東京郊外で楽しむ農ライフ 家庭菜園で育てた新鮮な野菜を満喫

3人のお子さんと暮らすKさんご夫妻。ご主人は、かつて畑教室に通った経験から農業の奥深さを知り、以降、日常で野菜づくりを楽しんでいた。奥さまも緑や土と触れ合える自然豊かな環境で子どもたちを育てたいと考えていた。
そんなご夫妻の家づくりのテーマは、「庭でのびのび過ごせる住まい」。しかし、約2年かけても条件に見合う土地が見つからず、頭を悩ませていた。

物件データ 所在地/東京都清瀬市
延床面積/133.09㎡
築年月/2021年5月
設計/松本翔平(相羽建設(株))
aibaeco.co.jp

そんな矢先、ご主人の職場がフルリモートワークを導入することに。通勤の必要がなくなったため、エリアを広げて土地探しを進め、急浮上したのが清瀬市だ。幸運にも視界の開けた約70坪の敷地を見つけ、相羽建設(株)に設計を依頼した。

ウッドデッキは大きな屋根付きなので、雨天でも食事が可能。BBQ(バーベキュー)のときは納屋の開口部からお皿を渡したり、窓枠に材料を並べたりしている

「いかに日々の食卓と畑に関わりを持たせるかを考えました」そう話すのは、設計を担当した松本さん。K邸では家族や友人とだんらんできるよう1階にゆとりを持たせている。LDKに入ると、まず目に飛び込んで来るのが窓の向こうに広がる芝生の庭。庭にはウッドデッキを介して下りられるが、庭に面して納屋と一体になった勝手口があり、向かいの自家菜園に気軽にアクセスできるようになっている。

アイランドキッチンの広いカウンターを机にして、ご主人が仕事することも。ピザ生地をこねられるよう天板はステンレスを選んだ
「火を眺めながら食事がしたい」と、ダイニングに大きなのぞき窓がついた薪ストーブを設置。煮込み料理にも大活躍
LDK横の畳の小上がりで遊ぶ子どもを、料理をしながら見守れる。客室としても使えるようにロールスクリーンを設置

9㎡の自家菜園で育てているのは、キャベツ・ジャガイモ・ナス・トマトなど。コンパクトながら本格的な栽培を楽しんでいる。普段使いの野菜はほぼこの菜園で賄えているという。
「料理中に、『ニンジンがないな、採ってこよう』と思い付き、菜園に出ることもよくあります。成長を見られるためか、子どもは苦手だった野菜を食べられるように。農作業に没頭すると、童心に帰ってリフレッシュできるのも魅力です」と奥さま。

納屋には農具やBBQグッズを収納。混合水栓の水場を設置しているため、冬場も野菜を洗うのが苦にならない
K邸で採れた野菜は、どれも大ぶりで立派。「収穫できたものに合わせて献立を考えるようになりました」と奥さま。日々、料理の腕を振るっている

ご主人は、「BBQ(バーベキュー)のときは火をおこしたりお皿を出したり、準備がつきものですが、わが家はキッチンと庭がひとつながりなのでスムーズに行えます。週末ごとにみんなで楽しんでいますね」と話す。自然体で〝農〞を実践できる住まいが、実りある暮らしをかなえている。

子ども部屋は将来、2部屋に分けることを想定して設計。お子さんが色を選んだアクセントウォールは、作品が飾れるようマグネット式に
text_Makiko Hoshino photograph_Akira Nakamura
取材協力

ビルに囲まれた細長い敷地に建つ平屋。トップライトが空を切り取り 光と風を導き入れる家

大阪を代表する繁華街「梅田」まで自転車を使えば20分弱で行ける住宅密集地。周辺に建ち並ぶ高層マンションやビルの隙間にポツンと置かれたようなシルバーグレーの平屋がある。間口6.7m、奥行き21.6m、南北に細長く伸びた43坪ほどの敷地に建つIさんの家だ。

物件データ 所在地/大阪市都島区
延床面積/90.09㎡
竣工年月/2020年3月
設計/山本嘉寛
(山本嘉寛建築設計事務所)
yyaa.jp

利便性と道路付けの良さを気に入ってこの土地を購入したIさん夫妻。建ぺい率80%、容積率300%の土地であれば、多くの人は上に伸ばす住宅を望むはずだが、夫妻はあえて平屋を建てることを希望した。「以前からフラットハウスに憧れていましたし、倉庫みたいな家に住んでみたいと思っていました。それに無駄に広い家は好みじゃないので」(奥さま)

細長いプロポーションがよく分かる外観。ガルバリウム鋼板の仕上げは「米軍基地にあるカマボコ型兵舎が好き」というご主人の好みも反映している
家の中央を貫く仕切り収納の延長線上に設けられたキッチン。調理スペースは2人で使っても十分な広さで、必要なものはすぐ手に届く配置になっていて使いやすい

夫婦2人であれば平屋でも十分な居住空間がつくれそうだが、この家にはさらなる条件が。化粧品の卸業を営む夫妻、家には仕事場を併設することと、横浜で一人暮らしをしていた夫の母が同居するためのスペースも求められたのだ。
設計を託されたのは山本嘉寛建築設計事務所の山本嘉寛さん。山本さんは事務所と倉庫、夫婦の個室に母親の部屋を備えた、職住一体の二世帯住宅を平屋でつくるという難題に取り組むことになった。

 
母親の部屋の奥にはミニキッチンも設置。全てのスペースにこの部屋のようなトップライトを設けて、室内に光を取り込んでいる
夫妻それぞれのワークスペースを設けた細長い事務所。座ったときも後ろを通ることができるサイズに計算されているので、取引先との簡単な打合せも可能

