Room139  

2023.6.28

学校では控え目な女子高生

好奇心の旺盛さを伝えるカラフルな部屋

美術 遠藤真樹子

空気を読みすぎてしまう女子高生・黒田希美(桜田ひより)は、学校イチのモテ男子・瀬戸山潤(高橋文哉)から突然手紙で告白され、戸惑いつつも返事をしたところから交換日記をはじめることになるが、実はそれらが親友の江里乃(茅島みずき)に宛てたものだったことが判明。本当のことを言い出せないままついやり取りを続けてしまい、事態は思わぬ方向へ……。累計60万部を突破した櫻いいよの小説を映画化した『交換ウソ日記』。タイトル通り重要なアイテムである交換日記をしたためる大事な場所を、美術の遠藤真樹子さんはカラフルでポップに創りあげた。

レコード、生物、植物、写真など、希美のワクワクを詰め込んだ

本作の準備にあたり、まず竹村謙太郎監督から遠藤さんにリクエストがあったという。
「監督は、いまの時代に囚われすぎないように作品を描きたい。本作には交換日記やCDなど、いまの高校生には馴染みが少ないかもしれないアイテムがキーとして登場するけど、直筆の日記で気持ちのやりとりをしたり、好きな音楽を自由に聴ける時代であってもお気に入りのCDを見つけて大切にしたりするのは、普遍的な行為であって、それは大切にしたい。原作では色使いで登場人物それぞれの気持ちが表現されているので、その部分は大切に構成していきたいとお話してくださいました」

好奇心の強い希美のキャラクターを感じ取ることができる勉強机とその隣の棚。「希美が子供の頃から大切にしているものや、お父さんのお土産、ウーパールーパーのぬいぐるみなどが飾られています。ウーパールーパーは、ほかのロケ場所でも出てくるのですが、昭和世代ならちょっと懐かしさを感じるんじゃないでしょうか。ノスタルジックでちょっと不思議で可愛くて、部屋のアクセントになっていると思います」

日記をしたためるシーンは、希美と瀬戸山、ふたりの関係が変化していくこの映画の見せ場のひとつ。希美が誰にも邪魔されずに日記に集中できる場所、それは自分の部屋だ。
「何件も候補物件を見たうえで、やっと辿り着いたロケ場所です。高校では控え目な希美なので、心境の変化が表れるシーンの多くは彼女の部屋の中。考えたり、気分が上がったり、悩んだりする。気持ちを落ち着かせるために動き回ったりもするので『自由に動ける部屋』という理想像が監督にはありました」

希美と瀬戸山が使う交換日記。「瀬戸山が『交換日記は、どんなノートがいいだろう?』と一生懸命に考えて選んだアイテムだと想像して、監督を含めてみんなで話し合って、このノートに決めました。密やかなやりとりという雰囲気に合わせて、目立ちすぎない、優しく淡い黄色の表紙で、少し小さめのノートになりました」

ワゴンに入ったポラロイドカメラ。「希美の好奇心が象徴的
に表れているアイテムです。インスタントカメラやポラロイ
ドカメラは、10代20代の世代で再び人気のようです。いまも
昔も変わらず愛されているもの、という、この作品のテーマ
にも通じるアイテムだと思います」

カラフルな色使いは、この部屋でも発揮されている。
「明るい木目の家具と、ノスタルジックなトーンのオレンジとグリーン系のファブリックアイテムをベースにしています。お父さんっ子、おじいちゃんっ子で、子供の頃から密かに好奇心が強い女の子の部屋という想像でつくっていきました。希美にとって心地のいい居場所になればという思いを込めて、レコード、生物、植物、写真など、希美のワクワクを詰め込みました。そして、変化していく希美の気持ちを描くために鏡を用いています。鏡越しに撮ることで、気持ちがより伝わるだろうと考えました」

陽光の入る窓際。「窓際の棚には、旅行の思い出の貝など、様々な貝が入ったカラフルな小瓶、植物などが飾られています。光が差し込む窓際に、キラキラしているものや植物などで和む一角をつくりたいなと思いました」

