Room120  

2021.11.29

スパリゾートハワイアンズの花形

新人ダンサーたちが希望を育む寮

総監督 水島精二

福島県いわき市に実在する大型レジャー施設・スパリゾートハワイアンズと言えば、ダンシングチーム、通称〈フラガール〉たちによるショーが広く知られている。『フラ・フラダンス』は、新人ダンサー・夏凪日羽(福原遥)と同期で入社した仲間たちの成長、彼女たちを取り巻く人々との絆を描いたアニメーション映画だ。総監督を務めたのは『劇場版 鋼の錬金術師 シャンバラを征く者』『劇場版 機動戦士ガンダム00 A wakening of the Trailblazer』『楽園追放 Expelled from Paradise』など、数々のヒット作を手がけてきた水島精二さん。フラガールたちが喜び、悩み、そして羽ばたこうとする空間をどのように活写したのか。

リアルを感じさせつつ、カラフルな印象を与える空間

フジテレビによる、岩手県、宮城県、福島県の被災3県を舞台にしたアニメ作品を製作する「ずっとおうえん。プロジェクト 2011+10…」。その1本として、福島県いわき市を舞台に制作されることになった作品が『フラ・フラダンス』だ(そのほか、このプロジェクトでは宮城県岩沼市を舞台にしたTVアニメ、長編アニメ映画『バクテン!!』、岩手県大槌町、遠野市を舞台にした長編アニメ映画『岬のマヨイガ』が制作された)。 「福島県が舞台で、フラガールが主人公」ということしか決まっていない段階で総監督のオファーを受けた水島さんは現地へと取材へ向かった。そして、スパリゾートハワイアンズで実際のフラガールの方たちや、このレジャー施設で働く人々の話を聞き、ここを舞台に“お仕事青春もの”にしようと方向性を定める。それは以前から水島さんがやりたかったジャンルでもあった。

フラガールを主人公にした映画は、李相日監督の『フラガール』も有名。水島総監督は今作の制作にあたり、観直したという。 「あの作品も“お仕事青春もの”の素敵な作品ですよね。松雪泰子さんが演じた平山まどかのモデルは実在するカレイナニ早川先生という方。『フラ・フラダンス』にも同じ方をモデルにした早坂先生というキャラクターが登場します。『早川先生に松雪泰子さん演じる平山まどかがおばあちゃんになったイメージを足したら』という風にイメージを膨らませたところもあります。ただ、それ以外は『フラガール』の印象に引っ張られた要素はなかったですね」

「僕は“青春もの”の話がめったにこない監督(笑)。もともと周防正行監督の『ファンシイダンス』(89年)や、『シコふんじゃった』(91年)、矢口史靖監督の『スウィングガールズ』(04年)がとても好きなんです。いずれも、あまり知られていない世界を舞台に、それに初めて触れたキャラクターたちの奮闘を描くことで、見事な“青春もの“として観る者を魅了する。このジャンルに初めて挑めました」
 主人公・夏凪日羽を始め、同期のキャラクターの造形にも、取材で得たことが反映されている。

映画の冒頭で描かれる入社式のシーンは、とてもリアル。 「取材通りです。本当に『アロハ~』ってやってます。あれは自分たちも『へえー』と思ったところで、それを取り込んだんです。空間も、式が行われた部屋の写真をもとに再現しています」

「オハナ(前田佳織里)のようにハワイからやってきた人は実際にはいないのですが、日羽みたいに親類が働いていることがきっかけで入社しようと思ったという方や、白沢しおん(陶山恵実里)のようにモダンダンスをやっていて、踊りたいからという動機で近隣の県から来た方も。また、鎌倉環奈(美山加恋)は神奈川県出身で高校時代、フラダンス甲子園優勝校の部長設定ですが、そういう経歴の方もいらっしゃいました。10人入っても、厳しいレッスンに耐えられず、半分ぐらいやめてしまう年もあるそうです。チームに加入したての段階では、ダンサーたちのスキルがバラバラというのも、リサーチで知ったことです」

過酷なレッスンのため、ダンサーによっては1年後に体型が変わってしまう、というのも取材で得たエピソード。 「アニメーションとしては不得手な表現なのですが、こっそり挑戦したところです」

日羽たちが住み込む寮は、スパリゾートハワイアンズの近隣に実在する建物だが、ダンサーの方たちのプライバシーに配慮し、外観などは大きく変更している。 「入寮当初の新入社員は二段ベッドで一部屋をふたりで使っていて、途中からひとり部屋になるといった慣例があるらしいのですが、作劇的に最初からひとり部屋という設定に変更しています。寮は男子禁制で、僕は取材のとき、中に入れなかったんです。実際に部屋を見た美術監督の日野香諸里さんが、作劇に必要な空間を想定しつつ、ひとり部屋としてのサイズを計算して設定をつくってくれました。結果、実際の部屋より、少し広めになっています」
 寮という設定上、壁の色などの変更はできない。日羽、オハナたち、キャラクターたちの個性は、部屋に持ち込んだもので表現された。