間取りは道路に面して玄関と打合せ室、趣味室を兼ねた広い土間。ここに事務所と倉庫が隣接する。奥へ向かって夫妻の個室や水回り、収納などが続き、庭に面したLDKや母親の部屋へ至る。土間から見ると中央が収納で仕切られ、左右をパブリックゾーンとプライベートゾーンに分節しているのが分かる。
南に立つ28階建てのマンションをはじめ周囲を道路やビルに囲まれたこの平屋に光と風を届けるのは各スペースの天井に設けられたトップライト。「明るさはトップライトからの光で十分。窓からは高い空が見えるし、伊丹空港を発着する飛行機上からも家が見えるんですよ」(夫妻)

小さな庭に面したLDK。庭は北側にあるが、移植した植物が力強く根を張っている。合板で仕上げられた壁には好きな絵を飾ってギャラリーコーナーのように使用

若い頃からバイクに親しんでいたという夫妻が暮らしたかったのは、ざっくりとした質感でラフに過ごせる個性的な家。ナラフローリングの床、壁と天井をファルカタ合板と白い塗装で仕上げられた室内は、夫妻が思い描いていた雰囲気を漂わせつつも品のある仕上がりに。夫妻が望むテイストを兼ね備えながらも落ち着きを感じさせる空間になった。「私たちの代が終わっても、この家が100年先まで住み継がれていってほしい」(ご主人)という思いもまた個性的なのである。

多目的に使える土間空間。正面左が事務所スペースで、右がプライベートスペースへと続く。右手には商品を収納する倉庫も設けられた
取材協力

子どもや孫が住み継げる 可変性のある都市型3層住宅

都心の私鉄駅からほど近い閑静な住宅地。周辺にあるゆったりとした住宅が濃い緑をたたえている。このエリアで暮らしていたOさん夫妻は、親しんだこの地での住替えを考えていた。そして見つけたのは、40坪ほどの北側の傾斜地。道路面には車庫が掘り込まれ、その上部が更地になっていた。

物件データ 所在地/東京都渋谷区
面積/168.35㎡
築年月/2021年10月
設計/駒井貞治(駒井貞治の事務所)
komaino.com
構造設計/オーノJAPAN
施工/水雅

「立地もいいし、広さも十分。ここで平屋でも建てて暮らせればいいなと思っていました」とご主人。しかし相手は傾斜地。きっと難しい工事になるだろうと考えた夫妻は、建築家の駒井貞治さんに相談することにした。実は駒井さんはご主人の義理の兄にあたる。

隣地の階段を見ると、土地の傾斜具合がよく分かる。車庫と1階の壁面の木質感が、RC造の硬質なイメージを和らげている

駒井さんが提案したのはRCの三層住宅。傾斜地に家を建てるには、地盤の造成工事だけでもかなり費用がかかる。そのうえに家の工事費も。そこで駒井さんに、車庫から2階まで基礎と住宅の構造が一体化した躯体をつくり、内部を可変性の高い木造で造作するというアイデアがひらめいた。RCの堅牢な建物は、何度でも形を変えられ200年先までも住み継げるというのがコンセプトだ。

中庭を介して2階とつながる1階の洋室。現在はシアタールームとして使っている。車庫へは中庭からの階段で、玄関を回らずにアクセスできる
2階北側に設けられた広い寝室。壁やドアなどはつくらず、広い空間を収納家具で3つに仕切り個室スペースとしている
 
2階の中庭に架けられたデッキ。四方がガラス戸で仕切られているので、室内でも屋外にいるような開放感が味わえる。洗濯物の乾きも抜群だとか
オープンなLDKに似合う浮遊感のあるデザインのキッチン。キッチンの裏には洗面浴室があり、左奥には小ぶりながらも落ち着いた雰囲気の和室を設けた

「模型を見たときに、カッコいい! と思いました。私はイタリアのトスカーナ地方にあるようなクラシカルで味わいのある家が好みなのですが、こんなモダンな家に住むのもいいかなって」(奥さま)
地階は車2台と物置を兼ねた車庫。1階は玄関と個室、ワークスペースがあり、空まで吹き抜けた中庭を囲んでいる。2階はLDKと広い個室に水回り。

1階のワークスペース。現在はカウンターを設置しているが、給排水できるよう設計されているので、将来的にはキッチンやユーティリティーに変更が可能

「毎日の暮らしは2階のワンフロアでほぼ完結していますね。マンションのようで暮らしやすい。さすがに200年後のことは想像できませんが、子どもが家庭を持ったら、私たちは1階に移って、二世帯住居にすればいいと思います。そのためにワークスペースは、将来のキッチンスペースにつくり替えられるようにしてあるんです」(奥さま)。
この家を建てると、会社の社員寮で暮らしていた長男が帰ってきたという。200年後も住み継げるというこの家は今後の家族の変遷や時代の変化を末永く見続けていくことになるのだろう。

変遷のイメージ模型。現状(左)から、2世帯・3世帯同居や一部賃貸など木造部分の増改築を繰り返すことが可能(中)。構造体の耐久性が高いため、200年後でも土を入れて自給自足のための菜園をつくることもできる(右)
取材協力

プライバシーを確保しつつ、 内と外を緩やかにつなげる。 家族が自由に過ごせる居場所のある家

兵庫県川西市の丘陵地に建つ、深い軒と3つの屋根が印象的なこの家は建築設計事務所を主宰する川西敦史さんの自邸。季節の草木に彩られたロックガーデンのような庭の向こうに、格子戸を介して中の気配がうっすらと感じられる。

物件データ 所在地/兵庫県川西市
リノベーション面積/130.10㎡
リノベーション年月/2020年7月
設計/川西敦史(川西敦史建築設計事務所)
akawanishi.com

「3人の子どもたちと毎日慌ただしく暮らしています。夫に希望したのはプライバシーを守りながら、落ち着いて生活できる家でした」と川西さんの奥さま。
「妻の希望も反映させながら、明るく開放的な室内と自然を身近に感じられるような空間を考えました。平面はL字をずらして組み合わせる形にして、3つの庭と連続性を保ちつつ密接につなげました。上下にもレベルの変化を持たせることで、家の中に性格の異なるたくさんの居場所をつくりました」と川西さん。

