Room136  

2023.3.29

恋人同士となった“ぼっち”と“キング”

ふたりの個性と関係性を映す古民家

美術 布部雅人

互いに意識し合う、“ぼっち”な高校生・平良“ひら”(萩原利久)とスクールカーストの頂点に君臨するキング・清居“きよい”(八木勇征)。凪良ゆうによるBL小説をドラマ化した『美しい彼』は海外でも反響を呼び、その人気に押されてシーズン2がつくられ、さらに『劇場版 美しい彼~eternal~』の公開が決定した。シーズン1から美術を務める布部雅人さんは、大学・俳優業へと進んだふたりの関係性を、ひとつ屋根の下にどう表現したのか?

「攻め」と「受け」──立ち位置にも発揮された監督のこだわり

ドラマから今回の映画まで、シリーズを通して登場する平良の家。シーズン1の撮影当初、実は現在とは別の物件がロケ地として決まっていたそう。 「その場所がコロナ禍の影響で急に使えなくなってしまったんです。この物件に決まったのはクランクインの10日くらい前。そのときは美術部が僕1人、装飾部1人、小道具1人の3人体制で、急ピッチで美術をつくる必要がありました。イメージボードを描く時間はなく、台本を読んだ印象と酒井麻衣監督と話したことを念頭に、ロケ地を見た直感で『小物はこれ!』という感じで進めていきました。それがいいほうに作用したと思います」

 

そして今回、シーズン2と映画のために、布部さんは1年ぶりに平良の家を“再現”した。 「同じものを集め直す作業は大変で、さすがに見つからないものもありました」 そういいつつも、前作とほぼ同じものを揃えることができたそう。ただし今作では平良と清居の関係が発展し、ふたりは平良の家で同棲をはじめる。生活の変化はディテールにも反映された。

平良のお母さんの趣味はパッチワークなどの手芸。「手づくりのファブリックを井草さんという作家さんにお借りして、あちこちに飾りました。ロッキングチェアに置いた座布団の色も、お母さんの嗜好を反映して、すごくかわいらしいものになっています」

リビングのテーブルに置かれたアヒルの置物。風工房の核さんという方の手作り品。平良が手作りした設定でドラマと映画で変化があるので注目ポイントです

「ソファのある6帖の居間は、もともとお母さんの趣味のスペースでした。シーズン1では、ミシン台や好きで集めた小物、ファブリックを置いてあったのですが、今作ではそれらと並行して清居の持ちものが並んでいます」 本棚には俳優の道を歩みはじめた清居の志向が現れている。 「映画や発声練習の本、ペラの舞台台本、自分が出た映画の台本が並んでいます。ちょっとした遊び心で、映画の台本のタイトルは、八木さんが所属する「FANTASTICS」のアルバム名をもじったものになっています。寄りのショットがないので、観ていて気づかないと思いますけど(笑)」

部屋のあちらこちらに置いてあるベル。「清居が平良を呼びつけるためのアイテムです。実際に使うシーンは出てこないのですが、八木さんはクランクインしてすぐ、意味に気づいてくれました」

一方の平良は、大学を卒業してカメラマンのアシスタントに。部屋の美術については、職業を表現することよりも、清居と暮らすことによる平良の内面の変化を重視したという。 「監督は『清居のために平良はスーパー主婦になるんです』とおっしゃっていました。それをふまえて、平良の部屋には料理本など、二人暮らしを豊かにするようなアイテムを配置しました。高校時代は散らかっていましたが、清居を迎えてきれいに整頓されています」

カメラや天体望遠鏡が置かれた平良の部屋。「中高時代、平良は何かをしたいと自分から発信することはなかったけれど、両親が気にかけていろいろなものを与えていたのでは、とイメージをふくらませました。友達がいなかった平良にとって部屋だけは自分のテリトリーなので、趣味的なアイテムがひしめいているんです」

一番の大きな変化はベッドだ。 「平良が使っていたシングルベッドだけでは芝居をするのにも、実際にふたりが横になるのにも狭いので、折りたたみのベッドを持ち込みました。2つのベッドには高低差があります。清居が横になるシングルベッドより、平良が使う折りたたみベッドの方が低い。そうすることで、ふたりの関係性が見えて面白いのではと考えました」 監督はシリーズ開始当初から「左側が平良、右側が清居」という2人の立ち位置にこだわっていた。これはBLにおけるキャラクターの「攻め」「受け」を意味する位置関係。遠慮がちに見える平良が実は主導権を握っていることを示唆している。 「ソファから見たとき、清居のものを置くスペースと、平良のものを置くスペースもその位置関係を守っています」

シーズン1の放送時、平良の部屋をTwitterで紹介した布部さんは、その反響の大きさに驚いたそうだ。 「スマホの通知が鳴り止まなくて、『バズるってこういう感じなんだ』と初めて体験しました。まったく予想していなかった。普段はやらないんですが、気をよくして、劇中に登場した“清居の応援Tシャツ”のロゴをアップしてしまったくらいです。やりすぎるとプロデューサーの方に怒られそうなので(笑)、今後は慎みます」

“清居グッズ”は、今作にも登場する。 「平良は清居の彼氏でありながら、一番のファンでもあるので、“清居グッズ”を自作しているんです。制作にあたっては、『美しい彼』のファンの方がつくったものを参考にさせてもらいました。ここも監督がこだわったところで、何回も手直しをして仕上げました。どんな風に登場するかはぜひ劇場で確認してもらいたいですね」

庭にある金木犀(キンモクセイ)。原作者の凪良ゆうさんによる書き下ろし番外編小説「金木犀」を反映したもの

神奈川県の相模原に建つ築70年の古民家。縁側から望む庭の雰囲気も情緒豊か。実際のロケ地となったのは、東京都文京区にある「健康古民家かのう」。現在、この場所はファンの方たちの聖地のようになっている。

映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#141(4月号2023年2月18日発売) 『劇場版 美しい彼~eternal~』の美術について、美術・布部さんのインタビューを掲載。
プロフィール

布部雅人

nunobe masato
84年大阪府生まれ。14年『太陽の坐る場所』(矢崎仁司監督)で美術監督デビュー。近作に『ゾッキ』(21/竹中直人監督、山田孝之監督、齋藤工監督)、『いとみち』(21/横浜聡子監督)、『老後の資金がありません!』(21/前田哲監督)、『偶然と想像』(21/濱口竜介監督)、など。待機作に3月17日公開の『零落』(竹中直人監督)がある。6月公開『水は海に向かって流れる』(前田哲監督)
ムービー

『劇場版 美しい彼~eternal~』

監督/酒井麻衣 原作/凪良ゆう 脚本/坪田文 出演/萩原利久 八木勇征 ほか 配給/カルチュア・パブリッシャーズ (23/日本/103min) 紆余曲折の末、恋人同士となった平良と清居。だが、「清居は神様」で信仰の対象でしかない平良と「普通」の対等な恋人同士になりたい清居はすれ違い続け……。4/7~TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
『劇場版 美しい彼~eternal~』公式HP
https://culture-pub.jp/utsukushiikare_movie/
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