住み慣れた場所で充実したセカンドライフ。夫婦の時間も1人の時間もリノベーションで快適な家に

25年前に購入した4LDKのマンションに家族4人で住んでいたIさん夫婦。当初は子どもたち2人の部屋を確保できるほか、和室をゲストルームとして使える間取りが気に入っていたものの、15年前に子どもたちが独立して2人暮らしに。ライフスタイルが変化し、所々に住みにくさを感じていたため、住替えも視野に住まい方を見直すことにしたが、長い間この地域で過ごしてきた愛着から、リノベーションを選んだ。 
「私は60代で、夫は70代。もう人生の終盤と言えるので、この先を気持ち良く過ごせる、きれいで明るい家にしたいと思いました」(奥さま)

物件データ 所在地/神奈川県川崎市
延床面積/81.19㎡
リノベーション年月/2022年6月
プランナー/於保誠之
(スタイル工房)
www.stylekoubou.com

リノベーションを依頼したのは「自分たちが望むものを形にしてくれる」と感じたスタイル工房だ。夫婦が特に望んだのが広々としたキッチン。ご主人がリタイア後、時折夕食をつくるようになったことから、2人で並んでも快適に使えるように半クローズドタイプのキッチンをペニンシュラ型のオープンキッチンに変更。さらに和室をなくし、広々としたLDKにつくり変えた。

キッチンは以前と向きを変えて配置。幅広のカウンターでのびのびと作業ができる。「オープンなので熱気がこもらず、気持ちがいいです」と奥さま
キッチンから伸びるカウンターテーブルの一角が、奥さまのワークスペース。センス良く並べられた雑貨が、空間にゆとりをもたらしている

一方で、2人それぞれの個室を設置。一緒にくつろぐこともあれば、自室でテレビを見るなど、程よい距離を保ち、思い思いに過ごしている。
また、工事内容に優先順位を付け、日常的によく使う場所をぜいたくにつくったことも、生活に豊かさをもたらしているポイントだ。構造上、移動できなかった水回りはバスルームの面積を抑え、毎朝の身支度や愛犬の足を洗う洗面室にゆとりを持たせた。

家じゅうの壁に調湿・消臭効果のある珪藻土を使用。水回り以外の床は触れ心地の良い無垢材に変えたが、愛犬が歩きやすいように所々にラグを敷いている
洗面室は広さと収納場所をできる限り確保。洗面器は愛犬の足を洗うのに適した大きさを選び、その隣に足拭き用のスペースをつくった

暮らしの面では、「これからはすっきり生活したい」と、洋服や雑貨などの荷物を3分の2まで処分。グレー・白・木の淡色に、選りすぐりのアイテムが調和し、洗練された印象が漂う。
「1日の大半を過ごすだけに、本当にリノベーションして良かったと思います。雑貨のディスプレイを考えるのも楽しいです」(奥さま)
「ダイニングでビールを飲むのが至福の時間。全部に満足しているので、どこにいても気分がいいですね」(ご主人)
何気ない日常の喜びを分かち合いながら、夫婦の絆をより深めている。

床はほぼ段差がないため、つまずきにくく、掃除もしやすい。以前は収納場所が分散していて不便だったが、玄関横にウォークインクローゼットをつくったことでストレスフリーに
明るく開放的な玄関。靴を脱ぎ履きしやすい高さのベンチを設置。将来、手すりを後付けできるよう壁に下地材を入れた
text_Makiko Hoshino photograph_Akira Nakamura
取材協力

地域の里山文化を復活させる 緑豊かな“コミュニティー型集合住宅”

学生時代を東京で過ごしたYさん夫妻は、ご主人の就職先である福島県郡山市に引っ越すことになった。この先、転勤する可能性があったため、住まいの選択肢は賃貸住宅のみ。早速、探し始めたところ心惹かれるコミュニティー型集合住宅に出会った。

物件データ 所在地/福島県郡山市
延床面積/42.75㎡~66.34㎡
築年月/2020年3月
設計/ブルースタジオ
www.bluestudio.jp
建築主/トラスホーム
www.truss-home.jp

地場の植物で構成した中庭と、それを取り囲む3棟の木造住宅。全戸の玄関とLDKは中庭に向けて配置されているので、生活の中でおのずと自然が目に入り、住民の気配を感じることができる。室内はふんだんに無垢の木が使われており、吹き抜けの開放的な空間が広がっている。
「朝起きて窓を開けると、自然光とともに緑を感じられて気持ちが良いですし、癒されます」(奥さま)

地域の憩いの場になるよう、建物に沿ってベンチを設置。外壁は下見板にし、柱には不燃材に木の化粧材を巻き付け、里暮らしの温かみを表現

このコミュニティー型集合住宅がある郡山市中部の小原田地区は、かつて山林が広がる農地が多い土地だったが、戦後は宅地開発が進んでいた。地元に根差して事業を営んでいたオーナーは、「地域の魅力を掘り起こし、人が集まる賃貸住宅をつくりたい」と奮起した。

開放感を重視し、あえてロフトはつくらず吹き抜けに。廊下を省き、各部屋への動線をLDKに取り込んだことで広さを確保した

「住民の交流が促されるように」と、敷地内には公園のような共用スペースが設けられているが、そのコンセプトを体現しているのは設計だけではない。オーナー自らが夏はBBQ、冬は芋煮会や餅つき大会などの催しを企画。近隣住民も巻き込みながら、コミュニティーの充実を図っている。どうしても賃貸住宅なので、いつか入居者は巣立っていくものだ。しかしこうした試みには、オーナーの「この地域で得たことを別の場所でも役立ててもらえたら」という願いも込められている。

