![伝統を残しながら、快適性をアップ 京町家を多種多様に使いこなす](https://satellite-img.athome.co.jp/hometrip/pc_80_photo01_l2.jpg)
京都の魅力を語る上で外せないのが、そこここの路地裏で見られる風情ある京町家。近年、維持・継承の難しさから急速に減少しているものの、歴史をたたえた独自の味わいにひかれる人は多く、暮らしやすく手を加えて住み継ぐケースが見られる。 東京で出版関係の仕事をしていた森さんご夫妻。東日本大震災をきっかけに独立と移住を考えるようになり、ご主人の実家がある京都に居を構えることにした。昔ながらの知恵を生かした生活や年月を経たものに、かねてより関心のあった奥さま。調べるうち、暗く、すき間風の吹くイメージのある町家だが、現代の建材を使うことで快適性が上がると分かった。ご主人とも思いが一致し、「せっかく京都に住むなら」と、町家暮らしを決意。出会ったのが、西陣エリアにある築95年の元酒屋の物件だ。
「職住一体で使いたかったので、隣家に気を遣わずに暮らせる一軒家であることが利点でした」(ご主人) 耐久性に不安があったため、町家リノベーションの実績があるミセガマエヤと共に内見。問題ないと判断が下り、リノベーションを敢行することに。柱や梁などの一部を残し、ほぼスケルトンの状態にして間取りを変更したが、既存の建具の多くを生かし、以前の面影を残すことを大切にした。
1階のどこからも見やすい位置に据えた坪庭。水やり用の手押しポンプが趣を添える。「ここで干し柿もしたい」と、夢は膨らむばかり |
仕事や子育ての展望を込めてテーマとしたのは、「発想が豊かになる家」だ。家中からアクセスのいい場所に階段を配し、「ものごとを考える契機になるように」と、壁に大きな本棚を造作。浴室からも眺められる坪庭、水場付きの広い土間を設け、「癒し」と「活発性」の混在する刺激ある住まいとした。子ども部屋や階段脇の和室は、引き戸で仕切れるつくり。これは小さな居場所をたくさん生むための仕掛けだが、旧来の意匠とも合致し、町家らしい風情へと昇華している。
2階まで続く本棚には書物がぎっしり。上り下りのときにふと手に取って、知識を蓄えたり、着想を得たりと役立てている |
「天窓や高窓を設け、断熱材を入れてもらうことで格段に明るく、温かくなりました。町家だから過ごしにくい、ということはありません」(ご主人) 「住まわせてもらいながら、家を育てているという気持ちでいます。自分たちに馴染んできたなと感じると、うれしくなりますね」(奥さま)
使う素材を変えるなどして一つ一つの部屋に表情を与えながら、家全体をワンルームのようなオープンな空間に。公園と庭側方向に計3つの大きな窓をつくり、森に包まれるような気分を味わえるようにした。 「朝も昼も晩も、外に行かず家で食事をするんです。少し疲れたらリビングなどでくつろいで、1日中家の中で過ごしています」(奥さま)