Room118  

2021.9.8

妻の二面性が反映された

洋風のお屋敷

美術 布部雅人 ×春日日向子

『嘘を愛する女』(18)、『哀愁しんでれら』(21)などを輩出してきた「TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM FILM」。2018年度の準グランプリに輝いた『先生、私の隣に座っていただけませんか?』が映画化された。互いに秘密を抱えた夫婦のスリリングな心理戦を描いた本作。美術を手がけた布部雅人さんと春日日向子さんは、どのようなエッセンスを盛り込んだのだろう。

ステンドグラス、ドライフラワー、佐和子の母の趣味が反映された一軒家

創作意欲が枯れてしまった漫画家の俊夫(柄本佑)は、売れっ子漫画家である妻・佐和子(黒木華)と暮らしながら、佐和子の担当編集者・千佳(奈緒)と不倫をしている。ある日、佐和子の母・真由美(風吹ジュン)がケガをしたことから夫婦そろって佐和子の実家へと帰ることになるところから物語は始まる。

広い庭に設けられた家庭菜園ではきゅうりやなす、トマトなどが栽培されている。物語上不可欠だった桃の木は、偶然にも元からこの家にあったもの。撮影のために50mほど移動させられている。

すでに夫と離婚している真由美は、大きな家に一人で暮らしており、室内にはドライフラワーやアートフラワーなどが飾ってある。
「真由美はかつてここでドライフラワーの教室をやっていた、という設定です。一人暮らしにしては大きすぎるテーブルも、ドライフラワーやアートフラワーをつくる道具を置くため。風吹ジュンさんご本人、脚本に描かれている真由美、ロケセットとしてお借りした家、それぞれの雰囲気からイメージを膨らませて美術をつくっていきました」(布部)

撮影に際しては、ほとんどの家具が入れ替えられた。「狭い階段を上がって、佐和子の部屋に本棚を入れる作業は大変でした」(春日)

布部さんがこだわったテーブルの上に吊ってある電飾。低い位置に配置することで、画の奥行き感が強調されている。

ステンドグラス風のランプも印象的だ。真由美の趣味性が反映された装飾品というだけでなく、現実と妄想が入り混じる今作のテイストも反映している。
「生活感を表現しながらも、意識的に現実を少し誇張してつくった部分もあります。監督からは『夜を熱いイメージにしたい』という要望がありました。それを受けて、熱を感じられるような間接照明を用意しました」(布部)

ステンドグラスは、装飾の加々本麻未さんが集めたもの。「電飾については、監督もわたしたちもこだわりました。集めた間接照明のなかからどれを使って、どのように光を演出するか。そこは頭を悩ませたところです」(布部)

ふくろうの電飾とアートフラワー。「知り合いにアートフラワーの作家さんがいて、何点かお借りしました。実はわたしが通っていた幼稚園の先生です(笑)」(春日)。

劇中に登場する亀は、俊夫が東京のマンションから連れてきたという設定。ロケハンのとき、監督から「実家で生き物を飼っているという設定にしたい」というオーダーがあった。 「最初、監督は『たとえば熱帯魚はどう?』とおっしゃったのですが、熱帯魚だと水槽が水で満たされている分、画に冷たい印象を与えてしまうかもしれない。そこで『亀はどうですか?』と提案しました。監督は面白がってくれたようで、亀は本編にもちょくちょく登場することになりました。現場で飼い続けるのは大変だったみたいですけど(笑)」(布部) 「そのおかげで現場でのわたしの仕事は8割方、亀の世話でした(笑)」(春日)

俊夫が持ちこんだ亀。「本編ではカットされていますが、“カメラの移動とタイミングを合わせて葉っぱを食べる”という無茶なリクエストも、この亀はやってのけました(笑)」(春日)