バスルームやトイレといった水回りは玄関側に。玄関に入ってすぐに洗面台があるため、帰宅後にすぐ手を洗えて、コロナ禍では特に役立ったという
洋室は扉を閉じるとこもり感が出るが、扉を開放するとLDKと一体にできる。各部屋の窓は向き合っているため風通しが良く、とりわけ夏は涼しい
暮らし方に合わせてアレンジできるよう、個室には造作物がない。目隠しのカーテンを取り付けたり家具を置いたりと、アイデアを巡らせることができる

「最初は地域になじめるか心配でしたが、イベントは基本、出入り自由。強制ではなく緩くつながれるので、気負わず住民の方たちと付き合えます。日常ではすれ違うときにあいさつをする程度ですが、安心感が違いますね」(ご主人)
賃貸住宅とは思えないコミュニティーと自然環境、そしてゆとりある部屋が、これからの2人の豊かな人生を育んでいく。

中庭には季節の移ろいを感じられるよう、アオダモやカエデなどの地元の植物を植栽。自生しているように見せるため、あえて控えめな剪定に
text_Makiko Hoshino photograph_Susumu Matsui
取材協力

沖縄生活を手放し、便利な都心に転居。約52㎡の家を拠点に、好きな音楽を満喫

東京都新宿区のマンションで暮らすTさん夫妻の楽しみは、クラシックギター。45年前に弾き始めて以来、その奥深さに魅了され、着実に腕を磨いてきた。今ではカフェでコンサートを開いたり、仲間と海外で演奏したり、音楽は欠かせない存在だ。そんなご夫妻は、ご主人の転勤で6年間、沖縄県で暮らしていた。しかし、定年後はかつて住んだ街に戻ることに。

物件データ 所在地/東京都新宿区
リノベーション面積/51.51㎡
リノベーション年月/2021年4月
設計/オフィス・エコー
www.office-echo.com
プロデュース/東京リノベ
www.tokyo-r.jp

「沖縄でも楽器を通してたくさんの縁に恵まれました。でも、もう郊外暮らしは満喫しましたし、リタイアして自分の時間が増えると、もっと気軽に芸術に触れ、ふらりと飲んで帰れる場所にいたいと思うようになって。交通が便利で文化施設が充実した都心に戻ることにしました」(ご主人)

ミモザやライラックなどの花卉のほか、家庭菜園も楽しむバルコニー。周辺に公園や神社があるため、スズメがやってきて手乗りするほど懐いている

新居に選んだのは約52㎡の中古マンション。限られた面積だが、リノベーションを前提としていた夫妻はポジティブな発想で捉えた。
「高台ならではの開けた景色にひと目惚れ。部屋の広さは以前の3分の1ですが、間取りを工夫し、持ち物を減らせば事足ります。コンパクトな分、工事費を抑えられ、設備などをぜいたくにもできますから」(奥さま)

LDKは天井板を外した分、高さが約20㎝アップ。空間の大きさと無垢の木の床により、音響が良くなった。キッチンの収納は使い方に合わせて計画
LDKの明るい光を廊下に通すガラスの框ドアと上部のFIXガラス。本棚は、ご夫妻の最低限必要な蔵書数が収まる幅約150㎝
 
「毎日使う場所ほど、ぜいたくにしたかった」と奥さま。トイレはランタン柄の壁紙を採用し、棚に花を飾りくつろいだ雰囲気に
白と木をベースにした玄関には、ビビッドピンクのアクセントウォールを取り入れた

リノベーションはプロデュース会社「東京リノベ」と、設計事務所「オフィス・エコー」の江本響さんが担当した。バルコニー側に並んでいた3つの個室をつなげ、明るく開放感のあるLDKに改造。キッチンには食卓と作業台、収納を兼ねた一台三役の家具を造作し、省スペースを実現した。
 「LDKを広々と、水回りの広さもゆとりを持たせた上で、収納量もしっかり確保して快適な生活を維持できるようにしました」(江本さん)

寝室は極力LDKを広くするため最小限に。ベッドカバーに合わせて選んだウィリアム・モリスの壁紙が空間を華やかに演出

大量にあった生活アイテムは、新居の収納量に合わせて半分以下に断捨離。暮らしを見つめ直す良い機会になったという。
T邸は夫妻が旅先などで見つけたアートもポイントだ。濃色のチークの床や華やかなアクセントクロスにしっくりとなじみ、温かみのあるインテリアに仕上がっている。
 「内にも外にも視線が抜けるので、むしろ沖縄の家以上に開放的な気分。掃除がラクな点も気に入っています」と笑顔のご夫妻。リビングで日夜クラシックギターを弾き、気軽にコンサートへお出掛け。変わらぬ音楽への情熱で都心暮らしを満喫している。

取材協力

収穫から料理まで自然の中でワイワイと。 家庭菜園の楽しみが増す、土間のある家

「野菜を育てたり、DIYをしたり、つくることが好きです」と話すSさんは、いつか自然を感じながら暮らしを満喫できる一戸建てを建てたいと思っていた。奥さまと2人で地元の豊橋市の賃貸マンションに住んでいたが、新築するならローンを組みやすい30代前半のうちにと一念発起。自らの足で時間をかけて理想の土地を探し回った。畑を宅地造成したこの敷地は、豊橋駅から車で約15分ながら、目の前が山々と田畑の一大パノラマ。南側は建設が制限される市街化調整区域なので、この先、風景を壊されることはない。地盤が強いことも分かり、「これ以上の好条件はない」と購入を決めた。
 

