南西部に山岳が広がり、豊かな自然と都心の華やかさの両方を兼ね備える札幌市。山を望む住宅街で緑を身近に感じながら暮らしてきた源さんは、親しみある地元に家を新築することにした。購入したのは高低差が約4mある三角形の土地。地盤調査を行うと、一部は平坦であると分かった。 整地したり、高低差に合わせた建物にしたりすると、費用がかかる上に使いにくいため、限られた平らな場所にシンプルな形で建てることにした。
以前のマンションは、フラワーデザインの仕事をするのに手狭なのが悩みだったという奥さま。そこで建築家の髙木よしちか 貴間さんが提案したのが、玄関やアトリエ、ダイニングキッチンのある1階の中央に、大きな吹抜けのインナーテラスをつくるプランだ。ここだけは断熱材を使わず、屋根や壁などで強い雨風を避けながらトップライトや半透明の複合シートで採光性を確保した。
三角屋根の形状を現したインナーテラスの天井。最頂部には天窓があり、 家の中にこもった暑い空気が抜けていく |
自然の光を感じながら伸びやかに過ごせるインナーテラスは、生花の状態を保ちやすく、資材の搬入出もスムーズ。作業場になるほか、暖かい季節はバーベキューを楽しむなど、人と集うのが好きな一家の格好の交流の場になっている。真冬は風除室やサンルームとなり、居住スペースの防寒性を高めてくれるのも利点だ。
「北海道では、高気密・高断熱住宅で室温を一定に保つのが一般的ですが、あえてコントロールされない、季節で使い方が変わるスペースを中心に置くことで、生活に彩りを添えられたらと考えました」(髙木さん) 室内は広さや開放感を得られる工夫が随所に施されている。2階を格子床の廊下にするほか、リビングの壁に隙間をつくり、1階の気配が分かるように。敷地に平坦な部分が少なく、基礎を小さくせざるを得なかったため、木造部分で十分な強度をつけ、一部の部屋を基礎から迫り出してつくることで、床面積を増やしている。
インナーテラスの北側は雰囲気を変え、一段高くしたウッドデッキに。夏場 は涼しく、寝そべったり、お茶を飲んだりしてくつろいでいる |
「仕事ははかどるし、ドアを開ければインナーテラスとダイニングがひと続きになり、夏は特に気持ちが良いです」(奥さま) 既成のスタイルから外れた新しい北国の住まいは、日常に今までにない新鮮さをもたらしている。
ゲストを招くことが多いため対面式キッチンとし、収納は障子で目隠し。上部 のリビングの壁には隙間があり、キッチンに立ちながら家族と会話ができる |