Room145  

2023.12.13

父親の気配が残る

ものにあふれる屋根裏部屋

監督 百瀬義行

A.F.ハロルドの児童文学「The Imaginary」を、『メアリと魔女の花』のスタジオポノックが長編アニメーション映画化。少女アマンダのイマジナリーフレンド、少年ラジャーが主人公の冒険譚だ。監督はアニメーターとしてスタジオジブリの多くの作品を手がけ、高畑勲監督の右腕と称された百瀬義行さん。アマンダとラジャーが冒険に出発する屋根裏部屋には、百瀬さんとクリエイターたちのイマジネーションが詰め込まれている。

アマンダにとって居心地のいい屋根裏部屋

アマンダと母・リジーが暮らす一軒家の1階は、アマンダの父が開業した「シャッフルアップ書店」の店舗。その外観のイメージは、百瀬さんがふと目を留めた一枚の写真から膨らんでいったという。
「物語はイギリスが舞台なのですが、その写真に写っていたのはヨーロッパ大陸にある家。おそらくドイツ、オーストリアにある店舗なのですが、その佇まいを書店につくり変えました。イギリスの家っぽくはないので、もしあの形の家がイギリスの街に建っていたら相当目立つのではないかと思います。映画としても、目を引くほうがいいですしね(笑)」

イギリスといえば雨が多い気候で有名。本作では、路面に溜まった水の反射や激しい雨足など、アニメーションならではの豊かな表現で雨を描写している。

リジーが書店を経営しているという設定は映画独自のもの。原作ではほぼ描かれていない父親の存在を強調するために生まれたそう。本作で父親の気配を色濃く感じさせる空間は、アマンダとラジャーの遊び場であり、ふたりが空想の冒険へと旅立つ3階の屋根裏部屋だ。
「アマンダの父が趣味で集めたものを捨てられずに置いてあって、若干物置のようになっています。生前、ここでなにかしらの作業をしていたために気配がまだ残っている。だからアマンダは安心感を得られるのかもしれないですね。2階に自分の部屋があるけれど、屋根裏部屋にいるほうが彼女は居心地いいんじゃないかと思います」

原作には重要な場面として図書館が登場する。そこから発想を広げて、アマンダの母・リジーが書店を経営しているという映画独自の設定が生まれた。

1階の書店はアマンダの父が開業した。並べられた本には、店主の趣味が色濃く反映されている。

なかでも目を引くのは、形がユニークなクローゼット。この部屋をイメージした瞬間から、百瀬さんはこのクローゼットを置くことを決めていたという。
「イギリスをはじめ、ヨーロッパのファンタジー作品にはクローゼットがよく登場する印象があり、クローゼットに入って別世界に行くという作品もあります。なので、お馴染みの家具なんじゃないかな。今作でも、ラジャーはクローゼットに居ますし」
クローゼットは扉の裏側のしつらえにも工夫が凝らされている。
「なにかしら特徴があるものを思っていたところ、美術担当が『柔らかい布製の素材にこの模様が描かれている』という設定を考えてくれました。手が込んでいます」
部屋のそこかしこには、父のキャラクターを伝えるアイテムが。
「アマンダの父が使っていた旅行かばんや昔のコンピュータ、船や飛行機の模型など、いろいろなものが置いてあるのですが、それらの多くは旅行で買ってきたお土産なんだと思います」

家具にはアマンダのイタズラ描きも。「『アマンダがいくら落書きしても構わない』ぐらいに構えていたんでしょう。クローゼットの手形は、二人がぺたぺたとやったのかもしれないですね」

部屋のディテールは、父のキャラクターを伝える。「アマンダの父は好奇心の強い人で、世界中を旅行していたんです。壁に貼ってある地図は、自分が行ったところにメモや写真を貼っていたりします」

なかには、娘への愛情が感じられるディテールも。
「ステンドグラスのような装飾や、ブランコ、月の形の飾りなどは、アマンダの遊び場のために彼がつくったんです」
想像の世界への出発地点に似つかわしいファンタジックな屋根裏に対して、1階、2階はリアリティが強調されている。
「映画の前半までは日々の生活を描くシーンが続くので、1階の店舗スペースや家全体はある程度日常感があったほうがいいと考えました」
店舗の入り口付近には絵本やファンシーなグッズが並べられているが、それは経営状況を反映した光景でもある。
「賑やかなもの、綺麗な感じのもの、子どもが喜びそうなものを配置しているのは、絵として明るくするためではありません。これはリジーがお客さんを呼びたいから置いたものです。『こんな父の趣味みたいな本ばかり並べていたら、近所の子どもたちが来てくれないよ』というアマンダの言葉に、リジーが『そうだね』と納得して並べたんです」

屋根裏部屋には、巨大な船の模型など、父が集めたと思しき趣味的グッズが数多く置かれている。天井から吊り下がるハンモックにはイルカが。「アマンダから『床に放っておくより、天井にイルカが飛んでいた方が面白いんじゃない?』なんていわれてこういう風に飾ったのかもしれないですね」

屋根裏をはじめ、細かい設定や意匠は、多くの美術スタッフたちによって膨らんでいったと百瀬さんは振り返る。たとえば看板にあしらわれているツバメは、物語の冒頭にツバメが登場することに触発されたスタッフのアイデアだ。
「絵コンテを見たスタッフが『だったらこうしよう』とイメージを膨らませてくれるんです。アニメーション映画をつくるためには大勢の人たちの力が必要で、力を貸してくれるスタッフが揃っていたことはありがたかったです」

店舗付き3階建の一軒家。4LDK。原作では特定の地名は出てこないが、本作はイギリス・ブリストルをイメージしてつくり込まれた。

映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#146(2月号2023年12月15日発売) 『屋根裏のラジャー』の美術について、監督・百瀬さんのインタビューを掲載。
プロフィール

百瀬義行

momose yoshiyuki
53年東京都生まれ。88年、高畑勲監督作品『火垂るの墓』での原画担当を機にスタジオジブリへ入社。以降『おもひでぽろぽろ』(91)、『平成狸合戦ぽんぽこ』(94)、『もののけ姫』(97)、『千と千尋の神隠し』(01)など、数々のスタジオジブリ作品で中核的役割を担う。『ギブリーズ episode2』(02)で短編初監督。capsuleや新垣結衣のPVでも活躍。18年、スタジオポノック短編劇場『ちいさな英雄』(18)の一編『サムライエッグ』、2021年にはオリンピック文化遺産財団芸術記念作品となる短編映画『Tomorrow’s Leaves』を監督した。
ムービー

『屋根裏のラジャー』

監督/百瀬義行 原作/A.F.ハロルド「ぼくが消えないうちに」(こだまともこ訳・ポプラ社刊) プロデューサー/西村義明 声の出演/寺田心 鈴木梨央 安藤サクラ 仲里依紗 杉咲花 山田孝之 高畑淳子 寺尾聰 イッセー尾形 ほか 配給/東宝 (23/日本/109min) 少女アマンダの想像が生み出したラジャーは、彼女以外の人間には見えないイマジナリ。屋根裏部屋でふたりは想像の世界に飛び込み、歓びにあふれた毎日を過ごしていた。しかし、イマジナリという存在には避けられない運命があって──。12/15~全国公開 © 2023 Ponoc
『屋根裏のラジャー』公式HP
https://www.ponoc.jp/Rudger/
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