物件データ 所在地/愛知県豊橋市
面積/111.00㎡
築年月/2018年11月
設計/伊藤博昭(㈱イトコー)
itoko.co.jp

せっかくなら地元の工務店と建てたいという思いと、「自然と寄り添う家づくり」に共感したことから、東三河で展開する建築会社「イトコー」に依頼。設計者の伊藤博昭さんから受けた提案は、思いもよらないものだったという。

深い軒が夏の強い日差しを遮り、室内の温度上昇を防ぐ。両隣の家からの視線に配慮して建物を少し斜めに振っている
南に向けて大開口を設けることにより風をたっぷり取り入れることができる。壁の一部に設けたルーバー越しに訪れる人の気配が分かる

「この環境をいかに暮らしに落とし込むつくりとするかが、Sさんらしいライフスタイルを実現させる鍵でした」と伊藤さん。畑に面した南側を大きく開き、「屋根」「キッチン」「家庭菜園」「家具」までを備えた土間スペースをつくった。ここは自然の開放感を味わいながらくつろげる第2のLDK。

2階への動線の短縮と落ち着いた雰囲気を出すため、天井を低く設定したリビングダイニング。梁や下地をむき出しにして開放感を高めた

野菜は土間の先にある庭に置いた大型コンテナで育てている。腰を屈めずラクに手入れができる上、収穫、調理、食事、片付けまでをシンプルな動線で行えて、家にいながら気軽にアウトドア気分を楽しめる。庭からゲストを招きやすく、DiYの作業場にも最適。引っ越して数カ月だが、早くも道具箱や棚づくりなど、得意の木工にいそしんでいる。

2階は寝室や浴室を配したプライベート空間に。1階の来客を気にせず入浴できる。また個室は引き戸でフレキシブルに間仕切ることが可能
2階の洗面スペースは、朝気持ち良く過ごせるように2面に開口部を設けて大きな鏡を設置した

「朝起きて景色を眺め、植物の手入れをするのが日課に。料理に凝ったり、近所を散歩したり。自然に親しむようになりました」(奥さま)
 「季節の移り変わりを眺められるのがぜいたく。家の居心地が良いので、外出が少なくなりました」(ご主人)

ロフトはご主人のワークスペース。「DIY好きなので、将来は棚をつくるなどして倉庫のように使いたい」とご主人
text_ Makiko Hoshino photograph_ Susumu Matsui
取材協力

独身時代に都心の新築マンションを購入。 結婚を機に自分たち仕様にリノベーション

Tさんご夫妻が暮らすマンションは2000年に竣工。当時、独身だった奥さまが 52㎡の一室を購入して8年間一人で住み、その後、賃貸に出していた時期もあったが、2014年にご主人と結婚したのを機に、2人の住居にすることにした。

物件データ 物件データ所在地/東京都品川区
面積/52.00m²
リノベーション年月/2015年3月
設計/星名岳志・星名貴子
(㈱ハンズデザイン一級建築士事務所)
www.hands-a-design.jp/

既存のまま住むか、リノベーションを行うか悩んだというご夫妻。そんなとき、ハンズデザイン一級建築士事務所の自宅兼事務所やオープンハウスを訪れた。 「どちらも中古マンションをリノベーションした空間で、ハンズデザインの住まいの中心にはアイランドキッチンがあり、とてもすてきでした。特に主人が気に入って、その場でリノベーションの設計をお願いすることに決めました」(奥さま)

ダイニングの一角に設けたデスク兼ディスプレイコーナー。雑貨や グリーンはご主人がコーディネート
こだわったキッチンには、大型食洗機、生ゴミ処理機、2槽式シンク など、機能 的な設備がぎっしり
玄関ドアを開けるとすぐにアイランドキッチンが目に入る。閉塞感 のない明るい玄関になった

「 52 ㎡の面積は、大人2人がゆったりと暮らすのに決して十分な広さとは言えません。でも、お2人の割切 のいいご要望のおかげで、空間を無駄なく使い切れる大胆なプランが提案できました。特に玄関は、既存のように独立させてしまうと暗い上、空間全体の広がりを損ねてしまうので、玄関、キッチン、ダイニングがひとつながりになった開放感のある住まいを目指しました」(ハンズデザイン一級建築士事務所・星名岳志さん)

「週末は2人で過ごす」が原則というTさんご夫妻。リビングはない が、ダイニングで十分くつろぐことができる
サニタリーは一部をガラスのパーティションで区切り、寝室と一体 にして、明るく広がりのある空間に

驚くような提案を望んでいたご夫妻は、「食べて、くつろいで、1日中ダイニングで楽しめる、期待以上の家になりました」と、大満足の様子。ご主人はベッドルームに大型テレビを設置して、念願のシアタールームも獲得。雑貨やグリーンもご主人が楽しみながら、進化させている。 「もし、もう一つ部屋があったとしても、余計なモノが増えるだけだと思います。無駄がないように暮らしやすくつくられたこのコンパクトさが、私たちのベストサイズなのです」(奥さま)

寝室とキッチンの間にクローゼットを設置。右側が奥さま、左側が ご主人のスペース
text_ Sayaka Noritake(colonna) photograph_ Akira Nakamura
取材協力