3つの切妻屋根と平屋を組み合わせた独創的な外観。2階の個室からは平屋の屋根に出ることもできる。表の庭にかぶさるような軒が庭と家を連続させている

建物にロの字型に囲まれた中の庭は、ダイニング、居間、寝室と大きな窓でつながり、室内に居ながらも外との連続性を感じられる場所。この庭は南の裏の庭とテラスで連絡し、子どもたちが行ったり来たり。一方道路に面してあるのは駐車場を兼ねる表の庭。玄関脇の格子戸が家の内外を緩やかに関係付けている。

居間と通路でつながる独立型のダイニングキッチン。キッチンはオリジナルで造作した。背面の壁に貼られたタイルも個性的
子どもが腰掛けているのはアトリエと中の庭を仕切る窓框。ベンチとしても使えるよう奥行きを深く取ってある。明るい木漏れ日が射し込む居心地のいい場所
 
道路側に設けられた浴室もその間に坪庭を設けることで、プライバシーを守りながら開放的な空間に。前庭の格子と呼応するような板張りで仕上げている
玄関の手前に設けられた前庭には少し角度をつけた格子が掛けられ、郵便ポストがある。このバッファゾーンで、内と外が付かず離れずの関係で保たれている

ここはDIYや薪割りをする場所にもなる。室内は天井高の変化によって性格の違うさまざまな空間を生み出している。居間は2階までの吹抜け。キッチンダイニングは、かまぼこ型が特徴的なヴォルト天井を採用。居間との対比が際立つ落ち着いた空間になった。天井の低い玄関隣のアトリエでは趣味や作業に没頭できる。2階、3階は3つの部屋と書斎。各部屋の天井は切妻の屋根を表しにした、意識が上にも抜けるような空間に。また各部屋にも小さなテラスが付けられていて、いつでも屋外とのつながりを実感できる。奥さまのお気に入りはダイニングで2つの庭を眺めながらくつろぐ時間。「短い時間でも庭を眺めているだけでリフレッシュできます」(奥さま)。

廊下も取り込んだアトリエスペース。ここはテレワークスペースとピアノスペースを兼ねているが、背中合わせに配置しているのでお互いが気にならない

子どもたちは家じゅうを走り回り、階段や廊下で本を読んだり、寝そべったりする。その日の気分で自分だけのお気に入りの場所を探しているようだ。夜になれば長男は自室のテラスから天体望遠鏡で星を観測する。平面や上下のズレが生み出したさまざまな居場所は外部とも自然につながり、日々の暮らしをより豊かなものにしている。

中の庭から南方向を見たところ。右手は平屋の寝室、左手は2階建てでダイニングと子ども部屋が重なる。2階のテラスからは眼下に大阪方面の街並みを一望できる
取材協力

築35年の自宅の1階をカフェに。 お客さまの笑顔に支えられる第二の人生へ

 閑静な住宅街に現れる、温かな木の壁と大きな窓を備えた一軒家。「いらっしゃい」と語り掛けるような家の形をした扉を開けると、キッチンに立った店主が笑顔で迎えてくれる。39年間、小学校の養護教諭をしていたMさんは、約3年前に自宅にカフェをオープン。そのきっかけは、教諭時代の経験にあるという。

物件データ 所在地/札幌市南区
面積/44.50㎡
リノベーション年月/2018年5月
設計/伊藤宏行(アトリエココ)
www.ateliercoco-sapporo.com
コーディネーター/白取真美(ルチルデザイン)
www.rutiledesign.com
施工/高杉工務店
takasugi-k.com

「生徒の中には家庭に困難を抱えている子が少なからずいて『おいしいご飯を食べさせてあげたい』と常々感じていたんです。一方で、先生たちの苦労も絶えなくて。公務員の枠から離れ、誰もが気軽に立ち寄って心と体を大事にできる場所をつくりたいと考えていました」(Mさん)

通りから店内の様子が分かるように窓を大きく、入口扉をガラス戸に変更。夜になると明かりが漏れて、訪れる人に安心感をもたらす
大幅なリフォームは1階のみで、住居スペースの間取りは既存のまま。住宅玄関に入って左手に店舗とつながる引き戸があり、行き来がしやすい

やり残した仕事の目処が立ったことから、定年を待たずに退職することに決め、仕事をしながら開業の準備を始めた。店舗は当初、駅近の物件を借りるつもりでいたが、「90歳のおばあちゃんになってもお店がしたいと思ったら2階を住居スペース、1階をカフェにするのがいいと気づいたんです。階段を下りるだけで仕事ができますから」とMさん。料理も経営も素人で心配は尽きなかったが、いろいろなカフェを見て回り、開業支援のスクールで学ぶ中で「まずはやってみよう」という気持ちになったという。

庭にアオハダを植栽。「枝が細く、葉が小さいので壁に映る影がきれい。夏の強い日差しや視線を程よく遮ってくれます」(Mさん)

「くつろげる空間を」と建築家の伊藤宏行さんに依頼した。「ほっとできる家庭的な雰囲気になるようシステムキッチンや自然素材を取り入れています。大人数のテーブル席、ひっそり過ごせるカウンター席を用意し、思い思いに過ごせるようにしました」(伊藤さん)
Mさんにとってカフェは住居の一部。閉店後に食事を摂ったり、ちょっとした家事を済ませたりとリビングのように使っている。メニューは塩麹、醤油麹などの発酵食が中心。マイペースな時間と良質な食事のおかげで、まず自分自身が健康になれたという。

断熱材を入れ替え、壁を補強して築35年の住まいをアップデート。ゆったり配したテーブルとパイン材の床が、和やかなムードを醸し出す
北側は壁でふさいでいたが、裏山の景色を生かすべく、大きな窓をつくってカウンター席に。ときにエゾリス、キツネが訪れる特等席

