【2015年4月】〜毎月更新〜厳選!ハイレゾ10本勝負 ◎文・麻倉怜士

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(OVO オーヴォより)

特薦?
風街ろまん
はっぴいえんど

シンコーミュージック

e-onkyo music(WAV/FLAC・96kHz/24bit 3,240円)
HQM STORE(FLAC・96kHz/24bit 3,240円)

 シンコーミュージックはJ-POPの黎明期の音源を多数保有しており、これまでオーディオブランドのクリプトンが運営するHQM STOREを通じて各種のアーカイブアルバムをリリースしていたが、このほどe-onkyo musicを通じての配信も開始した。はっぴいえんど『風街ろまん』は1971年11月20日にリリースされた2作目のアルバム。東京オリンピックへの近代化で失われた東京の原風景を、架空の”風街”にメタファーさせて、物語った。イギリスのMETROPOLIS STUDIOで、アナログマスターからデジタル変換、リマスタリングされた。

 「風を集めて」を聴く。ひじょうに鮮烈でシャープな切れ味だ。ヴェールを数枚外したような鮮明さ、ヌケの良さが特徴だ。アナログ録音だがハイスピードで、もったりとしたところがなく、すっきりと端正にまとめられている。ひとつひとつの音の要素のクオリティがとても高い。音が俊敏に立ち上がり、すぱっと切れていく様はまさに耳の快感だ。ギターの質感が佳美で、バックのオルガンの鳴りがナチュラル。大瀧詠一のヴォーカルにはイコライジング的な作為感がなく、生成り的。ベースの切れと塊感がリアルだ。
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特薦?
Brahms: The Hungarian Connection
Andreas Ottensamer

Mercury Classics

e-onkyo music(FLAC・96kHz/24bit 3,086円)
mora(FLAC・96kHz/24bit 3,086円)

 アンドレアス・オッテンザマーは華麗なるクラリネット家系だ。父エルンストは83年から、兄ダニエルは09年からウィーン・フィルの首席奏者。本人は2011年3月に22歳の若さで、ベルリン・フィルの首席奏者に就任している。クラリネットの他、チェロやピアノを嗜み、オーストリア青少年音楽コンクールではクラリネット、チェロ、ピアノ、室内楽部門で12度の優勝を果たしている。伸びやかで深い音楽性は、広い音楽的教養の果実でもある。

素晴らしい音調。解像度が高く、弦は倍音が実に豊潤。まさに眼前の演奏で、名人をリスニングルームによんでプライヴェートに弾いてもらうという、かつての王侯貴族にような贅沢さが、快感だ。音場での間接音の滞空が長く、直接音ばかりか響きの充実度がひじょうに高い。クラリネットは主役というより、カルテットの一員として、アンサンブルに溶け込んでいる。弦と管の異質なコラボレーションが融合的であり、また同時に音色的な分離感もとても高い。
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推薦?
焔に向かって〜アシュケナージ・プレイズ・スクリャービン
ヴラディーミル・アシュケナージ

Decca

e-onkyo music(FLAC・96kHz/24bit 3,086円)

 「エクスタシー(法悦)」の作曲家、アレクサンドル・スクリャービン(ロシア)の没後100年を記念したアルバム。同郷の作曲家としてシンパシーが高いヴラディミール・アシュケナージは、70年代、80年代にピアノ・ソナタ全集を、90年代は交響曲全集や各種オーケストラ作品を録音している。2つのスピーカーの間に、体積感の大きなピアノが鎮座する。アシュケナージのピアノはつつましやかで、落ち着きと、円熟さが聴ける。輪郭を強調して派手に外向的に進むのではなく、内面を充実させ、内向的なベクトルを内に向かって、凝縮させる。タイトルは凄いが、音調には派手さや人工的なテクスチャーがなく、ナチュラルで、肌さわりが佳い。2曲目のマズルカは爛漫にして、おどけ感が愉しい。2014年9、11、12月に英国東部サフォーク州にあるポットンホールにて録音。

推薦?
ヴィヴァルディ:四季
川久保賜紀
紀尾井シンフォニエッタ東京

avex-CLASSICS

e-onkyo music(WAV/FLAC・96kHz/24bit DSF2.8MHz/1bit 3,240円)
mora(WAV/FLAC・96kHz/24bit 3,240円) (DSF2.8MHz/1bit 3,240円) 

 DSF 2.8MHz/1bitで聴く。ずいぶんとまったりとした四季だ。ピリオドの鋭角のサウンドを聴きすぎると、こんなにオーソドックスで円満、耳にやさしいムードミュージックのようなヴィヴァルディが恋しくなる。録音も高解像度的ないかにものハイレゾではなく、色が淡く、階調が細やかに出る、すっきりとしたバロックだ。輪郭は切れすぎず、暖かで、まろやかなカーブを描いている。いかにも2.8MHzのDSDらしい美しいソノリティが、耳にすっと入り、気持ちを和ませてくれる。
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推薦?
Postcards From Paradise
Ringo Starr

Universal Music

e-onkyo music(FLAC・96kHz/24bit 3,086円)
HQM STORE(FLAC・96kHz/24bit 3,086円)
mora(FLAC・96kHz/24bit 3,086円)

 リンゴ・スターの18枚目のスタジオ収録アルバムだ。はっきり、くっきり、輪郭をシャープに立てたハイレゾだ。スネアが切れ込み、ヴォーカルが前傾姿勢で快適に進む。リズミカルさと進行力の強さが印象的だ。ヴォーカルとコーラスのからみには音場的な面白さも。ヴォーカルはセンターやや奥に定位し、その背景にバンドが並び、女性コーラスは右チャンネルにいる。ドラムソロの弾みも心地良い。最新録音ならではの鮮度の高さが味わえるポップ・ハイレゾだ。

