍵を付けた

「家を〝所有する〞よりも多くの人に活用された方が私たちとしてもうれしいですし、賃料収入をローン返済に充てられます。各部屋の用途を限定せず、余白のある間取りにしているので、将来的に使い方を変えていけるのもメリットです」(Tさん)
現在、シェアオフィスには宇津木さんの事務所が入居しており、宇津木さんとの自然な会話から新しいプロジェクトが生まれることもあるとか。家という枠を超えた住環境から得られるものは計り知れない。

2階には高窓を設置して隣家の視線を遮りながら採光。ロフトは将来、子どもの遊び場にしたり、書斎にしたり、多目的に使うための余白スペース
text_Makiko Hoshino photograph_Hideki Ookura
取材協力

リビングの真ん中に通り土間を配置。庭と室内をつないで、子どもたちが裸足で遊ぶ自由な空間に

柔らかな光に包まれたLDK。3人の子どもたちが裸足で遊んでいる。一人はダイニングテーブルでお絵かき、一人は土間に寝転がり、一人はキッチン隣のワークデスクで本を読む。これがUさん宅の日常風景だ。近隣商業地域にあるT字型の旗竿地に家を建てたUさん夫妻。一般的に扱いにくいといわれる変形敷地だが、それを逆手に取った設計と家族の暮らし方がピタリとはまった。

物件データ 所在地/埼玉県川越市
延床面積/140.39㎡
築年月/2021年8月
設計/関本竜太
(リオタデザイン)
www.riotadesign.com
竿にあたる通路の正面に建てられた車庫がこの家のアイコンになっている。庭の草木を眺めながら渡り廊下のような通路を渡って玄関に至る

設計を手掛けたのはリオタデザインの関本竜太さん。「かなり変わった敷地なので、ここに自分たちが満足できる家を建てられるのかを関本さんに相談しました。第一案から土地の形を生かした面白い設計だと思ったのですが、いろいろお話しするうちに土間を設けたらどうだろうということになったんです」とご主人が話すように、この家を特徴付けているのは玄関からキッチンダイニング、リビングまで続く長い通り土間。家の中と外が土間によってシームレスにつながる。土間を抜けた先には2階の個室へ至る動線と洗面浴室、ランドリー、ウォークインクローゼットへと続く動線に分かれている。

玄関土間から前庭を眺める。前庭と中庭にはさまざまな樹木や下草、野菜やハーブが植えられた。小さな庭が季節の移ろいを身近に感じる潤いの場になる
吹抜けに面した2階のスタディコーナー。背面には腰高の本棚も設けている。キッチン隣にもワークスペースがあり、子どもたちは好きな場所で勉強しているという

2階には必要に応じて仕切れる子ども部屋と寝室、一度屋外に出ないと入れない離れの書斎が設けられた。旗部分の長い奥行きを生かしたプランニングだが、敷地の奥に設けた中庭と2階のブリッジがこの家のユニークさを物語っている。この仕掛けはユニークなだけでなく、家の中に光や風を呼び込む装置にもなっているのだ。将来南隣地に高い建物が建設される可能性を考慮しLDKの南面には大きな窓をつくらず、吹抜けに設けたトップライトや前庭、中庭を通じての採光と通風をはかった。

落ち着いたキッチンと対比するように意識が上に向かう吹抜け。2階のスタディコーナーや子ども部屋の室内窓とつながり、家族の気配を家じゅうに伝えている

「この家はキャラクターの違うたくさんの居場所があって、子どもたちもそれぞれ好きな場所で過ごしています。夏には長い土間を利用して流しそうめんも楽しんでいます」(奥さま)
家の中をつなぐ長い通り土間と変化に富んだ空間が家族の暮らしを豊かなものにしている。

母屋と離れの関係のような2階の書斎はテラスを兼ねたブリッジでつながる。ご主人が音楽を楽しんだり、奥さまが友人とのオンライン飲み会をすることも
text_Yoko Maru photograph_Ayako Mizutani
取材協力

サウナ、アトリエ、大型キッチン。家族の夢を丸ごとかなえた一軒家リノベーション

健康、美容、リラックスなどさまざまな効果が期待できることから、近年、サウナが大人気だ。「自宅であの爽快感を味わえたらどんなにいいだろう」と、ホームサウナを導入する家も増えている。Sさん一家の住まいもその一例だ。

物件データ 所在地/栃木県宇都宮市
延床面積/140.77㎡
リノベーション年月/2021年9月
設計/土田拓也・新倉桃子
(no.555一級建築士事務所)
www.number555.com

Sさん夫妻はまだ20代で、小さいお子さんの子育て真っ最中。今後、新しく家族が増えたり、子どもの教育費がかかったり、ライフスタイルの変化に備えて資金を蓄える必要があった。築38年の戸建を購入してリノベーションすることになったとき、費用面でも家の広さに限りがある点でもサウナの設置は無理だろうと考えていたが、冗談半分で建築家の土田拓也さんに相談したところ、予算内でサウナ室を実現してもらえることになった。

サウナ室の入口付近は外気浴スペースで、窓を開ければ心地いい風に包まれて休憩できる
2階は全ての間仕切り壁を抜いてワンルームに。柱と柱の間に取り付けたカーテンを閉めれば、最大3つの部屋と廊下に仕切れる

「密を気にせず一人でゆっくり入れるのがいいですね。その日にあった嫌なことを忘れてリフレッシュできます」とサウナ歴4年のご主人。
念願のサウナ室は離れの倉庫を改修したもの。入口付近には外気浴スペースも確保した。母屋から気軽に出向いては、癒やされる日々だ。

廊下の床にはフレキシブルボードを採用し、LDKやアトリエとゾーニング。窓から光が注ぐ縁側のような空間で日なたぼっこも気持ちいい

子育てや家事はもちろん、奥さまの料理・洋裁、ご主人のギター演奏・音楽鑑賞という趣味も楽しめる家を望んでいたため、1階はLDK、廊下、アトリエの3つの空間に分割。それぞれを半オープン・半透明のR壁で区切ることで、程よくプライバシーを保ちながら家族の成長に合わせて自由にアレンジできる余地を残した。

アトリエの窓辺には奥さまのワークデスクを造作。アイロンをかけたり、テレワークをしたり、多目的に活用する
元倉庫をサウナに改修。サウナストーンを温めるストーブは、中古品を探して購入。草木を束ねた“ヴィヒタ”を壁に吊るして雰囲気をアップ

「建築家が100%仕上げるのではなく、家族が住みながら手を加えられる家にしたいと思いました」と土田さん。
「アトリエで遊ぶ娘と夫の声を聞きながら、私はキッチンで食材を広げて料理。今は丁寧な暮らしにはほど遠いですが、少しずつ家を整えながらかなえていきたいです」(奥さま)

料理好きの奥さまのために幅2.6m×奥行1.2mの大型の対面キッチンを造作。レンジフードもキッチンと同じ合板で造作し、空間になじませた

子育てを楽しみ、サウナでくつろぎ、趣味にいそしみ、住まいを自分たちの色に染めていく―。幸せのサイクルが考えられた家では、絶えず家族の明るい声が響いている。

アトリエ、廊下、LDKを仕切るR壁の素材は半透明のポリカ波板。開口部には扉代わりにカーテンを取り付けられるようにした
text_Makiko Hoshino photograph_Takuya Yamauchi
取材協力

ビルに囲まれた細長い敷地に建つ平屋。トップライトが空を切り取り 光と風を導き入れる家

大阪を代表する繁華街「梅田」まで自転車を使えば20分弱で行ける住宅密集地。周辺に建ち並ぶ高層マンションやビルの隙間にポツンと置かれたようなシルバーグレーの平屋がある。間口6.7m、奥行き21.6m、南北に細長く伸びた43坪ほどの敷地に建つIさんの家だ。

物件データ 所在地/大阪市都島区
延床面積/90.09㎡
竣工年月/2020年3月
設計/山本嘉寛
(山本嘉寛建築設計事務所)
yyaa.jp

利便性と道路付けの良さを気に入ってこの土地を購入したIさん夫妻。建ぺい率80%、容積率300%の土地であれば、多くの人は上に伸ばす住宅を望むはずだが、夫妻はあえて平屋を建てることを希望した。「以前からフラットハウスに憧れていましたし、倉庫みたいな家に住んでみたいと思っていました。それに無駄に広い家は好みじゃないので」(奥さま)

細長いプロポーションがよく分かる外観。ガルバリウム鋼板の仕上げは「米軍基地にあるカマボコ型兵舎が好き」というご主人の好みも反映している
家の中央を貫く仕切り収納の延長線上に設けられたキッチン。調理スペースは2人で使っても十分な広さで、必要なものはすぐ手に届く配置になっていて使いやすい

夫婦2人であれば平屋でも十分な居住空間がつくれそうだが、この家にはさらなる条件が。化粧品の卸業を営む夫妻、家には仕事場を併設することと、横浜で一人暮らしをしていた夫の母が同居するためのスペースも求められたのだ。
設計を託されたのは山本嘉寛建築設計事務所の山本嘉寛さん。山本さんは事務所と倉庫、夫婦の個室に母親の部屋を備えた、職住一体の二世帯住宅を平屋でつくるという難題に取り組むことになった。

 
母親の部屋の奥にはミニキッチンも設置。全てのスペースにこの部屋のようなトップライトを設けて、室内に光を取り込んでいる
夫妻それぞれのワークスペースを設けた細長い事務所。座ったときも後ろを通ることができるサイズに計算されているので、取引先との簡単な打合せも可能

間取りは道路に面して玄関と打合せ室、趣味室を兼ねた広い土間。ここに事務所と倉庫が隣接する。奥へ向かって夫妻の個室や水回り、収納などが続き、庭に面したLDKや母親の部屋へ至る。土間から見ると中央が収納で仕切られ、左右をパブリックゾーンとプライベートゾーンに分節しているのが分かる。
南に立つ28階建てのマンションをはじめ周囲を道路やビルに囲まれたこの平屋に光と風を届けるのは各スペースの天井に設けられたトップライト。「明るさはトップライトからの光で十分。窓からは高い空が見えるし、伊丹空港を発着する飛行機上からも家が見えるんですよ」(夫妻)

小さな庭に面したLDK。庭は北側にあるが、移植した植物が力強く根を張っている。合板で仕上げられた壁には好きな絵を飾ってギャラリーコーナーのように使用

若い頃からバイクに親しんでいたという夫妻が暮らしたかったのは、ざっくりとした質感でラフに過ごせる個性的な家。ナラフローリングの床、壁と天井をファルカタ合板と白い塗装で仕上げられた室内は、夫妻が思い描いていた雰囲気を漂わせつつも品のある仕上がりに。夫妻が望むテイストを兼ね備えながらも落ち着きを感じさせる空間になった。「私たちの代が終わっても、この家が100年先まで住み継がれていってほしい」(ご主人)という思いもまた個性的なのである。

多目的に使える土間空間。正面左が事務所スペースで、右がプライベートスペースへと続く。右手には商品を収納する倉庫も設けられた
取材協力

アーチの壁が、家族の理想の距離感をつくる 小さな居場所をたくさん収めた65㎡の家

自然豊かな環境に惹かれ、神奈川県逗子市に家を構えることにしたSさん夫妻。売地がめったに出ない中、3年越しで手に入れたのは、住宅街にある約100㎡の土地だ。予算の都合で建てられる家の規模は限られていたが、育ち盛りの長男、お茶を嗜む奥さま、いろいろな作業をするのに専用の書斎が欲しかったご主人には、それぞれの部屋が必要だった。
家づくりのパートナーに指名したのは、建築家の西田司さん率いるオンデザインパートナーズ。西田さんから「設計のヒントに」と理想の住まいのイメージを聞かれたとき、スクラップブックを用意して10以上のスペースのイメージを明確に伝えたという。

物件データ 所在地/神奈川県逗子市
リノベーション面積/65.10㎡
リノベーション年月/2018年2月
設計/西田司・鈴江悠子
(オンデザインパートナーズ)
www.ondesign.co.jp

1階の玄関は広めの土間。それを取り囲むように子ども部屋・和室・浴室・トイレ・ウォークインクローゼットを配置。2階はリビングダイニングを中心に、夫妻それぞれのワークスペース・2つのロフト・寝室・キッチン・インナーテラス・小上がりが設けられた。多種多様な場所があるのに不思議と全体が融合しているのは、各部屋の境界に架けられたアーチの効果だ。2階は井の字に組んだ壁をアーチ状にくり抜き、各空間をゆるく分節。アーチを介して遠くを見ることで奥行き感が生まれ、実際以上の開放感が得られる。

外観は室内とは対照的に控えめなデザイン。アールを付けた壁や軒裏のレッドシダーが柔らかな印象を放つ。裏手には菜園がある

「木造だとワンルーム風の間取りは難しいのですが、アーチの壁を躯体にすることで実現できました。ご夫妻から『曲線を取り入れた建築が好き』と聞いていたので、構造と意匠の双方から理にかなう住まいになりました」(西田さん)

寝室にはプロジェクターを導入し、白い壁をスクリーンにして映像を楽しむ。ベッドをソファ代わりにリラックスしながら映画やアニメを鑑賞
ご主人のワークスペースには壁付けのはしごがあり、登ると秘密基地のようなロフトが。疲れたときはここで一休み。息子さんもお気に入りの居場所だ
 
1階は玄関から延びる土間を収納と子ども部屋、水回りが囲む。部屋数が多くても中心スペースを広く取ることで、狭さを感じずに暮らせる
奥さまのワークスペースは華やかな模様のクロスを採用。「小さくても自分専用の場所があるとくつろげます」(奥さま)

Sさんがこの家に暮らして約4年。住み心地は上々のようだ。 「家中つながっているのに、パーソナルスペースがしっかり確保されているので、ストレスを感じずタスクに集中できます。私のワークスペースは狭いですが、こもり感があってむしろ落ち着くんです」(ご主人)

タイル張りの壁をアクセントにブルーでまとめた水回り。ガラスのドア越しにパソコンを置き、動画を観ながら入浴することも

また奥さまはこう話す。「弓形の壁をくぐるたびに、旅するようなワクワク感が。いろいろな居場所があるので、コロナ禍でも快適に過ごすことができました」 趣向を凝らした家は、一人の時間も家族の時間も、全てを温かく見守ってくれている。

取材協力

子どもや孫が住み継げる 可変性のある都市型3層住宅

都心の私鉄駅からほど近い閑静な住宅地。周辺にあるゆったりとした住宅が濃い緑をたたえている。このエリアで暮らしていたOさん夫妻は、親しんだこの地での住替えを考えていた。そして見つけたのは、40坪ほどの北側の傾斜地。道路面には車庫が掘り込まれ、その上部が更地になっていた。

物件データ 所在地/東京都渋谷区
面積/168.35㎡
築年月/2021年10月
設計/駒井貞治(駒井貞治の事務所)
komaino.com
構造設計/オーノJAPAN
施工/水雅

「立地もいいし、広さも十分。ここで平屋でも建てて暮らせればいいなと思っていました」とご主人。しかし相手は傾斜地。きっと難しい工事になるだろうと考えた夫妻は、建築家の駒井貞治さんに相談することにした。実は駒井さんはご主人の義理の兄にあたる。

隣地の階段を見ると、土地の傾斜具合がよく分かる。車庫と1階の壁面の木質感が、RC造の硬質なイメージを和らげている

駒井さんが提案したのはRCの三層住宅。傾斜地に家を建てるには、地盤の造成工事だけでもかなり費用がかかる。そのうえに家の工事費も。そこで駒井さんに、車庫から2階まで基礎と住宅の構造が一体化した躯体をつくり、内部を可変性の高い木造で造作するというアイデアがひらめいた。RCの堅牢な建物は、何度でも形を変えられ200年先までも住み継げるというのがコンセプトだ。

中庭を介して2階とつながる1階の洋室。現在はシアタールームとして使っている。車庫へは中庭からの階段で、玄関を回らずにアクセスできる
2階北側に設けられた広い寝室。壁やドアなどはつくらず、広い空間を収納家具で3つに仕切り個室スペースとしている
 
2階の中庭に架けられたデッキ。四方がガラス戸で仕切られているので、室内でも屋外にいるような開放感が味わえる。洗濯物の乾きも抜群だとか
オープンなLDKに似合う浮遊感のあるデザインのキッチン。キッチンの裏には洗面浴室があり、左奥には小ぶりながらも落ち着いた雰囲気の和室を設けた

「模型を見たときに、カッコいい! と思いました。私はイタリアのトスカーナ地方にあるようなクラシカルで味わいのある家が好みなのですが、こんなモダンな家に住むのもいいかなって」(奥さま)
地階は車2台と物置を兼ねた車庫。1階は玄関と個室、ワークスペースがあり、空まで吹き抜けた中庭を囲んでいる。2階はLDKと広い個室に水回り。

1階のワークスペース。現在はカウンターを設置しているが、給排水できるよう設計されているので、将来的にはキッチンやユーティリティーに変更が可能

「毎日の暮らしは2階のワンフロアでほぼ完結していますね。マンションのようで暮らしやすい。さすがに200年後のことは想像できませんが、子どもが家庭を持ったら、私たちは1階に移って、二世帯住居にすればいいと思います。そのためにワークスペースは、将来のキッチンスペースにつくり替えられるようにしてあるんです」(奥さま)。
この家を建てると、会社の社員寮で暮らしていた長男が帰ってきたという。200年後も住み継げるというこの家は今後の家族の変遷や時代の変化を末永く見続けていくことになるのだろう。

変遷のイメージ模型。現状(左)から、2世帯・3世帯同居や一部賃貸など木造部分の増改築を繰り返すことが可能(中)。構造体の耐久性が高いため、200年後でも土を入れて自給自足のための菜園をつくることもできる(右)
取材協力

プライバシーを確保しつつ、 内と外を緩やかにつなげる。 家族が自由に過ごせる居場所のある家

兵庫県川西市の丘陵地に建つ、深い軒と3つの屋根が印象的なこの家は建築設計事務所を主宰する川西敦史さんの自邸。季節の草木に彩られたロックガーデンのような庭の向こうに、格子戸を介して中の気配がうっすらと感じられる。

物件データ 所在地/兵庫県川西市
リノベーション面積/130.10㎡
リノベーション年月/2020年7月
設計/川西敦史(川西敦史建築設計事務所)
akawanishi.com

「3人の子どもたちと毎日慌ただしく暮らしています。夫に希望したのはプライバシーを守りながら、落ち着いて生活できる家でした」と川西さんの奥さま。
「妻の希望も反映させながら、明るく開放的な室内と自然を身近に感じられるような空間を考えました。平面はL字をずらして組み合わせる形にして、3つの庭と連続性を保ちつつ密接につなげました。上下にもレベルの変化を持たせることで、家の中に性格の異なるたくさんの居場所をつくりました」と川西さん。

3つの切妻屋根と平屋を組み合わせた独創的な外観。2階の個室からは平屋の屋根に出ることもできる。表の庭にかぶさるような軒が庭と家を連続させている

建物にロの字型に囲まれた中の庭は、ダイニング、居間、寝室と大きな窓でつながり、室内に居ながらも外との連続性を感じられる場所。この庭は南の裏の庭とテラスで連絡し、子どもたちが行ったり来たり。一方道路に面してあるのは駐車場を兼ねる表の庭。玄関脇の格子戸が家の内外を緩やかに関係付けている。

居間と通路でつながる独立型のダイニングキッチン。キッチンはオリジナルで造作した。背面の壁に貼られたタイルも個性的
子どもが腰掛けているのはアトリエと中の庭を仕切る窓框。ベンチとしても使えるよう奥行きを深く取ってある。明るい木漏れ日が射し込む居心地のいい場所
 
道路側に設けられた浴室もその間に坪庭を設けることで、プライバシーを守りながら開放的な空間に。前庭の格子と呼応するような板張りで仕上げている
玄関の手前に設けられた前庭には少し角度をつけた格子が掛けられ、郵便ポストがある。このバッファゾーンで、内と外が付かず離れずの関係で保たれている

ここはDIYや薪割りをする場所にもなる。室内は天井高の変化によって性格の違うさまざまな空間を生み出している。居間は2階までの吹抜け。キッチンダイニングは、かまぼこ型が特徴的なヴォルト天井を採用。居間との対比が際立つ落ち着いた空間になった。天井の低い玄関隣のアトリエでは趣味や作業に没頭できる。2階、3階は3つの部屋と書斎。各部屋の天井は切妻の屋根を表しにした、意識が上にも抜けるような空間に。また各部屋にも小さなテラスが付けられていて、いつでも屋外とのつながりを実感できる。奥さまのお気に入りはダイニングで2つの庭を眺めながらくつろぐ時間。「短い時間でも庭を眺めているだけでリフレッシュできます」(奥さま)。

廊下も取り込んだアトリエスペース。ここはテレワークスペースとピアノスペースを兼ねているが、背中合わせに配置しているのでお互いが気にならない

子どもたちは家じゅうを走り回り、階段や廊下で本を読んだり、寝そべったりする。その日の気分で自分だけのお気に入りの場所を探しているようだ。夜になれば長男は自室のテラスから天体望遠鏡で星を観測する。平面や上下のズレが生み出したさまざまな居場所は外部とも自然につながり、日々の暮らしをより豊かなものにしている。

中の庭から南方向を見たところ。右手は平屋の寝室、左手は2階建てでダイニングと子ども部屋が重なる。2階のテラスからは眼下に大阪方面の街並みを一望できる
取材協力

ネイルサロンにコーヒースタンド。 小商いの夢をかなえた職住一体型の家

ご主人の転勤をきっかけに、長年住んだ東京から茨城に引っ越してきたYさん一家。県内のあちこちをドライブで巡るうちに、ある地域に引かれいった。かつて水戸藩下で在郷町として栄えた常陸太田市だ。市内に点在する土蔵や町屋など古い建物を生かした飲食店から、新しい生活のインスピレーションを得たという。Yさん夫妻は、ここに住まいを構えて、地域に根差して暮らしていこうと決めた。「私たちの好きなことや得意なことを通して、地元の人たちと親睦を深めていけたらと思いました」(ご主人)

物件データ 所在地/茨城県常陸太田市
面積/89.43㎡
築年月/2020年6月
設計/藤田雄介・伊藤茉莉子
(Camp Design inc.)
www.camp-archi.com

奥さまはネイリストで、安心して子育てと仕事ができる環境を求めていた。そんなご夫妻が希望したのは、自宅で小規模な商いができる住まいだ。
はたして完成したY邸は東西に広がる敷地に合わせた長方形の建物。道路側に店舗、奥に住居が配されているが、両者は通り土間によって区切れ、一旦、屋外に出ないと行き来できない動線だ。

日差しや雨をしのげる屋根付きの広いエントランスは、格好の憩いのスペース。外壁や屋根材は周辺の住宅に調和する淡いグレーを採用している
深い軒に守られ、リビングダイニングからワンクッション置かれた寝室は落ち着いた雰囲気。勾配天井を生かしてロフトを設けた
軒下は物干しスペースや縁側として活用。ネイルサロンの階段は夫妻が自作。この家に住み始めてからDIYに励むようになった

一見すると別棟だが、一つの大きな切妻屋根で連結されており、互いの様子は見えないものの、小屋裏の空間を介して声や音が聞こえる。設計を担当した建築家の藤田雄介さんはこう話す。「『職』と『住』の場を適度に切り離すことで、私生活を守りながら、にぎやかな町の空気を感じられる住まいを目指しました。町の風景になじむ外観デザインにも配慮しています」

幅約2.70m の大きな玄関扉を開け放つと野外のすがすがしさでいっぱいに。木製の引戸には重厚感があり、閉じればしっかりプライバシーを守れる

住居は玄関側からリビングダイニング、キッチン、寝室の順に展開。奥に行くほど軒を深くして近隣からの視線を遮り、プライベート感が増すよう工夫した。最も奥にあるガラス張りのサンルームが、奥さまのネイルサロン。「自分の好きな場所が、日常の中にあるのがうれしいです」と奥さま。掃出し窓で外から直接出入りできるため、独立した使い方が可能だ。大きな窓から景色を眺め、落ち着いて過ごせるとお客さまにも好評だそう。

年内にコーヒースタンドのオープンを目指すご主人。店舗の半分は厨房で、コーヒー受渡し用の小窓を設けた
東西に視線が抜ける半オープンのキッチン。山の景色がよく見える建物の中央に配置した。シンク前の壁をL字に切り取り、圧迫感を軽減

店舗は、コーヒースタンドのオープンに向けて目下、準備中だ。「町内会には朝市から夏祭りまで、さまざまな催しがあります。それらと関わりながら、かき氷などの軽食や雑貨を販売してもいいかもしれませんね」とご主人は笑顔を見せる。
地域で受け継がれてきた文化と、ご夫妻の熱意が化学反応を起こし、新たな物語が紡がれていく。

text_ Makiko Hoshino photograph_Akira Nakamura
取材協力

大きな屋根の下には雑木林のような中庭。 四季の移り変わりを楽しみ、 子どもたちが楽しく遊ぶ場所に

仙台市郊外の丘陵に開ける住宅地に建つ渡辺さんの家。その特徴はなんといっても大きな屋根と焼杉で仕上げられた個性的な外観。屋根には所々に開口が設けられ、樹木の先端が突き出ているように見える。それもそのはず、この屋根の下には雑木林のような中庭が広がっているのだ。

物件データ 所在地/仙台市青葉区
面積/162.91㎡
築年月/2021年3月
設計/渡辺恭兵(建築工房DADA)
dada-arc.com/

この家を設計したのは建築家の渡辺さん自身。「初めから大きな屋根を架けようと思っていたわけではありません。駐車場や中庭、室内との関係性やプランを考慮した結果、このようなプロポーションになったのです」と言う。

大屋根がひときわ目を引く外観。外壁は浮造り仕上げ(うづくりしあげ)の焼杉で、木肌の持つ自然な風合いを感じられる。屋根に開口があるので、太陽光パネルも目立たない

この家にはいくつかの大きなコンセプトがある。将来的には二世帯住宅としても使用できること、環境負荷の少ない素材を取り入れながら快適性を高めること、中庭を通じて自然を身近に感じられることなどだ。

2階フリースペース。この家では各室にドアを設けていない。その分自由な空間使いが可能で、必要に応じてフレキシブルに仕切れる
 
屋根の下は雑木林を思わせる中庭。植栽はアオダモ、クロヒモジ、ヒメシャラなどを中心に下草を組み合わせた。通路に敷かれた地元産の秋保石(あきういし)もアクセントに
2階の廊下をすのこ状にすることで室内の通気が良くなり、1階と2階の温度差が減少する。これもエコな実験住宅としての取組みの一つ
棚とデスクを造り付けた書斎はご主人のテレワークスペースとしても活用。薪ストーブの煙突は2階まで延びているので、その対流熱で冬は家中が暖かい

家の構成はコンセプトに合わせて1階が1LDK、2階が2LDKの二世帯住宅仕様。この2層が大きな窓で中庭とつながっている。現在は単世帯で暮らしているが2階はプライベートな空間、1階は来客などをもてなす空間として使い分けている。「家の中から中庭を眺めてるだけで四季の変化を感じられて、心が休まります。1階リビングで友達とお茶を飲んでいても、子どもたちを中庭で安心して遊ばせておけますしね」と奥さま。

左右に大容量の収納を設けた玄関。靴や外出用のジャケットなどが全て収まる。廊下中ほど左手には洗面コーナーがあり、帰宅してすぐに手洗いができる

この家の個室には仕切り戸が設けられていない。家中がひとつながりになっているのだ。各部屋の通気を図り、暖気や冷気の温度差を少なくするプランニング。他にもウッドファイバーの断熱材や気密性断熱性の高いトリプルガラス、太陽光発電によるオール電化、床下エアコンの冷気や暖気をダクトで循環させる仕組み、さらに雨水タンクを採用。室内の床、壁、天井の仕上げは北海道産カラマツのパネル材、外壁には焼杉を使用している。これらは環境負荷を抑えたエコ住宅の実験なのだと言う。

家族が過ごす2階のLDK。アイランドキッチンにカウンターテーブルを合体。ダイニングテーブルが不要なのでリビングスペースを広々と使える

「自然を取り込みながら環境に配慮した住宅にしたかったのです」と渡辺さん。奥さまは「初めはドアの付いていない部屋があるのは不安でしたが、子どもたちが家中を自由に走り回るのを見ていると、そんな不安も解消されました」と語ってくれた。日々自然を身近に感じながら子どもたちを育てる夫妻を、この大屋根の家は大らかに見守っているようだ。

