家は一生に一度の買い物ではなくなりつつある。 定住よりも、今の暮らしや近い将来のメリットを考え、住宅を購入する人が増えているのだ。 ともに30歳の会社員である佐久間周一さん、えみさんご夫妻は、1歳になる息子さんの誕生を機に引っ越しを考え、世田谷区内の50m²程度の部屋を想定し、賃貸と中古マンションの購入を比較検討した。 「中古マンションを購入し、リノベーションして10年後に売却した場合を試算したら、10年家賃を払い続ける金額と大差がなかった。それなら、自分らしくつくった家に住みたいと思いました」(周一さん) 購入したのは、東急世田谷線の上町駅近くにある築26年、広さ52m²のマンション。 リノベーションの予算として350万円を準備した。設計は、以前周一さんが勤めていた設計事務所の同僚だったキャンプデザインの藤田雄介さんに相談し、共同設計でリノベーションを進めた。
2LDKの間取りに仕切られていた壁を全て取り払い、キッチンを中心としたワンルームの空間に変更。 寝室はクイーンサイズのベッドに合わせた最小限の広さとし、新たに間仕切り壁を新設。 その横にウォークインクローゼットもつくった。 一方で予算内に収めるために、キッチンや水まわりなど、生かせるものは既存のまま残している。 「北側には公園があり、光も風も通るので、南側のバルコニーと抜けがつながるプランを提案しました。さらに、個室の必要性について議論し、10年後に住み替えるなら、そのとき子どもはまだ10歳なので、ここに住む間は不要ということになり、この案に決まりました」(藤田さん)
既存のキッチンに合わせて、リビングと対面するカウンターを新設。キッチンの奥にはパントリーと小さなテラスがある。 |
そうして自分たちらしい住まいを手に入れた佐久間さんご家族。 10年後には売却を予定しているが、絶対とは思っていないと周一さんは話す。 「賃貸と持ち家の中間のような感覚ですね。今後、仕事や家族の状況に変化があるかもしれないし、 あまり先のことを決めつけず、そのとき次第と考えています」 遠い将来に見通しが利かない時代。今の暮らしを大切にすると同時に、近い将来にも多くの選択肢と可能性を残すこうした家選びは、若い世代の共感を呼びそうだ。