大阪の中心・梅田から徒歩10分の好立地にリノベーションで新婚夫婦の住まいを実現

大阪市を拠点に住宅や店舗などの設計を手掛けている建築家の松村一輝さんと奥さまの香織さんは、大阪府の中心である梅田から徒歩10分ほどの場所に建つ古い長屋をリノベーションして、新生活をスタートさせた。
「家づくりは立地が最優先でした。私が梅田の近くで育ったので、街中に住み続けたかったし、何より両親が実家の近くに住むことを強く希望していたんです」(香織さん)
いっぽう、一輝さんは、自分たちの予算内で市内の好立地に家を持つことは無理だと考えていた。
「ところが、いざ探し始めてみると、梅田周辺でも大通りから1本入ると、開発されず古い長屋が並んでいるところがあったんです。リノベーション前提で考えれば、梅田エリアに2人で快適に住める家が見つかるのではと思うようになりました」(一輝さん)

物件データ 所在地/大阪府大阪市
面積/64.02m²
築年月/2014年8月
設計/coil松村一輝建築設計事務所
www.coilkma.com

不動産会社に紹介された物件は、建物自体は古いが、前のオーナーが丁寧に住んでいた様子がうかがえるきれいな状態だった。2人とも気に入り、購入を即決。リノベーションの設計はもちろん一輝さんが担当した。
 まず、耐震補強と断熱補強をしっかり施し、床は鉄筋を入れてコンクリートを流し込み、新築同等の住宅性能に改善。そのうえで、明るい2階にワンフロアのLDKをつくり、1階に広い玄関土間と寝室、水まわりを配した。既存の梁や柱、建具を生かし、年月を経たものの味わいが生きた住まいが完成した。

レトロな長屋の街並み。白い2階建ての建物が松村邸。外壁に高圧洗浄を施して白く塗装した
レトロな長屋の街並み。白い2階建ての建物が松村邸。外壁に高圧洗浄を施して白く塗装した
既存の木製ドアをペイントして、トイレの扉に。内側の壁の一面は黄色に塗装した
既存の木製ドアをペイントして、トイレの扉に。内側の壁の一面は黄色に塗装した
広く取った土間玄関。既存の内装を解体したときに出た床材を使ってシューズラックをDIY
広く取った土間玄関。既存の内装を解体したときに出た床材を使ってシューズラックをDIY

長らく郊外で暮らしてきた一輝さんにとって、初めての都心生活は、「便利すぎるくらい便利で快適。事務所への通勤も自転車です」
 近年は梅田だけでなく、家から徒歩圏内の中崎町周辺も、お洒落なカフェや雑貨屋が集まる人気スポットに成長。2人でショッピングやティータイムを楽しみに街に出かけることも多い。また、JR大阪駅直結のファッションビル「グランフロント大阪」もお気に入りの場所のひとつ。
  「ケーキとコーヒー豆を買ってきて、家でゆったり食べるのも好きですね」(香織さん)

キッチンカウンターと夫婦のワークスペースを連ね、LDKを広く使えるように工夫。見せる収納で楽しい空間に
キッチンカウンターと夫婦のワークスペースを連ね、LDKを広く使えるように工夫。見せる収納で楽しい空間に
キッチンからリビングダイニングを見る。食卓のペンダント照明はこの部屋に合わせてオリジナルで製作
キッチンからリビングダイニングを見る。食卓のペンダント照明はこの部屋に合わせてオリジナルで製作

近所には公園や桜並木もあり、お花見や新緑、紅葉を味わう場所もたくさんある。北の方へ歩けば淀川に出会い、夏は花火も楽しめる。
 さらに現在では、梅田貨物駅跡地の再開発工事が進行中。ますます充実した都心居住が期待できそうだ。

階段の上に構造用合板を新設し、収納スペースに。手すり壁には、解体した型ガラスのドアを再利用
階段の上に構造用合板を新設し、収納スペースに。手すり壁には、解体した型ガラスのドアを再利用
玄関の裏側にある寝室。壁の厚みを利用して本棚を造作。通路とはカーテンで緩やかに仕切れる
玄関の裏側にある寝室。壁の厚みを利用して本棚を造作。通路とはカーテンで緩やかに仕切れる

text_ Sayaka Noritake(colonna) photograph_ Akira Nakamura

築70年の古民家をみんなで楽しくリノベーション。 次の世代に住み継いでいける家づくり

この家の主である白石達史さんは、さかのぼること8年前、アメリカのアリゾナ州でトレイルワーカーとして働いていた過去を振り返る。 「グランドキャニオンを始めとする国立公園のトレイルのリペアや新設、外来植物の調査、野生動物の保護柵設置などが主な仕事でした。テントを張ってプロジェクトメンバーと自炊しながら作業したり、ナショナルパークサービスから提供される道具を使って、レンジャーの皆さんと手を動かしたり…。このときの生活が私にはとても豊かに感じられ、日本でもこんな生活をしたいと思っていました」

物件データ 所在地/岐阜県飛騨市
面積/約263m²
築年数/約70年
ダイニングキッチン設計/浅野翼建築設計室
www.at-architect.net

帰国後は都内で2年間生活。多忙でコンビニ通いをするまさに使捨ての消費生活で、「自分が求めるものは東京にはない」と実感したという。そして2010年、飛騨古川への移住を果たす。奥さまの実果さんと結婚し、新居として購入したのは築70年の古民家。「自分たちで少しずつ修復しながら暮らしたいと思っていたので、骨組みがしっかりしていれば、ボロボロでも構いませんでした」と達史さん。始めの1年間は家じゅうの天井や壁の煤を落とし、床を磨き、ひたすら掃除を繰り返した。