取材協力

築100年の古民家を大改修。これから何世代にもわたって、住み継げる家に

のどかな住宅地にたたずむ大正期に建てられたという古民家。ここに暮らすのは建築家の松村泰徳さんとそのご家族だ。
「生まれも育ちもこの家です。新しい家を建てるという選択はありませんでしたね。ただこの家に暮らし続ける以 上、もっと暮らしやすくしなければと思いました」と松村さん。奥さまも「私もこの土地の出身ですが、この辺りでは古い家に手を入れながら住み続けるのは普通のことなんです。改修では、家事のしやすい家にしてほしいと伝えました。動きに無駄のない動線にしてほしかったですね。またここは底冷えがきついので、床暖房も絶対入れて、とリクエストしました」という。

物件データ 所在地/奈良県葛城市
リノベーション面積/184㎡
リノベーション年月/2019年10月
設計/松村泰徳(松村泰徳建築設計事務所)
matsumura-architects.com/

玄関を入ると通り土間とキッチンが一体化した空間に出迎えられる。オブジェのような印象の螺旋階段と、キッチンに設けられた大きな吹抜けで、自然と意識が上へ向かう。奥には薪ストーブのある居間兼食堂。その上は中2階の居間になっている。一方、今回改修をしかった6つの座敷の上には、広場のような2階の居間を設けた。このようにこの家には居間が3つもある。寒いときは2階の居間、暑いときは1階の座敷、季節やその時々の気分に合わせて過ごす場所を変えている。

堂々たる瓦屋根の外観。門や塀も改修している。開いた格子戸の奥に見えるのはアウトドアリビングの開口。地域とも絶妙な距離感でつながっている

また庭には離れを解体してアウトドアリビングを新設した。「古いものを残すのは大切なことですが、やはり現代の生活に見合う暮らしやすさがなけれなりません」と松村さん。今回はプランや意匠だけでなく、断熱補強や耐震補強も行っている。大規模な工事になったが、2階居間の漆喰塗りや金物の取付け、庭など、できるところは自分たちで施工した。そして改修部分にも、できる限り以前の家で使っていた建具や瓦などを再利用したという。過去の記憶の片鱗を見える形で残しているのだ。

コンパクトで使いやすい現代的なキッチン。上部は吹抜けで、広さ以上の開放感と明るさがある。漆喰で仕上げた壁が優しい空気感を生み出す
 
キッチンから続く居間は食堂を兼ねたスペース。天井が低く抑えられた落ち着きのある空間でゆっくり食事を楽しみ、薪ストーブの火を眺めながらくつろげる
長い間「開かずの間」だった2階を大きな居間に。もともとは養蚕室だったという。ハンモックで昼寝したり、友人の子どもを遊ばせたり、使い方は自由そのもの

この家は過去と現在がつながっている。改修によって健康な命を与えられた家。「この先も息子たちがこの家と家の歴史を引き継いでくれたらいいですね」と松村さん。今回の改修は、この家が未来へつながるきっかけになったに違いない。

離れを解体し、そのスペースにアウトドアリビングも設けた。まるで室内にあるようなキッチンや収納も設置し、アウトドアストーブもあるので通年で使える
アウトドアリビングの一画にはバスタブが。近隣からの視線は遮られているので、庭の緑や空を眺めながら思い切り開放感を味わえる
取材協力

アンティークの家具や雑貨が映える 柔らかい陰影を映し出すしっくいの壁。 新しくて古いたたずまいの家

もう何年も前からそこに置かれていたような古い家具や雑貨が、新しい家と違和感なく馴染んでいる。この家で暮らすKさん夫妻は、住むことで日々感性が磨かれていくような家で暮らしたいと思ったという。設計を建築家・服部信康さんに依頼したのも、その感性に引かれてのこと。

物件データ 所在地/茨城県つくば市
面積/106.46㎡
築年月/2018年7月
設計/服部信康(服部信康建築設計事務所)
ou-chi.in/

「家に過剰な便利さは不要でした。むしろ不便にしてほしかったくらい。家のことに手間暇をかけることで、毎日の暮らしそのものを愛おしく感じられるような家をお願いしました。家具も実家から譲り受けた古いものばかりなので、それらと違和感なく調和する空間にしてほしかったのです」と奥さま。

外壁は落ち着いた色調の深いグレー。駐車場、アプローチの不揃いなレンガは夫妻が施工。植栽や庭石も奥さまの父や弟とともに搬入、施工した

それに応えるように設計された家は、室内にさまざまな陰影が潜み、まるで穴倉のように落ち着く空間と明るく開 放的な空間が共存している。1階は個室が3つとフリースペース、洗面浴室、中庭が設けられた。採光は窓の位置や大きさなどで緻密にコントロールされている。
ここは明る過ぎず落ち着いた心持ちになれるような空間。家の中央に設けられた階段室のトップライトからは、陽光が降り注ぐ。2階はこの階段室を取り囲むようにLDKが配され、ここにもフリースペースや書斎が。リビングとひとつながりになる広いデッキテラスを持つ2階は、開放的な明るい空間だ。

ダイニングはアンティークの家具や照明、雑貨が混然一体となった空間。下1/3に簀戸(すど)をはめ込んだオリジナルの建具も空間全体の雰囲気と調和する
 
寝室隣のフリースペース。土間としっくいで仕上げられた空間にはアンティークのチェストや古い雑貨をディスプレイ。しっくいは夫妻が自ら仕上げた
寝室はヨーロッパの民家を思わせるたたずまい。窓はオリジナルのすべり出し窓。スペインに住んでいたこともある奥さまも懐かしさを感じるとか

この家のインテリアをより印象的にしているのは室内の仕上げ。壁のほとんどは光を柔らかく受け止めるしっくい塗り、天井はラワン合板。また1階の玄関から続く土間や2階の床の板張りが、空間ごとの性格を分別している。この仕上げと呼応するかのように家具や雑貨はこの空間の中で自然なたたずまいを見せている。
書き物や創作が趣味の奥さまは気分に合わせて作業する場所を転々とする。休日は保存食づくりや庭仕事で忙しいご主人、長男も絵を描き、さまざまな物を自分で制作する。

リビング全景。正面の白い壁の向こうは長男のスタディスペース。こもり感があり勉強にも集中できる。天井は梁を現しにしたリズミカルな仕上げ

「この家ではやることがたくさんあって忙しい。でもそんな暮らしが楽しいんです」とご主人が言えば「ここに住んでからは、雨を美しいと感じるようになりました。壁のしっくいの美しい表情はいくら眺めていても飽きることがありません」と奥さま。
この家には時代に流されない美意識と暮らしの哲学があるようだ。

中庭に面した1階の客室は濡れ縁が回してある、ほどよく和を感じる空間。塀を高く立ち上げてあるので、外からの視線を気にせず自由に過ごせる
取材協力

5 人家族の暮らしの変化に柔軟に対応。多目的に使いこなせるグリッド状の平屋

ともに香川県出身で3人のお子さんと暮らすNさんご夫妻は、共働きで平日は忙しく過ごす日々。「家を建てるなら両親に子育てのサポートを頼める互いの実家の近くに」と考えていた。複数の候補の中から選んだのは、歴史的建造物が点在する古き良き街の、優に2軒分はある約320㎡の敷地だ。「文化が息づく地域でご近所の人に見守られながら、のびのび育ってほしいと思いました」(奥さま)
設計は「唯一無二の住まいをつくってくれるはず」とほれ込んだ、神奈川県を拠点としている建築家・土田拓也さんに依頼した。「3人のお子さんが将来、どんな道を歩むかは未知数。土地の広さを生かしつつ、生活の変化に対応する家にしたいと考えました」(土田さん)

物件データ 所在地/香川県綾歌郡
面積/135.10㎡
築年月/2017年7月
設計/土田拓也・野田快斗
(no.555一級建築士事務所)
www.number555.com

そうして生まれたのは、長方形の縦横方向に門型フレームを連続させ、グリッド状に12個の部屋をつくった平屋。現在は中央の3つをLDK、西側の3つを子ども部屋にして空間を広々と使っているが、成長に応じて仕切ったり、子どもが1人、また1人と巣立ったときは、空いた部屋を趣味スペースやストックルームにしたり。夫婦だけになったらLDK全体を拡張することもできる。ワンフロアをゆるく区切るだけの構成が、多目的で無駄のない使い方をかなえてくれる。

通りからの視線や南側からの日差しを遮るため、LDK側の窓は最小限にとどめた。土間スペースの開口部を大きく取っているため、明るさは十分
通りからの視線や南側からの日差しを遮るため、LDK側の窓は最小限にとどめた。土間スペースの開口部を大きく取っているため、明るさは十分
キッチンは双方の両親を含めて複数人で使えるよう大きなアイランド型に。「かえって美しさを保てる」と、家中全て見せる収納にしている
キッチンは双方の両親を含めて複数人で使えるよう大きなアイランド型に。「かえって美しさを保てる」と、家中全て見せる収納にしている
外壁はグレーのセメント板。玄関ポーチの庇を薄くするなど、機能性を保ちつつ、古い町並みに調和する外観に
外壁はグレーのセメント板。玄関ポーチの庇を薄くするなど、機能性を保ちつつ、古い町並みに調和する外観に

「最初にプランを見たときはシンプル過ぎるし、もう少し隠れる場所があっていいのかなと。でも、住んでみて納得。いろいろな居場所がありながら、どこでも家族を近くに感じられ、一体空間の中でそれぞれが好きなことをしていられます。子どもと過ごせる時間は限られているので、何よりの形です」(奥さま)

連続する門型フレームには、寺社仏閣の鳥居をくぐるイメージもあるという。子どもたちはオープンな空間をいつも走り回っているそう
間仕切り壁や上がり框をなくした玄関は、LDKと一体になった開放的な空間。入口を3枚のガラス引き戸にして明るさも十分に確保した

玄関はガラス戸を採用し、床は上がり框をなくしてフラットに。訪れる人への垣根を低くした。双方のご両親は常日頃からふらりと訪れ、お子さ んたちをケア。一層、和気あいあいと過ごすようになったという。
 特徴的な外観デザインは、ご夫妻のコミュニティーへの姿勢が表れている。「この地域で連綿と続いているお祭りがあるのですが、毎年、見るたびに 心を打たれます。地元に根差すことをしていきたいです」(ご主人)
 自由度の高い平屋と町の情緒、人とのつながりの中で、家族の物語が紡がれていく。

庭はサンルームから気軽にアクセス可能。キャンプ気分で食事をしたり、お子さんが木登りをしたり。「公園に行かなくなりました」とご主人
敷地の隅に2階建ての納屋をつくり、アウトドアグッズなどの趣味のものを収納。庭には地元香川県の県木・オリーブやアカシアなどを植えている
text_ Makiko Hoshino photograph_Akira Nakamura
取材協力

「男のこだわり」が詰まった機能的なキッチンで 思いのままに料理を楽しむ。 夫婦の穏やかな時間が流れる家

「いつも庭を見ながら、ここで料理をつくるんですよ。ちょっと一杯やりながらね」と話してくれたNさん。
整然と調理器具が配置された機能的なキッチンには、厨房という表現が ふさわしい。それもそのはず、ご主人は結婚後に奥さまの出身地鹿児島に移り住み、調理師免許を取得。奥さまの実家が経営する旅館の板前をしていたという。このキッチンにはご主人のこだわりとプロならではの工夫が詰まっている。

物件データ 所在地/鹿児島県肝属郡
面積/192.19㎡
築年月/2019年11月
設計/蒲牟田健作(COGITE)
cogite.net

「独立型のキッチンは集中して食材に向き合えますね」(ご主人)。
東に配されたキッチンは芝が敷かれ明るい庭に面している。大きな窓側に面して並ぶのはガスコンロ、作業台、シンク。キッチンのセンターには大理石を採用した重厚なアイランド型カウンターを配置。その空間を取り囲むように調理器具をハンギング収納し、カウンターを挟んで食器収納。キッチンと直線でつながるパントリーの奥にはユーティリティーという配置で、家事動線も抜群だ。毎日の夕飯はご主人がつくり、奥さまは片付けを担当するという。

重厚な雰囲気を醸し出すLD。フランク・ロイド・ライトがデザインした照明器具、タリアセン1やタリアセン2の置き方も見事

「朝など1人のときはカウンターでササっと済ませます。その分夕食はたっぷり時間をとって、2人で過ごすんです。片付けもディスポーザーがあるので、とても便利」(奥さま)
設計を担当したのは建築事務所、COGITEの蒲牟田健作さん。夫婦の希望は大きな屋根を持つバリアフリーの平屋。テイストは奥さまが大好きな建築家、フランク・ロイド・ライトのエッセンスを取り入れたという。しかし単なる模倣ではなく、住む人の好みや価値観を取り入れ、そしゃくした上ででき上がったオリジナルの家だ。

庭から見た外観。屋根は天然石のスレート。耐久性が特徴で経年変化による風合いも楽しめる。屋根を支える柱のピッチもリズミカルな雰囲気に
 
センターのカウンター左手には天井まで届く大型の食器収納庫、コンロの先はパントリーになっている。いちばん奥に見えるのはユーティリティー
右手のテレビを掛けた壁には自然石タイルを貼って重厚感を高める。正面には長女の書を額装して飾った

庭に続く軒の深いテラスに面したLDを囲むように書斎、寝室、洗面浴室などの水回り、客間、キッチンが配されている。LDの壁の一面は自然石タイルで仕上げ、火を楽しむための暖炉が据え付けられた。庭に面した窓の障子で光の陰影を調整。アンティークなテイストの洋家具と和家具が在しながら、不思議な調和を生み出し、重厚さとともに安らぎを感じさせる空間に。

LDとつながる広いテラス。深く張り出した軒にはダウンライトも仕込まれている。庭の植栽がライトアップされた、夜の風情も美しい

共に経営する会社の業務や趣味、ボランティア活動にと忙しい毎日を過ごすNさん夫妻。そんな夫婦は、お互いの時間を尊重しながら、食を介して2人の充実した時間を演出。この家は、夫婦の穏やかで贅沢な暮らしを包み込んでいるようだ。

西側の書斎。出入口以外は天井まで届く書棚が造作されている。ここではテレワークをしたり、趣味の謡(うたい)や鼓(つづみ)の練習をすることも
取材協力

震災をきっかけに自宅で銭湯を開業。 公私のエリアを曖昧にした大らかな住まい

2016年に発生した熊本地震では、家屋の倒壊・半倒壊が相次いだだけでなく、水道・電気といったライフラインも大きな被害に見舞われた。熊本市神水出身の黒岩さんも被災した一人。家族で住んでいたマンションが大規模倒壊し、新たな住まいの取得を余儀なくされた。
震災以降、町に賑わいが失われたのを気に掛けていた黒岩さんは、家を建てる上で「何か地元に貢献できないか」という思いを強くしていた。そこで浮かんだのが、震災時にご近所の人たちがお風呂で苦労した光景だ。この辺りの温浴施設は2つだけで、とても混雑したという。

物件データ 所在地/熊本市中央区
面積/193.96㎡
築年月/2020年7月
設計/西村 浩(ワークヴィジョンズ)
www.workvisions.co.jp
構造設計/黒岩構造設計事ム所
kuroiwa-se.com

偶然にも一帯は湧水が豊富で「神水」の地名の由来ともいわれるほど。「今後、被災したときに銭湯があれば、地域の方々の支えになるはず。地元の資源を生かした銭湯付きの住まいにしようと考えました」(黒岩さん)
1階を銭湯、2階を自宅にした職住一体の家は、一見、公私のゾーンが明確に分かれているが、住居への玄関は1階の店舗入口と共用。番台の横に家族の下駄箱があり、通り抜けると階段がある。2階に浴室はなく、一家は銭湯を使うという。共有できるなら無駄なものは省くという黒岩さんの発想を、設計を手掛けた建築家の西村浩さんはこう解釈する。「ご近所さんとお風呂を共にする可能性もあるわけですが、境界が曖昧な住宅のあり方に一家の心の豊かさが表れているでしょう」

銭湯と住居スペースを結ぶらせん階段。一部をガラス壁にしてエントランス から入る光を取り込み、町の気配を感じられるように
お客さまが利用するエントランスと住まいの玄関。番台向かいには土間ホールがあり、飲み物を販売。入浴後にほっと一息つける

大らかな暮らしへの姿勢は、住居の間取りにも投影されている。間仕切り壁のないオープンな空間で、キッチンを中心にリビングダイニング・ワークスペース・寝室へと行き止まりなく行き来できる回遊動線に。フロア全体をコの字でなぞるようにカウンターが備えられており、好きな場所でパソコン作業をしたり、本を読んだり、フレキシブルに活用している。

リビングから寝室への通路にウォークインクローゼットを設け、家族全員の衣類を収納。2方向からアクセスができ、生活の動線上にあるため使いやすい
天井は通常の1.5 倍の高さ。現しにしたアーチ状の屋根裏と相まって、くつろぎのムードが漂う。高さがある分、上部をロフトにすることも可能

建物の構造は、構造設計を生業とする黒岩さんが自ら担当。構造材に九州の木材を使いつつ、「重ね透かし梁」という木材の耐性・剛性を高める構法を採用することで、大空間ながら震度7の揺れにも耐えられるように設計されている。
地震に強く、公共性を備えた寛容な住まいが、家族の安心と笑顔を守っている。

4人のお子さんのいる黒岩家。キッチンは 6 人家族に十分な幅 6m。「換気は窓を開ければいい」という合理的な発想から換気扇を省いた
店舗は熊本市内の幹線道路沿い。セットバックしたエントランス前は縁側のようなスペース。ベンチを置いて地域の人が腰掛けられるようにしている
text_ Makiko Hoshino photograph_ Masami Naito
取材協力

四季を彩るさまざまな種類の緑。大きなデッキのアウトドアリビングは、家族や友人とのコミュニケーションスペースに

「仕事の途中にパソコンから目を上げると、庭の緑が飛び込んでくるんです。ホッとするというか和みますね」と話してくれたOさん。LDKのワークスペースからは、正面のデッキテラス越しにさまざまな種類の緑を眺めることができる。
この家が建っているのは緑豊かな丘陵地帯。築20数年の中古住宅を購入し12年間ほど暮らしたが、小さく区割りされた間取りと狭い庭、玄関を出るとすぐの駐車スペースなどに使い勝手の悪さを感じていた。家の不具合も気になりだしリフォームを検討したが、思い切って建て替えることに決めたという。

物件データ 所在地/東京都町田市
面積/98.04㎡
築年月/2020年11月
設計/新井 崇文 (新井アトリエ一級建築士事務所)
arai-atelier.com/

設計を依頼したのは夫の元同僚だった新井アトリエ一級建築士事務所の新井崇文さん。「新井さんの自邸を見せてもらったら、自分たちが住みたい家のイメージに近かったんです。それに庭のつくりがとてもきれいで」(奥さま)

階段から俯瞰したLDK。丸いダイニングテーブルは見た目以上にゆったりと使える優れもの。キッチンカウンターも奥行きがあって使いやすい

1階は広々としたLDKとワークスペース。そこに幅広の木製建具でつながる広いデッキテラス。内と外が一体化する空間は実際の面積以上に広く、伸びやかさを感じさせる。アプローチからデッキテラスまで続く庭にはさまざまな種類の植物が植えられた。多種混植しているので、四季を通じて季節ごとの花や実、緑を楽しめるのがうれしい。

適度に隙間を空けた板張りの塀。外からの視線が遮られプライバシーは守られるが、中からは外の気配を感じることができる
 
アプローチは緩くカーブを描きながら、玄関やデッキテラスへと続く。ここにも中高木から日影に強い植物まで、さまざまな種類が植えられている
オープンタイプのⅠ型キッチン。通路幅も広く、複数人で一緒に作業してもスムーズだとか。キッチンに立っていても庭の緑を楽しめる

塀は高めに立ち上げているが、板には隙間を設け下部も大きく空けているので圧迫感は感じない。「庭のメンテナンス担当は僕です。植物の様子を見ながら水やりしていると、それだけでもリフレッシュできますね」(ご主人)
LDKの中心は大きなオリジナルのキッチン。オープンタイプのキッチンの背面には食器や調理家電を収める棚、北側にはパントリーと勝手口。

2階の子ども部屋とバルコニー。必要に応じて2つの窓の間を壁で仕切って2部屋にすることも可能。通風が良いので、洗濯物も乾きが早い

またパントリーはワークスペースともつなげ、キッチンとの回遊動線を確保している。2階には寝室と2つに仕切れる子ども部屋、洗面浴室やクローゼット、バルコニーを配置。 「毎日大量に洗濯物が出るのですが、2階で洗って干してホールのカウンターで畳んでしまう。洗濯動線が2階で完結するのでとてもラク」(奥さま)とのことで、共働きで3人の子どもを持つ、忙しい夫婦の日常を支えている。

LDK、パントリー、階段の中間に位置するワークスペース。適度に仕切られこもり感があり、床を1段上げたので立っている人とも目線が合わせやすい

「子どもの友達やママ友、パパ友が来たときは、玄関ではなくデッキテラスから出入りしてもらいます」(奥さま)この家のにぎやかな日常生活は、広いデッキテラスと緑豊かな庭に彩られている。

取材協力

雄大な風景を眺め、心地よい暮らしを営む 高台にあるロケーションハウス

自営業を営むご実家で職住一体の生活をしていたKさんご夫妻は、「職場と自宅は別の方がくつろげる」と、以前から思いを募らせていた一戸建てを新築することに。通勤圏内で土地探しをはじめたが、そこには揺るぎないイメージがあった。「出張や旅先でふと目にする自然豊かな景色には、心なごむものがあります。自宅にいながらその気分を味わえたら、どんなにいいだろうと思っていました」(ご主人)

物件データ 所在地/神奈川県横浜市
面積/116㎡
築年月/2017年12月
設計/西久保毅人(ニコ設計室)
www.niko-arch.com
プロデュース/ザ・ハウス
thehouse.co.jp

見つけた土地は、高台で視界が大きく開かれているのはもちろん、街並みや往来する電車、海まで望める叙情的な風景に、何より心を捉えられたという。「ただ景観をダイナミックに表すのではなく、段々と広がっていく奥行きのある住まいにしたいと思いました」と話すのは建築家の西久保毅人さん。外を一望する開放的なリビングにした一方で、1階から2階へ貫く円筒の小部屋を設置。キッチンの壁は大きく湾曲させ、〝こもれる〞場所をつくった。曲線を多用したユニークなつくりは、もう一つの意図がある。

敷地は高台にあるため、今後、建物が建っても視界が遮られる心配はない。デッキでは朝食をとるほか、椅子を出してくつろぐことも

西側の道路から見た外観。杉板や植物をあしらい威圧感が出ないようにした。東に向かって傾斜しているため、朝日が気持ちよく、眺望も良好
玄関土間の横にワークスペースを配置。ふとしたときに景色を眺められるように窓を設けた

「親子は一緒にいたいときと、離れていたいときの両方があると思うんです。完全に空間を隔てると触合いの機会を逃してしまうし、オープン過ぎてもストレスになります。目的が定まらず、工夫する余地がある方が、家族が心地よくつながれると考えて、あえて一見無駄で用途が不明確な場所もつくりました」(西久保さん)当初はモダンな住まいを望んでいたご主人だが、これに深く共感。奥さまの意向もあり、家族のあり方を最優先するプランで進めてもらったという。「お正月に親戚が集まってちゃぶ台を囲むような、気楽に過ごせるところが気に入っています」(奥さま)

床に大判タイルを張ったキッチンは昔の台所のような風情が。湾曲した壁の間にできた曖昧なスペースは路地裏のよう

掘座卓にしたダイニングでお子さんと料理をしたり、リビングにテントを張って寝転がったり、のびのびと家族の時間を楽しんでいる。「この家に住んでから親子の距離が近くなった」というご主人は、続けてこう話す。「起抜けの朝日も仕事終わりの薄暮も、晴天も雨天も見飽きることがありません。毎日、居心地の良い旅館を訪れたように『いいなあ』と思います」至極の眺望を今日も心ゆくまで楽しんでいる。

「子どもの成長を見守りたい」と子ども部屋に扉は付けず、あえて未完成なつくりに。子どもたちは閉じこもることなく、ほぼLDKで過ごす
円筒の小部屋(こもり部屋)は吹抜けで、上部からほんのりと明かりが届く。「リビングだと音が広がるので、ここでギターを弾いています」(ご主人)
text_ Makiko Hoshino photograph_ Akira Nakamura
取材協力

まるで空中庭園つきスカイハウス。駐車場の敷地を有効活用して子育てしやすい開放的な家に

「こんな家に住むことになるなんて想像していませんでした。当初、自分たちがイメージしていた家とは全然違う」と笑うTさんご夫妻。
この家が建つのは細長い駐車場の奥。敷地は奥さまのお母さまが所有していたもので、家を建てた今も1階部分は月極駐車場として貸し出している。結婚、妊娠を機に「この駐車場に家を建てたら?」と勧められたそう。ともに大阪市内が仕事場のTさん夫妻が、利便性の良いこの土地に家を建てるのをためらう理由はなかった。

物件データ 所在地/兵庫県西宮市
面積/112.02㎡
築年月/2014年3月
設計/河田 剛(とのま一級建築士事務所)
www.tonoma.net/

設計を任されたのはご主人の郷里の友人でもある、とのま一級建築士事務所の河田剛さん。当初は「中庭のある2階建てを建てようと思っていた」という夫妻の案を聞き、河田さんは「なんか違うな」と感じたと言う。「Tさん夫妻は音楽が好きで、趣味も多いし、インテリアにもこだわる。そんな個性的な2人だから、別の提案をしてもいいんじゃないかと思ったのです」(河田さん)

男の隠れ家のようなホビールームには、ご主人のギターやドラム、釣り道具などが整然と収まる。別棟になっているので、趣味に没頭できるとか

そこで河田さんは、手前の3台分を貸出用駐車スペースに、奥を居住スペースにすることを計画。構造を鉄骨にし、LDKや洗面・浴室など生活の中心部分を2階に上げ、1階には寝 室や子ども部屋を配置。2階には薄いスラブを敷き、中庭ならぬ広い屋上庭園、おまけに別棟のホビールームも設けた。1階は月極駐車場以外に2台分のスペースを確保、物置や自転車も置けるゆったりとした空に。2階のLDKと洗面・浴室の引き戸を開ければ、室内と庭がつながり、その境界が曖昧になる不思議な空間が出現する。

俯瞰で見た外観。角形の鋼管が屋上庭園を支えている。庭の下部分はピロティ方式になっていて、広さは十分。自転車や物置もゆったりと置ける
 
L字型の一方に置かれた洗面・浴室は通風もよく、洗濯動線も抜群。窓際のブレースは、LDKやホビールームとも統一感のあるデザインとして機能している
1階には中央の階段を挟んで寝室と子ども部屋。それを貫く土間は奥さまのワークスペースや子どものデスクスペース、収納などに利用されている

「びっくりしました。でも住んでみると暮らしやすいし、なにより開放感があって最高です」とご主人。またL字型に庭を囲むように配置されたLDKと洗面・浴室からは2階が全て見渡せるので、家事をしながらでも子どもに目が行き届く。共働きで2人の子どもを育てる夫妻にとっては、家事動線の良さもうれしいそう。

オープンタイプのオリジナルキッチンは、コンクリートを立ち上げて造作されている。調理しながらでも、庭の隅まで目が届く見通しのよさアーコールのチェアを合わせて。奥のリビングコーナーには畳スペースもある

「この家ではかなり実験的な設計にチャレンジしたと思います。発想を変えれば、土地はもっと有効に、自由に活用できるんじゃないでしょうか」と河田さん。広く開け放たれた2階は月極駐車場の上にいることを忘れてしまうほど。空をより近く感じることができる極上の住空間だった。

大きなナラ材にアイアンを組み合わせたダイニングテーブルに、イームズやアーコールのチェアを合わせて。奥のリビングコーナーには畳スペースもある
text_Yoko Maru photograph_Tomoaki Kawasumi
取材協力

室内から気軽にアクセスして楽しめるスケートパークを設けた家

東側にこんもりとした竹藪、南側は視界が開ける気持ちのいい敷地に建つSさんの住まい。住居前の迫力ある造作物は、スケートボードに興じるための「ランプ」だ。
中学生時代からこの競技に親しんできたご主人。マイランプに憧れを抱きつつも不可能と考えていた矢先、先輩が自宅にランプを設置したことを知り、自身も家づくりを機に実現へと動き出した。土地探しから設計、施工までを依頼したのは建築家の干川彰仁さん。スノーボードの経験者で、同じ〝横ノリ〞のセンスを感じたのだそう。希望したのは、「好きなものに囲まれ」「経年変化が味となり」「建築物に融合するランプがある」住まいだ。