「来た人に『ほっとする』と言ってもらえるのが何よりの喜び。家が生まれ変わり、私自身もリラックスできるようになりました。最初は一緒に働く仲間がいなくて心細かったですが、今は自営業者のつながりを楽しんでいます。やりたいことに素直に行動すると、縁が広がるものですね」とMさん。変わらないアクティブな姿勢が、第二の人生を輝かせている。(海老原さん)

教諭時代の同僚や親御さんのほか、ふらりと立ち寄る1人客も多い。仕事の合間や閉店後に自らほっとひと息。カフェはMさんの暮らしそのもの
text_ Makiko Hoshino photograph_ Akira Nakamura
取材協力

キッチンではいろんな家事を同時進行。 開放感と穏やかさに包まれたコートハウス

海と山に囲まれた風光明媚な愛知県蒲郡市にIさん家族が暮らすコートハウスがある。ご主人は大学卒業後、会社員を経て、家業のイチゴ農家を継いだ。奥さまは保育士。子どもは小学生と幼稚園児の元気な男の子が2人。これで忙しくないはずはない。
 

物件データ 所在地/愛知県蒲郡市
面積/138.82㎡
築年月/2015年2月
設計/松原知己(松原建築計画)
matsubara-architect.com/top.htm

奥さまは保育園で午前中の勤務を終え帰宅すると、山のような家事をこなさなければならない。「仕事から帰るとすぐに夫と自分の昼食の用意。午後は、幼稚園のお迎えや習い事の送り迎え。帰ると夕飯の準備。同時に洗濯などもしているので、夕食を終えるまでは、キッチンに立ちっぱなしですね」と話してくれた奥さま。

コの字型に囲まれた中庭には芝を敷き詰め、シンボルツリーとしてアオダモを植えた。スタディコーナー前には、メンテナンスフリーの大谷石でテラスをつくった
道路から見た外観。背の低い塀や植栽で緩やかに仕切られている。右側イチゴハウスの横から裏動線へ通じる。左はご主人の事務室と趣味室を兼ねた「離れ」

そんな忙しい家族の生活の中心がこのキッチン。ここに立つと、廊下に設けられたスタディコーナーへ視線が通り、中庭の緑を眺めながら、家事をこなすことができる。
ご主人は「畑の一角に建てる職住一体型の家なので、オンとオフは分けたかったですね。ならば中庭のある家がいいのかなと。でも閉塞的になるのではなく、光や風を取り込んだ開放感のある家にしたかった」という。

正面の引き戸の奥が家事室、サービスコート、外部へと続く裏動線。キッチンは清潔感のあるステンレス製。背面には、里山の風景を遠望できるハイサイドウインドーも
リビングからDKを望む。リビングは2段ほどスキップしているので、平屋でありながら、高低差のある空間の変化も楽しめる。リズミカルな現しの梁も印象的

設計を任されたのは、松原建築計画の松原知己さん。提案したプランは、コの字型に中庭を囲んだ「母屋」と、ご主人の事務室と趣味室を兼ねる「離れ」を組み合わせた平屋のプラン。回りは背の低い塀と常緑樹で囲い、外部と程よくつながりながらプライバ シーも守られるよう計画した。

キッチン内側には、奥さまこだわりのタイルを貼った。「ここにいると、スタディコーナーやLDまで目が届きます。中庭の抜け感も気持ちいいですね」(奥さま)

また、ご主人が農作業から帰ってくるための裏動線も設けた。職住一体型住宅だからこそ、オンとオフをうまく切り替えるための仕掛けが必要というわけだ。「母屋」と「離れ」からは、いつでも中庭の様子を眺めることができる。

カウンター下を掘り下げたスタディコーナー。DKとの仕切りには引き込み戸が設けられている。子どもが勉強に集中したいときはここを閉める

キッチン、リビングの外壁側に設けられたハイサイドウインドーからは、イチゴのハウスや遠くに里山の風景を望むことができる。内を見ても、外を見ても、場所によって変化に富んだ景色に出会うことができるのだ。
 小学三年生の長男の将来の夢は「イチゴ農家になって、お父さんと一緒に働くこと」。親の働く背中を見て育つ。職住一体の住宅は自然とそんな環境を整えてくれる。

取材協力

収穫から料理まで自然の中でワイワイと。 家庭菜園の楽しみが増す、土間のある家

「野菜を育てたり、DIYをしたり、つくることが好きです」と話すSさんは、いつか自然を感じながら暮らしを満喫できる一戸建てを建てたいと思っていた。奥さまと2人で地元の豊橋市の賃貸マンションに住んでいたが、新築するならローンを組みやすい30代前半のうちにと一念発起。自らの足で時間をかけて理想の土地を探し回った。畑を宅地造成したこの敷地は、豊橋駅から車で約15分ながら、目の前が山々と田畑の一大パノラマ。南側は建設が制限される市街化調整区域なので、この先、風景を壊されることはない。地盤が強いことも分かり、「これ以上の好条件はない」と購入を決めた。
 

物件データ 所在地/愛知県豊橋市
面積/111.00㎡
築年月/2018年11月
設計/伊藤博昭(㈱イトコー)
itoko.co.jp

せっかくなら地元の工務店と建てたいという思いと、「自然と寄り添う家づくり」に共感したことから、東三河で展開する建築会社「イトコー」に依頼。設計者の伊藤博昭さんから受けた提案は、思いもよらないものだったという。

深い軒が夏の強い日差しを遮り、室内の温度上昇を防ぐ。両隣の家からの視線に配慮して建物を少し斜めに振っている
南に向けて大開口を設けることにより風をたっぷり取り入れることができる。壁の一部に設けたルーバー越しに訪れる人の気配が分かる

