高松の観光スポットにアクセスしやすい住宅街で、若宮さんご家族はゲストハウスを営んでいる。住宅と宿泊施設を廊下で結んだ職住一体の家は、開業と同時に新築したものだ。 「仕事は早朝から深夜に及びますが、行き来がラクなので、拘束されているとは感じません」(ご主人) 2棟は廊下を介しているため、騒音が伝わる心配はない。扉には鍵が備わり、家族のプライバシーも守られている。
中学時代に外国の人々と文通したご主人は、高校時代に国際支援団体に関わり、国際協力の仕事を目指すようになる。しかし、青年海外協力隊で派遣された西アフリカのセネガルで、考えが一転する。 「単身または妻子と異国に赴任する生活が続けば、日本の親兄弟や友人と会うことは難しい。片やセネガル人は、土地に根差し、仕事場は自宅のそば。父親が子どもの服を買いに行くのは当たり前で、親子の距離が近いんです。豊かさを肌で感じて、価値観が変わりました」(ご主人)
ゲストの心が安らぐように、建物のあちこちに和の素材を取り入れた。階段の手すりには、竹を使っている |
同じような生き方がしたいと思いついたのが、故郷高松でゲストハウスを開くことだった。セネガルで同僚だった奥さまも共感し、結婚とともに高松に移住。バックパッカー旅を愛好してきたご夫妻の経験を生かせる最善の選択だった。
「お客さんに親しまれ、家族がホッとできる空間を目指しました」と話すのは、設計者の佐伯博英さん。 天井の梁を現しにして開放感を持たせ、徳島のヒノキの床や宮崎のシラスが材料の壁など、心安らぐ国産の自然素材を豊富に取り入れた。リビングには畳を採用。家族で集ってはくつろいでいるという。和の意匠を散りばめたゲストハウスは、風情があると宿泊客に好評だ。
子ども部屋は、将来、間仕切りすれば個室化できる。今は秘密基地として、想像力いっぱいに遊んでいる |
「掃除の合間に予約を受けたり、お客さんの観光の相談にのったり。暮ら しの傍らで仕事をしています」と、笑顔で話すご主人。助産師の奥さまとは、家事を平等にこなしている。 「各国を渡り歩くのもいいけれど、地元に根を下ろして暮らす方が楽しい。親の働く姿から、息子も学んでいるようです」(奥さま) 何より理想とする生活を体現しながら、家族の物語を紡いでいる。