新人ダンサーたちが暮らすときわ寮。食堂やお風呂の共有スペースのある棟と、個人の部屋がある居住棟が隣接している。

新人5人の部屋は廊下を挟んでご近所同士。左からオハナ・カアイフエ、鎌倉環奈、白沢しおん、滝川蘭子。

「オハナはハワイから持ってきたトロール人形をいっぱい並べていたり、家族の写真を飾ったりしています。ぱっと見て『ここでこの子は暮らしているんだ』とわかるアイテムをどれだけ画角の中に入れられるのかがポイントでした。今回、日野さんはノリノリで取り組んでくれて、『こういうものを置いて欲しい』という要望に対して、的確に打ち返してくれました。だから、カメラのアングルは決めやすかったですね」

オハナの部屋に飾ってある家族写真。オハナの母親とCoCo
ネェさんは似ているという設定。

日羽が寮に持ち込む荷物の中には、ココヤシの妖精で、スパリゾートハワイアンズで実際に活躍しているキャラクターCoCoネェさんのぬいぐるみも。
「アニメならではの要素ですが、子供たちが観たときの共感も含めて主人公のそばにマスコットキャラがほしいというオーダーがBN Picturesのプロデューサーからあったんです。猫など、いろんな案が出たのですが、CoCoネェさんを見つけて『あれにしちゃダメ?』と(笑)。CoCoネェさんは、ハワイ生まれいわき育ちという設定で歌もあるんです。子供たちに人気もあって、現地では関連グッズも売られています。せっかく素敵なキャラクターがいるんだから、登場させたいじゃないですか(笑)」

日羽の部屋。

食堂の設定も、実際とは変更されている。
「集合するための専用スペースがあるそうですが、これも克明な描写は避けて欲しいということだったので、みんなが集まれる食堂を日野さんに創作してもらいました。食堂のイスの色にも反映されていますが、女の子たちの身近なアイテムにはパステルカラーを配色したいとリクエストをしました。というのも、リアルを感じさせつつ、カラフルな印象も演出したかったからです。ポップになりすぎるとリアルから遠ざかるので、彩度を落としてもらったり、バランスを細かく整えてもらいました」
 水島監督が作品をつくりながら味わった醍醐味のうちの大きな要素、それは2年以上もかけたという事前取材だ。

「取材で知り得た面白いドラマをピックアップして台本に活かしていく、という周防監督のやり方と同じようにつくることができた。スパリゾートハワイアンズは地場産業で、施設の中に音楽舞踊学校があって、地元で就職してダンサーになった人もいる……、現地で聞いた話はどれも、あまりにも面白かったんです。”取材ありき”の映画づくりがアニメーションでもできたことがうれしかったですね」

一部屋は約6帖。東日本大震災も耐えた築15年以上経つ二階建の寮。

映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#133(2021年12月号10月18日発売) 『フラ・フラダンス』の美術について、総監督・水島さんのインタビューを掲載。
プロフィール

水島精二

mizushima seiji
66年東京都生まれ。数多くのテレビアニメーションで演出、監督を務める。05年『劇場版 鋼の錬金術師 シャンバラを征く者』で長編アニメーション初監督、第60回毎日映画コンクールアニメーション映画賞を受賞。主な作品に『劇場版 機動戦士ガンダム00 A wakening of the Trailblazer』(10)、『楽園追放 Expelled from Paradise』(14)などがある。
ムービー

『フラ・フラダンス』

総監督/水島精二 監督/綿田慎也 声の出演/福原遥 美山加恋 富田望生 前田佳織里 陶山恵実里 山田裕貴/ディーン・フジオカ ほか 配給/アニプレックス(21/日本/108min) 福島県いわき市に暮らす高校生・夏凪日羽。彼女は、かつて姉・真理が勤めていた「スパリゾートハワイアンズ」のポスターを見て衝動的に、新人ダンサー=フラガールの採用試験に応募する……。12/3~全国公開 ©BNP, FUJITV/おしゃれサロンなつなぎ
『フラ・フラダンス』公式HP
https://hula-fulladance.com/
住まいさがしをはじめよう! 人気のテーマこだわり条件で新築マンションを探す その場所は未来とつながっている こだわり“部屋”FILE HOMETRIP
関連するお部屋
“女子部屋”
MENU

NEXT

PREV