Room176

ラブ≠コメディ

2026.07.02

ラブコメドラマの劇中で描かれる

主人公とヒロインがともに暮らす日本家屋

美術山下杉太郎

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ラブコメへの出演依頼ばかりでうんざりしている人気俳優・神崎麗司を中島健人が演じる映画『ラブ≠コメディ』。ドラマ業界の裏側をコミカルに描くお仕事ムービーだ。その美術は、実際に数々のドラマを手がけてきた山下杉太郎さんが担当している。

テレビドラマの現場で培われた技術

重厚な作品を志向する本人の意思とは裏腹に、主人公・麗司に届いた新たな主演オファーはまたしてもラブコメドラマの『壁ドン!床ドン!君にドーン!』だった。その劇中に登場し、重要な芝居場となるのが、ひょんなことから主人公とヒロインが一緒に暮らすことになる日本家屋。紙谷楓監督からの「純和風な雰囲気に」という要望は、山下さんが所属するTBSアクトが得意とするところでもあった。

ホームドラマの舞台にふさわしい日本家屋。「昭和感」は紙谷監督からのリクエスト。

「芝居ができるスペースを確保しつつ、床の間など、古きよき日本家屋の要素を配する。生活感はそこまで漂わせない。そういう和のセットは、かつて担当していた『渡る世間は鬼ばかり』に通じるところがありました。TBSドラマの美術をまるまる踏襲したわけではないですけど、意識はしましたね」
劇中で描かれる「ドラマのセット」からは、テレビ業界における撮影現場の裏側が垣間見える。
「映画をご覧になるとわかりますが、画面に照明機材がいくつも映り込んでいます。あれは実際に撮影のため使っている機材と飾りとが半々ぐらい。なにもないスペースができないよう、照明機材だけでなく、平台や脚立といった備品も配置しています。実際の現場では基本的に見切れてはいけないものなので、スタッフはみんな『この機材は小道具なの?』と戸惑ってました(笑)」

天井からのぞく、ドラマの撮影用の照明。

山下さんが長年をかけて培った技術は、細部でも随所に活かされている。
「奥行き感を出すために本来あるべき居間と台所の間の建具を外しましたが、そのままだと画が持たないので玉のれんを飾っています。細かいところで言うと……、古い冷蔵庫を手配すると袴(「脚カバー」と称されるパーツ)が欠けていることが多いのですが、そういうときは自作して装着します。湯沸かし器を配置するなら本体を設置するだけでなく、配管までおこなう。今回は脚本に「レンジの汚れ」について書いてあったので、醤油をかけたりして汚しを入れました。そこを撮るカットはなくなりましたが(笑)」

かつてこの家に住んでいたヒロインの祖母が飾った絵画。「おばあさんはこの絵を見て実家の江ノ島を思い出す、という設定をイメージして飾りました」

TBSドラマの美術を支えてきたのは緑山スタジオの上階にある、歴代の小道具をストックしている倉庫だそう。
「ロケセットでの撮影が多くなってきたこともあり、スタジオ内でのセットのつくり方も変わってきました。20年ぐらい前はいろいろな番組が入れ替わり立ち替わりでスタジオに入って建ててはバラし建ててはバラし、というやり方でしたが、最近は建てっぱなしが多くなっています。セットの壁を外して同時に5、6台のカメラを並べて撮る、ということも少なくなりました。そういう変化もあり、ここ数年で大道具、小道具をだいぶ捨ててしまったんです。今作の大道具も全部ありものというわけではなく、結構つくっています」
ヒロインの南風美里(長濱ねる)がドラマの小道具担当・関根健作(北代祐太)に、飾り付けの意図を訊ねる場面がある。

古い家屋だが、テレビなどの家電は現在のもの。「監督や照明部から『光がほしい』という要望があれば、本来の建具として、ふすまが相応であっても障子を入れることもあるし、ドアのガラス面を大きくすることもあります」

「僕からすると、関根はTBSにはいないタイプです(笑)。というのは、ほかの局と違ってTBSは役割が細分化されていて、装飾と持ち道具が分かれているので。僕は外部の仕事をする度に『特殊だね』と言われますが、30年弱やっている身としては、こっちの方が普通です(笑)」
「お仕事ムービー」でもある本作には、キャスト・スタッフが全員揃って同じ行動をとる場面がある。
「厳密に言うと、みんな一斉に同じことをする現場はありません(笑)。各部署とも時間に追われているし、その場にいないスタッフもいっぱいいますから。でもそれぞれが担う役割を完遂することで作品は成り立つし、キャスト・スタッフは『いいね』ってリスペクトし合っている。それが、仕事のモチベーションになるんです」

神崎麗司の自宅。壁に掲げられた大きなモダンアートの絵画が目を引く。筋トレグッズからは麗司のストイックな一面が垣間見える。
部屋の隅には数本のギター。「麗司は作曲するミュージシャンでもありますからね。成功者として、テレビもそこそこ大きいものを選びました」
麗司が主演を務める『壁ドン!床ドン!君にドーン!』の劇中に登場する日本家屋。築50年、玄関まわりは和洋折衷スタイル。二階建てで部屋数が多く、風呂トイレも備えているが、劇中に登場する場面が庭、縁側、居間、台所だけなので、セットもその部分だけつくられた、という設定。

映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#161 (8月号 2026年6月18日発売 )『ラブ≠コメディ』の美術について、美術・山下さんのインタビューを掲載。

Profile

プロフィール

山下杉太郎
美術

山下杉太郎

yamashita sugihiro

75年京都生まれ。1997年株式会社アックス入社(TBSアクト前身)。99年テレビドラマTBS.テレパック「温泉へ行こう」で美術制作デビュー、ここ10年は若松節朗監督のドラマ(WOWOW、テレ東、NHK)の美術を担当。

Movie

映画情報

ラブ≠コメディ
監督/紙谷楓 脚本/大北はるか 出演/中島健人 長濱ねる ほか 配給/ストームレーベルズ ライブ・ビューイング・ジャパン (26/日本/119min) 数々のラブコメ作品で主演を務めてきた人気俳優・神崎麗司。30歳を目前に、重厚なドラマで評価されたい本心と裏腹に、新たな出演オファーはまたもや王道ラブコメ。だがヒロイン役を務めるアイドル・南風美里との出会いは彼の人生を動かしていく……。7/3~全国公開(C)Storm Labels Inc. All Rights Reserved.
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