推薦?
平和への祈り〜バッハ:無伴奏ヴァイオリン全曲
千住真理子

Universal Classics&Jazz

e-onkyo music(FLAC・96kHz/24bit 3,086円)
HQM STORE(FLAC・96kHz/24bit 3,086円)
mora(FLAC・96kHz/24bit 3,086円)

 センターの手前にヴァイオリンが位置した、オンマイク録音。音像はかなり大きい。でも輪郭がしっかりと締まり、リジッドにレイアウトされている。その位置から放射される音はタイト。響きの束が極端なほど多くなく、むしろ、すっきりとしている。その分、解像感がひじょうに高く、直接音的な解像感だけでなく、倍音の豊かさも本ハイレゾからには痛切に感じることができる。音色は決して明るすぎず、バッハ的な決然さが、シンプルなテクスチャーを伴って、心に染みいる。録音はカメラータ・トウキョウのエンジニア、?島靖久氏が担当した。
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推薦?
J.Sバッハ:2つのヴァイオリンのための協奏曲他
新イタリア合奏団

マイスターミュージック

e-onkyo music(WAV/FLAC・96kHz/24bit 3,089円 WAV/FLAC・192kHz/24bit 3,780円)
HQM STORE(ALAC48kHz/24bit 2,500円 FLAC・192kHz/24bit 3,780円)
mora(FLAC・96kHz/24bit 3,089円)  (FLAC・192kHz/24bit 3,780円)

 定評のあった「イタリア合奏団」がメンバーを一新、「新イタリア合奏団」I Solisti Filarmonici Italiani、になった。イタリアの有名オーケストラのコンサートマスター、ソロ首席奏者の経験者、国際コンクールの入賞者、ローマ合奏団、キジアーノ六重奏団などイタリアの室内楽団の元メンバーなどによって構成される。指揮者を置かず、ソロもメンバーが交替で担当。

 ある距離の先にオーケストラがいる。響きが厚く、音場的な体積の大きさ、響きを持つ豊かな臨場感は十分に感じることができるが、。プルトの細部までは見わたせない。アンサンブルの重層的な描写が音の特徴だ。ワンポイントでのソノリティの良さは十分に感じられるが、さらにオーケストラの個々の楽器の音も聴きたいと思う。ソロヴァイオリンはそれなりに浮き立つが、厚い響きの中の一員という印象だ。

推薦?
Billie Holiday With Ray Ellis And His Orchestra
Billie Holiday
Ray Ellis And His Orchestra

Verve

e-onkyo music(FLAC・192kHz/24bit 3,600円)
HQM STORE(FLAC・192kHz/24bit 3,600円)

 これぞアナログの精髄。ベースのまったりとしたつま弾き、ミュート付トランペットの暖かな鋭さ、管楽器の端正さ、カラフルなヴォーカル……まさに、ハイレゾで味わうアナログサウンドの精雅だ。ウォームでふくよかなオーケストラを背景として生成りのあるがままの輪郭感で、ヴィブラートが大きく、コケティッシュなヴォーカルがオンフォーカスで浮かび上がる。まさに名唱。ヴォーカル音像は、バックに比べかなり大きい。
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推薦?
ア・フール・トゥ・ケア(24bit/96kHz)
ボズ・スキャッグス

日本コロムビア

e-onkyo music(WAV/FLAC・96kHz/24bit 2,800円)
mora(FLAC・96kHz/24bit 2,800円)

 ナッシュヴィルのスタジオで録音。カントリー、ブルース、サザンロック……などのフレーバーが満載だ。冒頭のRICH WOMANは曲調と録音においてかなりポップだ。ヴォーカル音像が大きく、バックのドラムス、金管、エレキギター、ベースがここぞとばかり、自己の存在を主張している。その結果、音が重なるのだが、それは個々が解像した音の素が重奏するというよりは、ある形をした音の塊がそのまま驀進するという風。2曲目、I’M A FOOL TO CAREはファッツドミノの4ビート曲のような躍動の乗り、ヴォーカルは男の色気たっぷりのさすがのベテランの味わい。音像は大きく、緻密で力感の強い音調だ。

推薦?
ハイレゾx名曲 セーラー服と機関銃/Woman”Wの悲劇”より
薬師丸ひろ子

Universal Music

e-onkyo music(FLAC・96kHz/24bit 823円)
HQM STORE(FLAC・96kHz/24bit 822円)
mora(FLAC・96kHz/24bit 823円)

 1981年の「セーラー服と機関」はひじょうに鮮明。デビュー当時は、これほど明確だったのだろうか。恐らくリマスタリングの結果だろう。今の薬師丸のふくよかで、艶やかでまったりしている声は天下一品だが、デビュー当時は声がそんな味わい的な質感ではなく、むしろクリヤーで、シャープであったことが分かる。でも不自然なほどポップ的な音作りではなく、比較的素直で、ウエルバランスな音調なので、大きなシステムで聴いても、それほどの不自然さはない。ただ、当時の録音でコンブやリバーブ加算がされていることについては、薬師丸本来の素直な声質で聴きたかった。

それから3年後、「Wの悲劇」はかなり進化した。この時点で、薬師丸のワン・アンド・オンリーの艶っぽく、まったりとするヴォーカルの魅力を手に入れていることが分かる。ミキシング時の化粧が少なく、薬師丸ならではの艶質感が、かなり聴けるようになった。バックのベースの輪郭がしっかりとする。

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