劇中の佐和子は、優しいかと思えば、急に冷たくなったりとミステリアス。その両極端な態度を反映するかのように、美術も1階は暖かいイメージで暖色に、2階にある佐和子の部屋は寒色と、対照的にしつらえられた。
「佐和子の部屋は、監督から『冷たい感じにしたい』と言われました。お借りした家の、壁紙やカーテンがちょうど青っぽかったんです。それもこの物件にした理由のひとつでした」(布部)

佐和子の部屋に置かれた漫画は、ほとんどが制作部スタッフの私物。佐和子のキャラクターに似つかわしいと感じられる作品がセレクトされた。

「もともと1階はピンク色のカーペットで、2階はブルーだったんです」(春日) 佐和子は高校を卒業してすぐに家を出て、都内の専門学校に進学。実家の部屋は、高校時代の空気を留めることになった。
「佐和子の部屋の時間は高校3年生で止まったまま。本棚を埋め尽くしていた漫画のうち、お気に入りは東京に持っていったので、すきまが空いているんです。ただ、すきまが多すぎてなにもないように見えてもいけないので、バランスに注意しながら飾っていきました」(布部)

子供時代の佐和子が遊んでいたであろう、うさぎのぬいぐるみ。俊夫の亀と合わせて「うさぎと亀」になったのは意図しない偶然で監督も面白がったと言う。

漫画家夫婦を主人公にした本作で重要な小道具となった漫画の原稿。監督が特にこだわったのは、佐和子と俊夫が漫画を執筆するシーン。 「演出部が漫画家さんとやりとりをして用意してくれた原画をコピーして、役者さんが演技のなかで手を加えられる状態に整えておくのも美術の仕事でした。前後のページを揃えたり、鉛筆の下書きを足していったり。執筆するシーンに監督は相当こだわっていて、いろんな角度から10分間近く手元を撮り続けていました」(春日) 「ニコニコしている堀江監督ですが、その要求はハードでした。しかも、撮影当日が近づくにつれ高くなっていきました(笑)」(布部)

北関東にある、大きな吹き抜けを持つ4LDKのロッジ風一軒家。築年数は40年ほど。トイレに置かれた、現在は使用されていない備え付けの灰皿は、1980年代風インテリアの名残を感じさせる。

映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#132(2021年10月号8月18日発売) 『先生、私の隣に座っていただけませんか?』の美術について、美術の布部さん×春日さんのインタビューを掲載。
プロフィール

布部雅人 ×春日日向子

nunobe masato
84年大阪府生まれ。14年『太陽の坐る場所』(矢崎仁司監督)で美術監督デビュー。近作に『ゾッキ』(21/竹中直人、山田孝之、齋藤工監督)、『いとみち』(21/横浜聡子監督)など。公開待機作に『ムーンライトシャドウ』(21/エドモンド・ヨウ)、『老後の資金がありません!』(21/前田哲)、『DIVOC-12』(21/上田慎一郎)、『偶然と想像』(21/濱口竜介監督)がある。
kasuga hinako
88年京都府生まれ。東京藝術大学大学院映画専攻にて美術監督の磯見俊裕に師事。『友達』(13/遠藤幹大監督)、『水上のフライト』(20/兼重淳監督) 、『ひらいて』(21/首藤凛監督)で美術を手掛ける。『湯を沸かすほどの熱い愛』(16/中野量太監督)、『8年越しの花嫁』(17/瀬々敬久監督)、『すばらしき世界』(21/西川美和監督)では小道具を担当。
ムービー

『先生、私の隣に座っていただけませんか?』

脚本・監督/堀江貴大 出演/黒木華 柄本佑 / 金子大地 奈緒 / 風吹ジュン ほか 配給/ハピネットファントム・スタジオ (21/日本/119min) 漫画家・佐和子の描く「不倫」を題材にした漫画は、どこまでが現実で、どこからが創作なのか? ウソとホンネが交錯、夫婦のスリリングな心理戦が展開する。9/10~新宿ピカデリーほか全国公開 ©︎2021「先生、私の隣に座っていただけませんか?」製作委員会
『先生、私の隣に座っていただけませんか?』公式HP
https://twitter.com/watatona_2021
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