物件データ 所在地/群馬県高崎市
面積/103.51㎡
築年月/2020年6月
設計/干川彰仁(ほしかわ工務店設計室)
hossyhouse.com

幅8m、奥行3.6mのランプは本格派。最適な角度を求めて大型スケートパークを視察し、試作して精度をチェック。エッジ部分にはコーピングを施し、細部までこだわった。「最初からレベルを高くした方が、上達する喜びを味わえると思ったんです。仲間には『家にいるまったりした気持ちでは乗れないね』と言われます(笑)」(ご主人)。

ランプの下部を収納スペースに充て有効活用。玄関のアプローチにはさまざまな植物を植えた
オープンなつくりの中2階。床は図工室のようなパーケット張りに。窓の先はテラスとランプ。床下は収納スペースに

ランプのプラットホームと住居の中2階の高さを合わせ、両者をテラスで結ぶことで、室内からのアクセスをスムーズに。ランプの手前にはコンクリートの広場があり、「室内・ランプ・広場」と往来できる。のびのびした環境下で、子どもたちは大人に教わることなくスケートボードを体得。
テラスにはベンチを兼ねた手すりが設置され、奥さまは腰かけて子どもを見守ることができる。「スケボーの魅力は誰とでもすぐに打ち解けられるところ。親子で存分にコミュニケーションを取りながら自然と体力づくりができるのがいいですね」(ご主人)

複数の窓から光が注ぐリビング。廊下をなくし、動線をシンプルにまとめて開放的な空間に。キッチンから子どもの姿を見ていられて安心

住居スペースは職人による造作家具や、趣ある無垢材を取り入れた落ち着いた空間。ご主人のスケートボードのデッキやドライフラワーがインテリアを彩る。「外出しても早く家に帰りたいと思ってしまいます。それぐらい居心地が良いので」(奥さま)おのずと体を動かす機会が生まれ、インテリアも楽しめる住まいが、家族の心身の健やかさを守っている。

西側の玄関は採光を抑え、ほの暗くしてLDKと変化をつけた。格子の扉や土間など、住まい全体でほどよく和の意匠を取り入れている
ダイニングキッチンの家具は全てオリジナルで造作。床はアカシア、クリなど場所ごとに素材と張り方を変え、趣を加えている
text_ Makiko Hoshino photograph_ Akira Nakamura
取材協力

子どもたちとの暮らしを楽しみたい! リビングで家族と一緒に学習できる のびやかな草屋根の家

「宿題をやってるとね、おじいちゃんとおばあちゃんが見えるんだよ」と子どもたちが笑うこの家は、奥さまの実家の向かいに建てられている。この家の学習コーナーは玄関を入ってすぐの場所。子どもたちは学校や保育園から帰ると、ここに荷物を降ろして、手を洗いに洗面所へ。両親は家事の手を止めることなく、子どもたちの勉強を見られる。子どもたちが昼寝をするのはリビングの一角の和室。室内は書斎を中心に回遊でき、引き戸を開ければほぼワンルーム状態に。ご夫妻が望んだ、家族がいつも一緒にいられる家はこうしてでき上がった。

物件データ 所在地/兵庫県豊岡市
面積/115.94㎡
築年月/2017年3月
設計/前田由利(YURI DESIGN)
www.yuri-d.com

「この地域では高校から家を離れる子どもが多いので、それまではできるだけ子どもたちと一緒にいたいと思って」と語るのはTさんご夫妻。兵庫県姫路市から日本海側の豊岡市への移住。きっかけは第一子の妊娠。ご夫妻はこの豊かな自然に囲まれた土地は、子どもをのびのびと育てるにはうってつけの環境と思ったという。計画はとんとん拍子に進み、ご主人は転職、小学校教諭の奥さまは転勤。奥さまの実家で暮らしながらの家づくり計画がスタートした。

LDKの一角を和室とし、ダイニングには薪ストーブを設置。はしごを昇ればロフト、その下に奥さまが家で仕事をするための書斎がある

1階の屋根はなだらかな傾斜の草屋根で、深さ10㎝程度の地盤上に芝生を植えている。家族はそこに土を入れ小さな畑もつくった
学習コーナーの左手の棚にはみんなで使う辞書や図鑑などを収納。ここでは上の子どもが下の子どもに勉強を教えたり、遊び相手になったり

設計を手掛けたのは、自然素材でつくる草屋根の家が得意な建築家・前田由利さん。草屋根とは屋根に人工地盤をつくり、草を植えることで室内への熱侵入を防ぐ建築方法。ご主人が大学の授業で知った前田さんの草屋根建築に共感し、「家を建てるならぜひ前田さんで」と考えていたという。希望したのは「家族がいつも一緒にいられる間取り」「リビング隣の学習コーナー」「子ども部屋は不要」など。でき上がったのは、広い草屋根が特徴的な自然素材でできた家。間取りはLDK、和室、寝室、書斎、水回り。吹抜け上のロフトが2つ。至ってシンプルだが、使い勝手や生活動線には十分な考慮がなされている。

オープンキッチンは、子どもたちがどこにいてもすぐに分かるベストポジション。背面にはパントリーと駐車場に続く勝手口

テレワークができない職種のご夫妻は、休日もバラバラ。家族がそろった日には庭や草屋根で食事をしたり、庭いじりをして過ごすという。都市部の暮らしとは違う日常。ここでは家族みんなが一緒に過ごす、限りある時間を、何よりも楽しんでいた。

畝は草屋根上の畑。日当たりが良く、昨年はイチゴやスイカを植えたが、なんとスイカは20個余りも収穫できたとか。のどかな里山の風景も一望できる
道路を挟んだ向かいには祖父母の家があり、学習コーナーの窓からおじいちゃんに声を掛けられることもしばしば
取材協力

大屋根に抱かれた住居スペースとガレージ。 バイク好きのご夫婦が手に入れたのは、 趣味のスペースとご近所とのコミュニケーション

3台のバイクと3台の自転車、壁にはたくさんの工具が並び、メンテナンス用オイルの匂いがするバイクガレージ。「家を建てるとき、バイクと車が置けるガレージは、絶対に譲れない条件でした」と語るBさんご夫妻。
ガレージといえば、男性の趣味の場所と捉えられがちだが、この家ではバイクが2人の共通の趣味。だから予算や敷地の都合がどうであろうと、バイクガレージを諦めるということはあり得なかったそうだ。

物件データ 所在地/横浜市戸塚区
面積/123.78㎡
築年月/2016年12月
設計/DOG一級建築士事務所
dog-archi.com

ご主人は会社員、奥さまは看護師。家を建てることを計画したとき奥さまの職場の同僚から紹介されたのが、DOG一級建築士事務所の齋藤隆太郎さんだった。ご夫妻は計画当初の段階から齋藤さんに相談し二人の要望を満たせる土地を丹念に探していったという。見つけたのは、40〜50年前に開発された横浜市郊外の住宅地で、雛壇状に整地された52坪ほどの敷地だった。
「こんな難しい土地でも、齋藤さんなら希望を叶えてくれると思いました」と、ご夫妻は全幅の信頼を寄せた。土地にはさまざまな法的な制約があったが、その一つ一つをクリアした結果でき上がったのがこの家だ。

一見、平屋のようにも見える大屋根に守られた家。中庭のシンボルツリー・ヤマボウシが色を添える

住宅の基礎にあたる擁壁部分にはセパレートされた車庫とバイクガレージ。ガレージ横の屋根のかかった外階段を上がって住宅の玄関へ。玄関を開けると2階まで吹き抜けた大きなLDKと和室。2階には寝室と将来的には2つに分けることもできる子ども部屋が設けられた。子ども部屋は吹抜けを通じて1階のLDKとつながっている。道路側から見るとガレージからせり上がるようにかけられた大きな屋根が印象的。この屋根のおかげで、ガレージと住宅が一体化し、一見大きな平屋とも見紛うスケール感に仕上がった。室内とガレージはガラス戸で仕切られ、1階のどこからでもバイクガレージを眺められる。

バイクガレージ手前のポーチ。ここを右に折れ、階段を上がると玄関に至る。屋根がかかっているので、雨の日も濡れずに移動できるのがうれしいして形にした
リビングダイニングの一角に設けられたご主人の書斎コーナー。棚で仕切ってあるので集中できる。「まさかテレワークの時代になるとは思いませんでしたが、このスペースがあって助かりました」(ご主人)

「バイクに乗るのも好きだけどメンテナンスやカスタマイズも大好き」というご主人は、暇があればここで作業しているそうだ。一方「乗るのが専門」という奥さまは、リビングから長男と一緒にそんなご主人を眺めるのがこの家の日常風景。
「バイクガレージを開けていると、近所の人が自然に声をかけてきてくれますね。特に高齢の方が懐かしそうに。そのおかげか、子どもも近所の方たちにかわいがってもらっています」(ご主人)
Bさんご夫妻は念願のバイクガレージとともに、ご近所との親密なコミュニケーションまで手に入れたようだ。

リビングの左手に見えるのは、2つのガレージに挟まれた中庭。道路レベルから1階上がった高さのところにあり、リビングに隣接している。子どもがここで遊ぶようになってからは人工芝を敷いたという
2階の子ども部屋から見下ろしたLDK。吹抜けに設けられたハイサイドライトからたっぷりの光が降り注ぐ。奥に見えるガレージは一段下がった雛壇の下に設置
大きな吹抜けの天井はリーズナブルな価格のシナ合板で仕上げた。予算をかけるところ、節約するところを分けてコストコントロール。奥のキッチンはI I 型で、壁側にガスコンロ、ダイニング側にシンクと作業台、その奥にはパントリーがある。ここは奥さまの使いやすさを最優先に考えた
取材協力

リビング吹抜けのキャットウォークやキャットステップ。 いつでも愛猫の気配が感じられる、 大らかなキャットハウス

「私はどちらかといえばイヌ派でしたね。しかし、ネコ好きの妻の影響でネコの愛らしさに開眼したというか…」と語るYさん。埼玉県狭山市のこの家で妻と長女、ネコのチョコ(9歳)、メム(5歳)と暮らしている。2匹は、都内の保護猫カフェにいたところを見染められ、Yさんの家族となった。
 

物件データ 所在地/埼玉県狭山市
面積/85.12㎡
築年月/2019年4月
設計/前田敦( 前田敦計画工房(同))
www.mac-atelier.com/

以前暮らしていたのは、新築で購入した都内のマンション。当初は夫妻と2匹の穏やかな日々が続いたが、夫妻は徐々にマンションでネコを飼うことへの不安が募っていったという。「マンションは、上下の移動に制限がありますし、ツルツルのフローリングは滑りやすく、ネコの腰などへの負担が大きくなってしまうんです」。そこでまだ築3年だったマンションを売って、新たにネコのための家を建てることを思い立ったという。

リビングの床の一部は掘り下げられており、より上へと視線が抜ける。段差がベビーゲート替わりになっているので、現在は子どもの遊び場としても機能している
リビングの床の一部は掘り下げられており、より上へと視線が抜ける。段差がベビーゲート替わりになっているので、現在は子どもの遊び場としても機能している
2階の洋室は2面に窓が設けられ、近くの公園の緑などが眺められる。夫のトレーニングルームとして当初設計されたが、将来的には子ども部屋になる予定
2階の洋室は2面に窓が設けられ、近くの公園の緑などが眺められる。夫のトレーニングルームとして当初設計されたが、将来的には子ども部屋になる予定
切妻屋根のシンプルな外観。外壁はガルバリウム鋼板横葺きで仕上げた。2階の印象的な丸窓には、夜になって室内の明かりを灯すと、ネコのシルエットが浮かぶ
切妻屋根のシンプルな外観。外壁はガルバリウム鋼板横葺きで仕上げた。2階の印 象的な丸窓には、夜になって室内の明かりを灯すと、ネコのシルエットが浮かぶ

夫婦とネコが穏やかに、ストレスフリーで暮らせる家。夫妻の希望を形にしたのは、前田敦計画工房の前田敦さん。前田さんは、イヌやネコと暮らすための家を数多く手掛けてきた建築家。Yさんは土地探しから前田さんに相談し、家づくりをトータルにサポートしてもらった。

2階の寝室から吹抜けを見る。トップライトから自然光が入る明るい空間。ネコはここから1階にいる家族を見下ろすが、家族がここからネコを眺めることもある

計画はとんとん拍子に進み、駅から数分の場所に土地を購入。敷地は広いとはいえないが、夫婦とネコが暮らすには十分に満足できる家が建つ。間取りは2LDK。1階はLDKと洗面浴室。2階には個室が2つ。そんな家の中には、ネコのためのスペースがちりばめられている。キャットウォーク、キャットステップはもちろん、LDKに面したテラスもネコのためのスペース。ネコはテラスにも自由に出入りできるが、外には出られないよう、塀を高く立ち上げているのだ。ネコ専用トイレは階段下に設置し、低い位置に換気扇も取り付けた。キッチンはネコが入れないよう、引き戸を付けた独立型に。LDに面してガラスで仕切られているので、キッチンで作業していてもネコの姿を眺められる。近隣を住宅に囲まれているため、プライバシーを守る観点から大きな窓は設けず、閉じた形の外観になった。しかし、トップライトを設けているので、室内は十分に明るい。

清潔感を感じさせるキッチンスペース。引き戸で仕切られているが、ガラスを通してリビングからの光が入ってくるため、思いのほか明るい。奥には通気のための小窓も設けた

想定外だったのは、家を建てた後に長女を授かったこと。ネコのメムは「かぎしっぽ」。古来、日本でも海外でも「かぎしっぽのネコは幸せを呼び込む」といわれてきたが、Yさん夫妻にはネコとともに家族の幸運が舞い込んだのかもしれない。

正面のグリーンにペイントされた壁の向こうがキッチン。必要な部分は空間を分け、ネコ も人も暮らしやすいよう配慮されている。柱には爪とぎが巻き付けられた
取材協力

広々とした土間から富士山を一望。 薪ストーブで冬も快適に暮らせる高原の家

雄大な自然が広がる富士山の麓、朝霧高原で生まれ育ったご主人は、大学時代を都会で過ごす中で地元の魅力を再認識してUターン。実家の牧場を継ぎ、結婚して子どもを授かったのを機に住まいを新築することにした。

物件データ 所在地/静岡県富士宮市
面積/139.12㎡
築年月/2019年6月
設計者/菊田康平・村上譲(Buttondesign)
www.buttondesign.net
施工/E-house㈱
e-house0909.co.jp

設計を依頼したのは、自分たちのライフスタイルを知りつくした友人であり建築家の菊田康平さんと村上譲さん。冬の寒さが厳しいこの地域では、暖かく過ごせる住環境が不可欠。また、富士山の眺めをどう取り込むかも大切なポイントになった。これらのテーマを体現するのが1階の中央に設けた薪ストーブと土間空間だ。

霧に浮かぶ富士山をイメージして外観はもや靄に溶け込むオフホワイトで統一。敷地が広いため、外で音楽を楽しむことも
右手の開き戸が玄関扉だが、正面にも格子の引違い戸を設けて土間からも出入りできるようにした

「牧場経営は始終、大自然と触れ合う仕事です。外界との接点をつくりながらも〝こもり感〞を出すことが重要と考えました」と菊田さん。
 土間の西側に景色を望む大きな窓を備えているが、左右に振り分けたリビングとダイニングキッチンの窓は小さめに。2階はプライベートなエリアだが、階下とは吹抜けでつながっているため、家族の気配を感じられ、暖気も家全体に広がる。

階段はあえて住まいの中心部に寄せて、2階に開放感が出るようにした。踏板までフローリング材を使い、シンプルでも趣のあるインテリアに
土間は表面に細かい凹凸があり、触れたときにひんやりしない福島産の白河石。住まいは薪ストーブだけで全体が暖まるよう断熱性能も備えている

「じんわりとした暖かさを感じながら揺らめく炎を見るのが、この季節の癒やしです」(奥さま)薪ストーブの周りは、富士山の特別な瞬間を捉えられる特等席。朝日に照らされる様子や夕日に赤く染まる姿、星明りに浮かぶシルエットなど毎日異なる姿を見ていると、新鮮な気持ちになれる。

ダイニングキッチンはあえて天井を低く窓も小さめにして"こもり感"を演出。キッチンは手元に立上りがあるので、ゲストがいても料理に集中できる

「大きな窓を一つに絞ったことで富 士山を身近に感じられるように。住むこと以上の体験ができています」(ご主人)
 3人の子どもがいるこの家では、週末に友人家族を招いてバーベキューを楽しむことも多い。表情の異なる複数の居場所は、一家の日常の幅を広げるのはもちろん、子ども連れのゲストが来たときも活躍。傍らで遊ばせたり、昼寝をさせたり、思い思いに過ごしている。
 ベランダ向かいの一帯は、自ら所有する牧草地。自然とつながる職住一体の暮らしが、今日も家族に充足感を届けている。

2階はゆったりしたワンルームで、将来、区切って子ども部屋にすることも想定している。ゆるやかなカーブを描いた天井には、暖気を巡らせる効果が
text_ Makiko Hoshino photograph_ Akira Nakamura
取材協力

キッチンではいろんな家事を同時進行。 開放感と穏やかさに包まれたコートハウス

海と山に囲まれた風光明媚な愛知県蒲郡市にIさん家族が暮らすコートハウスがある。ご主人は大学卒業後、会社員を経て、家業のイチゴ農家を継いだ。奥さまは保育士。子どもは小学生と幼稚園児の元気な男の子が2人。これで忙しくないはずはない。
 

物件データ 所在地/愛知県蒲郡市
面積/138.82㎡
築年月/2015年2月
設計/松原知己(松原建築計画)
matsubara-architect.com/top.htm

奥さまは保育園で午前中の勤務を終え帰宅すると、山のような家事をこなさなければならない。「仕事から帰るとすぐに夫と自分の昼食の用意。午後は、幼稚園のお迎えや習い事の送り迎え。帰ると夕飯の準備。同時に洗濯などもしているので、夕食を終えるまでは、キッチンに立ちっぱなしですね」と話してくれた奥さま。

コの字型に囲まれた中庭には芝を敷き詰め、シンボルツリーとしてアオダモを植えた。スタディコーナー前には、メンテナンスフリーの大谷石でテラスをつくった
道路から見た外観。背の低い塀や植栽で緩やかに仕切られている。右側イチゴハウスの横から裏動線へ通じる。左はご主人の事務室と趣味室を兼ねた「離れ」

そんな忙しい家族の生活の中心がこのキッチン。ここに立つと、廊下に設けられたスタディコーナーへ視線が通り、中庭の緑を眺めながら、家事をこなすことができる。
ご主人は「畑の一角に建てる職住一体型の家なので、オンとオフは分けたかったですね。ならば中庭のある家がいいのかなと。でも閉塞的になるのではなく、光や風を取り込んだ開放感のある家にしたかった」という。

正面の引き戸の奥が家事室、サービスコート、外部へと続く裏動線。キッチンは清潔感のあるステンレス製。背面には、里山の風景を遠望できるハイサイドウインドーも
リビングからDKを望む。リビングは2段ほどスキップしているので、平屋でありながら、高低差のある空間の変化も楽しめる。リズミカルな現しの梁も印象的

設計を任されたのは、松原建築計画の松原知己さん。提案したプランは、コの字型に中庭を囲んだ「母屋」と、ご主人の事務室と趣味室を兼ねる「離れ」を組み合わせた平屋のプラン。回りは背の低い塀と常緑樹で囲い、外部と程よくつながりながらプライバ シーも守られるよう計画した。

キッチン内側には、奥さまこだわりのタイルを貼った。「ここにいると、スタディコーナーやLDまで目が届きます。中庭の抜け感も気持ちいいですね」(奥さま)

また、ご主人が農作業から帰ってくるための裏動線も設けた。職住一体型住宅だからこそ、オンとオフをうまく切り替えるための仕掛けが必要というわけだ。「母屋」と「離れ」からは、いつでも中庭の様子を眺めることができる。

カウンター下を掘り下げたスタディコーナー。DKとの仕切りには引き込み戸が設けられている。子どもが勉強に集中したいときはここを閉める

キッチン、リビングの外壁側に設けられたハイサイドウインドーからは、イチゴのハウスや遠くに里山の風景を望むことができる。内を見ても、外を見ても、場所によって変化に富んだ景色に出会うことができるのだ。
 小学三年生の長男の将来の夢は「イチゴ農家になって、お父さんと一緒に働くこと」。親の働く背中を見て育つ。職住一体の住宅は自然とそんな環境を整えてくれる。

取材協力

大開口から木々が育つ庭を贅沢に一望。 光と風がめぐる、夏に快適な住まい

南北に開けた日当たりの良い敷地に一戸建てを新築したYさん。庭をくの字で囲むように建つ平屋造りの住まいは、玄関を中心にパブリックとプライベートスペースの2つのエリアに分かれていて、どちらも南北に大きな開口が設けられている。全開にすると内と外が一体になり、家中にフレッシュで気持ちのいい風が通り抜けてゆく。
 

物件データ 所在地/兵庫県相生市
面積/93.76㎡
竣工年月/2017年1月
設計/岸本貴信(CONTAINER DESIGN)
cd-aa.com/

「しょっちゅう蝶々の通り道になっています(笑)。室内にいても、ほとんど外にいるような感覚ですね」(ご主人)  抜群の開放感のカギを握っているの が、枝をのばす木のように放射状に広がる柱だ。構造壁の代わりに屋根を支え、遠くまで視線が抜けるのびやかな空間を獲得している。柱にはキッチンカウンターやワークデスクのほか、食器棚やディスプレイに活用できるオープン棚をつくり付けて、家族の溜まり場とした。設計を手掛けた建築家の岸本貴信さんは、「新たな芽から大きな木が育ち、木陰ができる。そんなイメージで家族の居場所をつくりました」と話す。

軒の深い屋根が日差しを遮るため、軒下も室内も涼やか。地面までのびるデザインは、「庭から登れても面白いね」という雑談から生まれた

庭に面した縁側は、家族3人の憩いの場所。深い軒や背の高い樹木が夏の強い日差しを和らげてくれるため、涼しく、のんびりと過ごせる。庭ではテーブルを持ち出してバーベキューをしたり、ビニールプールで息子さんを遊ばせたりと、アウトドアライフを満喫。ユーカリやドウダンツツジ、ジューンベリー、マイヤーレモンといった多彩な樹木が育ち、イチゴやレタスといった家庭菜園も楽しんでいる。 

ロフトに上がるらせん階段。宙に浮くような個性的なデザインがインテリアを彩る。ロフトを抜けると屋上にアクセスできる
カフェのような木製ドアを造作。玄関を中心として右にパブリックスペース、左にプライベートスペースを配置し、玄関上部に屋上を設けた

「庭ができて暮らし方ががらりと変わりました。実のなる木は鳥を呼び寄せます。収穫したものをすぐキッチンで使えるのも便利だし、豊かだなと思いますね。家で過ごす楽しみが増えました」と奥さま。自然に囲まれ、クリーンな空気を家のどこにいても満喫できる健康的で心地よい夏の日々を叶えている。

水回りと寝室が集約されたプライベートエリアも間仕切り壁がなく、回遊できる動線に。日々の掃除や洗濯物の収納もストレスフリー
床はモルタルと杉板で仕上げを変えて段差をつくり、広々としたひと続きの空間に立体感と奥行き生んでいる
大木をモチーフにした柱が印象的なLDK。柱の周りを囲うようにテーブルやキッチンカウンター、棚がつくり付けられている
text_ Makiko Hoshino photograph_ Takashi Daibo
取材協力

高床リビングを中央に配した職住一体の家

テレワークが一般化しつつある中、自宅で快適に仕事ができる環境づくりに注目が集まっている。経営コンサルティング会社を営むKさんは3年前、LDKの一角にワークスペースを配した職住一体の家を建てた。
 以前は、コートハウスで暮らしてきたご夫妻。中庭をロの字で囲う家はお気に入りだったが、雨漏りが度重なり、 メンテナンスをしても解決できなかったことから、建替えを計画。建築家の二宮博さんと菱谷和子さんが主宰する設計事務所に依頼した。 (ご主人)
 

物件データ 所在地/東京都世田谷区
面積/117.25㎡
竣工年月/2017年3月
設計/ステューディオ 2 アーキテクツ
home.netyou.jp/cc/studio2/

ご夫妻の希望は、以前の住まいで気に入っていた部分を踏襲しつつ不満点を解消することと、ご主人の仕事場をつくること。程なくして提案されたのは、2階にLDKを配し、中央に高床の床座リビングを設けるプラン。リビングを挟んでダイニングキッチンとロフト、ご主人の仕事にも使える家族共有のワークステーションを設置するものだった。

敷地は住宅密集地の一角にあるため、窓は最小限に抑えてプライバ シーを確保。モノトーンの外壁はガルバリウム鋼板
キッチンは家族で囲める大きなアイランド型。白い天板と木製の面材を 組み合わせたシンプルなデザインが空間に馴染む

「床座のリビングは、くつろぎの場でありながら、子どもたちの遊び場にもなる柔軟なスペースです。その横にワークステーションをつくることで、職住一体の暮らしを楽しめたらいいなと考えました」(二宮さん)
 ワークステーションに造作した長いカウンターでは、ご主人が仕事をする横で、子どもたちが勉強をしたり、書をしたり…。暮らしのさまざまなアクティビティーに対応する場となっている。1階にも、仕事に集中できるように独立したワークスペースを配置。生活と仕事を無理なく両立できるように配慮した。

リビングの床面とワークステーションのカウンターはフラットに連続させ、コーナーには隣家の借景を楽しめる窓を設置
経営コンサルタントを自営されているご主人。仕事に集中できる環境も必要と考え、玄関を入った正面に個室のワークスペースをつくった
玄関から階段の上り口までフラットな土間床が続く。土間は墨入りモルタ ルで落ち着いた印象に仕上げた

以前の住まいで気に入っていたという中庭の代わりに空を取り込むハイサイド窓を設け、空中の庭として機能するルーフテラスをつくることでご夫妻の希望を全てかなえる住まいに仕上げた。
 「高床リビングという、変化に富んだワンルーム空間はすごく気に入っています。子どものそばで仕事ができる毎日は、まさに私たちが望んでいたものですからね」(ご主人)
 それぞれが自分時間を謳歌でき、思い思いに過ごせる居場所がある。絶妙な距離感を得られるK邸は、多様なワークスタイルに柔軟に対応できるヒントとなりそうだ。

ロフトを設けて天井を低く抑えたダイニングキッチンと、高く吹き抜けたリビング。ロフトは子どもたちの遊び場として活用
text_ Hiromi Matsubayashi photograph_ Takuya Furusue
取材協力

高さ約3mの天井に開放感がいっぱい。森と空、街並みを望むリゾート風マンション

沖縄に住むSさんご夫妻は、子育てが一段落したのを機に「もっとゆとりを感じて過ごしたい」と、十年以上暮らしたマンションを手放し、住替えを決意。物件を探す中、たまたま通りかかった場所でマンション建設予定の看板を見つけた。
 「市街を見晴らす高台にあり、向かいは琉球王朝時代からの歴史深い森。『これは間違いない!』と、すぐに最上階の住戸を申し込みました」 (ご主人)
 

物件データ 所在地/沖縄県那覇市
面積/115.46㎡
竣工年月/2018年6月
設計/㈱デザインスタジオ琉球樂団
www.r-gakudan.jp/

窓の外には青々とした空と緑。美しい街並みも広がり、晴れた日は遠くにけらま慶良間諸島も見える。約42㎡の広いLDKと最大3.2mの高さがある折上げ天井もぜいたくだ。開放感にあふれ、まるでリゾートのような雰囲気が漂う。  「ダイニングで夜景を眺めながら食事やお酒を楽しむ時間は最高です。気を遣わずに済むため、レストラン以上にくつろげます」(ご主人)

建具の高さを天井高と同じにして廊下を広く見せている。大理石調の白いタイルが明るさと高級感を醸し出す
LDKと隣接する洋室。現在はお嬢さまの部屋として使用しているが、引き戸をオープンにしてLDKと一体化することも可能

内装はライフスタイルに合わせてカスタマイズ。現在は社会人のお嬢さまと暮らしているが、いずれ夫婦二人暮らしになることを想定してシンプルでフレキシブルなプランに。LDK横の洋室は引き戸で仕切り、開け放てば広々と多目的に使うことができる。壁付けのL字型キッチンは、複数人が立って調理、配膳までをスムーズに行える。