青空に映える赤いトタン屋根が印象的な外観。外壁、屋根は状態が良かったため工事は未着手"
青空に映える赤いトタン屋根が印象的な外観。外壁、屋根は状態が良かったため工事は未着手
囲炉裏のある玄関横のリビング。元和室を板張りの空間に。ライティングレールも新設
囲炉裏のある玄関横のリビング。元和室を板張りの空間に。ライティングレールも新設
既存の畳を処分して、近所の方からもらった畳と入れ替え。秋が深
まり、庭の草木が色づき始めた
"既存の畳を処分して、近所の方からもらった畳と入れ替え。秋が深まり、庭の草木が色づき始めた

「私たちを悩ませたのが冬の寒さ。12月~3月まで氷点下の気温で辛かったですね。とにかくひと部屋を改修して、暖かく過ごせる場所を確保しようと、暮らしの中心であるダイニングキッチンからつくり始めることにしました」(達史さん)。
基本図面は友人の設計士に描いてもらい、これを基にセルフリノベーションをスタート。材料の調達、解体作業、断熱材の充填、床張り、壁の漆喰塗りなども、大工職人や友人と協力して行った。達史さんと実果さんは、その様子をフェイスブックで発信。さらに、「◯日に◯○の作業をします」と告知をす ると、友人やDIYに興味を持つ多くの人たちが手伝いに来てくれたのだそう。

キッチン本体はカウンター下がオープンのシンプルな造り。ガスオーブンはアメリカ製
キッチン本体はカウンター下がオープンのシンプルな造り。ガスオーブンはアメリカ製
壁に漆喰を塗り、床にスギ板を張って洋室に仕上げた部屋と畳の八畳間を続けてシアタールームに
壁に漆喰を塗り、床にスギ板を張って洋室に仕上げた部屋と畳の八畳間を続けてシアタールームに

「この辺りはお裾分けの文化が残っていて、野菜などをもらうことも多いんです。工事中も、道具がなくて困っているとき、近所の方が快く貸してくれました。4月のお祭りには、獅子笛を教えてもらって吹いたり、地元の行事に も積極的に参加しています」(達史さん)
 家の改修はまだ途中段階。あと何年かかるか分からないが、古民家のもっている良さを生かし、住み継いでいける家に仕上げていく。

2階の階段ホール。粉塵まみれだった床、壁、天井を何カ月もかけて掃除して磨き上げた
2階の階段ホール。粉塵まみれだった床、壁、天井を何カ月もかけて掃除して磨き上げた
キッチン入口の壁は、元々床に張ってあった古材と漆喰・土・砂を混ぜた左官材をボーダー状に
キッチン入口の壁は、元々床に張ってあった古材と漆喰・土・砂を混ぜた左官材をボーダー状に

text_ Sayaka Noritake(colonna) photograph_ Akira Nakamura

雄大な自然と温泉。地元産の木材で建てた、 セカンドライフを楽しむ第二の家

リビングから見渡す広大な平野、背後には雄大な岩手山。山歩きや山菜採りが趣味のTさんご夫妻は、自宅がある盛岡市内からよく通っていた十和田八幡平国立公園網張の麓にセカンドハウスを建てた。  「もともと土地を買うつもりはなかったのですが、山歩きの帰りに『温泉付き分譲地』の看板を見て立ち寄ったら、数年後に定年を控えていた主人が『趣味を満喫できる第二の人生の拠点を構えたい』と購入を即決。設計は、岩手県産の木材にこだわった家づくりをしている工務店にお願いしました」(奥さま)

物件データ 所在地/岩手県岩手郡
面積/59.62m²
築年/2010年
設計/住工房森の音
www.morinone.co.jp
スキー場がいくつも隣接し、ペンション村にほど近いエリア。冬は一面の雪景

工務店は、「敷地内の木をなるべく切らずに、木とともに暮らしたい」というご夫妻の要望に応え、灌木をほぼそのまま残して設計。家屋は基本的には夫婦で使える平屋のプランながら、すでに独立した3人のお子さんたちも含めた家族それぞれが趣味を楽しめる工夫が随所に盛り込まれた。アイデアのほとんどは、奥さまの発案だ。

梁や柱は金具を使わない木組み。100年以上前からの伝統的な工法で、抜群の強度をもつ
梁や柱は金具を使わない木組み。100年以上前からの伝統的な工法で、抜群の強度をもつ
玄関は三和土を奥行きいっぱいに通した。奥の開口の先には岩手山が勇壮な姿を見せる
玄関は三和土を奥行きいっぱいに通した。奥の開口の先には岩手山が勇壮な姿を見せる

「市内の自宅ではできなかった野菜づくりを始めたいという主人の要望にあわせ、土で汚れたままでも入れるトイレを室内とは別に設けました。 工務店には『このサイズの山の家にトイレを2つ作るなんて初めてです』と驚かれましたが(笑)」(奥さま)  他にも、子どもたちが孫を連れて遊びに来た際に寝室として使えるよう、リビングの一角に障子で仕切れる和室を設け、ロフトも2箇所設置。浴室は、子どもと孫と一緒でもゆったり入れるよう洗い場を広く確保した。カウンターキッチンに立ち、家族や孫の様子をぐるりと見渡すのが、奥さまのいちばんのお気に入りだという。

室内は県産の無垢材がふんだんに使われている。洗面台や造り付けの棚、窓枠も無垢板
室内は県産の無垢材がふんだんに使われている。洗面台や造り付けの棚、窓枠も無垢板
お料理が得意な奥さまは、他にもお茶やお花、着付けを教えるなど多彩な趣味をもつ
お料理が得意な奥さまは、他にもお茶やお花、着付けを教えるなど多彩な趣味をもつ

