Room144  

2023.11.6

酒づくりを生業とする母娘が暮らす

自然豊かな土地に建つ一軒家

監督 吉原正行

これまで、温泉旅館(『花咲くいろは』)、アニメーションの制作現場(『SHIROBAKO』)、町おこし(『サクラクエスト』)、水族館(『白い砂のアクアトープ』)と、さまざまな職業に取り組む若者たちを描いてきたP.A.WORKS。最新作『駒田蒸留所へようこそ』は、世界的にも注目を集めるジャパニーズウイスキーの制作現場を舞台にした青春群像劇。監督の吉原正行さんはリアリティを大切にしながら、酒づくりに賭ける情熱を描いた。

リサーチをする中でアニメーション業界と近いものを感じました

「ウイスキーについていうと、実は若い頃、早く酔うという目的で飲んでいたので、あまりいい記憶がないんです(笑)。今作を制作している最中に当時のことを思い出して、すごく申し訳ない飲み方をしていたなという反省の気分でした(笑)」
贖罪の気持ちも抱えながら制作していたという本作。吉原監督にとって、ウイスキーをつくる工程は非常に新鮮に映った。

「製造工程は知らないことばかりでした。意外にも若い方々が勤めていて、20代のスタッフがウイスキーのことを饒舌に語ってくれたりする。若いうちからウイスキーづくりに興味を持って取り組まれていることが印象的でした。ひとつのものを完成させるまでに数年という時間がかかるので、若いうちからのめりこんでいないと、その先を続けていくことはできないのかもしれないですね。将来のビジョンをきちんと持った方が多いと感じました」

リアリティを持って描かれた駒田蒸留所。味覚に関わることから、リサーチで訪問した蒸留所でもタバコを吸うスタッフは見かけなかったとのこと。

主な舞台となる蒸留所の描写はリアリティにこだわった。
「ポットスチル(蒸溜器)の形によって製品の味が変わるそうなんです。今回取材させていただいた蒸留所のポットスチルは業界でも有名なものなので、絵にする際、きちんと形を再現しないといけないなという緊張感がありました。ポットスチルを見ただけで、どこの蒸留所かがわかるマニアがかなり存在しているので」
お酒を題材にした本作、ウイスキーの瓶やグラスの描写には特に気をかけた。
「いかにリッチに描くかという点にこだわりました。本来ならそういうところには投入しない3DCGも使って、写り込みといった、手描きでは限界がある描写をつくりこんでいったんです」
主人公の琉生(るい)と母・澪緒(みお)が住んでいる家は、蒸留所から少し離れたところに位置している。
「ひいじいちゃんからの家業が酒づくり。水がきれいで、きっと農業にもふれている土地なんだろうなと想像しました。ウイスキー市場が活況を呈していたこともあって、かつて裕福だった感じが残っています。建物内部に、代々続くこの家族の格式のような空気感を醸せたらと考えました」
1階のリビングは、経理を担当している母親の仕事場。いまは亡き琉生の父が、現役だった頃の名残りでもある。

サイドボードに並ぶお酒は、駒田家が手がけたものだけではない。「家業が蒸留所ですから、自分たちでつくったお酒以外もコレクションとして置いているはず。『これは持っておかなければ』という銘柄もあるでしょうから」

「お父さんが生きていた頃はお母さんとふたりでダイニングでお茶を飲みながら、日々の会話はもちろん、仕事の話もしていて……と、そんな暮らしぶりを想像しました。お母さんは現在も仕事は自分の部屋に持ち込まずに、ここで作業しているんです」
ウイスキーとアニメーション。一見遠く思える業界同士だが、吉原監督は近しいものを感じ取ったようだ。

美術大学に通っていた琉生の部屋にはマンガが並ぶ。「兄の部屋からこっそり持ってきた漫画がいつのまにか溜まって大量に並べてある、という設定です。もともと家業を継ごうと思っていたわけではないから、酒づくりには直結しない、年相応の生活感が出せればなと考えました」

「蒸留には相当な手間がかかるけれど、樽を開けるまで味はわからない。その期間は仮に一番短くても3年間だそうです。見当はつけているのでしょうけど、『熟成してみたら思った仕上がりと違った』みたいなこともきっとあると思うんです。まるで水彩のぼかしをつくるくらいに予測不能な作業だと想像するのですが、そのぼかしすら『どうなるかを思い描きながら使っている感』があって、プロだなと感じました。ファンによる蒸留所巡りという聖地巡礼があることや、若いスタッフたちが熱心に仕事に取り組んでいる姿も含めて、アニメーション業界と近いものがあるという印象を受けました」

蒸留所を取材する光太郎。彼が東京で暮らすワンルームのアパートは、西武新宿線の田無駅近辺という設定。ここから有楽町にあるニュースサイトの制作会社へと通っている。「キッチンで手を洗うと、壁に背中がくっついてしまうほどの狭さ。若者らしく、収入と家賃でギリギリのバランスをとった物件で、それなりに生活している感じを出そうと考えました」

甲信越地方に建つ6LDKの一軒家。蒸留所の近くに建てられた代々続く駒田蒸留所の社長宅。

映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#145(12月号2023年10月13日発売) 『駒田蒸留所へようこそ』の美術について、監督・吉原さんのインタビューを掲載。
プロフィール

吉原正行

yoshihara masayuki
68年生まれ。01年、P.A.WORKS立ち上げより参加、『有頂天家族』でTVアニメーションシリーズ初監督。神山健治監督の『東のエデン 劇場版』(10)では副監督を務めた。監督作に『万能野菜 ニンニンマン』『マイの魔法と家庭の日』(ともに11)がある。
ムービー

『駒田蒸留所へようこそ』

監督:吉原正行 声の出演/早見沙織 小野賢章 内田真礼 細谷佳正 アニメーション制作/P.A.WORKS 配給/ギャガ (23/日本/91min) 実家の「駒田蒸留所」を継ぎ、社長となった駒田琉生。経営難の蒸留所の立て直しとともに、バラバラになった家族と、災害の影響で製造できなくなった「家族の絆」とも呼べる幻のウイスキーの復活を目指す……。11/10~全国公開 ©2023 KOMA復活を願う会/DMM.com
『駒田蒸留所へようこそ』公式HP
https://gaga.ne.jp/welcome-komada/
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