「この環境をいかに暮らしに落とし込むつくりとするかが、Sさんらしいライフスタイルを実現させる鍵でした」と伊藤さん。畑に面した南側を大きく開き、「屋根」「キッチン」「家庭菜園」「家具」までを備えた土間スペースをつくった。ここは自然の開放感を味わいながらくつろげる第2のLDK。

2階への動線の短縮と落ち着いた雰囲気を出すため、天井を低く設定したリビングダイニング。梁や下地をむき出しにして開放感を高めた

野菜は土間の先にある庭に置いた大型コンテナで育てている。腰を屈めずラクに手入れができる上、収穫、調理、食事、片付けまでをシンプルな動線で行えて、家にいながら気軽にアウトドア気分を楽しめる。庭からゲストを招きやすく、DiYの作業場にも最適。引っ越して数カ月だが、早くも道具箱や棚づくりなど、得意の木工にいそしんでいる。

2階は寝室や浴室を配したプライベート空間に。1階の来客を気にせず入浴できる。また個室は引き戸でフレキシブルに間仕切ることが可能
2階の洗面スペースは、朝気持ち良く過ごせるように2面に開口部を設けて大きな鏡を設置した

「朝起きて景色を眺め、植物の手入れをするのが日課に。料理に凝ったり、近所を散歩したり。自然に親しむようになりました」(奥さま)
 「季節の移り変わりを眺められるのがぜいたく。家の居心地が良いので、外出が少なくなりました」(ご主人)

ロフトはご主人のワークスペース。「DIY好きなので、将来は棚をつくるなどして倉庫のように使いたい」とご主人
text_ Makiko Hoshino photograph_ Susumu Matsui
取材協力

緑の借景と傾斜地の特性を生かした自然を身近に感じる六角形の住まい

区域のほとんどが高尾山麓から三浦半島に向かって広がる「多摩丘陵」からなる町田市は、町田駅周辺など一部に平地がある以外は大半が丘陵地。おのずと住宅もその起伏への対策をとった建て方が必要になる。建築家の奥さまとドッグトレーナーのご主人の家は、まさにその好例。勾配をメリットに変え、自分たちらしい住まいを実現している。

物件データ 所在地/東京都町田市
面積/135.08m²
築年月/2015年6月
設計/平真知子(平真知子一級建築士事務所)
www.tairaken.com

自宅でドッグトレーニング教室を開きたいというご主人の思いから、新築を決意した二人。「新宿などの都心に行きやすく、丹沢をはじめとした山地も近い。以前から住んでいた町ですが、山登りをする私たちにとって、改めて見ても最良のエリアでした」(ご主人) インコやゴールデンレトリバーと、自然に親しみながら暮らしたいと思ったご夫妻は、「緑に隣接して見晴らしが良いこと」を条件に町田市内で土地探しをスタート。そして公園の雑木林に面した傾斜地を見つけた。

傾斜がある芝生の庭は、愛犬ピークが足腰を鍛えるのに格好の運動場。土からの強い圧力を受け流すため、基礎内部に斜めの空洞をつくっている
2階は生活動線に合わせて部屋が配され、回遊できるつくり。「部屋がオープンだと孤立しないので、ラクな気持ちで家事ができます」(奥さま)

「擁壁が新しい土地は価格が高めで、古いと逆に改修工事費がかかってしまいます。であればその分の費用で好きにつくってみたいと思い、公園との連続性を出すために、斜面にそのまま建てることにしたんです。基礎部分は地下室とし、外からも出入り可能なドッグトレーニングルームに活用しています」(奥さま)

階段脇の壁に本棚を造作。移動するついでに手にとるなど、便利に使っている。近くに書斎があるので資料本の整理にも役立つ
「朝一番に景色を楽しみながら歯磨きができて幸せ」と奥さま。洗面台の木 製カウンターは、洗濯物を畳むときなどにも役立っている

近隣の視線を遮るように考えられた建物のフォルムは、六角形。その形に合わせたという間取りも、実にユニークだ。1階の真ん中は、吹抜けのダイニング。それを取り囲むようにキッチンや寝室をはじめ、計 12 個のスペースを配している。 「2人とも家で仕事をするので、いろいろな居場所をつくりつつ、それでいてお互いの気配が伝わるようにしたかったんです」(奥さま)

愛犬ピークが年老いても過ごしやすいよう、床はフラットに。無垢材は肉球 に負担の少ない、柔らかなカラマツ材を使っている

使う素材を変えるなどして一つ一つの部屋に表情を与えながら、家全体をワンルームのようなオープンな空間に。公園と庭側方向に計3つの大きな窓をつくり、森に包まれるような気分を味わえるようにした。 「朝も昼も晩も、外に行かず家で食事をするんです。少し疲れたらリビングなどでくつろいで、1日中家の中で過ごしています」(奥さま)

4階くらいの高さにある迫力ある枝葉を間近で見られるのは、傾斜地に建て たからこそ。寝室の天井は傘を広げたような六角錐に
text_ Makiko Hoshino photograph_ Hideki Okura
取材協力

江戸期から続く町家を、家族がつながる開放的な住まいにリノベーション

「町家の魅力は、奥行きがあって、迷路のようなところ。この先には何があるのだろう? とワクワクするんです。子どもの頃、お正月やお盆に古い町家に住む祖父母の家に行くのが楽しみで、ここに来ると家じゅうを探検して遊んでいました。この幼児体験が、建築の世界に進むきっかけになったのかもしれません」

物件データ 所在地/奈良県御所市
面積/139.4m²
リノベーション竣工年月/2011年7月
設計/吉村理(吉村理建築設計事務所)
yoshimura-arch.main.jp/myblog/

そう話す吉村理さんは、関西を拠 点に活躍する建築家。約10年前に亡くなった祖父母の町家を引き継いで、家族5人で住んでいる。敷地は江戸・ 明治時代からの町家が多く残る歴史的な町並みの一角にあり、築年数は約180年、延床面積約500㎡の 広さ。かつては「花内屋」の屋号で反物問屋や、「ひょうたん 瓢簞屋」の屋号で薬屋などの商売をしていたという。