オープンクローゼットとWICを併設した寝室。オープンクローゼットとの間仕切りにルーバーを用いて開放感と明るさをキープ
バルコニーはLDKから寝室までひと続きでキッチンからも出入りができる。ガラス製の手すり壁は眺望を邪魔せず、優雅な景色を満喫できる

また、沖縄の気候に配慮した設計の工夫が、より豊かな暮らしを叶えている。軒の深いバルコニーは強い日差しが遮られ、リビングの一部としても快適に過ごせる。開口部は遮熱、遮音効果を兼ねた水密性の高い複層ガラスのサッシを採用しているため、台風時の雨風の浸入やごう音を防いでくれる。室内壁にはしっくい、床下に竹炭を施し、湿気対策も万全だ。さらに遠赤外線による冷暖房システムにより、風を起こすことなく部屋の温度を均一化させている。

カビや埃が舞わない遠赤外線の無音、無風の冷暖房システムを導入(写真右)。壁にはご夫妻の好きなお酒やグラスを収める棚を造作

奥さまは、この家に引っ越してきてから、住まいの大切さを実感するようになったという。
「刻々と移ろう自然を感じては、癒されています。過ごす時間の全てがお気に入りです」(奥さま) 心も体も満足する家を手に入れ、人生のセカンドステージを生き生きと楽しんでいる。

L字型キッチンにアイランドのカウンターを合わせ、多くの作業が効率的に行えるように。回遊できるのも便利
text_ Makiko Hoshino photograph_ Akira Nakamura
取材協力

織物工場のノコギリ屋根を住まいに採用。 大空を望み、光に包まれる気持ちのいい家

古くから繊維産業によって発展してきた愛知県一宮市。現在もあちらこちらで見られる「ノコギリ屋根」の工場が、趣のある街並みを形成している。
 ご主人の地元である一宮市に住まいを構えたKさん一家。連続する鋭角の屋根がシンボルの自宅は、街との調和を意識したデザインだが、そのユニークな外観には、快適な生活環境を実現するための配慮が隠されている。
 

物件データ 所在地/愛知県一宮市
面積/99.62㎡
築年月/2017年7月
設計/川島範久(川島範久建築設計事務所)
norihisakawashima.jp

「ノコギリ屋根の工場では安定した光を得るために採光面を北向きにし ますが、住宅なのであえて南向きとし、光が降り注ぎ、空の変化をダイレクトに感じられるようにしました」と話すのは設計を担当した川島範久さん。「とにかく明るい空間に」という要望を受けて着想したという。

広いテラスで子どもも大人ものびのびと過ごす。大きな屋根は夏の強い日差しを遮る一方、日射角度の低い冬は光が奥まで届く
北側のスペースは壁で仕切られ、プライバシーが保たれているが、スリット窓により広く感じられる。WICは将来、寝室にする予定

住まいは約40㎡の長方形を3つ並べた構成で、南側からテラス、LDK、寝室兼子どもスペースを配置。暗くなりがちな北側の空間にも、ノコギリ屋根によって高窓が設けられ、光を招き入れている。その他、傾斜した屋根には、日射角度の高い夏の日差しを遮る効果もある。
 「家族と一緒に過ごす時間が何よりの安らぎ。子どもたちが部屋にこもらないようにしてほしいとリクエストしました」(奥さま)

外装材のガルバリウム鋼板を天井に用いて外との一体感を演出。光の反射を狙い、空間を白で統一し明るい雰囲気に

LDKはテラス側をガラス張りにして開放的な場所に。寝室兼子どもスペースとの間の壁には、横長のスリット窓を入れ、気配が伝わるように工夫。扉一枚で行き来できるため、それぞれの場所で過ごす家族の距離がより近 くなっている。
 「外の様子が分かり、安心して子どもを遊ばせておけるのがいいですね。ゲストが来たときも、すぐコミュニケーションが取れます」(ご主人)

間仕切り壁の上部をオープンにして圧迫感を軽減。視線が抜けるよう、扉や壁の上部にガラスの欄間を設けた
メインの空調は1台の床下エアコン。冬は床下の温風が窓際から給気され、寒暖差を防ぐ。また断熱ブラインドなどを採用してより高断熱に

「ご家族にとっての最良の住まいを突き詰めた結果、地域で受け継がれ てきた形を活用することになりました。現代の価値観に合わせ、伝統を再解釈する試みになったと思います」(川島さん)
空と光をいっぱいに感じる住まいで、今日も家族のだんらんが育まれている。

北側の寝室兼子どもスペース。長いテーブルは家族共有のワークスペースとなっている。ベッドに横たわるとハイサイド窓から空が見える
text_ Makiko Hoshino photograph_ Akira Nakamura
取材協力

オープンな空間の真ん中にキッチンを配置。 家族を身近に感じ、飲食を満喫する家

平日フルタイムで働くSさんご夫妻は、通勤に便利な山手線内側に住まいを持ちたいと考え、文京区に建つ築42年のマンションをリノベーション前提で購入した。都内出身のご主人が学生時代によく来ていたなじみのある地域で、周囲には緑豊かな庭園や伝統ある教育機関などが点在し、子育て環境としても好条件。窓からの景色の良さも決め手になったという。
 

物件データ 所在地/東京都文京区
面積/62.1㎡
リノベーション年月/2017年2月
設計/㈱フィールドガレージ
www.fieldgarage.com

郷土料理を食べに地方に出向いたり、酒蔵を訪ね歩いたりするなど、飲食への探究心が旺盛なご夫妻。リノベーションで要望したのは、食卓を囲む時間が充実し、料理をしている間も子どもの遊ぶ姿を見守れる住まいだ。
 元3LDKの空間は壁を撤去して広々としたLDK+個室1室のプランに改修。キッチンと食卓が設けられているのは、LDKの真ん中。南側の大きな開口部から光が注ぎ、借景の緑も眺められ、家族が自然と集まってくつろげるメインスペースとなっている。

コンクリート躯体となじむように色のトーンを抑え、マットな素材を使用。「ピカピカではないので、気を張らずに暮らせます」(奥さま)
キッチンと同じタイルで統一感をもたせた洗面室。スイッチやコンセントは使いやすさを考えて配置。洗面台下には掃除機用コンセントがある

「家族がどこにいても、会話しながら楽しく料理ができるようになりました。作りながら食べたり、食事の途中で冷蔵庫からさっと1品持ってきたりできるのがいいですね。外食が減りました」(奥さま)
 また、家事の負担を軽減するため、寝室や洗面室にも扉を設けずひとつながりの空間に。
 「ロボット掃除機が立往生することなく、家中を一気にきれいにしてくれるので助かります」(奥さま)
玄関土間とキッチンとの間にウォークスルークローゼットを設けたのも時短ポイントだ。帰宅して上着を掛け、すぐに家事に取り掛かれる

自転車やコートハンガーも置ける広めの玄関土間。クローゼットがすぐ近くにあるため、外出前の身支度や忘れ物を取りに行くのも便利
寝室は、将来、真ん中に壁を立てて2室にすることも可能なつくり。就寝スタイルを布団にすることで、お子さんの遊び場を確保した

インテリアはガレージのような雰囲気が好きなご主人の希望を反映。躯体壁の一部をむき出しにしてリビングにはロードバイクをディスプレイしている。
 「愛車を眺めながら飲むお酒は格別です」(ご主人) 緑にあふれ、文化の薫る土地と住まいに癒されながら、家族の豊かなときを刻んでいる。

壁にはアメリカから取り寄せたスタンドにロードバイクをディスプレイ。躯体を現したままで、建設時に書かれた線や字が味わいになっている
グリーンのタイルがやわらかな表情を与えるキッチン。床は耐水性のあるフロアタイル。油はね対策で、コンロは壁向きで設置
text_ Makiko Hoshino photograph_ Mizuho Kuwata
取材協力

バーを備えた小部屋やサブ階段を設置。 趣味を充実させ、過ごし方の幅を広げる家

岡山駅から車で30分ほどの田園地帯に住まいを新築したNさん一家。
交通量の少ない静かな環境や通勤しやすい立地が気に入り土地を購入したものの、農地転用許可を取るのに3年かかったという。しかし、その期間で理想の住まいをじっくり探究。当初はハウスメーカーで建てる予定だったが、「ゼロから好きなように建てたい」と考え、地元の設計事務所・風景のある家に依頼し、ライフスタイルに合う家を実現した。
 

物件データ 所在地/岡山市中区
面積/118.65㎡
築年月/2017年9月
設計監理/風景のある家.LLC
huukei-design.com

ワインコンサルタントのご主人は、自身もワインの愛飲家。仕事柄お客さまを招く機会も多いため、家族だけでなく、お客さまも気兼ねなくリラックスしてもらえる家を望んでいた。そこでポイントが置かれたのが玄関だ。
 「足を踏み入れたとたん、気持ちいいと思える『部屋』のような空間を目指しました」と話すのは、担当した河島康さん。約10㎡を玄関に充て吹抜けとした上で、屋外とLDK側にはめ殺し窓やガラス戸を採用。明るく視線が抜けるため、開放感を味わえる。

外観は岡山の昔ながらの和風住宅を意識し、2階部分に焼き板を使用。 軒裏を垂木現しにするなどして味わいを出した
2人で立っても余裕を持って使えるようにキッチンの通路幅は約120㎝と広めに設計。収納には使いやすいシステムキッチンを採用

玄関の向こうには、床が三段分下がった隠れ家のような小部屋を設けた。小さな流しとグラスの収納棚、ワインセラーを備え、バーのように仕立てられている。
 「一人でぼんやりお酒を飲むと息抜きになり、お店に行く必要がなくなりました。息子が隣でジュースを飲むこともあり、親子の良い時間を過ごせています」(ご主人)
 さらに、玄関にサブ階段を設置することで、ご主人がリビングで接客している間、家族がリビングを通らずにスキップフロアや2階に行けるように配慮した。

グレーの琉球畳を敷いたモダンな雰囲気のタタミルーム(スキップフロア)。サブ階段が架けられていて、玄関とダイレクトにつながる
屋根裏の構造材が美しく映えるように壁をグレーで統一。2階の手すり壁は上部をオープンにし、見上げたときに開放感が得られるようにした

「純和風住宅が好きだったのですが、現代には使い難いように思い、和モダンをテーマにしました」(ご主人)
外壁には、瀬戸内地方の住宅で親しまれてきた防腐性のある「焼き板」を使用。また、室内にはふんだんに無垢材を取り入れ、和室やキッチンなど、所々で梁を現しにした。
 寝室や子ども部屋の面積は最小限にし、その分、生活動線である廊下や階段、LDKを広めに設計したことで、ゆとりある間取りと和の風情が相まって、リラックスムードが漂う家となっている。暮らし方にフィットする快適な住まいには、今日も家族の笑い声が響く。

バーは床が低くなっていて秘密基地のよう。「家にいながら、ふらりと飲みに出掛ける気分を味わえます」(ご主人)
LDKのほか廊下や階段までスギの無垢材を使用。足ざわりが良く、素足で過ごせる。LDKは大きな窓の効果でより広く感じられる
text_ Makiko Hoshino photograph_ Akira Nakamura
取材協力

ボルダリング壁にお絵描きスペースも。 子どもが笑顔になる、子育てに最適な家

Cさん一家が以前住んでいたのはご両親が所有するオフィスビル。大通りに面していて騒がしく、アレルギー体質の家族がいるため、空気環境も悩みの種だったという。子どもが小さなうちに家を建て、子育てのひと時を大事に過ごしたいと思っていたご夫妻は、閑静で緑豊かなさいたま市の郊外にある約180㎡の土地を手に入れ、一戸建てを構えることにした。
 

物件データ 所在地/さいたま市緑区
面積/117.62㎡
築年月/2018年12月
設計/昭栄建設㈱ Shoei彩工房事業部
筋野 高如(基本設計)、脇坂 隆洋(実施設計)
www.shoeigro-built.com

「家族でいる楽しさを最大限に味わい、親子関係を豊かに育んでいける家にするため、住まいの中心に階段をつくり、家族をつなげる装置としました」そう話すのは設計者の筋野高如さん。リビングの吹抜けと階段は一体化され、料理中やソファに掛けながらでも、1階と2階を行き来するお子さんを見守れるようになっている。玄関からLDK、階段、2階廊下までオープンな間取りは、どこにいても家族の様子がわかり、自然と会話が生まれる。

グレーのガルバリウム鋼板でシンプルモダンに仕上げた外観。玄関前に千本格子のパーテーションを立てて目隠し
一体感のあるデザインと地震時の転倒防止のため、収納家具は造り付けに。大きな実験用シンクは子どもの汚れた洋服を洗う時も便利
廊下のパーテーションに黒板クロスを貼り、伝言板兼お絵描きコーナーに。 その裏は洗濯物に花粉などが付着するのを防げる室内物干しスペース
高気密・高断熱住宅なので、各階1台ずつのエアコンで年中快適な室内温度をキープ。光熱費も節約できる。

遊び盛りの子どもたちのために、LDKにボルダリング壁を設置。梁からは ロープを吊るし、2階廊下には黒板スペースを設けた。
 「公園で遊ぶことが大好きな長女が、雨の日でも家で退屈しないようにとつくってもらいました。4歳の長男と一緒に壁のホールドをつかんで2階によじ登り、黒板にお絵描きするとロープで降りてと、家じゅうを何度も行き来して楽しそうに遊んでいます」(奥さま)
 ご夫妻のもう一つのこだわりが、快適な温熱環境・空気環境を整えること。

広く回遊性のあるキッチンは親子で使いやすいつくり。作業台は両側に棚がありたっぷり収納が可能。どこに何を置くか計算して形にした

ご夫妻のもう一つのこだわりが、快適な温熱環境・空気環境を整えること。 家全体を外側から断熱材で包み、壁に二重の通気層をつくって高気密・高断熱にする「ソーラーサーキット工法」に、機械で計画的に給排気を行う「第一種換気」を組み合わせた。これにより夏は涼しく、冬は暖かで、常時きれいな空気の住まいを実現している。
「話し声や生活音が身近に聞こえるので、同じ空間にいる安心感があって居心地がいいです」と笑顔のご主人。開放的なキッチンで食事の支度をしていると、子どもたちがお手伝いに駆け寄ってきてくれる。何げない日々の幸せを噛みしめている

「子どもが小さいうちはダイニングで勉強を」とカウンターを配置。家全体に取り入れた無垢材が、ぬくもりを添える
text_ Makiko Hoshino photograph_ Susumu Matsui
取材協力

みんなで机を囲んで仕事に勉強に専念。 図書館のようなワークルームのある家

Oさん一家は大学教員のご主人と研究者の奥さま、7歳の長女、5歳の長男の4人暮らし。公園を臨む世田谷区のマンションに住み始めたところ、のどかな自然と、ギャラリーや古書店のある豊かな文化性が気に入り、近隣に一戸建てを建てることにした。
購入したのは約64㎡のコンパクトな敷地。限られた面積だが、自宅で仕事をすることが多く、専門書を大量に所有するご主人にとって、大容量の書棚と職住一体の暮らしは外せない条件だった。
 

物件データ 所在地/東京都世田谷区
面積/97.3㎡
築年月/2016年5月
設計者/彦根明+狩野翔太(彦根建築設計事務所)
www.a-h-architects.com

O邸の間取りは1階が書棚に囲まれたワークルームと音楽ルーム、2階はLDKと浴室、3階は寝室と子ども部屋で、建物の中心に円筒状の壁で囲まれたらせん階段を配したユニークなプラン。
「シンプルな間取りだと広がりを感じにくいため、『変化のある空間づくり』を目指しました」そう話すのは建築家の彦根明さん。らせん階段の壁を部分的にオープンにして、空間全体に適度なつながりを持たせている。

建物を南側に寄せたことで、高さ制限(北側斜線)をクリア。北側にはアプローチを設けて木製ルーバーで目隠し
らせん階段の壁はピアノの搬入出に必要な幅を確保し、構造壁を入れているため歪な楕円形に。有機的なフォルムが芸術的なムードを漂わせる

「ご家族を見ていると、とてもフラットで対等な関係。一体感を得ながら自立して過ごせる設計とすることで、よりOさんらしい暮らしに近づけたいと思いました」(彦根さん)
 ご主人の仕事場であるワークルームには、子どもたちと奥さまのデスクも設けられている。4つの机を中央に固めてそれぞれにパーテーションを立て、同じ場所にいながらおのおのが勉強や作業に専念できるようにした。書棚は壁全体につくり付けて収納量を確保。書物に囲まれたようなつくりは学術に携わるご主人にとって至福であり、図書館のような穏やかなムードも味わえる。

リビングダイニングの東側の窓は、視線を遮りながら公園の緑を取り込む高さ。戸棚は下部を開放して間接照明を入れ、軽さと広がりを演出

「思い切った試みでしたが、仕事中でも子どもが宿題をしたり本を読んだりする姿を見守れるように。2階の気配も伝わり、いつも家族といる気持ちになれます」(ご主人)
「人との関わりの中で、子どもが自分の過ごし方を見つけられる家になったなと。色々な居場所があり、1人の時間も充実します」(奥さま)家族のスタイルにマッチし、心にゆとりをもたらす住まいが、4人の絆を育んでいる。

玄関には明るさと広がりを感じられるガラス扉を採用しているが、アプローチの木製ルーバーと壁によってプライバシーは守られる
敷地北側の余白を生かして3階にテラスを設置。らせん階段の壁の一部に開口部を設けて抜けをつくり、手摺りは支柱側に設置
三角屋根の勾配を現した開放的な寝室。白壁×木のぬくもりのある空間に公園の鮮やかな緑が映え、美しいコントラストを見せている
取材協力

text_ Makiko Hoshino photograph_ Akira Nakamura

開放的な土間スペースで気軽に交流。 町と人を結ぶ、現代の金澤町家

江戸時代に加賀百万石の城下町として栄えた金沢市。戦災を免れたために由緒ある街並みが残り、古くからの建築物は「金澤町家」と呼ばれ親しまれている。仕事をきっかけに東京から金沢に越して来た竹内さんは、「金沢らしいエリアに住むことで、この地と向き合っていたい」と、街の中心部に近い土地を選んだ。
 

物件データ 所在地/石川県金沢市
面積/149.18㎡
築年月/2015年10月
設計者/竹内申一
(竹内申一建築設計事務所/金沢工業大学)
www.take-arch.com

建築家のご主人は、これまでの経験から当然のようにモダンな家を建てるつもりでいたが、そこは図らずも歴史ある寺院が点在する重要伝統的建造物群保存地区にあり、景観を損なわない外観にすることが、条例で決められていた。「外側だけ繕うのは違和感があるし、かといって江戸、明治のつくりに倣っても暮らしにくいはず」と、今の時代にふさわしい町家とは何かを考え、〝伝統の再定義〞にチャレンジすることにした。

敷地はにし茶屋街や寺院群が近くにある街の一角。屋根に黒の金属板、外壁に米ヒバを使い、風情ある景観になじむようにしている
建物の短手方向を、耐力壁が必要ないラーメン構造とすることで奥行きを実現。梁は北陸の積雪荷重に耐え、空間にリズムを生むサイズと間隔で入れた

「大切にしたのは『町との親和性』です。かつての町家は道路側に店舗、奥に生活空間が設けられていましたが、わが家も外に開いた場所をつくり、地域の方と自然に関われるようにしたいと思いました」(ご主人)
大通りに面した1階はガラス張りにして天井を高く設定。公共ホールのように非日常的でオープンな雰囲気の土間スペースと音楽室を設けた。声楽家の奥さまが教室を開いたり、ご主人がお子さんのパパ友達と飲み会をしたり。土足で過ごせることもあり、気軽に人が集まっている。寝室やLDKは上下の階に振り分け落ち着けるようにしたが、スケルトン階段が通り土間の役割を果たし、家全体でつながりを感じられる。

床レベルを上げて1階と距離を取った2階のLDKは、よりプライベートな空間。大通りに面するため見晴らしが良く、息子さんと一緒に伸び伸びと過ごせる
1階の天井は4.5mもの高さをつけ、非日常的な雰囲気に。玄関側のガラスは二重にして、生活スペースへの防音と音響に配慮した

「近所の方から『あのお店みたいな家の人ね』と話し掛けられると、顔が分かる家になったなとうれしくなりますね。町の風景を享受する一方で、夜はうちの灯りが道を照らしている。家と町に接点が生まれると、互いに豊かになる気がします」(ご主人)
「ワークショップも音楽会もしてみたいと、想像しては夢を広げています。ゆくゆくは町の小さな拠点のようになるといいですね」(奥さま)文化が息づく金沢が大好き、と口をそろえるご夫妻。現代の町家によって地域と結ばれ、自分たちらしく思いを表現している。

土間スペースには小さな洗面台を設け、手を洗ったり食器をすすいだりできるように。室内側の建具にも鍵を付けセキュリティー対策をしている
冬の防寒のため、LDKの手前に建具を設置。ガラス戸にして視界の抜けをつくり、廊下が空間として無駄にならないようにした
text_ Makiko Hoshino photograph_ Akira Nakamura
取材協力

住みやすい街でマンションリノベ。 家族がつながる適度に開放された住まい

ご主人の仕事の都合で豊中市に移り住んだNさん一家。当初は空港や新幹線停車駅へのアクセスの良さからこの街を選んだというが、住み始めてみると緑豊かな公園の多さや申し分のない教育環境を実感。すっかり気に入り、2人目のお子さんを授かったタイミングでマンションを購入することにした。
 学生時代に建築を学んでいたご主人は、個性的な中古物件をリノベーションしたいと考えていた。出会ったのは、著名な建築家が設計した築 26 年の集合住宅。外観や共有スペースに趣があり、間取りも一風変わったつくりで、「これは面白い家になる!」と、イメージが広がったという。
 

物件データ 所在地/大阪府豊中市
面積/97.46㎡
リノベーション年月/2017年3月
設計/アートアンドクラフト
www.a-crafts.co.jp

Nさんご夫妻が求めたのは、ほどよくプライバシーを保ちながら、どこにいても家族のつながりを感じられるワンルーム風の住まいだ。
 「子どもを部屋にこもらせることなく、いつまでも楽しく過ごせる家族でありたいと思いました」と奥さま。壁や扉は極力なくし、玄関から廊下、LDK、ライブラリーと、家全体を回遊できるように。ダイニングとライブラリー、子ども部屋は直線で結び、子ども部屋には大きな開口部を設けた。各部屋の間には袖壁やパーテーションを設け、床の高さや材質を変えて、ゆるやかにゾーニングした。

リビングはオープンだが、パーテーションがあることで落ち着いた雰囲気に。時折、こちら側をダイニングにして気分を変えることも
家族4人が使いやすいように玄関を広めにとり、大容量のオープン棚を造作。木製ドアは特注品。大きなガラス窓から明るさと開放感を得ている

「家族それぞれが自由に過ごす時間も必要だと思いますが、まだ幼い子どもたちが何をしているのかは気になるもの。ダイニングから遊ぶ様子が見えるので、目をかけながら、ゆっくりお茶を 飲めて助かっています」
(奥さま)ご主人がライブラリーの机に向かいながら、リビングにいる奥さまと会話をすることも。

生活動線上で使えるように廊下の脇に洗面台を配置。廊下はフレキシブルボードで仕上げモルタル風に。黒枠のパーテーションがアクセント
子ども部屋の面積を確保するため、寝室は最小限に。出入口の手前に余白をとり、こもり感を出した。ミントグリーンの壁色は長女のセレクト

「互いを近くに感じますが、それが妨げにならず、別のことに集中できるのがいいですね」(ご主人)
 お子さんたちは床の段差に座って本を読んだり、窓辺におもちゃを並べたり、毎日遊びに夢中。その姿を見るとうれしくなると、ご夫妻は話す。のびやかな空間で今日も家族の笑い声が響いている。

ダイニングと子ども部屋の間にライブラリーがあり、適度な距離を保って見守れる。子ども部屋にはユニークな大小の開口部を設けた
造付けカウンターのあるライブラリーは調べものなどに使用。「LDKからの視線を遮る袖壁があるので集中できます」と奥さま
text_ Makiko Hoshino photograph_ Akira Nakamura
取材協力

北国の生活を一年中豊かにする インナーテラスのある家

南西部に山岳が広がり、豊かな自然と都心の華やかさの両方を兼ね備える札幌市。山を望む住宅街で緑を身近に感じながら暮らしてきた源さんは、親しみある地元に家を新築することにした。購入したのは高低差が約4mある三角形の土地。地盤調査を行うと、一部は平坦であると分かった。
整地したり、高低差に合わせた建物にしたりすると、費用がかかる上に使いにくいため、限られた平らな場所にシンプルな形で建てることにした。
 

物件データ 所在地/北海道札幌市
面積/106.22㎡
築年月/2015年8月
設計者/髙木貴間(髙木貴間建築設計事務所)
yoshichikatakagi.com/

以前のマンションは、フラワーデザインの仕事をするのに手狭なのが悩みだったという奥さま。そこで建築家の髙木よしちか 貴間さんが提案したのが、玄関やアトリエ、ダイニングキッチンのある1階の中央に、大きな吹抜けのインナーテラスをつくるプランだ。ここだけは断熱材を使わず、屋根や壁などで強い雨風を避けながらトップライトや半透明の複合シートで採光性を確保した。

1階のインナーテラスと2階は基礎から張り出したつくりに。道産の建材を 積極的に使っており、外壁は道南スギを無塗装で張った
三角屋根の形状を現したインナーテラスの天井。最頂部には天窓があり、 家の中にこもった暑い空気が抜けていく

自然の光を感じながら伸びやかに過ごせるインナーテラスは、生花の状態を保ちやすく、資材の搬入出もスムーズ。作業場になるほか、暖かい季節はバーベキューを楽しむなど、人と集うのが好きな一家の格好の交流の場になっている。真冬は風除室やサンルームとなり、居住スペースの防寒性を高めてくれるのも利点だ。

廊下とリビングの傾斜した壁は耐力壁で、空間にゆとりをもたらす効果も。 窓を設けたことで、インナーテラスとのつながりと採光性が生まれている

「北海道では、高気密・高断熱住宅で室温を一定に保つのが一般的ですが、あえてコントロールされない、季節で使い方が変わるスペースを中心に置くことで、生活に彩りを添えられたらと考えました」(髙木さん)
 室内は広さや開放感を得られる工夫が随所に施されている。2階を格子床の廊下にするほか、リビングの壁に隙間をつくり、1階の気配が分かるように。敷地に平坦な部分が少なく、基礎を小さくせざるを得なかったため、木造部分で十分な強度をつけ、一部の部屋を基礎から迫り出してつくることで、床面積を増やしている。

ドアには断熱性の高い樹脂フレームのLow-E複層ガラスを採用。窓の半透 明の複合シートはテントに使われるもので、取り外すこともで
インナーテラスの北側は雰囲気を変え、一段高くしたウッドデッキに。夏場 は涼しく、寝そべったり、お茶を飲んだりしてくつろいでいる

「仕事ははかどるし、ドアを開ければインナーテラスとダイニングがひと続きになり、夏は特に気持ちが良いです」(奥さま)
 既成のスタイルから外れた新しい北国の住まいは、日常に今までにない新鮮さをもたらしている。

家族3人それぞれの寝室があり、息子さんの部屋は山を望む南西側。はしご で上り下りするロフト状のベッドを設け、限られた空間を有効活用
ゲストを招くことが多いため対面式キッチンとし、収納は障子で目隠し。上部 のリビングの壁には隙間があり、キッチンに立ちながら家族と会話ができる
text_ Makiko Hoshino photograph_ Akira Nakamura
取材協力

ローカルな暮らしを求めて高松に移住。家族の傍らで自宅兼ゲストハウスを営む

高松の観光スポットにアクセスしやすい住宅街で、若宮さんご家族はゲストハウスを営んでいる。住宅と宿泊施設を廊下で結んだ職住一体の家は、開業と同時に新築したものだ。
 「仕事は早朝から深夜に及びますが、行き来がラクなので、拘束されているとは感じません」(ご主人)
 2棟は廊下を介しているため、騒音が伝わる心配はない。扉には鍵が備わり、家族のプライバシーも守られている。
 

