伝統を残しながら、快適性をアップ 京町家を多種多様に使いこなす
「間口に大きなガラス戸を使ったことで、広く感じます」(ご主人)。リビング の出入口には、ネットで購入した佐賀県の民家の建具を使用
2018.12.20

伝統を残しながら、快適性をアップ 京町家を多種多様に使いこなす

東京から京都に移り住み、築95年の京町家をリノベーション。 多彩に使える職住一体の家を叶え、豊かな発想を湧かせる日々

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京都の魅力を語る上で外せないのが、そこここの路地裏で見られる風情ある京町家。近年、維持・継承の難しさから急速に減少しているものの、歴史をたたえた独自の味わいにひかれる人は多く、暮らしやすく手を加えて住み継ぐケースが見られる。
 東京で出版関係の仕事をしていた森さんご夫妻。東日本大震災をきっかけに独立と移住を考えるようになり、ご主人の実家がある京都に居を構えることにした。昔ながらの知恵を生かした生活や年月を経たものに、かねてより関心のあった奥さま。調べるうち、暗く、すき間風の吹くイメージのある町家だが、現代の建材を使うことで快適性が上がると分かった。ご主人とも思いが一致し、「せっかく京都に住むなら」と、町家暮らしを決意。出会ったのが、西陣エリアにある築95年の元酒屋の物件だ。
 

物件データ 所在地/京都市上京区
面積/76.5m²
リノベーション年月/2013年10月
設計/ミセガマエヤ
www.misegamaeya.net

「職住一体で使いたかったので、隣家に気を遣わずに暮らせる一軒家であることが利点でした」(ご主人)
 耐久性に不安があったため、町家リノベーションの実績があるミセガマエヤと共に内見。問題ないと判断が下り、リノベーションを敢行することに。柱や梁などの一部を残し、ほぼスケルトンの状態にして間取りを変更したが、既存の建具の多くを生かし、以前の面影を残すことを大切にした。

「きれいな格子にひかれました」(奥さま)。外観はほぼそのままだが、一部ガルバリウム鋼板の屋根に葺きかえ、新しい窓を設けた
1階のどこからも見やすい位置に据えた坪庭。水やり用の手押しポンプが趣を添える。「ここで干し柿もしたい」と、夢は膨らむばかり

仕事や子育ての展望を込めてテーマとしたのは、「発想が豊かになる家」だ。家中からアクセスのいい場所に階段を配し、「ものごとを考える契機になるように」と、壁に大きな本棚を造作。浴室からも眺められる坪庭、水場付きの広い土間を設け、「癒し」と「活発性」の混在する刺激ある住まいとした。子ども部屋や階段脇の和室は、引き戸で仕切れるつくり。これは小さな居場所をたくさん生むための仕掛けだが、旧来の意匠とも合致し、町家らしい風情へと昇華している。

京町家の特性である外から見えにくい格子の効果で“こもり感”の出た土間。お子さんが遊べるよう広めに計画した
2階まで続く本棚には書物がぎっしり。上り下りのときにふと手に取って、知識を蓄えたり、着想を得たりと役立てている
丸見えになるのを防ぎながら、リビングとつながりを持たせたキッチン。収納は全てオープンにして使いやすく

「天窓や高窓を設け、断熱材を入れてもらうことで格段に明るく、温かくなりました。町家だから過ごしにくい、ということはありません」(ご主人)
 「住まわせてもらいながら、家を育てているという気持ちでいます。自分たちに馴染んできたなと感じると、うれしくなりますね」(奥さま)

仕事場は上下階に。今は2階の南側をご夫妻で使っている。床や天井はブラウンの塗料を施し、こなれた風合いに

使う素材を変えるなどして一つ一つの部屋に表情を与えながら、家全体をワンルームのようなオープンな空間に。公園と庭側方向に計3つの大きな窓をつくり、森に包まれるような気分を味わえるようにした。
 「朝も昼も晩も、外に行かず家で食事をするんです。少し疲れたらリビングなどでくつろいで、1日中家の中で過ごしています」(奥さま)

京町家特有の店の間・中の間・奥の間を思わせるつくり。一段高い2畳の和室は、ベンチにしたり仮眠したりと、いろいろな用途で活用
text_ Makiko Hoshino photograph_ Akira Nakamura
取材協力

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