江戸から明治期に一般的だった「つし厨子2階」と呼ばれる町家の建築様式。2階の天井が低いことが特徴
町に開放しているギャラリー。現在は大阪の作家・大久保英治さんの作品を常設している

吉村さん一家がこの家に住み始めた当時は、雨漏りや水漏れ、冬は隙間風に悩まされ、設備機器も古く、生活していくには厳しい状態だった。そこで2011年に家族の生活空間だけリノベーションを敢行。
「江戸時代から残るしっかりした家で、何世代にもわたって大切に住み継がれた家なので、町家の根本的なつくりは基本的に残し、今の生活に合うようにリノベーションしました」(吉村さん)

ロフトに続く階段室に本棚をつくり、図書コーナーに。階段の奥には勉強机やピアノも置かれている

 リノベーションの中心はLDK。土間のキッチン、リビングダイニングをワンルームでつなげ、大きな開口部で既存の庭と一体になるように計画。 庭から半屋外の土間、そして内部空間へ滑らかに連続しながら、行き止まりのない回遊動線を実現した。子どもたちも、いつも楽しそうに走り回っている。

ロフトは約28㎡。子どもたちの遊び場になっている。天井、柱、梁は約180年前のもの。床は吉野スギに
「土間キッチンは掃除がラク」と奥さま。天板はモルタル仕上げ。背面の収納は全て襖で隠せる

 扉やドアなどの建具は全て昔のものを再活用。リビングダイニングの壁と天井は再生土を利用した。食卓テーブルも昔の陳列棚を使うなど、できるだけ既存のものや古材を大切に生かしている。
 通りに面したギャラリーは、地域のお祭りのときなどに、イベント会場や喫茶店として開放している。  「今まで以上に町の人に活用してもらえるよう、気軽に立ち寄れる場を積極的に提供して、町と家族の新しいつながりをつくっていきたいと考えています」(吉村さん)

大開口で庭とつながる開放的なリビングダイニング。壁、天井は再生土。正面はテレビが収まる壁面収納
text_ Sayaka Noritake(colonna) photograph_ Hideki Okura
取材協力

豊かな自然環境を育み継承する、 緑・住・農一体型の新しい住まい方

つくば市の中心地から約3km、数百年前からの田園風景が広がる町「春風台」。屋敷林と谷地田に囲まれた水はけのよい台地で、河川の氾濫による洪水や山崩れによる土砂災害の心配がない地域である。北方には筑波山が美しく眺められる。

物件データ 所在地/茨城県つくば市春風台
面積/195.05m²
築年/2014年3月
宅地造成/UR都市機構
harukazedai.com
※「緑住農一体型住宅地」は、定期借地権の分譲
もあります。
低密度開発方式によって開発された春風台。広々とした敷地に個性的なデ
ザインの家々が並ぶ

この地域に、宅地に緑地と農地を組み合わせて付加価値をつけた「緑・住・農一体型街区」の造成が進められている。これは、道路に面した12mの部分を緑地にして景観を共有するデザイン(景観緑地)とし、隣家との間に果樹・菜園の農地を配置した、日本では初めての試みである。 春風台・桜中部地区まちづくり協議会の酒井達さんは話す。「環境共生型住宅地として有名なアメリカ・カリフォルニア州のヴィレッジホームズや、シカゴ郊外のオークパークといった海外の一流と呼ばれる居住街区を参考に、『低密度開発方式』を取り入れることにしました」
 約100坪の住宅地に対して約60坪の景観緑地を各戸に配置し、住宅と住宅の間にゆとりをもたせる。さらに、農作業ができる約40坪の菜園も配置可能とし、「緑住農」が一体化した、自然に接したゆとりのある宅地開発を成功させた。


M邸は上品な佇まいの輸入住宅。グレーの外壁や白い玄関ドア、玄関ポーチの柱が印象的
M邸は上品な佇まいの輸入住宅。グレーの外壁や白い玄関ドア、玄関ポーチの柱が印象的
景観緑地に植えたシンボルツリーはコナラ。涼しげな樹形で洋風の外観にマッチしている
景観緑地に植えたシンボルツリーはコナラ。涼しげな樹形で洋風の外観にマッチしている

新しくなった春風台に、横浜から移住してきたというMさんご夫妻を訪ねた。輸入住宅の背後には菜園が広がり、海外の田園都市の風景を彷彿とさせる。  「私は10年間、つくば市にある国の研究所に通っていて、茨城は自然がきれいで、食べものがおいしいことに気が付いていました。これから住むなら、生産地に近いところに住みたいとずっと思っていたんです。そんなとき春風台の存在を知り、説明会に参加して考え方に賛同。ここに居を構えることを決めました」(ご主人)


家の裏にある40坪の菜園。タマネギ、ニンニク、カボチャなど20種類以上の野菜を育てている
家の裏にある40坪の菜園。タマネギ、ニンニク、カボチャなど20種類以上の野菜
を育てている
今まさに収穫どきの枝豆。採りたてを塩ゆでしていただくと、歯ごたえがあり至極の味だそう
今まさに収穫どきの枝豆。採りたてを塩ゆでしていただくと、歯ごたえがあり至極の味だそう

これまでほとんど野菜づくりの経験がなかったというご主人だが、菜園では20種類以上の野菜を育てている。今では毎日の手入れが一番の楽しみになった。「自然豊かで景色がよくても、不便なところが多いかも知れませんね。でも、ここは10分も歩けばスーパーもそろっていて、車を使わなくても便利に生活が送れるのでありがたいです」(奥さま)