物件データ 所在地/香川県高松市
面積/194.59㎡
築年月/2014年7月
設計者/佐伯博英(佐伯工務店)
saiki-komuten.jp

中学時代に外国の人々と文通したご主人は、高校時代に国際支援団体に関わり、国際協力の仕事を目指すようになる。しかし、青年海外協力隊で派遣された西アフリカのセネガルで、考えが一転する。
「単身または妻子と異国に赴任する生活が続けば、日本の親兄弟や友人と会うことは難しい。片やセネガル人は、土地に根差し、仕事場は自宅のそば。父親が子どもの服を買いに行くのは当たり前で、親子の距離が近いんです。豊かさを肌で感じて、価値観が変わりました」(ご主人)

手前に駐輪場があり、通りから目隠しされる形になった玄関。飛び石や格子戸、瓦の庇など、来訪者の胸が高鳴る外観デザインに
ゲストの心が安らぐように、建物のあちこちに和の素材を取り入れた。階段の手すりには、竹を使っている

同じような生き方がしたいと思いついたのが、故郷高松でゲストハウスを開くことだった。セネガルで同僚だった奥さまも共感し、結婚とともに高松に移住。バックパッカー旅を愛好してきたご夫妻の経験を生かせる最善の選択だった。

ゲストハウスのフリースペース。受付を兼ねており、息子さんが手伝うことも。天井は全てスギを使った

「お客さんに親しまれ、家族がホッとできる空間を目指しました」と話すのは、設計者の佐伯博英さん。
 天井の梁を現しにして開放感を持たせ、徳島のヒノキの床や宮崎のシラスが材料の壁など、心安らぐ国産の自然素材を豊富に取り入れた。リビングには畳を採用。家族で集ってはくつろいでいるという。和の意匠を散りばめたゲストハウスは、風情があると宿泊客に好評だ。

和紙を貼った壁が柔らかなムードを添える玄関。住宅とゲストハウスの間 には中庭があり、視線が合わない位置に窓が設けられている
子ども部屋は、将来、間仕切りすれば個室化できる。今は秘密基地として、想像力いっぱいに遊んでいる

「掃除の合間に予約を受けたり、お客さんの観光の相談にのったり。暮ら しの傍らで仕事をしています」と、笑顔で話すご主人。助産師の奥さまとは、家事を平等にこなしている。
 「各国を渡り歩くのもいいけれど、地元に根を下ろして暮らす方が楽しい。親の働く姿から、息子も学んでいるようです」(奥さま)
 何より理想とする生活を体現しながら、家族の物語を紡いでいる。

ダイニングも兼ねた畳リビングの壁の材料には消臭、調湿効果のあるシラスを使用。外には濡れ縁や庭を設け、自然を満喫している
text_ Makiko Hoshino photograph_ Akira Nakamura
取材協力

回遊性のある動線と広い外部空間。 室内外で好奇心のまま遊びを満喫

「地域子育て支援拠点」を10カ所以上有するほか、「子育てふれあい公園リニューアル事業」「子育て情報メール」など、さまざまな育児支援に力を入れている春日部市。5歳と7歳の女の子がいるKさんご夫妻は、長女出産のタイミングでご主人の地元であるこの町に越してきた。周囲には公園が多く、市が主催するベビーマッサージや離乳食の教室に参加するなど、住みやすさを実感してきたという。
 

物件データ 所在地/埼玉県春日部市
面積/1階97.72m²+ロフト19.87m²
築年月/2013年9月
設計/川端貴雄(かくれんぼ建築設計室)
www.kakurenbo-arch.com

家を新築するにあたり、子どもにとってベストなプランを考えることは自然な流れだった。成長に伴い、刻々と家族の暮らしは変わるもの―と出した答えは、未完成のまま、その時々で変化させられる家だ。

子ども部屋の丸柱は抱きついたりよじ登ったりと、遊び心をかき立てるアイテム。庭に設けた鉄棒は布団干しにも活用している"
廊下の壁にチョークボードを設置。小さなうちはお絵描き用だが、将来は伝言を残すなど、コミュニケーションに役立てる予定

「娘たちの意見を聞きながら、都度つくり変えていくことで、住みたい家を想像できる子になってほしいという思いもありました」(ご主人)
 年を重ねてからの安心感と農業を営んでいた実家の母屋への親しみから、「切妻大屋根の平屋」も条件にした。こうして建てられたK邸は、変化への包容力や、遊びや学びを誘発する設計があちこちで見られる。

机に向かう遊びが増えてきたため、学習スペースが大活躍。専用エリアを設けたことで、率先して片付けをするようになった

子ども部屋は日当たりのいい南東側。柱と梁を現し、将来は壁を設けて間仕切りができるようにしている。縁側から出入りできるため、おのずと庭や友達との距離が縮まるのもうれしい。LDKは最大限に広く、多目的に使えるよう計画。大きなウッドデッキと庭が連続し、のびのびと外遊びも楽しめる。LDKの一角につくっていたデスクコーナーは、約2年前にパーティションを設けて半個室化して子どもの学習スペースに変えた。

ロフトで遊ぶ子どもたちと家事をしながら交流できる。天井や壁の一 部は自分たちでペイントした

「プライベートの領域を守るため、玄関や個室からリビングを通らずに脱衣室、キッチンに抜けられる動線をつくりました」
 そう話すのは、設計を担当した建築家の川端貴雄さん。家全体に回遊性が生まれ、子どもたちが駆け回れるように。また、キッチンや子ども部屋の上に設けたロフトに上り下りするなど、外遊びができない日でも家の中で元気に遊べるようにした。
 「宿題などを済ませた後は、縄跳びに鉄棒、工作など、ずっと姉妹一緒(笑)。目の届く範囲で遊ばせておけるので、安心です」(奥さま)

キッチン上部のロフトは畳敷き。小窓もあり居心地が良い。頑丈な手すり壁をつくり、安全性にも配慮している
全面に木を使った山小屋のようなこもり感のある寝室。スペースを有効活用するため、ベッド下を収納にし、すのこで通気性を持たせた
text_ Makiko Hoshino photograph_ Akira Nakamura
取材協力

緑の借景と傾斜地の特性を生かした自然を身近に感じる六角形の住まい

区域のほとんどが高尾山麓から三浦半島に向かって広がる「多摩丘陵」からなる町田市は、町田駅周辺など一部に平地がある以外は大半が丘陵地。おのずと住宅もその起伏への対策をとった建て方が必要になる。建築家の奥さまとドッグトレーナーのご主人の家は、まさにその好例。勾配をメリットに変え、自分たちらしい住まいを実現している。

物件データ 所在地/東京都町田市
面積/135.08m²
築年月/2015年6月
設計/平真知子(平真知子一級建築士事務所)
www.tairaken.com

自宅でドッグトレーニング教室を開きたいというご主人の思いから、新築を決意した二人。「新宿などの都心に行きやすく、丹沢をはじめとした山地も近い。以前から住んでいた町ですが、山登りをする私たちにとって、改めて見ても最良のエリアでした」(ご主人) インコやゴールデンレトリバーと、自然に親しみながら暮らしたいと思ったご夫妻は、「緑に隣接して見晴らしが良いこと」を条件に町田市内で土地探しをスタート。そして公園の雑木林に面した傾斜地を見つけた。

傾斜がある芝生の庭は、愛犬ピークが足腰を鍛えるのに格好の運動場。土からの強い圧力を受け流すため、基礎内部に斜めの空洞をつくっている
2階は生活動線に合わせて部屋が配され、回遊できるつくり。「部屋がオープンだと孤立しないので、ラクな気持ちで家事ができます」(奥さま)

「擁壁が新しい土地は価格が高めで、古いと逆に改修工事費がかかってしまいます。であればその分の費用で好きにつくってみたいと思い、公園との連続性を出すために、斜面にそのまま建てることにしたんです。基礎部分は地下室とし、外からも出入り可能なドッグトレーニングルームに活用しています」(奥さま)

階段脇の壁に本棚を造作。移動するついでに手にとるなど、便利に使っている。近くに書斎があるので資料本の整理にも役立つ
「朝一番に景色を楽しみながら歯磨きができて幸せ」と奥さま。洗面台の木 製カウンターは、洗濯物を畳むときなどにも役立っている

近隣の視線を遮るように考えられた建物のフォルムは、六角形。その形に合わせたという間取りも、実にユニークだ。1階の真ん中は、吹抜けのダイニング。それを取り囲むようにキッチンや寝室をはじめ、計 12 個のスペースを配している。 「2人とも家で仕事をするので、いろいろな居場所をつくりつつ、それでいてお互いの気配が伝わるようにしたかったんです」(奥さま)

愛犬ピークが年老いても過ごしやすいよう、床はフラットに。無垢材は肉球 に負担の少ない、柔らかなカラマツ材を使っている

使う素材を変えるなどして一つ一つの部屋に表情を与えながら、家全体をワンルームのようなオープンな空間に。公園と庭側方向に計3つの大きな窓をつくり、森に包まれるような気分を味わえるようにした。 「朝も昼も晩も、外に行かず家で食事をするんです。少し疲れたらリビングなどでくつろいで、1日中家の中で過ごしています」(奥さま)

4階くらいの高さにある迫力ある枝葉を間近で見られるのは、傾斜地に建て たからこそ。寝室の天井は傘を広げたような六角錐に
text_ Makiko Hoshino photograph_ Hideki Okura
取材協力

お互いの領域を大切にして、大らかに関わる。三世代の家族が良好につながる住まい

めがねや繊維といった地場産業が盛んな福井県は、雇用環境が安定しており、結婚後も仕事を続ける女性が多い。共働き率は全国1位。安心して仕事と子育てが両立できるよう、若いうちに親と同居する夫婦が見られ、二世帯同居率は全国で2位だ(※平成 27年国勢調査)。福井市内の住宅街に家を建てた中川さんも、まさにそのケースだという。

物件データ 物件データ所在地/福井県福井市
面積/211.59m²
築年月/2015年3月
設計/原田学(㈱ハウズ)haws.jp

「子どもを産むタイミングで同居を始める知人が多かったので、自然な流れでした」(奥さま) 長男の誕生後、すぐにご主人の実家で暮らすことに。しかし、築30年の和風住宅 には使い勝手に限りがあり、建替えを決意した。 二世帯住宅は、各世帯の領域をどのくらい持ち、どのくらい交流を望むかで形態が変わる。中川さんが理想としたのは、「暮らしの気配が伝わる、ほどよく独立した家」だった。

冬に雪が積もらないよう切妻屋根に。雪が落ちても問題ない方向に架けられている。2カ所に駐車場があり、車は大人が1台ずつ所有
ご両親が休みの日小学校から帰った長男は、玄関から1階のLDKに直行するという。玄関の右手前に納戸、奥にはサンルームを設けた

親世帯は1階、子世帯は2階とし、1日の中で使 用 頻 度の高いLDKやトイレ、洗面は別にしたが、玄関とメインの浴室は共有とした。親世帯の1 階LDKは、全員でもだんらんできるよう広めに設計。出入口のドアにガラスを使い、2階に上がる姿やLDKの様子が見えるようにした。 所々に動線の重なりや、オープンな部分をつくることで、おのずと家族の関わりが生まれている。

吹抜けにして開放感を出した2階LDK。雨が多いことで知られる福井県だが、瓦屋根にしたことで雨音が気にならなくなったという

また、気候がもたらす影響にも十分配慮している。日本海に面する福井県は湿度が高く、冬の積雪量が多い。吸放湿性のある木造にしたほか、高性能の断熱材や床暖房、窓にLow‐E複層ガラスを採用して結露を防止。スタッドレスタイヤや除雪用のスコップなどを置ける収 納スペース、室内干し用のサンルームを各階に確保した。地元の素材も積極的に取り入れ、屋根は越前瓦、襖は越前和紙、柱は県産の杉を使っている。

2階に設けた洗面コーナー。「水回りが不足するとストレスになるので」と奥さま
「仕事から帰ったら、すぐに入ってさっぱりしたい」との希望で、専用浴室を備えたご両親の寝室

 ご両親は飲食業を営み、ご夫妻は平日フルタイムで勤務。それぞれが違 う生活パターンだが、週に一度は一緒に夕食をとるという。 「互いに気持ちがぶつかることなく、いつも穏やかでいられます。建替え前のストレスがなくなり、快適です」(ご主人)

和室は、縁なしの琉球畳を使うなど、モダンなインテリアに馴染むデザインにしている。越前和紙を使った襖は天井までの高さに
text_Yasuko Murata photograph_Kai Nakamura
取材協力

土地の気候と向き合い、家族一人一人のライフスタイルを尊重する住まい

高崎の市街地を望み、自然に囲まれた高台に建つMさんの住まい。ご夫妻は共に他県出身ながら、仕事で慣れ親しみ、関東のみならず東北や北陸、東海地方にも行きやすい利便性の良さが気に入り、この地に腰を据えることにした。 「せっかくなら普通とは違う面白みのある家にしたいと思いました」とご主人。建築家と建てた家はなんとX型、これには単にユニークというだけではなく風土に溶け込む理由が隠されている。

物件データ 所在地/群馬県高崎市
面積/141.77m²
築年月/2016年7月
設計/HIRO建築工房
www.hiro-arch.com>

冬に越後山脈を越えて赤城山から吹き降ろす北風は、「上州のからっ風」といわれる群馬の名物で、ときに住民を困らせる。 「群馬に来た頃は、あまりの強風に台風かと思うほど驚きました。洗濯物はたちまち飛んで行ってしまうので、絶対に外には干せません」(奥さま)

玄関は高窓のほか、足元に庭に面したFIX窓も設けて採光性をアップ。扉は風で勢いよく閉まらない引き戸に
2階廊下はギャラリーのような雰囲気。窓からの眺望も美しく、「ここで食事をするのもいいなと計画中です」(ご主人)
一面をガラス張りにしたLDK。スチール階段は蓄熱・放熱の暖房効果がある

この地域では、古くから屋敷林を設けるなどして強い寒風から建物を守る対策が取られてきたが、Mさんの家では建物の造りで回避している。 「冬に吹く強い北風を真っ向から受けないように外壁の配置を工夫しました。また、気密性の高い窓を採用して、暖かな室内環境を保てるようにも。逆に夏は、湖を通って冷気を帯びた南風が吹くため、南側に庭や大きな窓を配置して、気持ちの良い風を取り込めるようにしています」(建築家・伊藤昭博さん)

和室は客間として使用。窓の外はベンチと深い軒が設けられた縁側のようなスペース
内庭に面した明るく広々とした洗面室。洗面台は2人並んでも余裕で使えるワイドサイズに

間取りは、家族がそれぞれの時間を過ごすのにもぴったり。平日、フルタイムで働くご夫妻と高校生のお嬢さまにとって、一人で気兼ねなく過ごせる空間を持つことは必須だった。 そのため、中央部をLDKとし、先端部を洗面室や浴室、個室などのプライベートスペースに。物音を気にせずに個々の時間を満喫しながら、生活動線を交差させることで、自然と家族の交流が生まれるようにしている。近隣の視線を避け、美しい景観を取り込むように壁や窓の配置が考えられているのもポイントだ。 「家中、どこから眺めても景色が良くて、家族それぞれが自分のスタイルで過ごせる。リラックスできるわが家に大満足しています」(ご主人)

「好きな本に囲まれたい」と、天井まで棚を設けたご主人の部屋。南の窓からは、庭の緑とLDKが見える
text_ Makiko Hoshino photograph_ Akira Nakamura
取材協力

経済的で一年中快適な暮らしを実現 一次エネルギーの消費を抑えた低炭素の家

茨城県つくば市は、2013年に「つくば環境スタイル『SMILe』みんなの知恵とテクノロジーで笑顔になる街」を策定。つくばエクスプレス沿線開発などに伴い、住宅がたくさん建設され、自動車が増えることを踏まえて、住宅の低炭素化・低炭素車への転換を促進し、環境に良い都市づくりに力を入れている。

物件データ 物件データ所在地/茨城県つくば市
面積/118m²
築年月/2016年5月
設計/海老原隆士(海老原建築一級建築士事務所)
www.ebihara-architecture.com

茨城県を拠点に活動している建築家の海老原隆士さんも、つくば市内に低炭素住宅を建てた一人だ。 「南にも東にも家が建ったので、西からの日差しを取って明るくするしかありませんでした。朝は日が入らないので、断熱性の高い家にして暖かさを保とうと。それなら、金利や税制の優遇措置のある低炭素住宅にしようと考えました」(海老原さん)

南と東側に隣家が迫っているため、西側に庭をつくり日差しを取得。外壁のサイディングは防汚コーティングが施されている
夏の西日対策として窓の外にシェードを付けて強い日差しをシャットアウト。「窓の外で日を遮断したほうが有効」と海老原さん

低炭素住宅とは、石油、石炭、天然ガスなどの一次エネルギーの消費を抑える設計や設備を導入した家で、所管行政庁で認定されなくてはならない。省エネ法の省エネ基準に比べ、一次エネルギーの消費量が10%低くなくてはならず、壁・床・天井・窓の断熱性能がキーポイントとなる。

玄関は3枚引き戸で広々と開口。正面壁の窓下に、靴の脱ぎ履きに便利な折り畳み式補助椅子を設置
低炭素住宅の条件を満たすため、高い断熱性能、木造住宅に加えて節水トイレをセレクトした

海老原さんの家では、断熱材は高性能グラスウールを天井に155㎜、床に80㎜、壁に105㎜充填。窓ガラスはアルミ・樹脂複合サッシのアルゴンガス入りLow-E複層ガラスを採用。 また、低炭素住宅の認定を受けるためには、8つある省エネ対策項目から2つ以上の項目を満たす必要があるが、木造にすること、節水トイレを採用することでクリアした。

冬は床暖房だけで暖かく、子どもは裸足で走りまわっている。壁仕上げはメンテナンスが楽なビニールクロスを選んだ
断熱性、保温性に優れたハニカムスクリーンを階段入口に取り付け、1階の暖かい空気が逃げないように工夫

「生活面では夏涼しく、冬暖かいのが最大の魅力。だからエアコンをほとんど使いません。電気代、ガス代などの光熱費が安く抑えられるのもうれしいですね」(海老原さん) 住宅ローンは、10年間の最大控除額が一般住宅より100万円多い500万円に。さらに登録免許税も軽減されるといったメリットもある。 「低炭素住宅は、建築費はかかりますが、住み始めてからのランニングコストは抑えられます。長期的に見ると質の高い暮らしが送れ、身体的にも、精神的にも健康に暮らせます」(海老原さん)

キッチンを囲むように広いカウンターを設け、ダイニングテーブルを省略。そのぶん広いリビングを実現
text_ Sayaka Noritake(colonna) photograph_ Akira Nakamura
取材協力

自然の心地良い風を感じて暮らすエアコンに頼らない、程よく涼しい平屋

以前は熊谷市内の中古一戸建てに住んでいた田島さんご夫妻。いずれは家を建てたいと建築雑誌で研究していたある日、1軒の住宅に釘付けになった。
 「敷き瓦の土間や梁を見せたダイナミックな空間がとても新鮮で、自分たちもこんな家に住みたいと思いました」とご夫妻。その住宅を手掛けた設計事務所「きらくなたてものや」と施工を担当した岡部材木店に家づくりを依頼した。

物件データ 所在地/埼玉県熊谷市
面積/127.25m²
リノベーション竣工年月/2014年6月
設計/日高保(きらくなたてものや)
www.kirakunat.com
設計/岡部材木店
zaimokuten.com

新しい住まいへの要望は、前述以外にも、「エアコンをなるべく使わない生活をしたかったので、風通しの良い涼しい家にしたいと伝えました。L字型の平屋造りや、木をふんだんに使うことも希望していました」(奥さま)
 設計を担当した日高保さんは、設備機器に頼らず快適に暮らせる家にするために、あえて壁に断熱材を施さない工法を選択。内外真壁構造にして、壁材に荒壁土を使うことを提案した。

周囲を田んぼに囲まれた平屋住宅。植栽豊かな石畳のアプローチが家族や訪れる人を出迎える
リビングの板間は子どもたちのプレイスペースになっている。庭に面した開口には障子戸も設けられ、太陽の日差しを優しい光に変える

「土壁は熱を蓄える力があるので、夏や冬の急激な温度変化を抑えてくれるのです。また、調湿作用にも優れ、湿度を一定に保つ効果もあります」(日高さん)
 開口部には外の景色と風をたっぷり取り込む幅広の引違い窓を採用し、防犯しながら夜間の通風・換気ができる格子戸も設置。他にも、日 差しをコントロールする軒の出、夏はひんやり心地良く、冬は太陽の日差しを蓄熱する敷き瓦の土間など、自然の恵みを有効利用する工夫を随所に盛り込んでいる。

涼感をもたらす敷き瓦の土間。冬には陽当りの良い土間が蓄熱体となり、長時間室内を暖め続ける
玄関から板間のリビングの向こうに庭が見える。障子戸を開け放つと家中に風が通る

土間に張った敷き瓦は、屋根と同じ瓦を焼いたものです。焼きむらで1枚1枚表情が違う瓦が並んでいる様子が美しく、とても気に入っています」(奥さま)
 「3年前の夏にこの家に引っ越してきて、今 までの家の暑さは何だったんだ!と思うほど涼しくて感激したことを覚えています。今もほとんどエアコンをつけずに、自然の風の程よい涼しさで気持ち良く暮らしています」(ご主人)

LDKの出隅に柱を入れず、引違い窓で開放できるように設計。室内に居ながら景色との一体感を楽しめる
キッチンカウンターはクリの木のオイル仕上げ。シンクには銅板を使った。レンジフードは鉄で製作
text_ Sayaka Noritake(colonna) photograph_ Akira Nakamura
取材協力

実家の敷地に建てた、総面積200㎡強の家 ダイナミックな空間で、のびのびと暮らす

富山県は日本全国で持ち家率1位、1軒当たりの延べ床面積も、もっとも広いといわれる。富山県砺波市でチューリップ農園を営む伊藤さんは、奥さまと2人のお子さんとの4人家族。昨秋、実家の田んぼを宅地に転用して新居を建てた。それまでは市内のアパートに住んでいたが、長女が小学校に上がるまでには家を建てたいと、3年前から家づくりに動いたという。

物件データ 所在地/富山県砺波市
面積/200.12m²
築年月/2016年10月
設計//中斉拓也(中斉拓也建築設計)
www.nkstky.jp

「この辺の人は、結婚して1~2年、32~35歳で一軒家を建てる人が多いです。うちは決して早い方ではありません」と伊藤さん。
はじめは大手ハウスメーカーの住宅展示場や地元の工務店の内覧会などを精力的に訪れた。しかし、ピンとくるものがない。「家づくりって、そんなにワクワクするものではないのか…」と意気消沈して友人に話すと、建築家との家づくりを勧められる。それが富山市に拠点を置く中斉拓也建築設計の中斉拓也さんだった。

外壁と屋根にはホワイトグレーのガルバリウム鋼板を採用し、 シンプルに仕上げた
玄関土間からのびる通路の奥にLDKがある。幅広のフローリングは落ち着いた色のウォールナット
広々としたポーチと引き戸の玄関ドア。ガルバリウム鋼板とスギがマッチしてモダンな雰囲気に
玄関土間から続く中庭とデッキ。中庭には今後シンボルツリーを植え、バーベキューを楽しむ予定

中斉さんが導いたプランは、間口31mの敷地に見合う、どっしりとした平屋に近い家。また、ガレージ→玄関土間→ 廊下→LDKまで、約30m同じ天井の梁を続け、空間のつながりを強調した。
「梁が細かいのは、雪の荷重を分散して家に負担をかけないためですが、この構造がデザインにもなっています」(中斉さん)

ダイニングの窓から実家が見える。ナラの古材に黒皮鉄の脚を組み合わせた造作テーブルはご主人の自信作
ダイニングチェアはデンマークを代表するデザイナー、ハンス・J・ウェグナーが手掛けた「CH88」をセレクト
洗濯物を乾かす場も兼ねた広いユーティリティ。洗面台は造作。床は白×黒の塩ビタイルで市松模様に

庭を挟んでご両親が暮らす家があるが、家の中に入ってしまえば、お互いに気配を感じることなく過ごせるという。
「延べ床面積は60坪強ありますが、近隣の家と比べるとそんなに大きく感じません。でも、居心地のいい家になったと思います」と伊藤さん。家づくりは楽しく、いつか、もう1軒建ててみたいと思っているそうだ。

2階の子ども部屋。今はワンルームで使っているが、将来2部屋に分けられるようドアは2つ設けてある
キッチンのステンレス天板、大きなシンクは奥さまの希望。ダイニングの照明は北欧のルイスポールセン
text_ Sayaka Noritake photograph_ Akira Nakamura
取材協力

家事や仕事をしながら子どもたちの成長を温かく見守る育児に優しい家づくり

長年、賃貸アパートに住んでいたNさん一家。約2年前にそろそろ家を建てようとご夫婦で話し合い、神奈川県厚木市内に土地を探し始めた。
厚木市はご主人の通勤に便利なことと、子どもの医療費が中学生までは無料だったり、2人目からは幼稚園の補助金がもらえるなど、子育て支援がとても充実していて、暮らしやすいから選んだそう。

物件データ 所在地/神奈川県厚木市
面積/134.26m²
築年月/2016年2月
設計/前田工務店+N
maedakoumuten.jp
協力/すまいポート21

新興住宅地より昔ながらの街並みが好きだったご夫妻は、不動産会社が紹介してくれた毛利台の土地をひと目で気に入り購入する。設計の依頼先選びは、家を建てるためのあらゆるサポートをしてくれる「すまいポート21」を利用した。  「こんな家を、このくらいの予算で建てたいと希望を伝えると、「すまいポート21」と契約している工務店や設計事務所でコンペをしてくれるんです。私たちは5社でコンペをして、『自分たちに合った家を建ててくれそう』と選んだのが前田工務店でした」 とご夫妻は声をそろえる。

生活の場である母屋と離れから成り立つ一戸建て。外壁には太陽光で汚れを分解するスイス漆喰を採用
離れの1階はご主人のガレージ。バイク、登山グッズ、雑誌など、好きなものに囲まれた隠れ家のような空間

Nさんの住まいへの要望は大きく3つ。「細々とした部屋はつくりたくない」、「絵本作家、イラストレーター、デザイナーである奥さまのアトリエとご主人のバイクガレージが欲しい」、そして「アトリエやキッチンから、子どもたちの様子を見守りたい」ということ。  設計を担当した前田工務店の前田哲郎さんは、生活空間である母屋と、アトリエとガレージがある離れをつくり、この2棟を大きなデッキでつないだ。アトリエはデッキに面しており、窓からはデッキを介してリビングやダイニング、子ども部屋が確認できる。

子ども部屋はロフト付き。現在は壁を設けず2人で広々と使用。みんなでごろ寝ができる畳間にした
1階にある子ども部屋の前の廊下は、コンクリートブロックを並べ、路地のような雰囲気に

また、1階と2階の間に隙間をつくることで、奥さまが2階のキッチンで作業しながら、1階で遊ぶ子どもたちの姿が分かるように計画した。
 「どこにいても常に子どもたちの様子を把握できるので安心です。アトリエで仕事をしていても、窓を開けておけば声も聞こえてきます。伸び伸び遊んでいる気配が感じられて、居心地がいいですね」(奥さま)
手すりや窓台など、大人が考えもしなかったところに遊び場を見つけて、すくすくと育っている子どもたち。そこに向けられたまなざしは、とてもおだやかで優しい。

離れの2階にある奥さまのアトリエ。窓を開ければ、リビングや子ども部屋で遊ぶ声も聞こえる
2階フロア全体を家族が集まる場所に。リビング、ダイニング、キッチン、デッキが縦横につながる
text_ Sayaka Noritake photograph_ Akira Nakamura
取材協力

外側にブラインドをかけているような一年中快適なダブルスキンの家

スギ張りの建物の外側を、さらにレッドシダーのルーバーで囲んだ個性的な住まいは、青森県むつ市の閑静な住宅地でひときわ目を引く。
 「ルーバーが自然光と風を室内にうまく取り入れてくれるんです」そう話すのは、設計を手掛けた松浦一級建築設計事務所の松浦良博さん。140㎜間隔のルーバーが、夏は高い位置からの強い日差しを緩和し、冬は横から差し込む日差しを通して、夏涼しく、冬暖かく室内環境を調整しているという。さらに松浦さんは続ける。

物件データ 所在地/青森県むつ市
面積/101.12m²
築年月/2015年5月
設計/松浦一級建築設計事務所
www.matsuura-home.co.jp

「むつ市の夏の太陽高度は約72度。冬は約22度です。この太陽高度から計算して、一番効果的なルーバー間隔を求めました。これ以上広いと夏の直射日光が入りすぎるし、狭すぎると冬の日光が入りにくい。夏は直射日光を遮りたい、反対に冬は光を入れたいという矛盾を解決しています」  この家で暮らすのはTさんご夫妻と娘さん2人の4人家族。さぞ熱心にこだわって家づくりに臨んだと思いきや、家を建てる予定はなく、「まだまだ先のこと」と思っていたそう。

