Room148  

2024.3.21

壁一面に表れるキャラクター

「好き」を集めた「王国」のような部屋

美術監督 西村美香

浅野いにおの人気コミックを二部作でアニメーション映画化した『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』。巨大な空飛ぶ円盤が浮かぶ東京。その下で小山門出(こやまかどで・幾田りら)と中川凰蘭(なかがわおうらん・あの)たちの青春が描かれる。美術の西村美香さんは、門出が暮らす空間を、原作のイメージを壊すことなく緻密につくり上げた。

お母さんの少しゆるい部分も表現できればいいなと思いました

浅野いにおさんのコミックをアニメーション映画化するのに際し、美術監督のオファーに西村さんはすぐ快諾したという。大事にしたのは「目線」だった。
「自分も浅野さんのファンなので、参加するにあたり、ファン目線で見て、原作の世界観を崩していないかを問いかけながらつくっていきました」
その姿勢は、アニメーションディレクターの黒川智之さん、新井修平プロデューサー、スタッフ全員で共有していたようだ。
「黒川さんとは“お互いに原作ファンを裏切らないような表現を見つけましょう”と話しました。制作中は新井さんが『浅野さんの世界観を壊してないか』という目線で見てくださっていて、『こういう表現は浅野さんっぽいですね』といったアドバイスをいただいていました」

制作初期から浅野さんともミーティングを重ねて、本作はつくられていった。
「最初のルック(絵の見た目)を開発している段階で、浅野さんとミーティングをさせていただきました。実線が強いところが原作の魅力だと思っていたので、黒ベタや白黒という表現で強調されてる部分を大胆にアニメにも乗せたいと最初は考えたんです。アニメという表現に置き換えたとしてもその印象が変わらないようにしたくて、その方向性のルックを開発していました」
だが、その時点でのルックに目を通した浅野の意見に、西村はドキっとした。
「黒ベタをそのままアニメに置き換えると、そこにある情報が潰されちゃってもったいないのでは?という意見をいただいたんです。せっかくカラーでアニメという表現をやるにあたり、そんなに強調しなくてもいいですよ、というようなお言葉でした。作業の初期にアドバイスをいただいたおかげで、方向を定めることができました。これは大きかったですね」

背景描写で描かれる線の色についても熟考がなされた。
「実線だから黒ということではないだろうと考えました。カラーで描かれた浅野さんのコミックを読んだ際、線から赤茶系の印象を受けたことがあったんです。この作品も、少し赤茶色というか、茶系に振った線で描こうと決めました」
全体のルックが定まり、制作作業が始まった。門出が家族と住むマンションは、かなり原作へ忠実につくられている。

鮮やかな色彩で描かれた実在の街。「当初は現実世界に近い色で表現しようと考えていたんです。でも作業を進めるなか、小学生から成長していく彼女たちの目線に映る世界の色が大事だと思い直し、そこから色鮮やかになっていきました」

マンションの廊下部分。門出の部屋の青に対して、赤がキー
カラーになっている。「元気なイメージである色を選びまし
た。門出の部屋との対比になっていますが、門出自身に活力
があるときとないときで、赤の見え方も変わってくるだろう
なと思います」

「浅野さんが原作を描く際に用いた資料を共有させていただきました。おおまかな間取りなどは忠実に再現しています。ただ設定の細かい部分は、アニメらしく『そこにキャラクターが存在している』空間になるよう工夫を凝らしています」
門出は父親、母親と3人で生活していたが、とある事情で父親は出て行き、母娘2人暮らしになる。
「門出の生活に変化が起きたことが伝わるよう、その前後で設定を細かく描き分けました。たとえばお父さんがいなくなって、お母さんが見せないようにしていた部分がディテールに表れています。お母さんには本来は乙女チックな面があって、実はフェミニンな服装や小物が好きなのに、門出と旦那さんには見せないようにしていたんじゃないかと想像したんです」

