和歌子(有村架純)、清恵(黒木華)、麻由(南沙良)、それぞれ事情を抱えた3人の女性が金の密輸に手を染める……。『ミセス・ノイズィ』(19)、『佐藤さんと佐藤さん』(25)などで知られる天野千尋監督が、実際にあった事件から着想を得てつくり上げた映画『マジカル・シークレット・ツアー』。3人の女性のキャラクターを美術に落とし込んだのは遠藤真樹子さんだ。
生活背景が見えてくるようなオーセンティックな飾り
映画に登場する部屋は、すべてロケセット。天野監督の頭の中にある3人の明確なイメージと違わぬよう、丹念なロケハンがおこなわれた。
「監督は3人がどんな街に住んでいるかという部分にもこだわっていました。彼女たちの住まいのロケ場所はすぐには決まらず、何軒も見て回った結果、それぞれの街の雰囲気も相まって納得の物件に巡り合えたと思います。部屋の雰囲気や間取りももちろんですが、窓外の風景、家の外からの客観的なカットなど、監督のイメージする画が撮影しやすいという条件も満たすことができました」

室内も監督のイメージに添って飾られた。
「監督から『それぞれの生活背景が見えてくるようなオーセンティックな飾りを』とのお話があったので、映えるプランではなく馴染むプランを目指して考えました。一度プランをお見せした後、それが必ずしも目立つ部分でなくとも、監督の経験に基づくリアリティを踏まえ、細かく調整していきました」
主人公・和歌子は二児の母。夫が倒れたことをきっかけに、夫が会社で横領をしたこと、解雇されたことを知り、突然借金を背負ってしまう。
「監督からは『一見するとごく普通の主婦ではあるものの、育児や家事に追われている生活感や苦労を意識してプランを考えてほしい』とのお話がありました」
その生活空間づくりは人物像を掘り下げるところから始まった。


「密輸を始める前の和歌子には、家族を優先して自分を後回しにしてしまう、そういう人物像を感じ取りました。なので、子どもの遊び部屋やデザイナーの旦那さんのデスクなど、自分ではなく家族のための空間を多めにしたんです。監督からお聞きした『旦那さんと出会ったのはデザインの会社で、和歌子は手芸などが得意』という裏設定も踏まえて、子供の遊び部屋には手芸の絵も飾っています」
和歌子とともに金の密輸に手を染めるのが、清恵と麻由。
「3人ともそれぞれの理由で、余裕がなく、先行きの不安に追い込まれているので、生活感やリアリティを意識して、部屋を整えることはしていません。そこが住まいの共通点です。ただ3人とも住居の場所も置かれている環境もバラバラなので、個々のキャラクターを軸に、違いがしっかりと見えるよう意識しました」

清恵は奨学金の返済に追われる研究員だ。
「世渡りがあまり上手でなく、将来の不安を抱えている人物です。そんななかでもアイドルを心の拠り所にして、なんとか自分を奮い立たせて踏ん張っている様子を表現しました。部屋は多少のだらけた雰囲気と、推し活アイテムを中心に構成しています。物件の設定は、都心からはアクセスが良いものの、間取りは2Kとそれほど広いわけではない、築40年程度の古いマンションです」


麻由は未婚の妊婦で、妹、毒母と暮らしている。
「麻由の住まいは郊外に建つ、築50年以上の古い団地です。男性に依存する身勝手な母親の生活空間が家の多くを占めていて、リビングには洋服など彼女が自分を着飾るためのものが散乱しています。一方、身動きが取れない妊娠中の麻由、まだ自立できない年齢の妹は、狭い空間に追いやられている。苦しい生活から抜け出せない背景を描ければと考えました」


天野監督との初めての現場を遠藤さんはこう振り返る。
「お仕事をご一緒するのにあたり、監督の過去の作品も観せていただいたのですが、登場人物の人物設定や置かれた環境などの肉付けがとてもお上手だと感じました。予想しなかった展開を見せる物語の描き方は独特の感性があってこそだと思います。今回のお仕事でさらに監督の感性を共有させていただけて、充実した撮影を体験することができました」


映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#161(8月号2026年6月18日発売)『マジカル・シークレット・ツアー』の美術について、美術・遠藤さんのインタビューを掲載。
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