「子どもや孫たちが遊びに来たときに料理をふるまうのは、まだまだ私の領域。家族が部屋でくつろいだり、長男家族が庭先でテントを張ってアウトドアを楽しんだり、次女が近所をジョギングしていたり。料理を作りながら、そんな家族の様子が一度に分かるのが嬉しいですね」と奥さま。  市内からは車で約40分。季節を問わず、ほぼ毎週末をここで過ごしてきたそうだが、鉄道の敷設に長年従事してきたご主人が、昨年末でめでたく退職し、本格的に第二の人生のスタートとなった。春からは野菜づくりや山歩きに一層熱が入る予定だ。

晴れた日にはリビングの開口から平野を一望でき、まるで天空に浮かんでいるようだという
晴れた日にはリビングの開口から平野を一望でき、まるで天空に浮かんでいるようだという
西側にある寝室はご主人の専用スペース。掃き出し窓の先には農機具を収納する小屋がある
西側にある寝室はご主人の専用スペース。掃き出し窓の先には農機具を収納する小屋がある

text_ Takako Yoshida photograph_ Akira Nakamura

取材協力

築150年以上の古民家を移築再生。 すてきなレトロモダンの居住空間

新潟県上越市柿崎で、ご主人のおばあさまが長く一人で住んでいたという築約150年の古民家。2004年におばあさまが亡くなり、その後、伯父さまが相続していた。
 「伯父は東京に住んでいたため、管理できない状態で…。取り壊すことを決めていたんです」(ご主人)それを聞いた奥さまは、「興味があったので、取り壊す前に、ぜひ見せて欲しいと頼みました。実際見た瞬間に、古くても太い柱や梁、しっかりした造りの家に圧倒されました。これは壊してはいけない、私たちの手で何としても再生させなければと、使命のようなものを感じました」

物件データ 所在地/静岡県田方郡
面積/133.75m²
築年/2011年5月 設計/Gプランニング 清水康造+佐々木祐子 www.gplan-arch.com
ケヤキなどの木々が迎えてくれるアプローチ。植栽はこの地に元々植えてあった木を生かした

インターネットで、古民家再生を数多く手掛けている建築事務所を探し、桑原さんご夫妻の家に近い、Gプランニングに相談。大変だけれど、移築再生は可能という返事に、ご主人の決心も固まった。 ご夫妻は古民家を当分の間、別荘として使うことに決め、移築先に熱海や湯河原周辺を検討。そして熱海の隣町、函南町の別荘地にぴったりの土地を見つけ、いよいよ移築のた めの古民家調査と設計がスタート。「古民家移築は、現地再生と比較すると建物の損傷具合や、柱や梁の腐食などの調査が大変になります。構造を考慮しつつ間取りを決め、それ に加えて変化する環境風土や周辺景色に馴染む家のプロポーション、庇の深さなどの検討も必要です」(Gプランニング・清水さん)


庇がほとんど出ていなかった屋根に庇を付け直し、切妻屋根の形状にする作業が大変だった
庇がほとんど出ていなかった屋根に庇を付け直し、切妻屋根の形状にする作業が大変だった
迫力のある大黒柱やケヤキ材の差し鴨居を用いた伝統工法で建築
迫力のある大黒柱やケヤキ材の差し鴨居を用いた伝統工法で建築
石張りの玄関。長持もその上に飾っている瀬戸本業染付花文敷瓦も、新潟の家で見つけたものを再生
石張りの玄関。長持もその上に飾っている瀬戸本業染付花文敷瓦も、新潟の家で見つけたものを再生
古材の梁や柱を現しに。「カッシーナ」の家具を配したレトロモダンなリビングダイニング
古材の梁や柱を現しに。「カッシーナ」の家具を配したレトロモダンなリビングダイニング

ご夫妻がこの家に望んだのは、料理好きな奥さまが使うプロユース仕様のキッチン、温泉風呂、夫婦それぞれの書斎など。
「あとのプランはお任せで、いくつか提案してもらったのですが、結局元の間取りに近いプランを選ぶことになりました。そのプランを見ていると、子どものころ、祖母の家で遊んだときの光景が思い出され、懐かしい感じがして。家が身近に感じられたんです」(ご主人) ここに来るとゆったりとした気分になる、と言いながら、今は1ヶ月に1回しか来ることができないのが悩み。定年後は、ここを拠点に楽しい第二の人生を送ることを2人は心待ちにしている。


独立式キッチンは奥さまの切望でプロユースに。火力の強いガスコンロ、大きなオーブンも
独立式キッチンは奥さまの切望でプロユースに。火力の強いガスコンロ、大きなオーブンも
)温泉を引いた浴室。奥さまの希望で信楽焼の浴槽を採用。壁、天井はヒノキで統一した
温泉を引いた浴室。奥さまの希望で信楽焼の浴槽を採用。壁、天井はヒノキで統一した
)広縁のコーナーに配したご主人の書斎。小窓から光が入る。2階には奥さまのアトリエがある
広縁のコーナーに配したご主人の書斎。小窓から光が入る。2階には奥さまのアトリエがある

text_ Sayaka Noritake(colonna) photograph_ Akira Nakamura

取材協力

夫婦での庭づくりが、毎日の楽しみ どこに居ても、庭に包まれる住まい

千葉県佐倉市に約200坪の土地を所有するMさんご夫妻。6年前、ご主人が定年を迎えたとき、残りの人生を2人で楽しむ家に建て替えた。家づくりのテーマは、奥さまの唯一の希望であった「庭と一体になる家」。
「土をいじっていると、ストレスがなくなるんです。以前もよく苗を買ってきて植えていたのですが、なんせ、家は古い和風。建物と庭の雰囲気がちぐはぐで、ガーデニングを心から楽しめませんでした」と話す、奥さまの希望を形にしたのが、建築家の山﨑健太郎さん。
「敷地形状に合わせて5つの部屋を南北に細長く配置し、それぞれの部屋をずらして並べました。すべてのズレた部分にガラスをはめ、南からの日射が家や周辺の庭に行きわたるようにしました」(山﨑さん)