大きな本棚のあるリビング。「カーテンは、お父さんの趣味ではないニュアンスを出したいと思いました。お母さんとお父さんで買いに行って、お母さんの方がパワーバランスが強かったので、ピンクになったんです(笑)」

玄関には出し損ねたゴミや、干しっぱなしの洗濯物も。
「3人で暮らしていたときは、『お母さんらしく』みたいな気負いもあって、部屋を整理整頓してきれいに片付けていたんです。娘と2人暮らしになったら『女同士だし』と、ちょっとだらしなさが表に出てもおかしくない、と解釈してそういう少しゆるい部分が画面に出ればいいなと思いました」
門出のキャラクターをストレートに反映させているのが彼女の部屋だ。テーマカラーは青に設定した。
「ブルートーンのものを部屋に置いている女の子の性格はこういう感じかな……といろいろ想像しながらつくっていきました」

小学生時代の門出の部屋。本棚のサイズはまだ小さく、パソ
コンもノートパソコンを使用している。まだカーテンはなく
、ブラインドカーテンがつけられている。

原作で花柄だったカーテンは、ストライプに変更されている。
「『無地ならこういう性格』みたいに記号的な意味合いを持たせるつもりはなかったのですが、部屋全体のバランスを見ると、カーテンは印象が強く残るアイテムなので、性格を反映させられると考えて変更させていただきました。『これが好きだ』とこだわって選ぶ門出の性格を想像して、カーテンは主張の強いストライプにしたんです」

イソべやんほか、多くのぬいぐるみが置かれている。「門出は、主張が強いものを集めがちな子なんだろうなと。よく見ると浅野さんの昔の作品のキャラクターが混じっていたりもします。なるべく原作で描かれたぬいぐるみはそのまま登場させるようにしました」

バックライトを内蔵したキーボードが目を引くパソコンまわり。「ファンとしては浅野さんがゲームに詳しいことを知っていたので、ゲームが好きな人だったらどういうものを置くかなと想像しました」

壁一面の大きな本棚もキャラクターを反映させている。
「部屋は自分の『好き』を集めた『王国』みたいな面があります。漫画の編集者である門出の両親の影響もあると思いますが、本棚も同様です。きれいに整頓して置きたいタイプではないだろうから、本の上に本を積み重ねたりしています。『一番に目に入る棚には気に入っている大型本を置くだろうな』などと想像してつくり込んでいきました」
アニメーションの美術の醍醐味について、西村さんはこう語った。
「キャラクター達が本当にそこにいて、暮らしていそうな生活感を表現することが、楽しみというか、この仕事の醍醐味です。観てくださる方が『この人、ここに暮らしていそう』と感じてもらえたら一番嬉しいですね」

世田谷区に建つ2LDKのマンション。かつてのお父さんの書斎をお母さんが自分の部屋として利用するのは、アニメでの新規の設定。

映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#147(4月号2024年2月16日発売) 『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』の美術について、美術監督・西村さんのインタビューを掲載。
プロフィール

西村美香

nishimura mika
79年北海道生まれ。小倉工房出身。背景として数多くの作品に参加。15年『台風のノルダ』で美術監督デビュー。近年は『ドロヘドロ』(20)美術監督補佐などがある。
ムービー

『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』

アニメーションディレクター/黒川智之 原作/浅野いにお 声の出演/幾田りら あの ほか 配給/ギャガ (24/日本) 3年前の8月31日。突如巨大な宇宙船「母艦」が東京上空に襲来し、この世界は終わりを迎えるかに見えた。その後、絶望は日常に溶け込み、大きな円盤が空に浮かぶ世界は今日も変わらず廻り続ける。友情と初恋とセカイの終わりと……。女子高生2人のディストピア青春日常譚。前章3/22~、後章5/24~全国公開 ©浅野いにお/小学館/DeDeDeDe Committee
『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』公式HP
https://dededede.jp/
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