軒がルーバーを雨から守る。ルーバー角度を3度傾斜させ、雨水が自然に流れ落ちるようにしている
シンボルツリーが真ん中に佇む中庭。夏はリビングに木陰をもたらしてくれる
吹抜のリビング。床は青森産のスギ材。大きな開口部を配し、ルーバー越しの柔らかな光が室内に降り注ぐ

「たまたまふらっと展示場に寄っただけなのですが、松浦さんの説明を聞いて、合理的で素晴らしい家だと感激してしまって。当時建設中だった建売りを購入することにしたんです」 (ご主人)
 いわゆる衝動買いをしたTさんご夫妻だが、結果は大正解。室内にも木がふんだんに使われ、中庭から心地よい風が流れ込み、森の中に住んでいるような気持ち良さを毎日味わっている。昨年の10月から住み始め、冬は想像以上に暖かく過ごせた。

奥さまの希望でもあった対面式のシステムキッチン。カウンターを付けて調理スペースを広く確保
2階の子ども部屋は、現在はワンルーム。吹抜で1階とつながり、2階で遊んでいる子どもの声が届く

この夏も、どのくらい涼しく暮らせるか楽しみだという。
「ルーバーは直射日光を遮るだけでなく、外からの視線をカットしてくれます。プライバシーを確保できるため、窓を開けっ放しにできることも大きな効果です。風が家の中を通り抜け、木の香りを運んでくれるので、相当涼しく感じると思います」(松浦さん)
自然とのつながりやエコな暮らしがますます注目を集めている。ルーバーで周辺環境を優しく招き入れるTさん宅のアイデアは、郊外に限らず、都市部でも活用できそうだ。

LDKより1m40㎝高く設けた寝室や水まわりへは、スロープ状の廊下を通って行く造りに
text_ Sayaka Noritake photograph_ Akira Nakamura
取材協力

輸送用コンテナで家をつくる。外とつながる快適居住空間

南方向に吉野川の土手や田園を望む敷地を購入し、マイホームを建てようと決心した藤原さんご夫妻。新居の設計は、3年間探した末、徳島市で行われた建築家展で出会ったCONTAINER DESIGNの岸本貴信さんに依頼することにした。 一生に一度建てる家として、満足できるものにしたいと祈念していたご夫妻は、A4用紙4枚にびっしり箇条書きした要望書を岸本さんに提出したという。その筆頭は「40フィートの輸送用コンテナを2基使って住まいを構築したい」という遊び心溢れる内容だった。

物件データ 所在地/徳島県板野郡
面積/107.46m²
築年月/2015年3月
設計/岸本貴信
(CONTAINER DESIGN)
www.cd-aa.com
施工/アークホーム

「コンテナを、私の趣味であるバイクいじりや音楽を楽しむ場所、妻が書道を嗜む場所にしたらどうかと思ったんです。見栄えも一風変わって、面白いのではないかと考えていました」(ご主人)  ご夫妻のユニークな発想を受けた岸本さんは、「輸送用コンテナと家族が生活を営む居住スペースをどうつなげていくかが設計の課題でした」と、建物の形状や間取りを検討。導いた答えは、輸送用コンテナに加えて20フィートのコンテナに見立てた木造の箱を3基つくり、合計5基のコンテナを横に並べて住まいを計画するというものだった。

両端に40フィートの輸送用コンテナを配し、間に20フィートのコンテナに見立てた箱を3基並べて住居を構成
建物の長手方向いっぱいに庭を配置。空も広く感じられる。コンクリートの塀で外部からの視線をカット
コンテナに挟まれた路地のような玄関土間。回転式のガラス扉を採用し、半屋外のような空間に

「ある程度の距離をあけてコンテナを横に並べると、コンテナ内の閉ざされた空間とコンテナ外の開放的な空間が交互に生まれます。コンテナ内には寝室や水まわり、収納などを配し、コンテナ外は、リビングダイニングと子ども部屋にしました」(岸本さん)

庭に面したバスルーム。庭でプール遊びをしていた子どもたちが直接入浴できる。夜空を見上げながらの入浴も
子ども部屋からLDKを見る。その間にはバスルームとウォークインクローゼットが収まる

家族が集まるリビングダイニングや子ども部屋は、南北の壁が一面ガラス窓になった、外とつながる空間に。空や庭の緑が気持ちよく感じられる場になった。  「実際に住んで『快適』のひと言です。家族が長い時間を過ごすリビングダイニングが明るいのが一番うれしいですね。室内にいながら、庭と一体感が得られるのも気に入っています」とご夫妻。
 「今日もよろしくね」と毎朝、家に語りかけながら楽しく暮らすというご主人。これからの楽しみは、DIYで輸送用コンテナに音楽室をつくることだ。

白×木を基調にしたナチュラルなLDK。壁一面のガラス窓で外とつながり、開放感たっぷり
text_ Sayaka Noritake photograph_ Akira Nakamura
取材協力

土間や炉壁に、地産の大谷石を使用地域と自然と気持ち良くつながる家

栃木県宇都宮市を拠点に、住宅などの建築設計を手掛けている神原浩司さん、敦子さんご夫妻。一昨年、浩司さんが生まれ育った築45年の古家を、住まいと仕事場が一体になった2階建て一軒家に建て替えた。
 玄関ドアを開けると、明るく広い大谷石の土間が目の前に広がる。「宇都宮で生まれ育った私は、どこかに地産の大谷石を使いたいと思っていて、まず思い浮かんだのがこの玄関土間でした。大谷石と木の組合せはとてもきれい。そのうえ、石自体の表情も豊かで、柔らかい雰囲気も持っている。その美しさをエントランスで表現したかったんです」(浩司さん)

物件データ 所在地//栃木県宇都宮市
面積/154.15m²
築年月/2014年8月
設計/かんばら設計室
www.kan-bara.com

より印象的な空間に仕上げるために、石の表面をチェーン引きという方法で加工。さらにLDKの一角にある薪ストーブの炉壁にも、大谷石を採用した。
 「断熱性や耐火性が高いだけでなく、熱をはね返して空間に放出するんです。だから熱効率がとてもよくなるんですよ」(浩司さん) クリのフローリングやキリの天井材ともマッチし、インテリアのアクセントとしても大谷石が効果的に生きている。

建物は敷地に対して45°振って配置。外壁はモルタルの下地にアクリル系塗料のマヂックコートを吹付け
建物は敷地に対して45°振って配置。外壁はモルタルの下地にアクリル系塗料のマヂックコートを吹付け
エントランスと中庭をつなぐ通り土間の床は大谷石。ここで
仕事の打合せをすることも
エントランスと中庭をつなぐ通り土間の床は大谷石。ここで仕事の打合せをすることも
娘さんがピアノの練習をしたり、浩司さんが趣味のエレキギターを弾く音楽室。外壁側の壁は防音仕様とした
娘さんがピアノの練習をしたり、浩司さんが趣味のエレキギターを弾く音楽室。外壁側の壁は防音仕様とした

「家づくりでは、いつも人や家族、自然とのつながりを重視している」と話す神原さんご夫妻。自邸では敷地の東側にある県立公園のイチョウ並木を取り込むように大きな開口部を取り、LDKから緑や紅葉が常に眺められるように設計。空とつながるハイサイドライトをふと見上げると、きれいな夕日や月明かりにハッとすることもある。そんな日々の気づきを大切に生活しているという。

イチョウ並木が見える東側に大きな窓とデッキを設けた。LDKや子ども部屋からも緑が眺められる
イチョウ並木が見える東側に大きな窓とデッキを設けた。LDKや子ども部屋からも緑が眺められる
キッチンからリビングダイニングを見る。食卓のペンダント照明はこの部屋に合わせてオリジナルで製作
キッチンからリビングダイニングを見る。食卓のペンダント照明はこの部屋に合わせてオリジナルで製作

気持ち良い風もふんだんに入り、夏でも余程の猛暑日でなければエアコンは使わずに過ごせるそう。自然を楽しむ快適な暮らしは、結果的に省エネルギーにも貢献しているようだ。
 間取りは家じゅうどこにいても家族の気配が伝わり、自然とLDKに集まる造りに。「家には家族の拠り所となる場所が必要。家族が関わり合うことで、毎日安心して楽しく暮らすことができるのです」(敦子さん)

右側をベッドスペース、左側を勉強スペースに分けた子ども部屋。勉強スペースの上はロフトスペースに
右側をベッドスペース、左側を勉強スペースに分けた子ども部屋。勉強スペースの上はロフトスペースに
薪ストーブはデンマークのモルソー製。まわりを断熱性・耐
火性が高い大谷石で腰壁風に囲んだ
薪ストーブはデンマークのモルソー製。まわりを断熱性・耐火性が高い大谷石で腰壁風に囲んだ

text_ Sayaka Noritake(colonna) photograph_ Akira Nakamura

古いタイル調のクロス、壁に描いたアート… 都心のマンションに個性的に住む

こだわりの5.1chオーディオスピーカーで好きな音楽を聴くご夫妻。一方、二人の子どもたちは楽しそうに走り回っている。  子どもの教育環境と、ご主人の仕事場から近いことを条件に物件を探していたら、千代田区で、しかも駅から1分もかからない好立地に約88㎡の中古マンションを見つけたIさん。
 「築30年を超えていて、クローズドキッチンのある2LDKの古い間取りで暗かったのですが、広さは十分だし、リノベーションすれば、居心地よく暮らしやすい住まいになると確信して購入しました」(ご主人)

物件データ 所在地/東京都千代田区
面積/87.69m²
築年月/1984年
設計/岡田公彦(岡田公彦建築設計事務所)
http://ookd.jp

 設計は岡田公彦建築設計事務所の岡田公彦さん。知人の家を手がけて、その家が気に入っていたので依頼したという。
 「窓は南面に1 面しかなく、中廊下型で、とにかく暗かったので、間仕切り壁の目線の高さ部分を抜いてガラスをはめ、住まい全体に光がまわるようにしました。結果的にこの水平連続窓のおかげで、座っているときは落ち着き、立ち上がるとグッと開放的になるという、空間の広がりの変化も楽しめる住まいにもなりました」(岡田さん)

キッチンとリビングは腰高の壁でゆるやかに仕切り、両方のスペースに落ち着きをもたせた
キッチンとリビングは腰高の壁でゆるやかに仕切り、両方のスペースに落ち着きをもたせた
家の真ん中に位置するキッチン。ここで作業をしながら、子どもたち
の様子がわかるので安心
家の真ん中に位置するキッチン。ここで作業をしながら、子どもたちの様子がわかるので安心
玄関横にはオープンなご主人の書斎。北村さんの絵が描かれた扉の中にはエコキュートが収まる
玄関横にはオープンなご主人の書斎。北村さんの絵が描かれた扉の中にはエコキュートが収まる

「家は人生で一番高価な買い物。こだわってオリジナリティーのあるインテリアにしたい」と思っていたI さん。その一つが、あちこちに見られる壁のアート。インターネットで見つけたアーティストの北村直登さんにオーダーし、リビングや書斎、子ども部屋などの壁に描いてもらった。多彩な画材で描いた絵画は実にダイナミックで部屋に映える。
 また、個室を仕切る壁や腰壁には、ヴィンテージの型押しタイルがプリントされたフランス製の壁紙をセレクト。歴史を感じさせる独特の雰囲気を醸し出している。

キッチンと仕切って設けたダイニングスペース。子どもたちの勉強スペースとしても使用
キッチンと仕切って設けたダイニングスペース。子どもたちの勉強スペースとしても使用

また、個室を仕切る壁や腰壁には、ヴィンテージの型押しタイルがプリントされたフランス製の壁紙をセレクト。歴史を感じさせる独特の雰囲気を醸し出している。 休日はドライブで温泉などに行くことも多いIさん。自宅から高速道路にも乗りやすく、どの方面に行くにも便利だという。  「スーパーマーケットや図書館、保育園、小学校などがみんな徒歩圏内で、公園も多く子どもを遊ばせるのにも困りません。皇居も歩いて行け、自転車の練習コースも使えるんですよ」(奥さま)  周囲には大使館も多いエリアだけに警備が厳重。治安がいいのも都心で暮らすうえで大きなメリットとなっている。

現在は兄妹で使っている子ども部屋。北村さんには鳥をイメージした絵を描いてもらった
現在は兄妹で使っている子ども部屋。北村さんには鳥をイメージした絵を描いてもらった
玄関前に位置するトイレ。上部がガラスになっているため明るい。カーテンで目隠しすることもできる
玄関前に位置するトイレ。上部がガラスになっているため明るい。カーテンで目隠しすることもできる

text_ text_ Sayaka Noritake(colonna) photograph_ Akira Nakamura

バイクスペースやカフェテイストのLDK。 好きを詰め込んだこだわりの家づくり

職場に近い静岡県磐田市に住んでいた石原さんご夫妻。お子さんが生まれて旧家が手狭になり、奥さまの復職後の子育てのしやすさも考えて、両親が暮らす実家の近くの浜松市に新居を建てることにした。
 家づくりの主導権は、インテリアにこだわりがあったご主人。目指したのはアメリカ西海岸の雰囲気を取り入れた“カリフォルニアカフェ”スタイルの家だ。

物件データ 所在地/静岡県浜松市
面積/144.91m²
築年月/2015年8月
設計/入戸野元張(一級建築士事務所トノ建)
www.tonoken.co.jp
白いサイディングと黒いスパンドレルを組み合わせたモダンな外観。屋根はガルバリウム鋼板
白いサイディングと黒いスパンドレルを組み合わせたモダンな外観。屋根はガルバリウム鋼板
玄関ホールには、サーフボードの置き場も。お子さんと一緒に波乗りをする日を楽しみにしている
玄関ホールには、サーフボードの置き場も。お子さんと一緒に波乗りをする日を楽しみにしている

設計は、地元の一級建築士事務所「トノ建」の入戸野元張さんに依頼。これまで手掛けてきた住宅のデザインがご主人の趣味と近かったこと、親身になって話を聞いてくれる姿勢やコミュニケーションの取りやすさが決め手 となった。
 「コンクリート打ち放しの家も考えたのですが、小さな子どももいるし、住みやすさも考慮して木造の家にしました。でも、コンクリートはどこかに取り入れたかったので、ダイニングキッチンの床に使ってもらいました」(ご主人)

土間コンクリートのダイニングキッチン。テーブルを離して配置することで、カフェ気分が高まる
土間コンクリートのダイニングキッチン。テーブルを離して配置することで、カフェ気分が高まる

一段上がったリビングの床には、コンクリートと相性の良いウォルナットのフローリングを採用。床レベルや素材を変えることで、広いLDKに動きを与え、ショップインテリアのような雰囲気をつくり出している。さらに、リビングの収納棚と階段はアール状に。
 「スタイリッシュな空間でも、部屋の一部に曲面があると、あたたかみが出るんですよ」(入戸野さん)

18畳のリビングルームは、プラレールを広げても余裕の広さ。床はウォルナットの無垢材で床暖房も装備
18畳のリビングルームは、プラレールを広げても余裕の広さ。床はウォルナットの無垢材で床暖房も装備
1階トイレ。壁はシナベニヤをブルーで塗装して、サンドペーパーでこすり、色むらを出した
1階トイレ。壁はシナベニヤをブルーで塗装して、サンドペーパーでこすり、色むらを出した

ご主人はバイクの設計者で、休日には林道ツーリングを楽しむ。「絶対に実現したかったスペースがバイクガレージ。雨の日でも夜でも、メンテナンスができる場所が欲しかったんです」(ご主人)その要望を受けた入戸野さんは、バイクガレージと玄関を一体化した広い土間を提案。サーフボードを置くスペースも設けた。
 この家になってから、家族で食卓を囲むことがさらに楽しくなったと口をそろえるご夫婦。ツーリング仲間やお客さまが訪れる機会が増え、料理を振る舞うことも多くなったという。
 「スタイリッシュな家は住みにくいと思っていたんです。この家は格好良いけど、あたたかいし、家事動線もよく考えられていてとても住みやすい。100%満足しています」(奥さま)

2階のセカンドリビングはパイン材の床。2人目のお子さんができたら、子ども部屋として使う予定
2階のセカンドリビングはパイン材の床。2人目のお子さんができたら、子ども部屋として使う予定
休日にはデッキに椅子を出して、ブランチするととても気持ちがいいそう。バーベキューコーナーも計画中
休日にはデッキに椅子を出して、ブランチするととても気持ちがいいそう。バーベキューコーナーも計画中

text_ Sayaka Noritake(colonna) photograph_ Akira Nakamura

軽井沢の森の中にひっそりと佇む ガレージ付きの小さな一軒家

観光客で賑わう軽井沢駅から車で15分。辿り着いたのは、ひんやりとした空気が心地よい森の中の閑静な別荘地。一角にあるIさんご夫妻の新居は、周囲の建物に比べるとひと回り小ぶりな、山小屋のような愛らしい家だ。
 「軽井沢の別荘地は、坪単価は安いけれど300坪~の売地が多くて、とても手が届きません。でもこの土地は、90坪で広さも価格も許容範囲内。北側が開けているので、上手く外とつなげれば、狭さを感じない開放的な家が建てられると思い購入しました」(ご主人)

物件データ 所在地/長野県北佐久郡
面積/90.09m²
築年/2015年4月
設計/霜鳥聡志建築設計事務所
www.ssarchitects.jp
施工/竹花工業株式会社
www.takehanakogyo.co.jp
玄関には階段下を活用したシューズクロークも。洗い出し仕上げの
玄関には階段下を活用したシューズクロークも。洗い出し仕上げの土間には大理石を散りばめた
1階には2つの居室があり、現在は1室をご主人の書斎として使用。
もう1室は将来の子ども部屋
1階には2つの居室があり、現在は1室をご主人の書斎として使用。 もう1室は将来の子ども部屋

家づくりの依頼先は、地域の特性を熟知している軽井沢在住の建築家を希望し、霜鳥聡志さんに設計を依頼。ご夫妻が望んだのは、「2階のリビングから外の景色を眺める生活がしたい」ということのほかに、「趣味の車いじりを楽しめるスペースが欲しい」、将来お子さんやお母さまと暮らすことを想定して、「2つの個室と夫婦の寝室が必要」などの要望があった。

2階のLDK。シンボルツリーのような柱が空間のアクセントに。窓の外にはこれからデッキをつくる予定

「要件を満たしつつも、建物のボリュームを最小限に抑えるために、小さな正方形の箱を雁行させる2階建てプランを考えました。建物の中央に階段を配置すると上下階で4つのゾーンが生まれ、それぞれにガレージ、LDK、個室、寝室と水まわりが収まるコンパクトなプランが出来上がりました」(霜鳥さん)
 雁行型の設計により、各居室で2面以上の開口を取ることが可能に。LDKには2.5m幅の大きな窓も設けられ、周囲の緑や遠くの浅間山を望めながら寛げる居心地のいい空間が生まれた。さらに樹幹をイメージさせる大黒柱を中心に据え、内外の一体感を強調している。

通りに面するダイニングは横長の窓をやや高めの位置に設け、光と
景色だけを取り込めるようにした
通りに面するダイニングは横長の窓をやや高めの位置に設け、光と景色だけを取り込めるようにした
白い艶消し仕上げのキッチンはご夫妻のこだわり。カウンターは家具職人に造作してもらったもの
白い艶消し仕上げのキッチンはご夫妻のこだわり。カウンターは家具職人に造作してもらったもの

 外観は木を多用しながらも、冬の風雪から身を守るため、ガルバリウム鋼板を採用。森の環境に溶け込むひそやかな佇まいだ。避暑地や観光スポットとして人気の軽井沢は、都心部へのアクセスもよく、近年定住する人が増えているという。
 「静かな環境だけど、ご近所さんが適度にいるので安心して暮らせます。ここに来て、家にいる時間が増えたような気がしますね。外をぼうっと眺めていると突然、野生のリスが目の前を通り過ぎて行くこともあって、それがとても可愛くて。テレビを見ずに外ばかり見て過ごしています」(奥さま)

2階のご夫妻の寝室。東側に位置し、朝陽を浴びて目覚める。個室は
小さくつくり、LDKを充実させた
2階のご夫妻の寝室。東側に位置し、朝陽を浴びて目覚める。個室は小さくつくり、LDKを充実させた
南棟の1階はご主人の愛車2台を収めるガレージに。雨の日でも車いじりが楽しめるようになった
南棟の1階はご主人の愛車2台を収めるガレージに。雨の日でも車いじりが楽しめるようになった

text_ LiVES photograph_ Akira Nakamura

まるでキュビズムの世界?! 木造アパートを ワンルーム空間の一軒家にリノベーション

この家を初めて訪れたときの感想を述べるのは難しい。まるでキュビズムの世界に迷い込んでしまった感じだ。中央に大きな吹き抜け空間があり、それを取り囲むように4色に塗り分けたコーナーが設けられているのだが、仕切り壁はどれもランダムに交差し、三角や四角の立体的なパッチワークのような様相を呈している。

物件データ 所在地/千葉県千葉市
面積/177.31m²
築年/2014年3月
設計/河内一泰(河内建築設計事務所)
www.kkas.net
築23年の旧木賃アパート。外壁はもとのサイディングを生かして白く塗装。ベランダは撤去した"
築23年の旧木賃アパート。外壁はもとのサイディングを生かして白く塗装。ベランダは撤去した
"たっぷり靴が収められる造り付け棚のある玄関。その先には南向きの開口部に面した明るいホール

元は1階、2階のそれぞれに4戸ずつのワンルームがあった木造アパート。その中を大きく斜めにくり抜いて、1軒の家にしてしまった。その穴も単純な四角ではなく、わざと水平や垂直をずらした多面状に開けることで不思議な空間が生まれた。  施主の佐々木さんご夫妻は、12才と9才のお嬢さんをもつ4人家族。初めは両親から譲り受けたこのアパートを取り壊して、一戸建てを建てるつもりだった。相談を受けた奥さまの弟で建築家の河内一泰さんは振り返る。

ダイニング一体型キッチン。ダイニングの家族と目線の高さが合うようにキッチンの床を下げている
ダイニング一体型キッチン。ダイニングの家族と目線の高さが合うようにキッチンの床を下げている

施主の佐々木さんご夫妻は、12才と9才のお嬢さんをもつ4人家族。初めは両親から譲り受けたこのアパートを取り壊して、一戸建てを建てるつもりだった。相談を受けた奥さまの弟で建築家の河内一泰さんは振り返る。 「アパートの解体費だけで300万円ほどかかり、予算内で一戸建てを建てようすると、半分くらいの大きさの家しか建てられません。それなら、リノベーションをしたほうが賢明なのではないかと提案しました」

バスルーム、洗面・脱衣所も3畳ずつある。大きな2枚のガラス戸でつなぎ、開放的な空間に
バスルーム、洗面・脱衣所も3畳ずつある。大きな2枚のガラス戸でつなぎ、開放的な空間に
キッズスペース。子どもたちが友達と遊んだり、来客時にゲストルームとしても使用している
キッズスペース。子どもたちが友達と遊んだり、来客時にゲストルームとしても使用している

2階の次女の部屋。2つの扉で階段室、子ども用ウォークインクロゼットとつながる。三角の開口からリビングを見下ろす
2階の次女の部屋。2つの扉で階段室、子ども用ウォークインクロゼットとつながる。三角の開口からリビングを見下ろす

佐々木さんご夫妻から新居への要望は、廊下がなくて、子どもたちが帰ってきたときに必ずLDKを通ること。どこに居ても家族の気配が感じられること。大きなダイニングテーブルとグランドピアノが置けるスペースが欲しい。それだけを伝えて河内さんにプランニ ングを任せた。  初めて建築模型を見たときは、「斬新すぎる」と驚いたそうだが、要望は満たされているし、元のアパートの閉鎖的なイメージもない。奇抜なデザインは面白いかもしれないと、GOサインを出すのは意外と早かったという。

ご夫妻の寝室は2階の北側に配置。他の居室と異なり、壁に囲まれていて落ち着いた雰囲気
ご夫妻の寝室は2階の北側に配置。他の居室と異なり、壁に囲まれていて落ち着いた雰囲気
2階ウォークインクロゼットからリビング、ダイニングをみる。通路の先には長女の部屋がある
2階ウォークインクロゼットからリビング、ダイニングをみる。通路の先には長女の部屋がある

「奇抜に見えますが、住み慣れるに従って居心地がよくなってきました。家族の気配もよく分かりますが、程よい死角もあちこちにあって、案外落ち着くんです。今は観葉植物に凝って、どこにどんな植物を置けば空間が生きるか研究しているところです」(ご主人)  照明は場所ごとに一つ一つ違うデザインのものをチョイス。カーテンも部屋ごとに異なる。複雑に絡まる空間や色彩が、ワンルームの大空間に多彩な居心地をつくり出している。

text_ Sayaka Noritake(colonna) photograph_ Akira Nakamura

のびやかに、健康に暮らす 自然素材にこだわった『COZY HOUSE』

結婚後、長らく公社住宅に住まれていたKさんご夫妻は、家づくりにたくさんの構想を抱いていた。コンセプトは『COZY HOUSE = 心地のいい家』。  「家族の健康が第一なので、ふんだんに自然素材を使いたいと思いました。構造材はスギとヒノキ、床はナラの無垢材。壁・天井は漆喰に。パッシブデザインにもこだわりたい。それに、薪ストーブは絶対に欲しい」とご主人。さらに奥さまは、「キッチンから子どもたちが何をしているか見える家が希望でした。グランドピアノが置けるスペースも確保したいなって」

物件データ 所在地/長崎県大村市
面積/113.65m²
築年/2015年4月
宅地造成/HAG環境デザイン
www.hagkankyo.com
片流れ屋根が特徴的な外観。外壁は鹿児島のシラス台地の火山灰が主原料の「白洲そとん壁」

ふたりはいくつかの工務店の見学会に参加。しかし、なかなかピンとくる依頼先が見つからず、Kさんは建築設計事務所に依頼するのも一つの方法かもしれないと考えた。そしてホームページを検索して辿り着いたのが、HAG環境デザインだった。 当初、ご夫妻は建築設計事務所に対して敷居が高いというイメージを抱いていたが、『環境や暮らしにやさしい家づくり』というコンセプトと施工例を見て感銘を受けたという。「何か運命的なものを感じたんです気さくに相談にのってくれ、実際に建てた家も見学させてもらえました。その家がまたすばらしく、自由に家づくりができるような気がして、設計を依頼することにしました」(ご主人)


玄関を入ると木の香りが。床はスギ、下駄箱はアガチスの無垢。三和土には大谷石が使われている
玄関を入ると木の香りが。床はスギ、下駄箱はアガチスの無垢。三和土には大谷石が使われている
北欧テイストのリビング。壁面TVボードの裏はウォークスルークローゼットになっている
北欧テイストのリビング。壁面TVボードの裏はウォークスルークローゼットになっている

HAG環境デザインの橋口剛さん、佳代さんは、同じ子育て世代という親近感もあり、夫目線と妻目線どちらからも的確にアドバイスしてくれたという。  出来上がった家は片流れ屋根が特徴的な平屋。のびやかな30畳のLDKは、内装はもちろん、テーブルはウォルナット、食器棚はクリと家具も無垢材で特注。断熱材も性能の高い自然素材のものを取り入れた。


リビング続きに和室とピアノを置いた音楽室。引き戸を閉めれば、どちらも完全個室になる
リビング続きに和室とピアノを置いた音楽室。引き戸を閉めれば、どちらも完全個室になる
テーブルはウォルナットで特注。木の格子の窓から、庭の緑が透けてきれいに見える
テーブルはウォルナットで特注。木の格子の窓から、庭の緑が透けてきれいに見える
連弾を楽しめる音楽室は、建具も防音性。天井も吸音のつくりで遮音対策ばっちり
連弾を楽しめる音楽室は、建具も防音性。天井も吸音のつくりで遮音対策ばっちり

また、キッチンや洗面所、浴室などは北側 にまとめ、行き止まりのない回遊動線で配置し、家事や生活の利便性も工夫。そして多目的室も設け、家族の成長に合わせて可変的に対応できるように配慮した。
 「まさにCOZY。居心地のいい家です。休日も以前より外出しなくなり、家で家族と過ごす時間が長くなりました」(奥さま)