ダイニングと引き戸でつながるキッチン。奥さまの希望でアイランド型を採用し、サブシンクも設けた
ダイニングと引き戸でつながるキッチン。奥さまの希望でアイランド型を採用し、サブシンクも設けた
遠くに望む筑波山やのどかな春風台の眺めは、窓を開け閉めするときの楽しみになっている
遠くに望む筑波山やのどかな春風台の眺めは、窓を開け閉めするときの楽しみになっている

text_ Sayaka Noritake(colonna) photograph_ Shinsuke Sato

取材協力

「空」を活用して住み良い環境づくり。 多世代が交流できるシェアハウスが誕生

泉北ニュータウンは、現在約13万人、5.4万世帯が住み、西日本最大級の規模を誇っている。しかし、街開きから48年を経て徐々に高齢化が進み、老年人口比率が全体の約30%を占め、35%を超える住区もあるという。団塊の世代が最多なことから、今後、急速な高齢化や空き家・空き店舗の増加が懸念されている。

物件データ 所在地/大阪府堺市
面積/134.28m²
築年/2014年
www.city.sakai.lg.jp/shisei/toshi/senbokusaisei/index.html
広々とした玄関土間。外にいる人と会話ができるように、右側の壁に大きな窓を設けた
広々とした玄関土間。外にいる人と会話ができるように、右側の壁に大きな窓を設けた
増築して設けたキッチンは庭に面し、自然光がたっぷり注ぐ。皆で使いやすいオープン収納に
増築して設けたキッチンは庭に面し、自然光がたっぷり注ぐ。皆で使いやすいオープン収納に

こうした問題に向き合い、泉北ニュータウンの再生を図るさまざまな取り組みを行っているのが、地元のNPO法人「すまいるセンター」だ。代表の西上孔雄さんは話す。
 「ニュータウンは各住区に商業店舗を配し、住民は徒歩圏内で生活がまかなえるように計画されています。店舗がなくなるということは、都市計画が壊れるということ。遠くの大型店舗に車で買い物に行かなくてはならなくなり、運転ができない人や高齢者など、生活に困る人がたくさん出てきました。そういった人たちも安心してここに住み続けられる支援をしていこうと、地元自治会、NPO法人、大学、府、市の産学官民が連結した『ほっとけないネットワーク』を設立させたのです」

玄関から室内を見渡す。耐震補強のために新設したブルーの鉄脚が、インテリアのアクセントに
玄関から室内を見渡す。耐震補強のために新設したブルーの鉄脚が、インテリアのアクセントに

戸建てを多世代型シェアハウスにコンバージョンした「ほっとけないネットワーク」のプロジェクトの一つ。設計を手掛けたのは、大阪市立大学大学院生活科学研究科の教員と学生たちだ。
 「既存の建物の骨組みだけを残して再構築したスケルトンリフォームです。構造補強もしっかり施し、現在の耐震基準に適合した強度になっています」と話すのは、同大学講師・白須寛規さん。13畳の広々としたリビングダイニング、庭に面した明るいキッチン、菜園は共有で使う。居室は全部で4つあり、各室は6.5〜10.5畳の空間でトイレと洗面台を装備し、テラスか庭が付いている。インテリアは、障子や欄間は既存の家のものを使うなど、当時の面影を残し、高齢者でもなじみやすいようにしつらえた。

2階の廊下にはミニキッチンを設けた。床はレトロな雰囲気を
醸し出す白×茶色のタイル貼り
2階の廊下にはミニキッチンを設けた。床はレトロな雰囲気を醸し出す白×茶色のタイル貼り
個室は1階と2階に2室ずつある。どの部屋もトイレと洗面台付きで窓があり、快適に過ごせる
個室は1階と2階に2室ずつある。どの部屋もトイレと洗面台付きで窓があり、快適に過ごせる

一つの家で世代を超えた複数の人たちが助け合い、一緒に料理をし、食卓を囲む―家族のようなつながりが生まれ、高齢者が孤立せず安心して住める多世代型シェアハウス。これからの時代にふさわしい、地域再生に向けた新しい住まいの在り方として、社会に広がっていくことだろう。

泉北ニュータウン内の空き店舗を改修した「槇塚台レストラン」。メニューは大学の栄養学の教員が担当している"
泉北ニュータウン内の空き店舗を改修した「槇塚台レストラン」。メニューは大学の栄養学の教員が担当している
地場野菜の販売などを行う「まちかどステーション」もニュータウン内の空き店舗を活用した地域の憩いの場
地場野菜の販売などを行う「まちかどステーション」もニュータウン内の空き店舗を活用した地域の憩いの場

text_ Sayaka Noritake(colonna) photograph_ Akira Nakamura

取材協力

子どもたちが元気に遊べる 工夫がいっぱいの自然素材住宅

玄関扉を開けると漂ってくるヒノキの香り。吹き抜けのリビングの壁面には、ボルダリング。階段横には収納式の滑り台…。木をふんだんに使った、遊び心溢れる住まいを実現したのは、埼玉県狭山市にお住まいのTさんご夫妻。お宅を訪ねると、8歳のRちゃんと4歳のAくんが、さっそく手を引いて自慢のおうちを案内してくれた。
「以前は賃貸アパートに住んでいましたが、子どもが走り回る音がうるさくないかとヒヤヒヤしていたんです。上の子が小学校に上がるまでには、一戸建てに住みたいねと話していました」(奥さま)

物件データ 所在地/埼玉県狭山市
面積/117.64m²
築年/2013年8月
設計/アップルホーム
kenkou.apple-h.co.jp
収納式の滑り台は、「インテリアの邪魔にならない遊具が欲しい」
という発想から実現

「無垢の木を使った住まいを」と考えて住宅展示場を見て回り、天然素材にこだわっているアップルホームに家づくりを依頼。住まいのイメージを設計士さんとともに具体化していく過程で、子どもがのびのびと遊べるアイデアが次々と生み出されていったという。
「ボルダリングは設計士さんからの提案です。1階から小屋裏までの高さで作ることはなかなかないということでしたが、思い切ってこの高さにしました。ホールドは専門の方に設置してもらい、マットやロープも完備して安全対策は万全です」(ご主人)


