Room112  

2021.3.29

映画人たちが足繁く通った

撮影所前の小料理店

美術 西村貴志

山田洋次監督最新作『キネマの神様』。日本映画黄金期の撮影所と、現代の映画館を舞台にした本作は、山田監督の映画へのラブレターとでも言える作品。美術の西村さんは、映画の主な舞台となる主人公・ゴウ(菅田将暉)が訪れる小料理屋・船喜。そして、現在のゴウ(沢田研二)が訪れる映画館、テアトル銀幕をどのようにつくりあげたのか?

心地よさを感じられる民芸調の店内

映画の主な舞台である小料理屋・船喜。ここはかつて存在した松竹大船撮影所(神奈川県鎌倉市)の近くにあった松尾食堂がモデルとなっている。 「松尾食堂は昭和11年に大船撮影所ができてから、少し遅れてオープンしました。小上がりには川島雄三監督が陣取り、助監督だった山田監督も御用聞きに行っていたそうです」
 松尾食堂は渋谷実監督や大島渚監督など、日本映画黄金期の巨匠から松竹ヌーヴェルバーグの若い才能まで、様々な映画人が通っていて撮影所の人間でも行けるのは、監督、所長、役員だけという高級なお店だったそう。

おかもちや箸袋に描かれた船喜のマークは、美術助手さんがつくった映画のオリジナルのもの。モチーフは船と櫂。

外観は、食堂としては珍しいなまこ壁。これも実際の松尾
食堂からインスパイアされている。

船喜の厨房。手前に見えるのは料理を一時的に保存しておく蠅帳。

「店内は空間的にゆったりとっています。メニューがいっぱい貼ってあるような感じではなくて、品の良さが出ればと思いました。実際の松尾食堂も定食を出す店ではなくて、お客さんから食べたいものを聞いて、それをつくるというお店だったそうです」

店内の装飾にはこだわりが。「腰板に竹を挟んでいます。板ばりの部分には自然木を使っています。

本作でもうひとつの舞台となるのは、主人公が足を運ぶ東中野にあるという設定の映画館「テアトル銀幕」。原作でのモデルは東京・飯田橋の「ギンレイホール」だ。
「ロビー、事務所、映写室はセットですが、客席だけは予算の都合でロケーションになりました。ギンレイホールをはじめ、都内のミニシアターを6、7件取材に行って、そこの雰囲気を参考にしつつ、監督の『こういうのはいいね』という要素を詰め込んで、最終的にこのセットになりました」 テアトル銀幕を経営するのは、ゴウと撮影所で同期だったテラシン(小林稔侍)。
「テラシンは撮影所に勤めていたときから映画館を経営するのが夢でした。中古物件を買い取ったのか、自分で建てたのか、劇中では、描かれていないのですが、テラシンが経営できる規模の大きさと古さを感じさせる必要はありました」

『シュルメールの雨傘』『5つの金貨』など、劇中に登場す
るポスターやチラシは、すべて架空の作品で、今作のために
つくられた。

撮影場所となったのは、埼玉県にある「川越スカラ座」。
「いまのミニシアターはどこも綺麗なんです。その点、川越スカラ座は客席のキャパ、スロープの感じがちょうどいい感じでした。客席の扉は川越にあわせて同じものを、同じ位置につくりました。山田監督がロビーのイメージは赤だとずっとおっしゃっていて、イスもシートを張り替えて赤いものにしました」
劇場にはテラシンらしさも出ている。「テラシンはとても几帳面な性格だろうと思いました。事務所にしても、売店にしても、物はいっぱいあるけど、きっちりきれいに整頓されているんです」

セットでつくられた映写室。フィルムの映写機とデジタルの映写機(DCP)は本物が使われている。

近年の山田洋次監督の作品は、主要な場面はほぼセットで造られている。「今回も7割ぐらいの場面がセットで造られています。ロケーションだと日没など、時間の制約があってなかなか落ち着いて撮影できない。その点、セットは照明や間取りも自由に変えられます。芝居に集中できるということだと思います」

撮影所の近く建つ2階建ての小料理屋。2階部分は淑子とその家族が暮らす住居スペースとなっている。

映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#129(2021年4月号 2月18日発売) 『キネマの神様』の美術について、美術の西村さんのインタビューを掲載。
プロフィール

西村貴志

nishimura takashi
72年静岡県生まれ。95年に松竹大船撮影所入社。08年に『犬と私の10の約束』で美術としてデビュー。18年には『空飛ぶタイヤ』(18)で日本アカデミー賞優秀美術賞を受賞した。そのほかの主な作品に『ソロモンの偽証 前篇・事件』『後篇・裁判』(ともに15)、『破門 ふたりのヤクビョーガミ』(17)、『グッドバイ 嘘からはじまる人生喜劇』(20)などがある。
ムービー

『キネマの神様』

監督/山田洋次 原作/原田マハ 脚本/山田洋次 朝原雄三 出演/沢田研二 菅田将暉 永野芽郁 野田洋次郎 / 北川景子 寺島しのぶ 小林稔侍 宮本信子 ほか 配給/松竹 (21/日本) “映画の神様”を信じ続けた男とその家族に起こる、50年の時を越えた奇跡の物語。8/6~全国公開(C) 2021「キネマの神様」製作委員会
『キネマの神様』公式HP
https://movies.shochiku.co.jp/kinema-kamisama/
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