Room96  

2019.11.25

住む世界の違いを象徴的に描く

スターと女子高生、それぞれの生活空間

美術監督 金勝浩一

「別冊フレンド」で絶賛連載中のコミック「午前0時、キスしに来てよ」。人気要素のひとつは、住む世界の違うふたりが互いに惹かれ合う恋愛を描いているところ。国民的スーパースターと一般JK、この“格差恋”の物語が、片寄涼太と橋本環奈をキャストにより実写化される。美術監督の金勝浩一さんは、その対比をそれぞれの住まいの見せ方に色濃く反映させた。

雲の上の暮らしと、地に足のついた穏やかな生活と

芸能人である楓(かえで)の住まいの設定は、タワーマンションの最上階にあるペントハウスで、立地は港区白金あたり。金勝さんはいくつもの高級マンションを内見して回ったという。「なにせ、そんなところに住んだことがないから、まずは知るところから始めました(笑)」。 制作にあたっては、見学した物件よりも豪華にしつらえることに。日奈々の住まいとのギャップを演出するためだ。スタイリッシュな空間を指向して、基調はモノトーンにしたという。

洋服や身の回りの生活のにおいが感じられるものは、メゾネットの階上にある別の部屋に置いてある、という設定。階段もスタイリッシュに。

キッチン横のインナーバルコニーは、市松模様風に玉砂利を
敷いた石庭に。

メゾネットで、リビングとダイニングキッチンは吹き抜け。窓は天井まであり、眼下に広がる東京の街並みは、窓の外にビル群の写真を並べて表現。キッチン横には屋外に開かれたインナーバルコニーを設け、中庭風のこの空間に石庭をこしらえた。設定としては、同じフロアにもう1部屋、メゾネットの階上に3部屋ある「4LDK」。
階段は、壁から生え出ているようなステップに、細いステンレスの手すりを合わせて洒脱な意匠に。テレビは踊り場の下部につくった壁に埋め込んである。「この壁の裏側にはなにがあるんだろう?って興味が湧くように、思わせぶりな空間をつくったんです。実際のところ、楓と日奈々が映画を観るシーンでは、スタッフが裏側で画面の操作をしているんですけど(笑)」。

踊り場の直下の壁に埋め込まれたテレビ。裏には人が通り抜けられる程度のスペースがあり、ぜいたくな空間の使い方を意識。

劇中には、ふたりがケータリングを食するシーンも。テーブルは金勝さんがこだわって、鏡面仕上げに。

“手の届かない芸能人の暮らし”を演出するために、その他でも、棚や家具、床面、照明など、さまざまな工夫が凝らされている。強く意識していたのは「鼻持ちならないお金持ち」という印象を与えないこと。「これをやるとバブルっぽくなるからやめよう、って装飾もありました」。
壁面のあしらいには美術監督ならでは配慮が見て取れる。「マンションのセットって、どうしても白壁が多くなって、のぺっと単調になりがちなんです。額を飾ることで回避することもできるけど、それだとウソっぽくなったり、別の意味が出てきたりしてしまう。映画界で“白壁恐怖症”のスタッフも少なくない。みんな、壁にデコボコをつけたりして工夫しているんです」。本作では、積み上げたレンガ風のデザインを施したり、埋め込み棚を設けることで、ポイントを演出している。

「照明は多めに用意しました。シャンデリアだとベタだな、
と思って、たとえばこれは、本来は単体で使用する球型の
ものを集合させて、ちょっと70年代風に高さを変えて吊し
ています」。

白色が拡がる単調さを避けるべく、壁面の表情に工夫がこ
らされていることがわかる。

支柱を極力排除して横のラインが強調された、壁につくりつけの書棚。

一方の日奈々の住まいの撮影には、鎌倉・極楽寺にある日本家屋が使用された。ふだんは外国人向けのゲストハウスとして使用されている、和洋折衷の平屋だ。監督が求めたのは、楓のマンションとは好対照を成す、“つつましさ”や“普通っぽさ”。かといって、“貧乏くさくはならないように”というリクエストも。諸条件を満たす物件を見つけてきたのは、ほかならぬ監督のアドバイスだった。「とにかく監督は鎌倉が好きなんです。前2作も鎌倉で撮影しましたし。ロケコーディネーターよりも鎌倉に詳しいかもしれません(笑)」。ちなみに劇中で極楽寺は、日奈々の住む街としても描かれている。

和洋折衷様式の日本家屋。谷(やつ)に建っていて、家のすぐ裏手には山が迫っている。

今作の現場は、ふたりのプロデューサー、ラインプロデューサーを始め、若い女性スタッフが多かったという。「女性スタッフのみなさんが、日奈々の部屋の飾りつけをキャピキャピと『かわいい~』って楽しんでくれて(笑)」。女性に囲まれた金勝さん、という構図が目に浮かぶようだが……。「僕は遠目にその風景を見ていました(笑)」。

広かった洋間の四方をパネルで囲むことで、〝ふつうの女子高生の部屋〟の広さに。

日奈々の机。真面目で几帳面な日奈々が、小学生の頃から
大切に使っているのだろう、と思わせる小物の数々。

日奈々の趣味が現れるコルクボード。女の子っぽく、楓や、
Funny boneのキリヌキが飾られている。

港区白金あたりに建つタワーマンション。最上階にある、4LDK のペントハウス。広い窓からは東京の街並みが見渡せる。

映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#121(2019年12月号 10月18日発売) 『午前0時、キスしに来てよ』の美術について、美術監督の金勝さんのインタビューを掲載。
プロフィール

金勝浩一

kanekatsu koichi
東京都生まれ。94年『トカレフ』で美術監督デビュー。近作に『3D彼女 リアルガール』、『旅猫リポート』(ともに18)、『そらのレストラン』(19)、Amazonプライムドラマ『MAGI 天正遣欧少年使節 』(19)など。本作は『Life 天国で君に逢えたら』(07)、『僕の初恋をキミに捧ぐ』(09)、『ひるなかの流星』(17)に続く新城毅彦監督作品。
ムービー

『午前0時、キスしに来てよ』

監督/新城毅彦 原作/みきもと凜 脚本/大北はるか 出演/片寄涼太 橋本環奈 眞栄田郷敦 八木アリサ 岡崎紗絵 鈴木勝大 酒井若菜 遠藤憲一 ほか 配給/松竹 (19/日本/113min) 勉強にしか興味がなさそうに振る舞いつつも、内心はおとぎ話のような王子様との恋愛にあこがれている花澤日奈々。ある日、日奈々の通う高校に、映画の撮影で国民的スーパースター・綾瀬楓がやってくる……。12/6~全国公開 ©2019映画『午前0時、キスしに来てよ』製作委員会
『午前0時、キスしに来てよ』公式HP
https://www.shochiku.co.jp/cinema/lineup/0kiss/
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