CINEmadori シネマドリ|窓から隅田川が見えるアパート

Room86

2019.1.21

残された人生を懸命に生きる美雪の

窓から隅田川が見えるアパート

美術監督小川富美夫

東京とフィンランドを舞台にしたロマンティックなラブストーリー『雪の華』。余命わずかと宣告された美雪は、不器用だがまっすぐな青年、悠輔と出会う。美雪は、100万円と引き換えに、期間限定の恋を持ちかける……。今作で美術監督をつとめたのは、相米慎二監督、滝田洋二郎監督などの作品を数多く支えてきた小川富美夫さんだ。

ヒロインの思い出とともに変化していく部屋

美雪の部屋は東京都江東区の清澄白河という設定。当初はイメージにあう場所が見つからず、世田谷、横浜方面も候補になったが、最終的には清澄白河に戻ってきたという。
「隅田川を借景にしようと思い、川が見える部屋を探しました。映画には川と橋が何度も登場します。美雪の淀んでいる気持ちを川が流してくれるような、そんな清々しさが表現できればという監督やみんなの思いが反映されていたと思います」

美雪の部屋は、彼女の両親がフィンランドで出会ったという設定や、彼女が何度もフィンランドに足を運んでいることから北欧を感じさせる小物ものが置いてある。
「ライオンの焼き物や絵、織物は実際にフィンランドで買ってきたものです。気がつかないところにも何気なく使っています。フィンランドのデザインは優れていて、昔から有名なブランドがいくつもあります。現在は若い作家がその伝統を受け継いで、そこから新しいものをつくっている。かわいらしくて、現代風のやつですね」

人形の青と白のストライプは、フィンランドの国旗の模様

かわいらしい色鉛筆。これを使って美雪は絵を描き、壁に
貼っているという設定。

この部屋の目につくもので、注目したいポイントが壁に貼られた様々なものたち。
「劇中でふたりは、水族館や観光船など、様々な場所でデートします。遊覧船に乗ったときの乗船券とか、フィンランドで手に入れたもの。美雪はその思い出を壁に貼っていくんです。鳥の切り絵を貼ったのは、美雪が思い出を胸に最後は外に飛んでいくようなイメージです」

ソックスは水族館で買ったという設定。美雪のキャラクターにあわせたかわいらしい小物。

また、ガラス職人を目指す悠輔が美雪にプレゼントする“グラス”にも小川さんのこだわりがみられる。
「雪が降っているような、下に雪がつもっているようなイメージです。ガラスの職人さんと打ち合わせを重ねた上で、つくってもらいました。職人さんのテイストも入ってくるので、どんどん変化していくのが面白かったです。大きさとか、手に持ったときのバランスとか、にぎったときの見え方とか、試行錯誤を繰り返して。劇中に登場するものにたどりつくまでにずいぶんつくりました」

ベッドの上に置かれた羊のぬいぐるみ。橋本監督の前作が『羊と鋼の森』だったことから、監督と装飾の奥利暁さんの遊び心で置かれている。

デンマークの小物かと思いきや、隅田川で運行する遊覧船
「竜馬」の箱。

数多くの映画に携わってきた小川さんだが、若者向けの恋愛映画は初めてだそう。「試写を観て、監督に伝えた感想は『恥ずかしいな』と。いつもは社会風刺みたいな映画ばかりやっているので（笑）。そうは言いましたが、純粋ないい映画になったと思いますね」

隅田川沿いに建つ1R。川が望める広めのバルコニーには椅子が置いてあり、ホッと一息つける癒しのスペースとなっている。

映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#116(2019年2月号 12月18日発売) 『雪の華』の美術について、美術監督小川さんのインタビューを掲載。

ポスト

小川富美夫

ogawa fumio

48年宮城県生まれ。主な作品に『雪の断章情熱』（相米慎二監督）、『ラヂオの時間』（三谷幸喜監督）、『おくりびと』（滝田洋二郎監督）、『沈まぬ太陽』（若松節朗監督）、『FOUJITA』（小栗康平監督）など。日本アカデミー賞優秀美術賞を5度受賞している。

雪の華

監督／橋本光二郎脚本／岡田惠和音楽／葉加瀬太郎出演／登坂広臣中条あやみほか配給／ワーナー・ブラザース映画（19／日本／125min）中島美嘉のヒット曲「雪の華」から生まれたラブストーリー。余命わずかと宣告された美雪は、ある日、ひったくりにあったところをガラス工芸家をめざす悠輔に助けられる。悠輔の働く店が危機になっていると知った美雪は、「私が出します、100万円。その代わり1ヶ月、私の恋人になってください」と、期間限定の恋を持ちかける……。2/1～全国公開。 ©2019映画「雪の華」製作委員会

雪の華公式HP
http://wwws.warnerbros.co.jp/yukinohana-movie/