Room113  

2021.4.26

元美術教師の父のアトリエが印象的な

陽が差し込み、季節を感じられる一軒家

美術 福澤勝広

現役医師で作家の南杏子の小説を「孤高のメス」や「八日目の蝉」の成島出監督がメガホンを取った本作。小さな診療所を舞台に、在宅医療について描いた映画『いのちの停車場』。帰郷した主人公、咲和子(吉永小百合)が、父親の達郎(田中泯)と暮らすことになる実家を、福澤勝広さんはどのようにつくりあげたのか。

リアルの中に、映画的なウソも混在する家

映画は主人公の咲和子が、ある事件の責任をとって、故郷の金沢へと帰るところから始まる。
「タイトルが『いのちの停車場』ですし、在宅医療という重たいテーマの作品でもあるので、それとは逆に、咲和子の実家、咲和子が勤めるまほろば診療所も『暖かいところに来たな』と思えるような場所にしたいと思いました」
 風光明媚な金沢…。市内を川が流れている。
「成島監督の狙いは水を感じさせることでした。金沢には大きな川が2本流れていて、咲和子がまほろば診療所に出勤するときも橋を渡るんです。もうひとつのロケ地となった栃木県にも運河があって、雰囲気をつなげて撮影をしています」

映画のタイトルにもなっている停車場は、金沢では適切な場所が見つからず、栃木で撮影されている。「金沢っぽい景色を探して撮影しました。雪を降らしたり、いろんなことをやらないといけなくて大変だったんです」(福澤)

成島出監督は『八日目の蝉』で日本アカデミー賞最優秀監督賞を受賞。『ソロモンの偽証』など、話題作を多く手がけている。
「成島監督とは初めてのお仕事でした。”映画のセット”然としたものではなくて、佇まいとしてそこに存在するような質感を求められていたと思います」
咲和子の実家は、元高校の美術教師で、定年退職した現在も絵を描き続けている父・達郎が建てたという設定。
「普通の家より大きくて、リビングはかなりの広さで、贅沢なつくりになっています。達郎は、元高校教師という設定ですが、あれぐらい大きくしないと、撮影の際に狭苦しくて動けなくなってしまうんです(笑)」

棚には画材やモチーフになるものが置いてある。風鈴は装飾の湯澤幸夫さんのアイデア。

咲和子の実家で印象的な薪をくべて暖を取るストーブは、成島監督によるリクエスト。
「最初の段階で、成島監督からストーブが欲しいと言われて、僕もそれはいいなと思いました。金沢の冬は寒いので、薪ストーブを入れているお宅もありますし、咲和子の実家は高台にあるので、特に寒いはずなんです。リアリティがあるのと同時に、ストーブは映像的にも栄えるんです。やはりファンヒーターでは味気ないですよね(笑)。映画の終盤、田中泯さんが薪をくべて炎が上がるシーンがあるのですが、効果的に使ってもらえました」

劇中、印象的なシーンで登場する薪ストーブ。「ストーブの後ろにレンガの壁をつくって、反射熱を利用しているんです」(福澤)

福澤さんは映画美術について「どこをつくったとかわからないのが一番の美術だ」と語る。
「時間をかけてつくるものなので、主張したいところもあるんですけど、それはあまりいいことではないと思うんです。あくまでもお芝居をするためのもので、観ている人が感情移入できることが大切です」
この仕事で一番楽しいのは、撮影前日にセットをつくっているときだそう。 「セットが自分のプランニング通りできていると感じて、いよいよ明日から撮影隊が来るというときに、『吉永さんがここからきて、田中泯さんはここからきて』と頭の中でシミュレーションする。『ここは写るといいね』とか、みんなでわいわいやっているときが楽しいですね」

「台所には扉が3枚あって開放的で、寒いのになんでこんなガラガラにあいてるんだ?と思われてしまうかもしれません。でも、そこは映画のウソで、なるべく無駄なものを取り払って、抜けがいいように、撮影しやすいようにつくっています」(福澤)

部屋の中は、装飾の湯澤幸夫さんと一緒に飾りました。『家具はアンティークなものにしよう』とか、『あまり古いものばかりだとあれだから、ここは現代っぽくしよう』とか、『お父さんはこういうものが好きだ』とか、そうやってつくるのが楽しいです」(福澤)

まほろば診療所の仙川院長(西田敏行)が常連客で、咲和子も通うことになるバー「BAR STATION」は世界中を旅したマスターが営んでいる設定で、内装はモンゴルをイメージ。「もともとは純和風の建物なんです。その家の中にゲルが建っているので『こんなところ本当にあるのかな』と思われるかもしれません(笑)。でも、監督が『やっちゃいましょうよ』と言ってくれたので、大胆なものをつくることができました」(福澤)

金沢市内の高台に建つ4LDKの一軒家。築年数は約50年。大きな窓のあるリビングからは市内が一望できる。

映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#130(2021年6月号 4月16日発売) 『いのちの停車場』の美術について、美術の福澤さんのインタビューを掲載。
プロフィール

福澤勝広

fukuzawa katsuhiro
60年新潟県生まれ。99年、映画『鉄道員ぽっぽや』で美術監督としてデビュー。主な作品に『劔岳 点の記』(09)、『探偵はBARにいる』シリーズ (11、13、17)、『検察側の罪人』(18)、『461個のおべんとう』(20)などがある。
ムービー

『いのちの停車場』

監督/成島出 出演/吉永小百合 松坂桃李 広瀬すず ほか 配給/東映(21/日本/119min) 東京の救命救急センターで働いていた、医師・白石咲和子(吉永小百合)は、ある事件の責任をとって退職。実家の金沢に帰郷し、父・達郎(田中泯)と暮らしながら「まほろば診療所」で在宅医師として再出発をする……。5/21~全国公開 ©2021「いのちの停車場」製作委員会
『いのちの停車場』公式HP
https://teisha-ba.jp/
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