物件データ 所在地/千葉県佐倉市
面積/94.6m²
築年/2008年8月
設計/山﨑健太郎デザインワークショップ
http://www.ykdw.org
庭を散歩するご夫妻。「1週間で景色がガラリと変わるのも大きな楽しみです」(ご主人)

かくして出来あがったのは、どの場所からも庭が見え、広い庭の中に住むような家。部屋と部屋の間仕切りは一切なくし、庭の中を散歩しながら、料理をしたり、食事をしたり、お風呂に入ったり…。そんな感覚を覚える空間となった。
奥さまの今の生活は、目が覚めるとまず庭へ。2時間半、たっぷり、庭の手入れをする。
「庭仕事は、苗や球根を植えるだけではありません。雑草を取ったり、咲き終わった花を摘んだり、害虫駆除をしたり…。そんな隠れた努力がいい庭をつくるんです。夢中でやるから、時間はあっという間に過ぎてしまうけれど、本当に癒されます」(奥さま)


サックスの練習や読書を楽しむご主人のスペース。背の高い観葉植物はストレチア
サックスの練習や読書を楽しむご主人のスペース。背の高い観葉植物はストレチア
前庭に続く玄関はガラスの3枚引き戸。白い外観は、弾性塗料で吹き付け仕上げ
前庭に続く玄関はガラスの3枚引き戸。白い外観は、弾性塗料で吹き付け仕上げ
左右に大きな開口部を設けた寝室。カーテンを付けず、朝日をたっぷり浴びて起きる
左右に大きな開口部を設けた寝室。カーテンを付けず、朝日をたっぷり浴びて起きる
バスルーム。夜は庭がライトアップされ、湯舟に浸りながら幻想的な庭の景色を堪能
バスルーム。夜は庭がライトアップされ、湯舟に浸りながら幻想的な庭の景色を堪能

最近は、農業ボランティアに参加しているという奥さま「緑豊かな自然の中で農業体験や生き物との触れ合いを通じて、 子どもたちに豊かな人間性を育んでほしいと設立された市の公共施設なのですが、ここで知り合った仲間から教えられることも多いですね」
 『◯◯風』の庭は目指していない。大切にしているのは、家と調和させること。「家と庭は一体であるべき」がご夫妻の信念。そのためにどんな花や木を植えようか、考えるのも楽しい。DIYが得意なご主人が、パーゴラやベンチをつくって、理想の庭づくりを陰ながら応援してくれている。


寝室からLDKを見る。キッチンはキャビネットを付けず、シンプルに。床材はサクラ
寝室からLDKを見る。キッチンはキャビネットを付けず、シンプルに。床材はサクラ

text_ Sayaka Noritake(colonna) photograph_ Akira Nakamura

取材協力

周囲の町並みや自然にも馴染んで さりげなく建つ、木張りの家

静かで趣のある雰囲気に包まれたJR横須賀線の北鎌倉駅から、ゆっくり徒歩で20分。町を見下ろす高台に出ると、緑に溶け込んで佇んでいる一軒の家を見つけた。ここが本日お邪魔するSさんご夫妻の住まいだ。
ご夫妻は2年前の6月、ここに家を建て、東京から引越して来た。海も山もある、自然に恵まれた鎌倉に奥さまがずっと憧れ、3年かけて土地を探したという。「土地はネットで探しました。実際にこの土地を見に来たら、緑がいっぱいの環境に魅せられ、その場で心は決まっていました」(奥さま)。

物件データ 所在地/神奈川県鎌倉市
面積/81.31m²
築年/2012年6月
設計・施工/加賀妻工務店
http://www.kagatuma.co.jp/
スギの木張りの外観。モダンなフォルムに仕立て、重々しい感じはなく、景観に馴染んでいる

もともと木のぬくもりが好きなご夫妻が、家づくりのパートナーに選んだのは、茅ヶ崎市にある地域密着型の工務店。 「雑誌で施工例を見て一目惚れしました。使っている素材が自然素材で、信用できると思ったのが一番の理由。鎌倉の風土をよく知っているのも魅力でした」(奥さま)。
スギの木張りの家を希望していたご夫妻の意向に沿って、内装はもちろん、外装もスギの木張りで仕上げた。天井は直天井とすることなどで、階高を抑え、玄関ドアも同じ素材で建具屋さんにつくってもらうなど、できるだけ周辺環境に溶け込ませるように建てた。「道路側の壁には、大きい窓は設けず、小さな窓をいくつか設け、庇をつけてこの家の顔にしました。木を多く使っていても、控えめでスッキリとモダンに見えるでしょう」と話すのは、設計を担当した加賀妻工務店の高橋一総さん。


