Room52

リップヴァンウィンクルの花嫁

2016.03.18

見れば見るほど不思議さが増す

ミステリアスな豪邸

美術監督部谷京子

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日本の長編実写映画は久々となる岩井俊二監督作『リップヴァンウィンクルの花嫁』。派遣教員として働きながら普通に生きていた主人公の七海(黒木華)。その生活は、SNSで知り合った男性との結婚を機にあっさりと崩れ始める。厳しい現実に翻弄された果てにたどり着くのは、住み込みの高額アルバイト先である豪邸だ。映画としては岩井監督の現場に初参加となる美術監督の部谷京子さんは、岩井ワールドにどのように近づいて行ったのだろうか。

真白という存在が空間を形づくる

七海が東京の片すみで一人暮らしをする部屋、新婚生活を送る世田谷のマンション、仮住まいの宿泊所……「今作のロケの候補地はどこも一癖二癖あるところで、岩井監督も制作部も不思議な場所を探してくるなとずっとワクワクしながら一緒に下見をしました」と美術監督の部谷京子さんは楽しそうに振り返る。
「七海が住み込みのバイトにやってくる豪邸は、台本では『東京都内の豪邸』とあったのですが、都内ではスケール感のある建物がなかなか見つからず、箱根にある建物をお借りしました。箱根には何度も足を運びました。その帰りに岩井監督が、展覧会やイベントにも誘ってくださって、今回はお仕事以外の時間も共有することが多かったんです。同じものを見たり、話しあったりする中で、この作品に反映されている今の日本やネットの世界の出来事が現実なのだなと実感できていきました」

大きな門構え、お屋敷へと続く階段がこの豪邸のスケールの大きさを感じさせる。




オーナーが外遊の間、七海がメイドとして管理を頼まれたこの豪邸には、先住メイドの真白が自由に生活していた。住まいというには規格外のお城のような空間で、1階は天井も高く開放感のある広いリビングがある。その一角には、真白の生活スペースである寝床や、巨大なアイランドキッチンのような場所も。
「ここで真白の生活をコンパクトに見せられたら面白いと思いました。たとえば、朝帰ってきてソファベッドに倒れこんじゃうとか、キッチンで朝ごはんくらいはつくるかもしれないとか、もしかしたら、夜な夜なパーティーをやっていたかも……という風に。見れば見るほど、真白の生活が不思議に感じられるような部屋にしたかったんです。誰かが住んでいる部屋をつくるとき、私にとって大切なのはその役を演じる俳優さんの肉体や声、雰囲気。そういう意味で演じるCoccoさんはとてもミステリアスで真白そのものだった。だから、ここにCoccoさんがいたら……とイメージして考えていきました」

1階の一角をパーテーションで仕切って真白のスペースに。ソファベッドが真白の寝床。



2階にある七海の寝室はもともと衣裳部屋だった設定。「当初はメイドが使う部屋なので、ものが置いてあるだけの倉庫然としたイメージでしたが、段ボールだけよりは、派手な衣装がたくさんあると面白いと思い、コスプレイヤーの友人にも力を借りて飾りました。全部で2、300着はありますね」


ミュージックビデオやCM、岩井俊二プロデュースのドラマ『謎の転校生』と、いくつか岩井監督とともに仕事を重ねてきた部谷さんだが、岩井映画への参加は今回が初めて。その現場で印象的だった出来事をたずねてみた。
「一番うれしかったのは、1階にあるピアノを、岩井監督と安室役の綾野剛さんが即興で弾いてくださったこと。岩井さんはもともと音楽家でもありますが、綾野さんまでも!?と。後で考えたらドラマの役づくりで練習されていたみたいです。その音楽をみんなで共有した時間はすごく特別でした。まるで真白の部屋でパーティーをしているような感じで、すごく楽しかったです」

ハロウィンパーティーをイメージした飾りの中には蜘蛛の巣状のネットも。現実にがんじがらめになってとらわれているような、七海と真白の心がどことなく感じられる。



パーティーの痕跡ともとれる散らかったリビング。床が見えないくらいにもので埋めていく作業は、なんと一晩で行ったのだとか。「その一晩がとても濃密な時間で、一気に真白の世界にたどり着けた感覚でした」



変わりもののオーナーなのか、お屋敷の一室にはサソリや毒グモ、クラゲを飼育している水槽が並ぶ部屋もある。




1階はパーティーもできるほど広い空間。右の階段を上がると、七海が使っている衣裳部屋寝室があり、左の階段を上がるとオーナーのペット専用の飼育部屋が。ほかにも数多くの部屋や、広い庭、テラスなどもあるお屋敷。


映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#99(2016年4月号 2月18日発売)『リップヴァンウィンクルの花嫁』の美術について、部谷さんのインタビューを掲載。

Profile

プロフィール

美術監督

部谷京子

heya kyoko

広島県生まれ。大学在学中に円谷プロダクションで美術助手のアルバイトを始め、映画美術の道へ。92年『シコふんじゃった。』(周防正行監督)で美術監督デビュー。おもな作品に、『Shall we ダンス?』『陰陽師』『壬生義士伝』『それでもボクはやってない』『天地明察』『あん』など。09年から地元広島で映画祭を主宰。14年から広島国際映画祭に改称、代表を務める。

Movie

映画情報

リップヴァンウィンクルの花嫁
監督・脚本/岩井俊二 出演/黒木華 綾野剛 Cocco 配給/東映(16/日本/180min) SNSで知り合った男性と結婚することになった七海(黒木)は、式の出席者が少ないことから代理出席のバイトをなんでも屋の安室(綾野)に依頼。しかし新婚生活は長くは続かず、義理の母に浮気の疑罪を着せられ家を追い出されてしまう。苦境に立たされた彼女に、安室は怪しいバイトを紹介する……。3/26~公開 ©RVW フィルムパートナーズ
リップヴァンウィンクルの花嫁公式HP

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