ラブコメへの出演依頼ばかりでうんざりしている人気俳優・神崎麗司を中島健人が演じる映画『ラブ≠コメディ』。ドラマ業界の裏側をコミカルに描くお仕事ムービーだ。その美術は、実際に数々のドラマを手がけてきた山下杉太郎さんが担当している。
テレビドラマの現場で培われた技術
重厚な作品を志向する本人の意思とは裏腹に、主人公・麗司に届いた新たな主演オファーはまたしてもラブコメドラマの『壁ドン!床ドン!君にドーン!』だった。その劇中に登場し、重要な芝居場となるのが、ひょんなことから主人公とヒロインが一緒に暮らすことになる日本家屋。紙谷楓監督からの「純和風な雰囲気に」という要望は、山下さんが所属するTBSアクトが得意とするところでもあった。


「芝居ができるスペースを確保しつつ、床の間など、古きよき日本家屋の要素を配する。生活感はそこまで漂わせない。そういう和のセットは、かつて担当していた『渡る世間は鬼ばかり』に通じるところがありました。TBSドラマの美術をまるまる踏襲したわけではないですけど、意識はしましたね」
劇中で描かれる「ドラマのセット」からは、テレビ業界における撮影現場の裏側が垣間見える。
「映画をご覧になるとわかりますが、画面に照明機材がいくつも映り込んでいます。あれは実際に撮影のため使っている機材と飾りとが半々ぐらい。なにもないスペースができないよう、照明機材だけでなく、平台や脚立といった備品も配置しています。実際の現場では基本的に見切れてはいけないものなので、スタッフはみんな『この機材は小道具なの?』と戸惑ってました(笑)」
山下さんが長年をかけて培った技術は、細部でも随所に活かされている。
「奥行き感を出すために本来あるべき居間と台所の間の建具を外しましたが、そのままだと画が持たないので玉のれんを飾っています。細かいところで言うと……、古い冷蔵庫を手配すると袴(「脚カバー」と称されるパーツ)が欠けていることが多いのですが、そういうときは自作して装着します。湯沸かし器を配置するなら本体を設置するだけでなく、配管までおこなう。今回は脚本に「レンジの汚れ」について書いてあったので、醤油をかけたりして汚しを入れました。そこを撮るカットはなくなりましたが(笑)」
TBSドラマの美術を支えてきたのは緑山スタジオの上階にある、歴代の小道具をストックしている倉庫だそう。
「ロケセットでの撮影が多くなってきたこともあり、スタジオ内でのセットのつくり方も変わってきました。20年ぐらい前はいろいろな番組が入れ替わり立ち替わりでスタジオに入って建ててはバラし建ててはバラし、というやり方でしたが、最近は建てっぱなしが多くなっています。セットの壁を外して同時に5、6台のカメラを並べて撮る、ということも少なくなりました。そういう変化もあり、ここ数年で大道具、小道具をだいぶ捨ててしまったんです。今作の大道具も全部ありものというわけではなく、結構つくっています」
ヒロインの南風美里(長濱ねる)がドラマの小道具担当・関根健作(北代祐太)に、飾り付けの意図を訊ねる場面がある。
「僕からすると、関根はTBSにはいないタイプです(笑)。というのは、ほかの局と違ってTBSは役割が細分化されていて、装飾と持ち道具が分かれているので。僕は外部の仕事をする度に『特殊だね』と言われますが、30年弱やっている身としては、こっちの方が普通です(笑)」
「お仕事ムービー」でもある本作には、キャスト・スタッフが全員揃って同じ行動をとる場面がある。
「厳密に言うと、みんな一斉に同じことをする現場はありません(笑)。各部署とも時間に追われているし、その場にいないスタッフもいっぱいいますから。でもそれぞれが担う役割を完遂することで作品は成り立つし、キャスト・スタッフは『いいね』ってリスペクトし合っている。それが、仕事のモチベーションになるんです」




映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#161 (8月号 2026年6月18日発売 )『ラブ≠コメディ』の美術について、美術・山下さんのインタビューを掲載。
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山下杉太郎
yamashita sugihiro
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