「こんな家に住むことになるなんて想像していませんでした。当初、自分たちがイメージしていた家とは全然違う」と笑うTさんご夫妻。 この家が建つのは細長い駐車場の奥。敷地は奥さまのお母さまが所有していたもので、家を建てた今も1階部分は月極駐車場として貸し出している。結婚、妊娠を機に「この駐車場に家を建てたら?」と勧められたそう。ともに大阪市内が仕事場のTさん夫妻が、利便性の良いこの土地に家を建てるのをためらう理由はなかった。
設計を任されたのはご主人の郷里の友人でもある、とのま一級建築士事務所の河田剛さん。当初は「中庭のある2階建てを建てようと思っていた」という夫妻の案を聞き、河田さんは「なんか違うな」と感じたと言う。「Tさん夫妻は音楽が好きで、趣味も多いし、インテリアにもこだわる。そんな個性的な2人だから、別の提案をしてもいいんじゃないかと思ったのです」(河田さん)
そこで河田さんは、手前の3台分を貸出用駐車スペースに、奥を居住スペースにすることを計画。構造を鉄骨にし、LDKや洗面・浴室など生活の中心部分を2階に上げ、1階には寝 室や子ども部屋を配置。2階には薄いスラブを敷き、中庭ならぬ広い屋上庭園、おまけに別棟のホビールームも設けた。1階は月極駐車場以外に2台分のスペースを確保、物置や自転車も置けるゆったりとした空に。2階のLDKと洗面・浴室の引き戸を開ければ、室内と庭がつながり、その境界が曖昧になる不思議な空間が出現する。
1階には中央の階段を挟んで寝室と子ども部屋。それを貫く土間は奥さまのワークスペースや子どものデスクスペース、収納などに利用されている |
「びっくりしました。でも住んでみると暮らしやすいし、なにより開放感があって最高です」とご主人。またL字型に庭を囲むように配置されたLDKと洗面・浴室からは2階が全て見渡せるので、家事をしながらでも子どもに目が行き届く。共働きで2人の子どもを育てる夫妻にとっては、家事動線の良さもうれしいそう。
「この家ではかなり実験的な設計にチャレンジしたと思います。発想を変えれば、土地はもっと有効に、自由に活用できるんじゃないでしょうか」と河田さん。広く開け放たれた2階は月極駐車場の上にいることを忘れてしまうほど。空をより近く感じることができる極上の住空間だった。