浴室の壁はご主人の要望で青森ヒバに。香りがよく、水に強い。防虫、防カビ効果もある
浴室の壁はご主人の要望で青森ヒバに。香りがよく、水に強い。防虫、防カビ効果もある

text_ Sayaka Noritake(colonna) photograph_ Akira Nakamura

取材協力

豊かな自然環境を育み継承する、 緑・住・農一体型の新しい住まい方

つくば市の中心地から約3km、数百年前からの田園風景が広がる町「春風台」。屋敷林と谷地田に囲まれた水はけのよい台地で、河川の氾濫による洪水や山崩れによる土砂災害の心配がない地域である。北方には筑波山が美しく眺められる。

物件データ 所在地/茨城県つくば市春風台
面積/195.05m²
築年/2014年3月
宅地造成/UR都市機構
harukazedai.com
※「緑住農一体型住宅地」は、定期借地権の分譲
もあります。
低密度開発方式によって開発された春風台。広々とした敷地に個性的なデ
ザインの家々が並ぶ

この地域に、宅地に緑地と農地を組み合わせて付加価値をつけた「緑・住・農一体型街区」の造成が進められている。これは、道路に面した12mの部分を緑地にして景観を共有するデザイン(景観緑地)とし、隣家との間に果樹・菜園の農地を配置した、日本では初めての試みである。 春風台・桜中部地区まちづくり協議会の酒井達さんは話す。「環境共生型住宅地として有名なアメリカ・カリフォルニア州のヴィレッジホームズや、シカゴ郊外のオークパークといった海外の一流と呼ばれる居住街区を参考に、『低密度開発方式』を取り入れることにしました」
 約100坪の住宅地に対して約60坪の景観緑地を各戸に配置し、住宅と住宅の間にゆとりをもたせる。さらに、農作業ができる約40坪の菜園も配置可能とし、「緑住農」が一体化した、自然に接したゆとりのある宅地開発を成功させた。


M邸は上品な佇まいの輸入住宅。グレーの外壁や白い玄関ドア、玄関ポーチの柱が印象的
M邸は上品な佇まいの輸入住宅。グレーの外壁や白い玄関ドア、玄関ポーチの柱が印象的
景観緑地に植えたシンボルツリーはコナラ。涼しげな樹形で洋風の外観にマッチしている
景観緑地に植えたシンボルツリーはコナラ。涼しげな樹形で洋風の外観にマッチしている

新しくなった春風台に、横浜から移住してきたというMさんご夫妻を訪ねた。輸入住宅の背後には菜園が広がり、海外の田園都市の風景を彷彿とさせる。  「私は10年間、つくば市にある国の研究所に通っていて、茨城は自然がきれいで、食べものがおいしいことに気が付いていました。これから住むなら、生産地に近いところに住みたいとずっと思っていたんです。そんなとき春風台の存在を知り、説明会に参加して考え方に賛同。ここに居を構えることを決めました」(ご主人)


家の裏にある40坪の菜園。タマネギ、ニンニク、カボチャなど20種類以上の野菜を育てている
家の裏にある40坪の菜園。タマネギ、ニンニク、カボチャなど20種類以上の野菜
を育てている
今まさに収穫どきの枝豆。採りたてを塩ゆでしていただくと、歯ごたえがあり至極の味だそう
今まさに収穫どきの枝豆。採りたてを塩ゆでしていただくと、歯ごたえがあり至極の味だそう

これまでほとんど野菜づくりの経験がなかったというご主人だが、菜園では20種類以上の野菜を育てている。今では毎日の手入れが一番の楽しみになった。「自然豊かで景色がよくても、不便なところが多いかも知れませんね。でも、ここは10分も歩けばスーパーもそろっていて、車を使わなくても便利に生活が送れるのでありがたいです」(奥さま)


ダイニングと引き戸でつながるキッチン。奥さまの希望でアイランド型を採用し、サブシンクも設けた
ダイニングと引き戸でつながるキッチン。奥さまの希望でアイランド型を採用し、サブシンクも設けた
遠くに望む筑波山やのどかな春風台の眺めは、窓を開け閉めするときの楽しみになっている
遠くに望む筑波山やのどかな春風台の眺めは、窓を開け閉めするときの楽しみになっている

text_ Sayaka Noritake(colonna) photograph_ Shinsuke Sato

取材協力

ロンドンから岡山県西粟倉に移住。 豊かな自然の中でおおらかに暮らす

1998年にイギリス・ロンドンに渡り、翌年にフランス人のオリビエ・チャールズさんと結婚。ふたりの男の子をもうけ、ご自身も教師として働きながら暮らしていたチャールズ裕美さんは、2009年に11年間の英国暮らしに終止符をうち、生まれ故郷の岡山県に家族で移住した。

物件データ 所在地/岡山県英田郡
面積/262.06m²
www.nokishita-toshokan.com
パン工房「ユゴー・エ・レオ」のカフェコーナー。地元産やオーガニックな食材を使った食事を提供
 
パン工房「ユゴー・エ・レオ」のカフェコーナー。地元産やオーガニックな食材を使った食事を提供
添加物は使用せず、オーガニック強力粉、自然塩、西粟倉の源流水をベースにした健康パン
 
添加物は使用せず、オーガニック強力粉、自然塩、西粟倉の源流水をベースにした健康パン

「当時、主人の仕事はオンライン広告の会社経営。海外出張も多く、子どもと触れ合う時間がありませんでした。ロンドンは治安が 悪く、子どもを遊ばせる場所も少なく、私も子育てに四苦八苦していました。そんなとき、父が祖母の家が空き家になっているから住まないか、と声をかけてくれて、思い切ったのです」と、裕美さんは地元に戻った経緯を話す。

ふすまの間から裏の玄関を見る。窓辺にはアンティークの布を細いスクリーンに仕立てて吊るしている
 
ふすまの間から裏の玄関を見る。窓辺にはアンティークの布を細いスクリーンに仕立てて吊るしている
以前、図書館として開放されていた2階の部屋は、B&Bの宿泊客の談話室&憩いの場となった
 
以前、図書館として開放されていた2階の部屋は、B&Bの宿泊客の談話室&憩いの場となった

裕美さんのおばあさまは生前、自宅の図書館を開放して、子どもが集う場所にしていた。 ご夫妻はおばあさまに敬意を払い、自分たちの事業を「軒下図書館」としてメーキングしていくことに。帰国後はまず、築60年の民家をリフォーム。半年の準備期間を経て、語学スクールを始め、その後、住まいの2階をB&B(ベッド&ブレックファースト:宿泊施設)に。さらに、敷地内の納屋でフランスパン工房&カフェも始めた。「なぜそんなにいろいろやるの?と周囲から言われましたが、当時私たちがここに住むためには、できることはなんでもやらないと暮らしていけなかったのです」とご夫妻。

 
家族が集うLDK。以前は半分土間だったが、リフォームして広々としたLDKが実現した
 
家族が集うLDK。以前は半分土間だったが、リフォームして広々としたLDKが実現した

2013年にはヨガスクールも開校。やっとここ1〜2年で事業が安定し、子どものための時間も十分とれるようになった。子育てにあたっては、将来を考えて英語は話せるようにと、英語で会話しているという。 「西粟倉の学校では、自分の生活と森のつながりを教えてくれたり、童話に出てくるメニューを取り入れて、好き嫌いが減るよう工夫したりと食育も盛ん。生産者がどういう気持ちで野菜をつくっているかということも子どもたちに伝えていて、とても良い教育だと思っているんです」(裕美さん) 自然災害が少なく、気候が温暖で、食べ物が豊富で美味しい岡山県には、最近都市から移住してくる若い家族が増えている。自分たちと同じように、豊かな自然のなかで新しい生活をスタートさせる人たちをチャールズ夫妻は歓迎している。

B&Bの宿泊室のひと部屋。藍のファブリックなど、落ち着きのある色使いでコーディネート"
 
B&Bの宿泊室のひと部屋。藍のファブリックなど、落ち着きのある色使いでコーディネート
庭の一角に設置したヨガスポット。緑に囲まれ、川のせせらぎを聞きながら楽しめる
 
庭の一角に設置したヨガスポット。緑に囲まれ、川のせせらぎを聞きながら楽しめる
text_ Sayaka Noritake(colonna) photograph_ Akira Nakamura
取材協力

バイクやDIYなど、趣味を存分に楽しむ アメリカンスタイルのサーファーズハウス

他の人と同じような家は絶対に嫌。オリジ ナリティが感じられる家を建てたい、と話し合っていた栗田さんご夫妻。一昨年の春、奥さまの実家の裏の土地が売りに出ると、すぐに購入。家づくりの参考にインターネットや雑誌でいろいろな家を見ていく中で目に留まったのが、アメリカ西海岸やハワイの雰囲気漂うサーファーズハウスだった。さらに調べていくと、静岡県裾野市に奥さま好みのサーフスタイルのレストランがあることを知り、早速訪問した。

物件データ 所在地/静岡県富士市
面積/120.07m²
築年/2014年4月
設計/富士ホームズデザイン
www.fujihomes.com
外壁はサーファーズハウスのイメージを出すため、レッドシダーのホワイト塗装仕上げで
外壁はサーファーズハウスのイメージを出すため、レッドシダーのホワイト塗装仕上げで
玄関を入ると、サーフボードとウェットスーツがお出迎え。ハワイに来た気分になる
玄関を入ると、サーフボードとウェットスーツがお出迎え。ハワイに来た気分になる

「そこはまるでハワイにいるような建物とイ ンテリアで、まさに私が思い描いていたものでした。こんな家を建てたいと、店長に設計や施工を担当した地元の工務店、富士ホームズデザインを紹介してもらい、会いに行きました」(奥さま)  富士ホームズデザインの代表の村松さんと建築家の上総さんと話を重ねる中で、続々と出てくる新しいデザインのアイデアや、想像力の豊かさに感心したというご夫妻。なんの迷いもなく、設計を依頼することに。

キッチンからリビングを見る。テレビの背面はヘリンボーンの模様に木を貼り上げた
キッチンからリビングを見る。テレビの背面はヘリンボーンの模様に木を貼り上げた
フリースペースの棚には、ペイントしたプランターとお気に入りのグリーンを組み合わせて飾っている
フリースペースの棚には、ペイントしたプランターとお気に入りのグリーンを組み合わせて飾っている

新しい住まいへの希望は、「玄関ドアは赤に、吹き抜けのある開放的な空間と大きなアイランド型のキッチン。趣味のバイクを置けるガレージも欲しいと伝えました」(ご主人)
 完成したのは、1階のLDKから2階のフリースペースまでが吹き抜けでつながるダイナミックな住まい。そこに海風で経年劣化したようにエイジング加工を施した梁やアイアンの階段、清涼感のあるブルーのタイルのキッチンなどが配されている。

大きなアイランド型キッチン。天板は思いきって濃淡ブルーのガラスタイルをセレクト
大きなアイランド型キッチン。天板は思いきって濃淡ブルーのガラスタイルをセレクト

「のびのびとした、気持ちのいい家になったと思います。この家に住むようになって、DIYなど手づくりにも俄然興味を持つようになりました。仕事が終わって帰ってくると、流木を削ってディスプレイする小物をつくったり、プランターにペイントしたり…、楽しいことがたくさん待っています」(ご主人)
 休日は愛車のハーレーダビッドソンに股がってグリーンショップ巡り。気持ちいい風を感じながら、インテリアのブラッシュアップをあれこれ考えている。

1階のトイレにはブルーグリーンの腰壁を貼った。窓に飾った流木の小物はご主人作"
1階のトイレにはブルーグリーンの腰壁を貼った。窓に飾った流木の小物はご主人作
ご夫妻の愛車「ハーレーダビッドソン・XL1200N」が大切に収められているガレージ
ご夫妻の愛車「ハーレーダビッドソン・XL1200N」が大切に収められているガレージ

Sayaka Noritake(colonna) photograph_ Akira Nakamura

取材協力

子どもたちが元気に遊べる 工夫がいっぱいの自然素材住宅

玄関扉を開けると漂ってくるヒノキの香り。吹き抜けのリビングの壁面には、ボルダリング。階段横には収納式の滑り台…。木をふんだんに使った、遊び心溢れる住まいを実現したのは、埼玉県狭山市にお住まいのTさんご夫妻。お宅を訪ねると、8歳のRちゃんと4歳のAくんが、さっそく手を引いて自慢のおうちを案内してくれた。
「以前は賃貸アパートに住んでいましたが、子どもが走り回る音がうるさくないかとヒヤヒヤしていたんです。上の子が小学校に上がるまでには、一戸建てに住みたいねと話していました」(奥さま)

物件データ 所在地/埼玉県狭山市
面積/117.64m²
築年/2013年8月
設計/アップルホーム
kenkou.apple-h.co.jp
収納式の滑り台は、「インテリアの邪魔にならない遊具が欲しい」
という発想から実現

「無垢の木を使った住まいを」と考えて住宅展示場を見て回り、天然素材にこだわっているアップルホームに家づくりを依頼。住まいのイメージを設計士さんとともに具体化していく過程で、子どもがのびのびと遊べるアイデアが次々と生み出されていったという。
「ボルダリングは設計士さんからの提案です。1階から小屋裏までの高さで作ることはなかなかないということでしたが、思い切ってこの高さにしました。ホールドは専門の方に設置してもらい、マットやロープも完備して安全対策は万全です」(ご主人)


玄関ドアの横には、帰宅したらすぐに手を洗えるよう、小さな洗面コーナーを設けた
玄関ドアの横には、帰宅したらすぐに手を洗えるよう、小さな洗面コーナーを設けた
玄関やリビングダイニングの壁は、調湿性のある珪藻土。家族の手形を竣工時に押した
玄関やリビングダイニングの壁は、調湿性のある珪藻土。家族の手形を竣工時に押した

Tさんのお住まいには他にも、奥さまが発案した便利な仕掛けがふんだんに盛り込まれている。玄関には子どもたちが泥遊びをして帰ってきても、すぐに手を洗うことができる洗面ボウル。玄関横に設けられたストレージは、濡れたコートを掛けたり、非常用の水をストックしたりできる便利な空間だ。キッチン脇にはちょっとした書き物ができる造作のワークスペース。2階の廊下にも洗面台が設置され、掃除の際に重宝しているという。また、ベッドルームや階段、手洗いの壁面にニッチを設けたのも奥さまの提案だ。


キッチンの奥には、コーナーを有効活用した奥さま専用のワークスペースが設けてある
キッチンの奥には、コーナーを有効活用した奥さま専用のワークスペースが設けてある
小屋裏では、子どもの様子が分かるよう、格子壁で吹き抜けのリビングとつなげた
小屋裏では、子どもの様子が分かるよう、格子壁で吹き抜けのリビングとつなげた

「小物を飾るのが好きなので、飾れる場所をあちこちにつくりました。季節や気分に合わせてちょっとした模様替えを楽しんでいます」(奥さま)
さらに全館空調の導入で、室内はいつでも快適な温度に保たれ、冬もトイレや脱衣所が冷えることがない。 「テレビゲームではなく、自然のぬくもりに触れる遊びで育ってほしい」とTさんご夫妻。リビングにこだまする子どもたちの楽しげな笑い声が、健やかな成長のバロメーターだ。


2階の主寝室。窓の配置や壁紙の色、小物を飾るためのニッチは奥さまのアイデア
2階の主寝室。窓の配置や壁紙の色、小物を飾るためのニッチは奥さまのアイデア
キッチンは対面式。カウンターで勉強したり、ボルダリングで遊ぶ子どもたちを見守れる
キッチンは対面式。カウンターで勉強したり、ボルダリングで遊ぶ子どもたちを見守れる

text_ Takako Yoshida photograph_ Hiromasa Takeuchi

取材協力

瀬戸内海に向かって全面開口のあるLDK 広いテラスで絶景と一体になれる家

大阪で会社を経営するMさんは、国際レースにも出場する腕前のヨットマン。以前より、海のすぐそばに家を建てたかったが、ひょんなことからその夢が実現した。 2011年、ヨットレースに参加するため、瀬戸内海を航行していたときにエンジントラブルにおそわれ、今治沖を漂流する事態に陥った。そのとき、Mさんは漂流していたところの海端の土地が売りに出ていることを発見。すばらしい景色が気に入り、購入を決心したという。
「建築家はネットで検索。ホームページに掲載されていた岡田俊彦さん設計の別荘を見て、この人なら自分がイメージするものができそうだと思い、電話で連絡しました。すると偶然、岡田さん自身、今治育ちということがわかり、風土を熟知していることにも安心し、設計をお願いすることにしました」(Mさん)

物件データ 所在地/愛媛県今治市
面積/234.448m²
築年/2013年12月
設計/スペースプロ一級建築士事務所
外壁は米スギの塗装仕上げ。風景になじみ、農家と並んでも違和感なく
佇んでいる

そして完成したのが、瀬戸内海に向かって広がるテラスと、吹き抜けのある50帖のLDKを持つ大空間。「この別荘のコンセプトは『マリンレジャー基地』。かしこまった別荘ではなく、大勢で気楽に使え、遊べる別荘を目指しました」(岡田さん)
Mさんの希望は、出来るだけ海に近いこと。そして海と一体感のある広い空間とテラス。「初めは25帖のLDKから図面を起こしたのですが、打ち合わせをするたび、もっと広く、もっと海に近く、と希望され、出来上がったら50帖ものLDKになっていました」(岡田さん)そしてそのLDKからは、穏やかな内洋に、正面の大三島をはじめ、いくつもの島が見え、まるで風景画のなかにいるようだ。


)リビングのソファからの景観。前方の大三島と海とテラスのバランスが最もよく、一番美しい眺め
リビングのソファからの景観。前方の大三島と海とテラスのバランスが最もよく、一番美しい眺め
ロードバイクも置ける広い玄関。左側には水着のまま入れるシャワーブース
ロードバイクも置ける広い玄関。左側には水着のまま入れるシャワーブース
間伐材も燃やせる「モキ製作所」(長野県)の薪ストーブは現地に行って購入。炎がとてもきれい
間伐材も燃やせる「モキ製作所」(長野県)の薪ストーブは現地に行って購入。炎がとてもきれい
ご主人のたっての希望でLDKのコーナーに設けたバー。最近カクテルづくりにも凝っている
ご主人のたっての希望でLDKのコーナーに設けたバー。最近カクテルづくりにも凝っている

そしてそのLDKからは、穏やかな内洋に、正面の大三島をはじめ、いくつもの島が見え、まるで風景画のなかにいるようだ。この別荘には、Mさんのご家族やヨット仲間、ときには仕事関連の人を誘い、月2回は訪れるという。
「ここに来たら、昼間からワインを飲むこともあるし、泳いだり、近くをバイクや自転車で走り回ったり。とにかくみんな好きなことをして過ごしています。夕日もとてもきれいです」(Mさん)Mさんは最近、料理やカクテルにも興味を持つようになった。「この別荘を持ってから、毎日の生活のなかでストレスが気にならなくなりました」とMさん。仕事を辞めたら、住民票を大阪から今治に移すことも考えているという。


テラスのコーナーには「TOTO」のジャグジーバス。泳いだ後、ザブンと入るのが最高に気持ちいい
テラスのコーナーには「TOTO」のジャグジーバス。泳いだ後、ザブンと入るのが最高に気持ちいい
浴室にはテラスから直接入れ、パウダールームに続く。バスタブの横にはサウナも
浴室にはテラスから直接入れ、パウダールームに続く。バスタブの横にはサウナも

text_ Sayaka Noritake(colonna) photograph_ Akira Nakamura

取材協力

緑を見渡す30帖の広々リビング 家族で過ごすハイエンドな時間

大きな窓から千鳥ヶ淵の緑が望めるヴィンテージマンションの一室。ここに暮らすのは、アメリカ留学経験をもつNさんご夫妻と3歳の女の子のファミリー。
「この場所を選んだ一番の理由は、娘を育てるのに最高の環境だと思ったから。まわりには有名幼稚園や小学校がたくさんある教育環境のいいエリアなんです」(ご主人)
約1年かけて新築も中古物件も何軒も見て回ったが、このマンションに入ったとたん、広さや景色の良さにひと目惚れ。リノベーションすれば、居心地良く、いい暮らしができる住まいになると確信したという。

物件データ 所在地/東京都千代田区
面積/144m²
築年/1973年
設計/有限会社オフィス・エコー
www.office-echo.com/
現代美術の巨匠・村上隆さん直筆の奥さまの肖像画。アメリカから写真を
送って描いてもらった

設計を担当したオフィス・エコーの江本響さんは「大きく間取りは変えていませんが、廊下を取り払って、玄関 ホールから続く30帖強もの広いリビングダイニングを実現させました。大きな窓からの景色も生き、部屋をより広く見せています」リビングダイニングは、既存のつくり付け食器棚を生かし、Nさん愛用のイームズの家具やイタリア製の革のソファと合うように内装をデザインした。
「床は無垢板のパーケット張り。これが古い食器棚とも新しい家具とも相性がよく、程よいつなぎの役目を果たしているんです」(江本さん)


アメリカで購入したイームズのダイニングテーブルとチェア。壁付けの食器棚は既存のものを活用
アメリカで購入したイームズのダイニングテーブルとチェア。壁付けの食器棚は既存のものを活用
ベビーカーなどを置けるように広く取った玄関ホール。一部の壁に石をあしらい高級感を演出
ベビーカーなどを置けるように広く取った玄関ホール。一部の壁に石をあしらい高級感を演出
リビングで目を引くフランク・ロイド・ライトによるデザインの名作照明「タリアセン」
リビングで目を引くフランク・ロイド・ライトによるデザインの名作照明
「タリアセン」

新居に越して、お子さんはアート、バレエ、英語のお稽古に通い、奥さまは読書と映画鑑賞をたしなむ充実した 暮らしを楽しんでいる。一方、ご主人は狂言が趣味。「仕事で海外に行くことが多いので日本の伝統のことを知っていたほうがいいと習い始め、もう10年になります。神社やお寺で行われる能舞台にも出ています」(ご主人)
 それぞれに好きなことに打ち込みながらも、休日は家族で過ごすのが基本だ。「家でくつろぐときも、公園や買い物に行くときも、3人一緒。アメリカは会社を離れれば、家族中心の生 活。その影響を受けているのかもしれません」(ご主人)


キッチンは既存のものを生かしつつ、IHクッキングヒーターや食洗機などの設備を入れ替えて機能的に
キッチンは既存のものを生かしつつ、IHクッキングヒーターや食洗機などの設備を入れ替えて機能的に
お子さんとのふれあいを大切にしているご主人。早く帰宅した日は寝る前に絵本の読み聞かせをする
お子さんとのふれあいを大切にしているご主人。早く帰宅した日は寝る前に絵本の読み聞かせをする
寝室は壁の1面を木で仕上げ、落ち着いた印象に。緑が目の前に広がるバルコニー付き
寝室は壁の1面を木で仕上げ、落ち着いた印象に。緑が目の前に広がるバ
ルコニー付き

月1〜2回は、家に留学時代の友人や会社の仲間、お子さんのご友人家族を招いて、ホームパーティーを開く。「料理のおもてなしは主人も活躍。魚を捌いてお刺身をつくったり、ステーキも私より上手に焼いてくれます」(奥さま)と、ゆったりとした環境で家族との時間を大切に過ごす日々を重ねている。


モスグリーンのカーペットとラーチ合板の壁で優しさを感じる空間にコーディネートした子供部屋
モスグリーンのカーペットとラーチ合板の壁で優しさを感じる空間にコーディネートした子供部屋

text_ Sayaka Noritake(colonna) photograph_ Akira Nakamura

取材協力

2つ並ぶシンプルな三角屋根の小屋は、 内部で行き来できるカフェと住居

以前は筑波大学の近くで、カフェを営んでいた池田弘江さん。このときはテナントで、「いつか筑波山が見えるところに独立店舗と住居を構えたい」と考えていた。その夢を実現したのは昨年11月。お父さまから譲り受けた緑地に「ジャーナルカフェ」と名前を改め移転オープンした。
 設計を依頼したのは、「友人の家を手掛けていて、とても素敵だった」(池田さん)というナンバーファイブス一級建築士事務所の土田拓也さん。
 「まわりに立つビニールハウスの形状を取り入れ、三角屋根の小屋が並ぶように住居とカフェをつくりました。また、元の緑地の余韻を残すように、カフェ内の柱を木に見たて、ランダムに配置しています」(土田さん)

物件データ 所在地/茨城県つくば市
面積/店舗:132.24m²
   住宅:92.57m²
築年/2012年8月
設計/ナンバーファイブス一級建築士事務所
www.number555.com
リビング、ダイニング、キッチン、ゲストルーム、寝室と回遊するような間取り
自家栽培した野菜や果物を使ったメニューがそろう。写真はドライフルーツが入ったスコーン

カフェには、オープンなテーブル席のほか、ところどころに半個室的な席や2階席もある。これは、「お客さまが来られるたびに、いろいろな雰囲気を味わえたほうが楽しいと思って…」という池田さんのアイデア。どの席からも緑豊かな風景が楽しめ、筑波山が正面に見える特等席もある。


床座りでちゃぶ台を囲む2階席。小さなお子さんを連れたお客さまに人気がある
床座りでちゃぶ台を囲む2階席。小さなお子さんを連れたお客さまに人気がある
業務用機器が並ぶ厨房。調理している様子が、お客さまの席から見えるようになっている
業務用機器が並ぶ厨房。調理している様子が、お客さまの席から見えるようになっている

裏の畑では、有機栽培で野菜や果物を作り、採れたての素材を使った料理やデザートをお客さまに提供している。一番人気のメニューは「JOURNAL野菜たっぷりヘルシーセット」。 30品目の食材が摂れ、ご飯は五穀米と7分づき胚芽米のブレンド。手の込んだ健康食で1日20食限定だ。酵素たっぷりのジュースを目当てに来店するお客さまも多い。
 「スタッフが料理をつくっているところが見えたほうが、お客さまが安心される」(池田さん)とオープンに設けた厨房を抜けると、住居につながる。


住居の玄関土間。事務室を兼ねる物置やカフェの厨房へ室内で行き来できる
住居の玄関土間。事務室を兼ねる物置やカフェの厨房へ室内で行き来できる
住居の2階は寝室として使っている。将来は半分に区切って子ども部屋にする予定
住居の2階は寝室として使っている。将来は半分に区切って子ども部屋にする予定
住居1階のLDKは天井が高く、開放感いっぱい。キッチンはコンクリートで造作
住居1階のLDKは天井が高く、開放感いっぱい。キッチンはコンクリートで造作

「住まいは、家族でくつろぐLDKを広くとって、あとは寝る場所があればいいと割り切りました。小さな子どもがいるので、すぐにカフェと住居を行き来できるのが便利で、とても助かっています」(池田さん)
 今後は、裏の芝生でヨガやフラダンス教室を開くなど、人が集まる場にしていきたいと話す池田さん。休みの日も、常に「健康にいいこと」を考えている精力的な毎日だ。


text_ Sayaka Noritake(colonna) photograph_ Akira Nakamura

取材協力

涼しく暮らす工夫と知恵がいっぱい 沖縄の伝統を大切に建てた家

関東育ちのご主人と大阪育ちの奥さまは、10年前に沖縄で出会い結婚。数年後、マイホームを建てるために首里城の北西に位置し、那覇で最も多く緑が残る公園に隣接した住宅地に、約65坪の土地を購入した。設計を依頼したのは、ご主人の中学時代の同級生で、現在大阪を拠点に活動している建築家の芦澤竜一さんだ。
「沖縄の伝統的な住居の知恵を生かし、沖縄の光・風・水・植物などの自然環境と豊かな関係を持たせることで、人工的なエネルギーに頼らなくても快適な家をつくりたいと考えました」(芦澤さん)

物件データ 所在地/沖縄県那覇市
面積/109.13m²
築年/2011年9月
設計/芦澤竜一建築設計事務所
http://www.r-a-architects.com/
家は床を浮かせた高床式に。その下に池をつくり、床下からの冷気を室内に取り入れている
夏は畳の一部を穴の開いた板に変え、より一層涼風を取り込む工夫を施している

建物から南北に大きく突き出した軒下空間は、沖縄で「雨端」と呼ばれ、夏場の室内への強い直射日光を防いでいる。雨端を覆うゴーヤーなどつる植物のグリーンカーテンは、日差しを和らげるとともに、隣接する住宅からの視線をシャットアウト。南北とも窓を全開放できる、風通しのよい住まいが完成した。
 「また、敷地は緩やかな斜面にあり、斜面下側から上側へと上昇気流が吹くんです。そこで、地面に池をつくり、床を約1メートル持ち上げて高床式としました。すると、池の水が蒸発するときの気化熱による冷気が上昇気流にのって、床下にもぐり込みます。1階と2階の床には通気口が設けてあるので、涼しい風が室内に流れ込むようになっています」(芦澤さん)