玄関ドアの横には、帰宅したらすぐに手を洗えるよう、小さな洗面コーナーを設けた
玄関ドアの横には、帰宅したらすぐに手を洗えるよう、小さな洗面コーナーを設けた
玄関やリビングダイニングの壁は、調湿性のある珪藻土。家族の手形を竣工時に押した
玄関やリビングダイニングの壁は、調湿性のある珪藻土。家族の手形を竣工時に押した

Tさんのお住まいには他にも、奥さまが発案した便利な仕掛けがふんだんに盛り込まれている。玄関には子どもたちが泥遊びをして帰ってきても、すぐに手を洗うことができる洗面ボウル。玄関横に設けられたストレージは、濡れたコートを掛けたり、非常用の水をストックしたりできる便利な空間だ。キッチン脇にはちょっとした書き物ができる造作のワークスペース。2階の廊下にも洗面台が設置され、掃除の際に重宝しているという。また、ベッドルームや階段、手洗いの壁面にニッチを設けたのも奥さまの提案だ。


キッチンの奥には、コーナーを有効活用した奥さま専用のワークスペースが設けてある
キッチンの奥には、コーナーを有効活用した奥さま専用のワークスペースが設けてある
小屋裏では、子どもの様子が分かるよう、格子壁で吹き抜けのリビングとつなげた
小屋裏では、子どもの様子が分かるよう、格子壁で吹き抜けのリビングとつなげた

「小物を飾るのが好きなので、飾れる場所をあちこちにつくりました。季節や気分に合わせてちょっとした模様替えを楽しんでいます」(奥さま)
さらに全館空調の導入で、室内はいつでも快適な温度に保たれ、冬もトイレや脱衣所が冷えることがない。 「テレビゲームではなく、自然のぬくもりに触れる遊びで育ってほしい」とTさんご夫妻。リビングにこだまする子どもたちの楽しげな笑い声が、健やかな成長のバロメーターだ。


2階の主寝室。窓の配置や壁紙の色、小物を飾るためのニッチは奥さまのアイデア
2階の主寝室。窓の配置や壁紙の色、小物を飾るためのニッチは奥さまのアイデア
キッチンは対面式。カウンターで勉強したり、ボルダリングで遊ぶ子どもたちを見守れる
キッチンは対面式。カウンターで勉強したり、ボルダリングで遊ぶ子どもたちを見守れる

text_ Takako Yoshida photograph_ Hiromasa Takeuchi

取材協力

「リゾートのような家に住みたい」 を実現した自由設計の家

白亜の外壁に濃い色合いの木材を多用したエキゾチックな住空間、そしてリビングいっぱいに広がるオーシャンビュー。鎌倉市腰越の高台に、まるでリゾートホテルのような住まいを作り上げたのが、平戸さんご家族だ。竣工したばかりの新居に暮らすのは、自営業の平戸さんご夫妻に24歳の長女、そして84歳になる、奥さまのお父さまの4人。この敷地はもともと30年ほど前に奥さまのお父さまが購入し、コンクリート造の家を建てて住んでいたという。奥さまはすでに結婚して家を出ていたが、長男の誕生と同時に再び同居。以来25年間ほど、この地に住み続けてきた。
 「横浜市南区で生まれ育ったのですが、あるとき父が『眺めがいい土地を見つけたから』とここの土地を購入しました。こんな崖地ですから、地震や強風に強い家を、ということで父はコンクリート造の家を建てました。ところが、窓が小さく、せっかくの眺望が生かされていませんでした。カビや湿気もひどく、窓を大きくしたい、といったリフォームを施すこともできず、次に建てる家はコンクリートはやめよう、と思っていたんです」(奥さま)。

物件データ 所在地/神奈川県鎌倉市
面積/86.77m²
築年/2013年5月
設計・施工/(株)平成建設
www.heiseikensetu.co.jp
リゾートらしさを追求し、白壁にこだわった外観。バルコニーをせり出し、車の雨よけに
リビングの一角には小上がりの和室。質感のある青い壁はセルフペイントで仕上げたもの

築30年が経過し、ご夫妻は建て替えを決意。コンクリート造でなくても耐震性が高いことと、リゾートのようなデザインを実現できることを条件に情報を集めはじめ、骨組み接合部を強化することで木造でも十分な強度を実現できるSE構法と出合う。
 「夫婦とも働いているので、帰ってきて思い切りくつろげる家にしたいと思っていました。調べていくうちに、海が見渡せる大きな窓をLDKに取り付けるには、SE構法が適していると知ったんです」(ご主人)。


洗濯物が干せるルーフバルコニーからは、広い空と広い海。最高の眺めを独占できる
LDKは天井を板張りにし、リゾート感を演出。勾配をつけ、キッチン上にロフトを設置

いくつかの建設会社を当たり、デザインテイストが最も好みだった(株)平成建設に設計施工を依頼。ロフトの設置や海を眺めながら入れるバス、明るい玄関、大きなシューズインクローゼット、キッチンとパントリー、ランドリールームの動線など、細かな要望を全てリストアップし、そのほとんどを実現してもらった。
 「同じ土地に住んでいるのに、まるで別の場所に引っ越したよう。それぐらい眺望が違いますね」(ご主人)。
 最高のロケーションを最大限に楽しむ暮らしを手に入れた平戸さんご家族。わが家こそ一番のリゾートなのだろう。

濃茶色の木の引き戸がアジアンテイストな玄関。右側には広いシューズインクローゼットがある
海が眺められるバスルーム。洗面ミラーの下に張ったタイルは奥さまが絵付けしたもの
カウンターキッチンの反対側はモザイクタイルがアクセントに。奥はパントリー

text_ Takako Yoshida photograph_ Akira Nakamura

取材協力