Room119  

2021.10.25

同性カップルが暮らす

阿佐ヶ谷の2LDK

美術 井上心平

よしながふみによる原作を西島秀俊と内野聖陽のW主演で実写化、大ヒットとなったドラマ「きのう何食べた?」。待望の劇場版では、シロさんこと筧史朗(西島秀俊)と、ケンジこと矢吹賢二(内野聖陽)の関係がどのように変化するのか、興味がつきない。ふたりが暮らす2LDKの空間づくりを担ったのは、ドラマ版に引き続き美術の井上心平さんだ。

劇場版ではセットに。ドラマ版を再現

シロさんとケンジが暮らす2LDKの間取りは、ドラマ版ではロケセットだったが、劇場版ではスタジオにセットがつくられた。
「劇場版がつくられることになって、まだ本格的な準備が始まっていない段階で、『ふたりの住まいはセットでいきたい』とプロデューサーから告げられました」
劇場版でも、ドラマ版に登場した家具が揃えられている。それはドラマ版でのシロさんのキャラクターをしっかりと踏襲するため。
「シロさんについては監督と意見交換を重ねました。『倹約家だからこそ、家具ひとつひとつはちゃんとしたものを買って、長く大切に使っているタイプじゃないか』と。それで、ソファやダイニングテーブルはそれなりに値の張るものを用意したんです」
もともとシロさんがひとりで暮らしていたところにケンジが転がり込んできた、というのがこの住まいの設定だ。

ドラマ版から引き続き登場する家具が多いなか、フロアスタンドは新しいものが配されている。

「ドラマ版を準備している際、監督が『さりげなくでいいですけど、ケンジの趣味や嗜好が表れているような変な置物とか、そういうものが欲しい』と言っていたんです。シングルのソファはケンジが自分用に持ち込んだ家具、と想定して用意しました」
リビングには弁護士であるシロさんの仕事机もある。 「監督が思い描くシロさんは、あまり家に仕事を持ち込まない。『家の中ですごく仕事している感』はあまり出したくないということでした。なので、本もたくさんあるわけではなく、必要最低限の数に留めました」

ロケセットとして物件を拝借した際、リビングの扉はピンク色だった。 「グレートーンの壁ならば部屋が締まりそうだ、ならば扉もグレーにしようと考えて色を変えました。実はその段階ではシロさんの衣装がまだ決まっていなかったんです。その後、グレーなど、シンプルな衣裳が選ばれたので、結果的に配色もハマりました。良かったです」

本作の見どころのひとつが料理シーン。放送時間帯が深夜だったドラマ版は「飯テロ」と形容されることも多々あったほど。劇場版でも料理シーンは何度も登場する。 「『シロさん、料理しているぞ感』が醸されるよう、食器棚の上や、中にしまった調理器具、食器などが見えるように意識しましたが、料理関係の美術で苦労したところはそんなにありませんでした。どんな食器にするかは、監督、フードスタイリストの山﨑慎也さんと僕らで、『シロさんはそんなに派手なものはきっと選ばない。色のついたものよりも、シンプルなものを好むはず』などと、いろいろ相談しました。『100円ショップでは買わず、値段とは関係なく自分が気に入ったものを購入して、大切に使っているだろう』とか。みんなで決めた方向性に沿って、食器は山﨑さんが用意してくれました」

劇中、小日向さん(山本耕史)が持ち寄った大量の食材も収納してしまう大型の冷蔵庫。

本作に欠かせない、調理中、食事中に交わされる会話シー
ン。さまざまな角度からの撮影が可能なカウンターキッチ
ンは重要な立役者。

炊飯器の位置については、ドラマ版の制作時点から井上さんにこだわりがあった。
「ご飯が炊けたときのお芝居があるんです。ふつう炊飯器は壁ぎわに置きがちなのですが、それだとシロさんがキャメラに背を向けることになり、表情が撮りづらい。悩んだ結果、現在の位置になりました」 製作陣から「劇場版だから、スケール感をアップした美術を」という要望はとりたててなかったという。とはいえ、ドラマ版よりも予算が増えたことで、さりげないこだわりが随所に発揮されている。
「監督はクレーンを使ったり、撮り方には一層工夫を凝らしていましたし、京都旅行やお花見など、ドラマ版にはなかった華やかなシーンが登場します。ただし劇場版になったからといって、部屋が急に変化するのはおかしいですよね。劇場版のセットをつくるにあたっては、むしろドラマ版と変えないことが大事なのではと考えて取り組みました」

料理シーンの撮影にあたっては事前に、井上さんたち美術スタッフがつくり込んだキッチンにフードスタイリストの山﨑慎也さんが実際に立ち、「調理する動きが不自然にならないか」というチェックが行われた。

阿佐ヶ谷駅からギリギリ徒歩圏内にある、築20年以上の2LDK。人気の住宅街にしては「家賃10万円程度」という格安である設定の理由は、近いとは言い難い駅からのアクセスにある。

映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#133(2021年12月号10月18日発売) 劇場版「きのう何食べた?」の美術について、美術の井上さんのインタビューを掲載。
プロフィール

井上心平

inoue shimpei
74年兵庫県生まれ。磯見俊裕氏に師事。近作に『そこのみにて光輝く』(14)、『オーバー・フェンス』(16)、『生きてるだけで、愛。』『きみの鳥はうたえる』『赤い雪』(すべて18)、『ブルーアワーにぶっ飛ばす』『町田くんの世界』(ともに19)、『ロマンスドール』『糸』(ともに20)、『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』『浜の朝日の嘘つきどもと』(ともに21)がある。
ムービー

劇場版「きのう何食べた?」

監督/中江和仁 原作/よしながふみ 出演/西島秀俊 内野聖陽 ほか 配給/東宝 (21/日本/120min) シロさん(西島秀俊)とその恋人、ケンジ(内野聖陽)。誕生日プレゼントとしてシロさんはケンジを京都旅行に連れて行くが、それを機にふたりは互いに心の内を明かせなくなってしまう。ある日、シロさんは偶然、見知らぬ若いイケメン(松村北斗)と歩くケンジを目撃する。11/3~全国公開 ©2021 劇場版「きのう何食べた?」製作委員会 ©よしながふみ/講談社
劇場版「きのう何食べた?」公式HP
https://kinounanitabeta-movie.jp/
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