建物の前にある石を積み上げたついたては「ヒンプン」と呼ばれる、琉球民家の魔除けの塀
客間へは、LDKの南側の雨端から直接アクセスできるように配置。客間の戸も全開できる

芦澤さんは機能だけでなく、琉球民家の習わしも家づくりに取り入れることを提案。代表的なのが、家の前に建つ「ヒンプン」。門と家屋の間に設けられる屏風状の塀で、外部からの視線を遮る目隠しとして、また、悪霊が入るのを防ぐ魔除けとしての伝統がある。


2階に設けた家族のライブラリー。真ん中の板を倒すとデスクになり、お子さんの勉強机に
2階に設けた家族のライブラリー。真ん中の板を倒すとデスクになり、お子さんの勉強机に

「娘のお友達が遊びにくると、『おばあちゃんの家に来たみたい』と喜んでくれる子もいます。ヒンプンがあるから、そう見えるのでしょう」(ご主人)
 「沖縄は人のつながりをとても大切にします。だから、家に呼ばれたり、招いたりがしょっちゅう。この家のおかげで友人もたくさんできました」(奥さま) ご夫妻とお子さんにとって、この家は単なる家族だけの空間ではなく、人と自然との触れ合いを楽しむかけがえのない場となっている。


2階の水回り。屋根で受けた雨水は空庭に設置した水瓶と地面に設けた池に流れ込む
2階の水回り。屋根で受けた雨水は空庭に設置した水瓶と地面に設けた池に流れ込む
南北に開放されたLDK。雨端で夏の直射日光を遮り、冬はあたたかな日差しを室内に取り込む
南北に開放されたLDK。雨端で夏の直射日光を遮り、冬はあたたかな日差しを室内に取り込む

text_ Sayaka Noritake(colonna) photograph_ Akira Nakamura

取材協力

風、緑、太陽。自然事象を住まいに生かす。 豊かな土地ならではの健やかな暮らし

三重県で建築家として活動する米田雅樹さんが暮らすのは、水田が平野一面に広がる中に建つ小屋のような一軒家。遠くに山々や市街の街並みを望み、空がどこまでも続いていく伸びやかな眺望が広がる。
 「子どもの頃に憧れた、ツリーハウスのような家がいいなあ、と思い描いていました」(米田さん)。家の中心にある吹き抜けの大空間には、高さ7.5mのアオダモの木。その周りを階段や廊下、各居室が囲み、ぐるぐる回りながら最上階へ登り着く3階建てプランを導いた。家の中を行き来するなかで、幹や葉のやさしい匂いが間近に感じられ、まるで森の中を散策しているかのようだ。 幼い頃からこの土地で育ったものの、大人になってから何気ない自然の一瞬に感動するようになったという米田さん。自身の家づくりにあたり、この敷地条件ならではの環境を最大限生かすことで、エアコンに頼らず、快適な生活を実現したいというこだわりがあった。

物件データ 所在地/三重県松阪市西野々町
面積/168.98m²
築年/2013年
設計/ヨネダ設計舎
http://www.yonedasekkeisha.com/
TEL/0598-67-5948
外壁は白いガルバリウム鋼板の波板。アオダモの高さに合わせ3階建ての住まいとした

「周囲に遮るものが何もない敷地なので、光と風に満たされた空間にしたいと考えました。気象庁が公開している地域別の卓越風のデータを参照したところ、夏は南東からの風が多いことが分かりました。そこで、南側と東側の壁に大きく開口部をつくり、常に涼しい風が流れ込むようガラスではなく、エキスパンドメタルをはめ込んでいます。
一方で、冬は西側からの山風が強烈なので、景色だけ取り込む複層ガラスの窓を採用しました」(米田さん)。


周囲に広がる水田と遠くの山並みが見渡せる2階バスルーム。サッシが隠れるよう窓を設計
3階の北側には、周囲に広がる水田と遠くの山並みが見渡せる2階バスルーム。サッシが隠れるよう窓を設計
3階の北側には、風の抜け道としてエキスパンドメタルをはめた小さな開口を設置した
3階の北側には、風の抜け道としてエキスパンドメタルをはめた小さな開口を設置した

また、この家のシンボルであるアオダモの木も、空気環境の調整に効果を発揮している。夏場は、根から吸い上げた水分が葉からたくさん蒸散し、空気から熱を奪うため、室内の気温を下げてくれる。「本当にエアコンがないのかと思うほど、外との温度差は明らかに違います」と米田さんはいう。葉が落ちる冬場は、太陽の熱が室内を包むため、自然の清潔な空気で暖かく健康的に過ごすことができる。


玄関を入るとアオダモがお出迎え。湿地帯のため、1階はRC造とし、2階以上は木造に
玄関を入るとアオダモがお出迎え。湿地帯のため、1階はRC造とし、2階以上は木造に
ガラスで閉じられていない、ぽっかりと開いた天窓。室内にこもった熱い空気を外に排出
ガラスで閉じられていない、ぽっかりと開いた天窓。室内にこもった熱い空気を外に排出

「木漏れ日が室内に降り注ぐ様子や、 外から舞い込む風が、葉や枝をゆする音を聞きながら楽しむ暮らしは、のどかなこの地の空気にぴったり。自然のままの風の流れや太陽の暖かさを感じられるのは気持ちいいし、少しずつ変わっていく四季の景色や樹木の葉の成長を見ていると精神的に癒されます」(米田さん)。


ダイニングとリビングを結ぶ通路に、本棚とベンチを造り付けて図書コーナーとした
ダイニングとリビングを結ぶ通路に、本棚とベンチを造り付けて図書コーナーとした
2つの子ども部屋の間は、太陽が沈む様子を眺めることができる「夕焼けの部屋」
2つの子ども部屋の間は、太陽が沈む様子を眺めることができる「夕焼けの部屋」

text_ Kei Hoshida  photograph_ Osamu Kurihara

取材協力

窓いっぱいの田園風景とともに暮らす
四季を感じる住まい

のどかな田園風景が広がる長野県安曇野市にKさんご夫妻が家を建てたのは2012年のこと。結婚後、 約10年間はご主人の職場に近い、市外の賃貸アパートで暮らしてきたが、ご主人が生まれ育った地に家を建てたいと土地探しからスタートさせた。
「初めはどんな家にしたい、という具体的なイメージがほとんどなかったんです。そこで、長野市の設計事務所が主催していた「すまい教室」に参加してみることにしました。そこでは、設備や間取りに目を奪われがちな家づくりではなく、『どう暮らしたいか』を中心に据えた考え方を知って感動しました。3回の教室が終わるときには、この設計事務所にぜひ建ててほしいと思っていました」(奥さま)。

物件データ 所在地/長野県安曇野市
面積/96.89m²
築年/2012年3月
設計/(株)誠設計事務所
http://www.sei-house.com
1階はモルタル、2階は板張りで仕上げた、周囲の自然に溶け込む外観

家づくりにあたり、初めに「暮らしの要望」をヒアリングシートに記入していき、それをもとに設計事務所と一緒にプランを考えていった。
「この景色は、実は土地を買った当初はそれほど意識していませんでした。要望は、憧れだった薪ストーブがある暮らしがしたいことと、夫婦で料理が楽しめるキッチンがほしいことぐらい。でも設計者は、最初からこの眺めに重点を置いたプランを考えてくれ、キッチンに立ったときに見える風景を真っ先にデッサンしてくれました。それが本当に心地良さそうでしたし、実際にその通りの眺めになりました」(ご主人)


薪ストーブは玄関の土間に設置。遠赤外線効果が高く、身体の芯から暖めてくれる
薪ストーブは玄関の土間に設置。遠赤外線効果が高く、身体の芯から暖めてくれる
床と天井は南側の開口に向かって1方向に張り、外につながるような開放感を出している
床と天井は南側の開口に向かって1方向に張り、外につながるような開放感を出している

田園風景をたっぷり取り込むリビングを実現するため、1階はワンルームのLDKとし、寝室や浴室など はすべて2階にまとめてパブリックとプライベートを完全に分けた。開放的であると同時に気密性と断熱性を高めたため、夏は朝の涼しい空気を取り込んだ後に障子を閉めておけば、土蔵のようにひんやりと涼しく、冬の天気の良い日は、陽の光だけでも十分に暖かいという。「いちばん気に入っているのは、やはりこの景色。家の中にいても四季を体感できます。薪割りも最初は重労働かも…と心配していましたが、やってみるととてもおもしろいですよ」(奥さま)。家で過ごす時間こそがいちばんの楽しみ。都心では実現し得ない、郊外ならではの暖かく、のびやかな時間が重ねられていく。

引き込みの障子を閉めると、日差しが柔らかく遮られ、また断熱効果も得られる
引き込みの障子を閉めると、日差しが柔らかく遮られ、また断熱効果も得られる
1階のトイレの脇にはパントリー代わりに奥行きのある引き出しを設置。収納力も抜群
1階のトイレの脇にはパントリー代わりに奥行きのある引き出しを設置。収納力も抜群
玄関脇の畳コーナーは障子で仕切ることも可能。娘を昼寝させたりするのに重宝しているという
玄関脇の畳コーナーは障子で仕切ることも可能。娘を昼寝させたりするのに重宝しているという

text_ Takako Yoshida photograph_ Akira Nakamura

取材協力

住宅設備、建材を自ら選定。 「施主支給」で長く愛せる住まいに

家づくりは、簡単にやり直しができない。だからこそ、細部までとことんこだわりたいもの。林さんご夫妻は、設備や建材を自ら選び、調達することで、コストダウンを図りながら大満足の住まいを手に入れた。結婚6年目のご夫妻は共に32歳。長男(4歳)の誕生後、マイホームを建てることを決意した。
「土地は、アットホームのサイトに希望エリアや面積、価格などの条件を登録し、半年強かけて探しました。緑豊かで閑静な住宅街にあり、近くに公園があるこの土地を見て一目ぼれし、即決しました」(ご主人)。

坂の中腹に建つ林邸。前面に突き出た2階のリビングからは、緑豊かな公園が見渡せる

設計は、一緒に家をつくる建築家を紹介してくれるマッチングサイトで出会った、井上玄さんに依頼。  「家事がしやすい動線であること。必要なところに収納があり、さらに大きめの納戸もあること。プライバシーを保ちつつ開放感もあること。私たちの希望は、スキップフロアを多用するプランによって全てかなえることができました」(奥さま)。

物件データ 物件データ所在地/東京都大田区山王
面積/113m2
築年/2012年12月
設計/井上玄/GEN INOUE
www.architect.bz
洗濯機のある洗面室から一直線につながる多目的室とバルコニー。効率的な家事動線を実現

ご主人は家づくりが始まると、その過程を記録するためにブログを開始。「ブログで発信するうちに、他の人の家づくりブログもチェックするようになり、自分たちのイメージにより近い床材を見つけたんです。そこで、自ら見積もりを取って井上さんと工務店に提案し、床材を変更してもらいました。これをきっかけに、見積書をチェックし直して、自分たちでより安く手配できるものを洗い出し、各業者に直発注していきました」(ご主人)。

玄関の床は、安価で耐久性の高いチャンフータという木材を探し出し、採用してもらった

LDKの床材は、ブログ仲間に教えてもらった、ムニンガという木材のヘリンボーン張りに
外壁の一部にもチャンフータを採用。仕上げ塗材はご主人が数種類実験し、決定した

全自動トイレや北欧デザインの照明、シンプルな浄水器などは、デザイン性と機能性にこだわって選び、通販サイトで安く購入。工事現場への持ち込みも自ら手配することで、コストダウンにも成功した。  「井上さんが私たちの希望をじっくり聞いてくれ、できることとできないことを的確に判断してくださったので、本当に納得できる仕上がりになりました」(奥さま)。

ダイニングの照明はシンプルなデザインにとことんこだわり、奥さまがセレクト
すっきりしたデザインと高い機能性を持つ全自動式のトイレは、通販サイトで安く購入

施主支給という方法は、設計者や工務店との綿密なやりとりが必要となり、場合によっては施主の希望がかなえられないことも少なくない。林さんご夫妻はこだわりを一方的に押し通すのではなく、話し合いを重ね、お互いが満足できる家づくりを実現した。

text_ Takako Yoshida photograph_ Akira Nakamura

取材協力

ショップ、工房、住居。職と住、そして家族をつなげるリノベーションビル

岐阜駅から車で5分ほどの寺島町は、昭和40年代に起こったアパレルブームにより、服飾系の町工場が次々に建てられたエリア。その一角にある小さなビルが、井藤さん一家の住居兼ショップ兼工房だ。 ご夫妻がこの古いビルを購入して暮らし始めたのは2004年。複数の拠点を構える生活を見直そうと考えたのがきっかけだったという。
「デザイナーの妻は駅ビル内に洋服店を出店、私はプロダクトデザインの事務所を別に借り、住居は賃貸住宅でした。3つの拠点に家賃を払い続ける生活から、全てを一つにできないだろうか、ビルのような建物ならそれができると考えたのです」(隆志さん)。

2つのビルに挟まるようにして建っている井藤邸。建坪は15坪、間口はわずか4m強。
2つのビルに挟まるようにして建っている井藤邸。建坪は15坪、間口はわずか4m強。
物件データ 所在地:岐阜県岐阜市
面積:約200m² 築年月:1971年
リノベーション年(3、4階)/2010年
設計:スマイルスタジオ www.smile-studio.net/
内階段を設けて3階と4階をつなげた。天井はあえて低くすることで奥行きを出している。
内階段を設けて3階と4階をつなげた。天井はあえて低くすることで奥行きを出している。

この辺りの建物は、1階が車庫、2階が倉庫や事務所、3・4階が住居というつくりが多く、このビルもその典型だった。 築39年で全体的に傷みが激しかったが、とりあえず設計士に頼んで1階を洋服店に改装することに。 2階より上は自力で塗装するなど、DIYで手を加えながら住み始めた。 ほどなく長男の環くんが誕生し、各階が居住空間の外にある階段でつながるつくりは、子育てには極めて不便であったことから、3・4階の住居部分の大規模なリノベーションを行うことにした。

2階は隆志さんの事務所にしていたが、昨年11月、麻紀さんの工房に移行。
2階は隆志さんの事務所にしていたが、昨年11月、麻紀さんの工房に移行。
一段高くしたリビングには隆志さんがデザインに関わった家具が置かれている。
一段高くしたリビングには隆志さんがデザインに関わった家具が置かれている。
1階は麻紀さんが運営するオーダーメイドの洋服店。大きな窓は部屋の奥まで光を届ける。
1階は麻紀さんが運営するオーダーメイドの洋服店。大きな窓は部屋の奥まで光を届ける。

「以前の間取りは、キッチンとリビングがかなり離れていて使いづらかったんです。 また、3階からは4階の寝室の様子がまるで分からなかったために、幼い息子を一人で寝室に寝かせておくことができませんでした」(麻紀さん)。
そこで、3階と4階を内階段でつなげ、キッチンを移動してリビングと一続きに。また、建物の購入時は室内の断熱がされておらず、冬は寒さがこたえたため、この機会に断熱工事も行った。
「この限られた空間では、家具を極力置かない生活がいいと思い、収納はつくり付けにしてもらいました。お気に入りの直径26㎝の大皿を手放したくなかったので、キッチンの収納棚は、このお皿がぴったり収まるサイズになっています。」(隆志さん)。
自分たちの暮らしに合わせた、快適な空間につくり替えてゆくリノベーションは、これからももっと身近なものになってゆくはずだ。

text_ Takako Yoshida photograph_ Akira Nakamura

取材協力

中庭を介してそれぞれの生活を楽しむ、
分離型二世帯住宅

親の老後を心配したり、親に子育てのサポートを希望したりと、さまざまな理由から二世帯住宅を選ぶ子世代が増加傾向にあるようだ。 千葉県浦安市にお住まいのKさんご夫妻も、「適度な距離を保ちながら、高齢の母親を見守りたい」という考えから、実家を二世帯住宅に建て替えることにした。
設計は、ご夫妻の知人で、気心の知れた建築家の方に依頼。 大きな勾配屋根が特徴的なKさんのお宅は、中庭を介して東側がKさんご夫妻の2階建て住居、西側がお母さまの住居。お母さまの住居はダイニングキッチン+居間という小ぶりな造りで、二世帯は主にそれぞれの道路に面した玄関で行き来する。

物件データ 所在地:千葉県浦安市
面積:162.59m² 築年月:2011年4月
設計・施工:H3+ / 星設計室
members.jcom.home.ne.jp/h3plus/
勾配天井を見せた造りのリビングダイニング。開放的で広がりを感じさせる。

2008年に結婚し、しばらく浦安市内の賃貸マンションで暮らしていたKさんご夫妻。 「いろいろなプランを考えましたが、結局、親世帯と子世帯を完全に独立させた形にしながらも、お互いの気配が感じられる住まいづくりを希望しました」(ご主人)。 81歳になるお母さまは、「主人が25年前に他界して以来、身の回りのことは全て自分でこなしてきました。同居するに当たり、息子夫婦に気を遣わずに暮らしたいと思っていたんです」。 もともと広い敷地の一戸建てに1人で住んでいたこともあり、最初は広い部屋を望んでいたという。 「でも、建替えのために仮住まいのアパートに引っ越したら、母も狭い方が掃除もしやすくて暮らしやすいと納得してくれましたね(笑)」(ご主人)。

リビングいっぱいの掃き出し窓の先は中庭。四面が囲われ、外からの視線を遮っている。
2階の掃き出し窓の向こうはルーフテラス。お母さまの住居である屋根裏部分につながる。

2つの世帯が接しているのは、子世帯のルーフテラスから通じる屋根裏部屋のみ。 リビングからは親世帯のキッチンの窓が見え、生活音も多少聞こえるため、お互いの気配がさりげなく分かるという。 「一度、あまりに音がしないので、主人が母の様子を見に行ったことがあるんです。すると、母が風邪薬を飲んだ後にお風呂に入ったらしく、湯船で寝ていました。早く気付いて本当に良かったと思いましたね」(奥さま)。
お互いの暮らしを気遣いながらも、程良い距離感を保つ。二世帯住宅は、これからますますニーズが高まっていくことだろう。

居間の真上に位置する屋根裏部屋。明かり取りの窓からお母さまの気配が感じられる。
お母さまの住居はダイニングキッチンと居間(和室)という造り。程良い狭さで暮らしやすく。

text_ Takako Yoshida photograph_ Akira Nakamura

取材協力

自然の力を生かす省エネ住宅で
賢く楽しくスマートライフ

エネルギーを効率良く使い、無駄なくエコに、心地良く快適に暮らす。
そんな、スマートライフへの支持が高まっている。
夏は暑く、冬は寒さが厳しい滋賀県に住む木戸さん一家の住まいも、そんな暮らしをかなえる、自然の力を生かす工夫が凝らされた省エネ住宅だ。
木戸さんご一家は薬剤師の一博さん(35歳)と奥様の唯さん(26歳)、そして4カ月の陽稀くんの3人暮らし。 結婚当初はご主人の実家で暮らしていたが、昔ながらの住まいで寒く、暖かい家に住みたいと切望したのが、マイホーム購入を決意したきっかけだったという。
「家づくりを決心したのは12 月で、ちょうどその頃に子どもができたことが分かりました。 夫婦ともに寒がりでしたし、実家は浴室が特に寒く、子どもが風呂上がりにヒートショックを起こしたりすることは避けたいと思ったんです」(一博さん)。

吹き抜けが開放的なリビング。空気の循環により天井が高くても年中適温で過ごせるという。
吹き抜けが開放的なリビング。空気の循環により天井が高くても年中適温で過ごせるという。
物件データ 所在地:滋賀県守山市
面積:129.52m² 築年月:2012年9月
設計・施工:株式会社ビルド・ワークス www.buildworks.co.jp/
リビングと一続きになる中庭。掃き出し窓にはひさしが取り付けられ、採光を調節できる。
リビングと一続きになる中庭。掃き出し窓にはひさしが取り付けられ、採光を調節できる。

休日のたびに住宅展示場を回ったり、サイトで住まいづくりのノウハウを調べたりしていく中で出会った、長期優良住宅を標準仕様にした家づくりに取り組んでいる(株)ビルド・ワークスに家づくりを依頼することに。
高い耐震性や、夏も冬も快適に過ごせる断熱性能などを備えながら、採光や通風に考慮したプラン、空間デザインなど、木戸さんが求める住まいへの希望が叶えられそうだったことが依頼の決め手になったという。
シンプルながら印象的な意匠は、住まいの保温性能を示す熱損失係数「Q値」を参考に構築されたもの。
ファサードに設けた壁は、西日を防ぐとともにプライバシーを確保している。
住戸内は熱効率に配慮して開口部を控えめにしながらも、南側は中庭につながる大窓を設け、さらに吹き抜けもつくって開放的に。

バスルームと一続きにつながるキッチンは奥様のお気に入り。効率よく家事ができるという。
バスルームと一続きにつながるキッチンは奥様のお気に入り。効率よく家事ができるという。
2Fにはご主人の書斎と、ネイリストを目指す奥様、それぞれのホビールームを設けた。
2Fにはご主人の書斎と、ネイリストを目指す奥様、それぞれのホビールームを設けた。
子ども部屋は2室。リビングで家族と過ごす時間を増やすよう、あえて小さめに作った。
子ども部屋は2室。リビングで家族と過ごす時間を増やすよう、あえて小さめに作った。

庭に面した窓には、夏の日射しを遮り、冬は家の奥まで日射しが届く奥行きでひさしをつくっている。
床仕上げには、30㎜厚の杉の無垢材を使用し、真冬でも冷たさを感じないようにした。
また、2階の夫婦それぞれのホビールームは、エアコンに頼らなくても快適に過ごせるよう、空気が自然循環する工夫がなされている。
合理的なデザインと、自然の享受、そしてぬくもりあふれる意匠を両立した木戸邸。
これからの時代に見合う、省エネ住宅の好例だろう。

text_ Takako Yoshida photograph_ Akira Nakamura

取材協力

家族とともに年を重ねる、
永く愛せる、永く楽しめる住まい

まるでギャラリーの入り口のような、空から光がさんさんと注ぐ長いアプローチ。
その奥にある玄関を開けると、オープンなリビングダイニングキッチンが広がる。
潔いほどシンプルなこの家に暮らすのは、会社員の石田大介さんと、デザイン事務所でアートディレクターを務める百合絵さん、小学2年生の埜乃(のの)ちゃん。
住まいの完成から1年を迎え、間もなく次女が誕生する予定だ。
都心の賃貸に住んでいたご夫妻が家の購入を考え始めたのは約4年前。
「子どもの小学校入学に合わせて住まいを持ちたいと思い、予算や交通の便、広さなど条件を検討しながら家を探しました。中古マンションや建売、コーポラティブハウスなど、いろいろ見て回りましたが、どうもピンとこなかったんです」(百合絵さん)
結局、あらかじめつくられた枠組みに収まるよりも、自分たちの暮らしに合わせた家を、好きな建築家につくってもらおうという結論に達した。
百合絵さんの実家に近いエリアで土地を探すと同時に建築家を探し始め、出会ったのが八島正年さんと八島夕子さんが主宰する八島建築設計事務所だった。

物件データ 所在地:東京都世田谷区 
床面積:97m²
設計:八島建築設計事務所
http://www.yashima-arch.com
周辺環境の変化に影響されないよう、最低限の開口部とした石田邸の外観。
周辺環境の変化に影響されないよう、最低限の開口部とした石田邸の外観。
タイル床の部分は玄関で、LDK と平坦につながる。階段脇は百合絵さんのワークスペース。
タイル床の部分は玄関で、LDK と平坦につながる。階段脇は百合絵さんのワークスペース。

「八島さんの作品は、日本的で、かつ北欧の雰囲気もあって、僕らのイメージにぴったり合いました。八島さんはご夫婦で一緒に設計のお仕事をされていて、お子さんもいる。私たちの暮らしと重なる部分があったことも大きかったですね」(大介さん)
プランについては、家族の会話が増える空間であること、ホームパーティーを楽しみたいこと、子どもが増えても対応できること、 将来子どもが独立して夫婦だけになっても暮らしやすいこと、という希望だけを伝え、あとはお任せしたと言う。
できあがったのは、1階のほとんどの空間がLDK、2階は2つの寝室と水回り、というプラン。
自宅で仕事をすることも多い百合絵さんの働き方に合わせ、リビングの一角にワークスペースも設けた。

南側が夫婦の寝室。将来は奥の2つの窓の間に壁を作り、2つの子ども部屋に変更する予定。
南側が夫婦の寝室。将来は奥の2つの窓の間に壁を作り、2つの子ども部屋に変更する予定。
2階の北側にある寝室は現在、埜乃ちゃんの部屋。カラフルなファブリックで部屋を彩る。
2階の北側にある寝室は現在、埜乃ちゃんの部屋。カラフルなファブリックで部屋を彩る。

「リビングはただ広い空間なので、家具の配置を変えるだけでイメージが変えられます。また、下の子が大きくなったら、寝室の1つは2つの子ども部屋に分けられるようにつくってもらっています」(百合絵さん)
形を変えることも楽しみながら、家族とともに年を重ねていく住まい。
家族の物語は、まだ始まったばかりだ。

div id="infomationArea"> text_ Takako Yoshida photograph_ Akira Nakamura
取材協力


賃貸と住宅購入の中間を求め、10年で住み切る中古マンションリノベーション

家は一生に一度の買い物ではなくなりつつある。
定住よりも、今の暮らしや近い将来のメリットを考え、住宅を購入する人が増えているのだ。 ともに30歳の会社員である佐久間周一さん、えみさんご夫妻は、1歳になる息子さんの誕生を機に引っ越しを考え、世田谷区内の50m²程度の部屋を想定し、賃貸と中古マンションの購入を比較検討した。
「中古マンションを購入し、リノベーションして10年後に売却した場合を試算したら、10年家賃を払い続ける金額と大差がなかった。それなら、自分らしくつくった家に住みたいと思いました」(周一さん)
購入したのは、東急世田谷線の上町駅近くにある築26年、広さ52m²のマンション。 リノベーションの予算として350万円を準備した。設計は、以前周一さんが勤めていた設計事務所の同僚だったキャンプデザインの藤田雄介さんに相談し、共同設計でリノベーションを進めた。

物件データ 所在地/東京都世田谷区
面積/52.14m²
リノベーション設計/藤田雄介(Camp Design inc.)+佐久間周一
Camp Design inc.www.camp-archi.com

2LDKの間取りに仕切られていた壁を全て取り払い、キッチンを中心としたワンルームの空間に変更。 寝室はクイーンサイズのベッドに合わせた最小限の広さとし、新たに間仕切り壁を新設。 その横にウォークインクローゼットもつくった。 一方で予算内に収めるために、キッチンや水まわりなど、生かせるものは既存のまま残している。
「北側には公園があり、光も風も通るので、南側のバルコニーと抜けがつながるプランを提案しました。さらに、個室の必要性について議論し、10年後に住み替えるなら、そのとき子どもはまだ10歳なので、ここに住む間は不要ということになり、この案に決まりました」(藤田さん)

寝室は静かで落ち着いた空間に」というえみさんの希望から、リビングと壁で仕切った。窓側はオープンにして空間をつなげている。
既存のキッチンに合わせて、リビングと対面するカウンターを新設。キッチンの奥にはパントリーと小さなテラスがある。
キッチンを中心にダイニングとリビングをつなげた一室空間。コンクリートをあらわにした梁が白い空間を切り分けるポイントに。

そうして自分たちらしい住まいを手に入れた佐久間さんご家族。
10年後には売却を予定しているが、絶対とは思っていないと周一さんは話す。 「賃貸と持ち家の中間のような感覚ですね。今後、仕事や家族の状況に変化があるかもしれないし、 あまり先のことを決めつけず、そのとき次第と考えています」
遠い将来に見通しが利かない時代。今の暮らしを大切にすると同時に、近い将来にも多くの選択肢と可能性を残すこうした家選びは、若い世代の共感を呼びそうだ。

元個室の壁を取り払い、キッチンと対面させたダイニング空間には、周一さんの自転車を収納するラックも設置。窓からは公園が見える。
text_Yasuko Murata photograph_Kai Nakamura
取材協力