希美と瀬戸山が接近するきっかけとなるのが、実在する人気バンド「マキシマム ザ ホルモン」。部屋にはポスターやCDなどがあふれている。
「友達にも自分を主張することが苦手で、空気を読みすぎてしまう女の子が、実は密かにハードコアな音楽が好きだという設定。では、ほかに何が好きな女の子だろう?と台本を読みながら想像していきました。『控えめな女の子』と『ハードコアな音楽』をどう繋いでいこう?と考える作業はとても楽しかったです」

マキシマム ザ ホルモンのCD、レコードなどが置かれた
コーナー。「マキシマム ザ ホルモンは、劇中で瀬戸山と
の距離が縮まるきっかけになるキーアイテムです。高校での
希美のイメージとのギャップを伝えるコーナーでもあるの
で、意外なジャンルや音楽全般への興味を印象づけられる
ように構成していきました」

マキシマム ザ ホルモンは、希美の心の支えでもある。
「放送部に所属している希美は、部活動で音楽も流します。表現豊かなマキシマム ザ ホルモンをはじめ、色々な音楽を聴いている風情が出ればと思って、音楽コーナーをつくっていきました。自己表現が苦手な彼女ですが、人に対しての思いやり、寄り添う力、共感力は高い女の子なので、音楽が寄り添っている部分も大きいと思います」

瀬戸山の部屋は、希美の部屋と対照的な和室。「高校の人気者というイメージと、周りにはあまり見せていない家族思いの部分というギャップを表したかったので、監督とイメージ共有をしながら、和室の部屋で温かみが出せるようなロケ場所を探してもらいました。小物や色使いなどによってパッと見て印象が違うようにしましたが、ふたり共通の『好き』であるマキシマム ザ ホルモンやサブカルっぽいアイテムは引き立つように構成しました」

瀬戸山の部屋にもマキシマム ザ ホルモンのグッズがある。「瀬戸山が希美から英語の科目を教わるシーンのときに希美が部屋を見回して、『あ、ホルモン! 瀬戸山くん、興味があるんだ』と気づくようなコーナーを一角にギュッとまとめてつくりました。希美の主観で描かれるシーンなのですが、観ている方にも希美と同じ目線で瀬戸山くんの人となりを発見してもらえればという思いで構成しました」

また、遠藤さんは映画の美術はチームワークだと語る。
「今回、家具などの飾りや小道具を探したり、つくったりする装飾のメンバーに主人公と年齢が近い20代の世代が多かったことも、とてもよかったと思います。映画づくりはチームワーク。美術スタッフそれぞれが、前向きに楽しんで登場人物たちに色付けをしていってくれたことにとても感謝しています」

希美が家族と住む東京都八王子市近郊に建つ一軒家。「ロケ地となった家は築年数が結構経っています(築4、50年くらい)。家族の思い出が詰まっていて、大切に使っているお宅という雰囲気が出ていたように思います」。希美の部屋は角部屋で二面の窓から光が入り、採光性が高い。フローリングに敷いてあるカラフルなラグも印象的。

映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#143(8月号2023年6月16日発売) 『交換ウソ日記』の美術について、美術・遠藤さんのインタビューを掲載。
プロフィール

遠藤真樹子

endo makiko
82年東京都生まれ。山口修氏に師事。近作に『ダブル』(WOWOW)、『真夜中乙女戦争』(ともに22)などがある。
ムービー

『交換ウソ日記』

監督/竹村謙太郎 原作/櫻いいよ 脚本/吉川菜美 出演/高橋文哉 桜田ひより 茅島みずき 曽田陵介 齊藤なぎさ / 板垣瑞生 配給/松竹 (23/日本/110min) 高校2年生の希美は移動教室の机の中に「好きだ。」とだけ書かれた手紙を見つける。送り主は、学校イチのモテ男子・瀬戸山。戸惑いつつも、返事を靴箱に入れたところから、ふたりのヒミツの交換日記がはじまる……。7/7~全国公開 ©2023「交換ウソ日記」製作委員会
『交換ウソ日記』公式HP
https://movies.shochiku.co.jp/koukan-usonikki/
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