Room117  

2021.8.18

幼き日に生き別れた父親

父娘の絆が深まる一軒家

美術 安宅紀史

『南極料理人』『横道世之介』『モリのいる場所』などで知られる沖田修一監督が、田島列島の人気コミック「子供はわかってあげない」を映画化。高校2年生の美波(上白石萌歌)は、幼い頃に別れた父親・友充(豊川悦司)を探す旅に出る。再会した親子がひと夏を過ごす海辺の一軒家はどのようにつくられたのか。

ずっと住み続けることがなさそうな仮住まい感

主人公・美波の父、友充が住んでいるのは江虫という架空の町。美術を手がけたのは『南極料理人』から沖田監督作品へ参加している安宅紀史さん。
「沖田監督の作品では、メインの舞台となるロケ地をいつも時間をかけて探します。脚本を読んだとき、友充の家は平屋の借家というイメージが湧きました」
今回、沖田監督がこだわったのは、家から海までのほど近い距離。そして、友充の職場である指圧治療院も同じ敷地内にある設定。
「昔の農家では、納屋を改造して住居としているお宅もありましたよね。それと同じように、治療院が母屋で、離れに住んでいるようなイメージです。しかし、同じ敷地に母屋と離れがあって海からの距離感を満たす、物件は見つかりませんでした。海と家は別々に撮影をしようという案も出たのですが、監督は『できるだけギリギリまで探したい』と、こだわりを捨てなかったんです」

すだれは「和風の情緒に落ちすぎても違うだろう」ということから、プラスティックのもの。色がそろっていないところがポイント。近隣の家で使用していた色落ちしたプラすだれを、新品と交換して譲り受けた。

そしてようやく見つけたのが、劇中に登場する家。ロケは静岡県静岡市で行われた。
「制作部さんががんばって探してきてくれました。この家が見つかったときに、母屋との位置関係の設定にはそんなに重きを置かなくていいのでは、というはなしになりました」
たたずまいと、海との距離感。それらは監督のイメージにピッタリだった。
「実は住んでいる人がいたんです。しかし、たまたまその方が引っ越すことが決まっていて、引っ越し中にロケハンをさせていただきました。判然としない細かい構造などは、想像しながらプランを立てていきました」
物件はその後、取り壊し予定との知らせもあり、実作業では壁をぶち抜くこともできたので、自由度が高かった。

風鈴、蚊取り線香、扇風機などが夏らしさを演出している。

防風のために植えられた木。ロケ地となった家にあったものをそのまま使っている。

脚本を読んで安宅さんの頭に浮かんだ友充の家のキーワードは「仮住まい感」。白っぽい、がらんとした空間というイメージだった。
「友充自身は、海の近くに住みたかったというわけではない気がしたんです。たまたま知り合いが持っている物件に転がり込んだら目の前が海だった…。というニュアンスにしようと思いました。友充は世捨て人的な感じで、世間や人間関係のしがらみを一度フラットにした状態。だから、この家は仮住まいというか、『ここにずっと住み続けるわけではないんだろうな』という感じを出したかったんです」

地元のお酒という設定の江虫浜(えむしはま)(名前はMCハマーの語呂合わせ!?)。ラベルは安宅さんが制作。

友充はここへ越してきて、2、3年という設定。けれども家財道具は最低限のものしかない。「美波の部屋のように、住んでいる人がこだわっているものを置いているという飾り方ではなくて、ものにあまり執着がないので最低限しかない。趣味の匂いや嗜好が出ない方がいいかなと思いました」生活感があるけれど、薄いという表現は映画美術として簡単ではない。
「ものを増やして、物量で生活感をつくっていくというよりは、引き算の中でも生活感を出していく。バランスをとるのは難しかったですね」よく見ると、部屋の中に貼ってあるポスターは古びていて、まるで時間が止まっているかのよう。

ふすまを張り替えたり、壁の色を少し白く塗り直すなど、手が加えられている。

「ポスターは友充がセレクトして貼ったのではなくて、前に住んでいた人が残していったものをはがさずにそのまま放っている。その年のポスターではないんです。掛時計も同じで、前の住人が出ていってからそのままなので、針は止まっています。こういうものを仕込むと『時間、間違ってるんじゃないの?』と観ている方に思われる可能性があるので、美術としては難しいんです(笑)」

美波の部屋には、彼女がファンの『魔法左官少女バッファローKOTEKO』のグッズが飾られている。

庭から海までは目の鼻の先。石垣を擁する3DKの一軒家。築年数こそ40~50年と古いが、玄関の上がり框(がまち)が曲線を描いているディテールなど、気の効いたデザインも印象的な物件。

映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#132(2021年10月号8月18日発売) 『子供はわかってあげない』の美術について、美術の安宅さんのインタビューを掲載。
プロフィール

安宅紀史

ataka norifumi
監督/沖田修一 原作/田島列島 出演/上白石萌歌 細田佳央太 千葉雄大 古舘寛治/斉藤由貴/豊川悦司 配給/日活 (20/日本/138min) 高校2年、水泳部女子の美波(上白石萌歌)はある日、書道部男子のもじくん(細田佳央太)との運命の出会いをきっかけに、幼い頃に別れた父親の居所を探し当てる。何やら怪しげな父にとまどいながらも、海辺の町で夏休みを一緒に過ごすが……。8/20~全国公開 ©2020「子供はわかってあげない」製作委員会 ©田島列島/講談社
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『子供はわかってあげない』

監督/沖田修一 原作/田島列島 出演/上白石萌歌 細田佳央太 千葉雄大 古舘寛治/斉藤由貴/豊川悦司 配給/日活 (20/日本/138min) 高校2年、水泳部女子の美波(上白石萌歌)はある日、書道部男子のもじくん(細田佳央太)との運命の出会いをきっかけに、幼い頃に別れた父親の居所を探し当てる。何やら怪しげな父にとまどいながらも、海辺の町で夏休みを一緒に過ごすが……。8/20~全国公開 ©2020「子供はわかってあげない」製作委員会 ©田島列島/講談社
『子供はわかってあげない』公式HP
https://agenai-movie.jp/
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