LDKはひと続きの空間。サイズを抑えた東の窓は、額縁のような効果で外の風景を取り込む
LDKはひと続きの空間。サイズを抑えた東の窓は、額縁のような効果で外の風景を取り込む
レンガを張った味わいのあるキッチン。将来、食洗機が入れられるよう配管も工事済み
レンガを張った味わいのあるキッチン。将来、食洗機が入れられるよう配管も工事済み
2階のリビング。ウッドデッキを設け、空間が外に向かって広がるようにした
2階のリビング。ウッドデッキを設け、空間が外に向かって広がるようにした
)経年変化で味わいを増すスギの外壁に合わせ、玄関ドアもスギで製作
経年変化で味わいを増すスギの外壁に合わせ、玄関ドアもスギで製作

「周囲に対して、いばって建っているような目立つ家は好きではありません。地域に馴染んで、さりげなく建っている家のほうがずっと魅力的だと思うんです」(奥さま)。この家で奥さまが一番気に入っている場所は、ダイニングの隣につくった、畳敷きの小上がり。
「日々、この家は最高だなと実感しています。耳を澄まして、外の鳥の声を聞きながらゴロゴロしたり、のんびり雑誌を読んだりしているときがとても幸せです」(奥さま)。
鎌倉の自然環境と調和した、こだわりの住まいで、将来にわたって愛着を感じながら暮らしていける心豊かなライフスタイルをかなえている。


ドアを開けると、広くて気持ちのいい土間仕様の玄関。2台の自転車の駐輪スペースも
ドアを開けると、広くて気持ちのいい土間仕様の玄関。2台の自転車の駐輪スペースも
琉球畳でモダンにしつらえた1階の和室。夏はここが寝室になる。反対側は吊り押し入れ
琉球畳でモダンにしつらえた1階の和室。夏はここが寝室になる。反対側は吊り押し入れ
LDKの上には勾配天井を利用してロフトスペースも。寒い冬はここで寝ている
LDKの上には勾配天井を利用してロフトスペースも。寒い冬はここで寝ている

text_ Sayaka Noritake(colonna) photograph_ Akira Nakamura

取材協力

懐かしさ溢れる団地で始める、シンプルで心地よい暮らし

広大な敷地に整然と並ぶ棟、クリーム色の外壁に大きく書かれたアルファベットと数字、広場にはこの団地で生まれ育った子どもたちに愛されてきたであろうブランコ…。懐かしさ溢れるこの団地は、日本最初の大規模ニュータウン開発として建てられた「千里ニュータウン」の一つ。1967年築のこちらの団地に2012年4月から入居しているのが、共に27歳のSさんご夫妻だ。ご夫妻が暮らすのは、無印良品とUR都市機構の共同プロジェクトでリノベーションされた「新千里西町団地」。仕切り壁を取り去り、白い塗装が施された開放的な空間に、若い感性でコーディネートされたインテリアがよく似合っている。

物件データ 所在地/大阪府豊中市
面積/3.98m²
築年/1967年
リノベーション設計/ムジ・ネット株式会社 ryohin-keikaku.jp +独立行政法人都市再生機構 西日本支社
問い合わせ/独立行政法人都市再生機構 西日本支社 募集販売センター www.ur-net.go.jp/kansai
TEL:/06-6346-5540
緑地や公園が広く取られているのが団地の大きな特徴。静かな環境で暮らしやすい
モルタル仕上げの玄関にはクロスバイク。ビビッドな色が白い玄関に映える

「結婚が決まり、初めて暮らす家を探し始めたときに、この団地に暮らす姉が、ここの募集が出ていることを教えてくれたんです。抽選だったので、どうせ当たらないだろうと思いながら申し込んだら、見事当選し」(奥さま)。まだどんな家に住みたいかのイメージも固まっていない段階での当選だったため、自分たちが本当に暮らしたいのはどんな家なのかを探ろうと、当選後にいくつかの賃貸物件を回ってみたという。
「僕自身は団地というと、古い、狭いといったイメージがあったのですが、デザイナーズマンションも含めて5軒の賃貸住戸を回って比較しても、陽当たりや風通しの良さ、間取りのシンプルさなど、ここが一番魅力的でした。団地は陽当たりがとてもよく考えられていて、全ての住戸が南に向いているんです。この部屋はさらに、壁を取り去ってあるので、日中は照明がまったくいらないほど明るいですね。夏も南北に風が通るので快適でした」(ご主人)。

北側に位置するダイニングは全面が白で仕上げてあり、日中は照明無しでも十分明るい
北側に位置するダイニングは全面が白で仕上げてあり、日中は照明無しでも十分明るい
僧侶を職とするご主人は音楽が趣味で、イベントでDJをすることも
僧侶を職とするご主人は音楽が趣味で、イベントでDJをすることも

高度成長期の住宅不足を解消すべく建てられた団地は、限られた床面積を細かく仕切る造りが主流だった。しかし、年月を経て高齢化や核家族化が進んできているという。そこで古き良き日本の佇まいを生かしながら、今の暮らしに合うリノベーションを施す団地が増えてきている。新たな世代が新たなスタイルで団地に暮らし始める。団地はこれからも多くの人に愛され、住み継がれていくことだろう。

キッチンは広くて作業がしやすくお気に入り。料理も趣味のご主人はよく夕食を作るとい
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キッチンは広くて作業がしやすくお気に入り。料理も趣味のご主人はよく夕食を作るという
洗濯物が干せるルーフバルコニーからは、広い空と広い海。最高の眺めを独占できる
洗濯物が干せるルーフバルコニーからは、広い空と広い海。最高の眺めを独占できる

text_ Takako Yoshida photograph_ Akira Nakamura

取材協力