Room108  

2020.11.11

三兄弟妹、それぞれのスペース

個性がハッキリと描きわけられた部屋

美術 田中真紗美

直木賞作家・西加奈子の代表作を映画化した『さくら』。日々の幸せ、初めての恋、愛するがゆえの葛藤が、ひとつの家族を通して描かれていく。美術を手がけた田中真紗美さんは、長谷川家が暮らす一軒家をどのようにつくりあげたのか。

リアリティよりも、芝居を優先される現場

映画『さくら』に登場する長谷川家は、父・昭夫、母・つぼみ、長男・一、次男・薫、末っ子・美貴、そして犬のサクラという家族構成。田中さんは、三人の兄妹のバラバラな個性を部屋に反映させ、対比させている。
「原作で、主人公の薫は自分自身のことを『本当に平凡だ』と言っています。『普通ってなんだ?』というのも考え始めると答えはなかなか難しいですが、普通に見えるにはどうすればいいのかと考えました」

飼い犬・サクラの成長に合わせてつけられた柱の傷。

サクラの犬小屋。原作にも登場する、美貴が書いた「入口」
「出口」が再現されている。

一方、長男の一は、学校のヒーローという設定。
「部屋には、野球やほかのことで学校から表彰された賞状が飾ってあります。部屋自体がかっこいい感じになるようにブラックとホワイトを基調にまとめています」
長女の美貴は、少し変わっている。
「美貴は学校でも浮いている存在です。教科書など、学校のものは家にあると思うのですが、監督が『一回、現実的なことは忘れていいです』とおっしゃったことがありました。なるべく家具の圧迫感なくなるようにベッドではなくてふとんで寝ていたり、最低限の小さい机と鏡だけが置いてあったり、外で気ままに摘んできたような草花がかざってあったり、ファンタジックなところがある部屋にしています。それでも、違和感がないのは小松菜奈さんの立ち振る舞い、存在感に寄るところが大きいと思います」

そして、田中さんが意識したのは、母親であるつぼみが、この家をつくっている感じを出すこと。
「この映画は、観た人それぞれの受け取り方があると思うのですが、わたしはお母さんの話でもある思いました。現在と違って、お母さんが専業主婦で、家のことをずっとやっていた時代だったと思います。子どもたちが成長して、中高生になって時間ができてきたので、趣味のパッチワークや、ドライフラワーで家を飾っていることで表現しました」

オーソドックスなダイヤル式の黒電話。田中さんは、誰が観ても懐かしいと思える家を目指したと言う。

部屋の中に貼ってある命名書は、田中さんが紙から選びつくったもの。「監督の出身地の山梨では出生直後だけでなく、家にずっと飾っておくものらしいです」

キッチン。家の至るところにあるドライフラワーは、母・つぼみの趣味。

田中さんは、『スティルライフオブメモリーズ』に続き、二度目の矢崎仁司監督作品への参加となった。
「監督はアートに造詣が深くて、直接は関係のない絵画を見せて、こういう感じでと言われることがあります。今作に登場するサクラの犬小屋は、監督がノーマン・ロックウェルの有名な絵を持ってきて『こういう感じで』とおっしゃったので、それを参考にさせていただいて、つくりました」

矢崎監督は、前作でも、リアリティよりも芝居を優先したと言う。
「前作『スティルライフオブメモリーズ』のときも、暗室で現像するシーンがあるのですが、机の上に現像液を入れたバットを置けるよう準備を進めていました。ところが撮影前に監督が現場にいらっしゃった時に、『うーん、机はいらない』とおっしゃて、床に置きました。普通はやらないようなことでも、矢崎監督は芝居に合わせて、変えていくのだなあと思いました。『こんなのじゃ撮れないよ』と無理難題を言われたことはないですが、役者の芝居に関わるところでは、ギリギリまでねばって一番いいものを見つけてくるという作業を、毎回やっている感じがありました」

関西に建つ4LDKの一軒家。中古の物件を買ったという設定。撮影は山梨で行われている。

映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#127(2020年11月号 10月18日発売) 『さくら』の美術について、美術の田中さんのインタビューを掲載。
プロフィール

田中真紗美

tanaka masami
83年愛知県生まれ。種田陽平氏に師事。07年、『ザ・マジックアワー』でデビュー。矢崎仁司監督作品への参加は『スティルライフオブメモリーズ』(18)に続き、2本目。そのほかの主な作品に『雪女』(17)などがある。
ムービー

『さくら』

監督/矢崎仁司 原作/西加奈子 脚本/朝西真砂 出演/北村匠海 小松菜奈 吉沢亮 寺島しのぶ 永瀬正敏 ほか 配給/松竹 (20/日本/119min) その年の暮れ、長谷川家の次男・薫は実家へと向かった。2年前、兄の一(ハジメ)が亡くなり、そのことをきっかけに家族はバラバラになっていた。その絆を繋ぎ止めるかのように、薫は幼い頃の記憶を回想する……。11/13~公開 ©西加奈子/小学館 ©2020「さくら」製作委員会
『さくら』公式HP
https://twitter.com/SakuraMovie
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