ネイルサロンにコーヒースタンド。 小商いの夢をかなえた職住一体型の家
基礎コンクリートをむき出しにしたネイルサロン。他の部屋と段差があることで、気持ちを切り替えやすい
2022.06.20

ネイルサロンにコーヒースタンド。 小商いの夢をかなえた職住一体型の家

昔ながらの地域コミュニティーが残る郊外の住宅地に建てた店舗付きの住まい。暮らしと商いを融合させ、地元住民との交流を深める

TRIP
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ご主人の転勤をきっかけに、長年住んだ東京から茨城に引っ越してきたYさん一家。県内のあちこちをドライブで巡るうちに、ある地域に引かれいった。かつて水戸藩下で在郷町として栄えた常陸太田市だ。市内に点在する土蔵や町屋など古い建物を生かした飲食店から、新しい生活のインスピレーションを得たという。Yさん夫妻は、ここに住まいを構えて、地域に根差して暮らしていこうと決めた。「私たちの好きなことや得意なことを通して、地元の人たちと親睦を深めていけたらと思いました」(ご主人)

物件データ 所在地/茨城県常陸太田市
面積/89.43㎡
築年月/2020年6月
設計/藤田雄介・伊藤茉莉子
(Camp Design inc.)
www.camp-archi.com

奥さまはネイリストで、安心して子育てと仕事ができる環境を求めていた。そんなご夫妻が希望したのは、自宅で小規模な商いができる住まいだ。
はたして完成したY邸は東西に広がる敷地に合わせた長方形の建物。道路側に店舗、奥に住居が配されているが、両者は通り土間によって区切れ、一旦、屋外に出ないと行き来できない動線だ。

日差しや雨をしのげる屋根付きの広いエントランスは、格好の憩いのスペース。外壁や屋根材は周辺の住宅に調和する淡いグレーを採用している
深い軒に守られ、リビングダイニングからワンクッション置かれた寝室は落ち着いた雰囲気。勾配天井を生かしてロフトを設けた
軒下は物干しスペースや縁側として活用。ネイルサロンの階段は夫妻が自作。この家に住み始めてからDIYに励むようになった

一見すると別棟だが、一つの大きな切妻屋根で連結されており、互いの様子は見えないものの、小屋裏の空間を介して声や音が聞こえる。設計を担当した建築家の藤田雄介さんはこう話す。「『職』と『住』の場を適度に切り離すことで、私生活を守りながら、にぎやかな町の空気を感じられる住まいを目指しました。町の風景になじむ外観デザインにも配慮しています」

幅約2.70m の大きな玄関扉を開け放つと野外のすがすがしさでいっぱいに。木製の引戸には重厚感があり、閉じればしっかりプライバシーを守れる

住居は玄関側からリビングダイニング、キッチン、寝室の順に展開。奥に行くほど軒を深くして近隣からの視線を遮り、プライベート感が増すよう工夫した。最も奥にあるガラス張りのサンルームが、奥さまのネイルサロン。「自分の好きな場所が、日常の中にあるのがうれしいです」と奥さま。掃出し窓で外から直接出入りできるため、独立した使い方が可能だ。大きな窓から景色を眺め、落ち着いて過ごせるとお客さまにも好評だそう。

年内にコーヒースタンドのオープンを目指すご主人。店舗の半分は厨房で、コーヒー受渡し用の小窓を設けた
東西に視線が抜ける半オープンのキッチン。山の景色がよく見える建物の中央に配置した。シンク前の壁をL字に切り取り、圧迫感を軽減

店舗は、コーヒースタンドのオープンに向けて目下、準備中だ。「町内会には朝市から夏祭りまで、さまざまな催しがあります。それらと関わりながら、かき氷などの軽食や雑貨を販売してもいいかもしれませんね」とご主人は笑顔を見せる。
地域で受け継がれてきた文化と、ご夫妻の熱意が化学反応を起こし、新たな物語が紡がれていく。

text_ Makiko Hoshino photograph_Akira Nakamura
取材協力

HOMETRIP Styles of living

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