暮らしのコト

麺は口ほどにものを言う~ご当地ヌードル探訪~

ただのとん汁と侮るなかれ! 新潟県妙高市の「とん汁ラーメン」

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日本各地に根付いた「麺料理」を求めて、全国を巡る「ご当地ヌードル探訪」。今回は新潟県妙高市にやってきました。ここは戦国武将・上杉氏ゆかりの地。NHK大河ドラマ「真田丸」の放送で上杉氏の歴史があらためて注目を集めているエリアです。上越妙高駅を降り立つと、金の兜をかぶった上杉謙信公のブロンズ像がさっそく出迎えてくれました。
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北陸新幹線開業を祝して設置された上杉謙信像です。

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JR上越妙高駅前。西口の展望デッキからは、妙高連峰の美しい山々の景色が眺められます。

そんな妙高市で近年人気急上昇のご当地ヌードルが「とん汁ラーメン」。妙高市内の数軒のお店で提供されているそうですが、とん汁に麺を入れただけではないのでしょうか? 昭和47年創業、妙高市の老舗とん汁専門店「とん汁 たちばな」へ実態を確かめに行ってきました!

■ただのとん汁ではない!?

JR上越妙高駅からローカル線、妙高はねうまラインに乗り換えてお隣駅の「北新井駅」へ。田んぼと民家が続くのどかな道を抜け、車通りの多い道路沿いに、とん汁たちばなはありました。歩いて約20分の道のりです。

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創業当時からこの場所で営み続けています。

迎えてくれたのは、3代目を継ぐべく修行中の松澤崇さん。早速「とん汁ラーメン」を注文してみましょう!

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これが「とん汁ラーメン」。たっぷりの汁と具に隠れて麺が見えません。

これは…!一見すると、ごく普通のとん汁のようですが、スープの色をよく見ると、一般的なとん汁に使われる白味噌より若干、濃い色合いです。具材は豚肉、豆腐、そして玉ねぎでしょうか。たっぷりの汁から具が見え隠れし、味噌のいい香りが漂ってきます。

早速、スープをひと口。口に入れた瞬間、味噌のまろやかな風味がふわりと広がったかと思うと、続いて豚肉の旨みと玉ねぎの甘味がぐっと押し寄せてきます。スープに具材の旨みが凝縮されているようです。このスープ、ただのとん汁ではありません!

松澤さん「うちのとん汁ラーメンは、味噌ベースのスープととん汁をかけ合わせているんです。割合は大体1:1。甘味の秘密は玉ねぎで、これが味の決め手です。実はとん汁1杯の中に玉ねぎが1個半も入っているんですよ」

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味噌ベースのスープは豚、鶏、香味野菜でだしをとったもの。麺は中太で若干のちぢれ麺。

1杯に1個半の玉ねぎと、なんとも贅沢! 確かに、具材なのかスープなのか判別がつきにくいほどとろとろに溶けた玉ねぎがどこをすくっても現れます。でも、これだけ玉ねぎの甘味が汁に出ているのは単に玉ねぎが多いという理由だけでは無さそうです。やはり、製法にも何か秘密があるのでしょうか?

松澤さん「うちは一般的なとん汁の作り方と逆なんです。普通は鍋に水を入れて、具材を煮込んで、だしや味噌で味を調整してって流れですよね。うちは最初に一発勝負で味を決める。つまり、まず味付けをして素材をミルフィーユ状に入れて、最後に煮込む

なるほど、最初に水で煮るわけではないのですね。味のベースになるものは何でしょうか?

松澤さん「味を決めるのは、味噌、塩、そしてだしです。だしについては企業秘密(笑)。ここに豚肉を入れて少し火を通したところに、玉ねぎを大量に投入し、最後に豆腐を入れるんです。そして一気に炊き上げる。大体40分くらいです」

炊いている間に具材から水分が出てくるというわけですね。あの玉ねぎの甘味もこの製法なら納得です。でも、40分煮込むだけでこの奥深い味ができるのでしょうか。何かもっと秘密があるような…。

松澤さん「そうです。新しく作ったものだけだと、どうしても味が若い。なので、継ぎ足しで作っているんです。新しいものと既にあるものをブレンドすることで、味の深みが増しますし、まろやかな味わいになります。常に一晩寝かせたカレーを作り続けるような感覚です」

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寸胴の鍋の中には汁よりもたっぷりの具材が入っています。

この独自の製法は創業当時から変わらず受け継いできたのだそう。さらに、こだわりは具材や麺にも見られます。豆腐や麺は地元産を使い、味噌は特注なんだとか。

松澤さん「実は、この味噌で味噌汁を作っても美味しくないんです。だけど、素材の味を引き出したり、香りを封じ込めたりしてくれて、まろやかな味わいにまとめる力がすごいんです。市販の味噌で実験的にとん汁を作ったことがありますが、まったく別物になってしまいました。うちのとん汁はこの味噌じゃないとダメなんです」

豚肉や玉ねぎは日本全国から仕入れており、玉ねぎは時期によって水分量や甘味が変わるので、そのときに合ったものをブレンドして使っているそう。新潟県産にこだわることもできますが、どこまでも味にこだわるからこそ、その時1番おいしい食材を全国から集めているのですね。

美味しさの秘密に感動すら覚えながら、汁まで一滴残らずペロリと平らげました。

■とん汁ラーメン誕生の経緯

上越地域ではとん汁ラーメンを扱う店舗がいくつか存在します。その理由ははっきりしませんが、一説によると、たちばなと同じ通り沿いにあるラーメン店「松茶屋」約30年前に「とん汁に麺を入れたらおいしいのでは」と試してみたことが始まりだとか。とん汁は日本全国どこにでもあるメニューですが、冬の寒さが厳しい上越妙高エリアでは特に親しみやすいメニューだったのかもしれません。たちばなのとん汁は地元の人にとってどのような存在なのでしょうか。

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これからたちばなの味を受け継いでゆく松澤さん。

松澤さん「地元の方は鍋を持ってうちにやってきます。とん汁を鍋ごと持って帰って食べているんです。地域外の方から見れば異様な光景でしょうが、創業当時から変わらない姿です。田植えや稲刈りの時期には、朝、うちのとん汁を買っておいて、作業がひと段落したときにみんなで食べたりしているんですよ」

なるほど、日々の暮らしの中に当たり前にとん汁が存在しているようですね。これなら、とん汁に麺を入れてみるという発想も自然と生まれてきそうです。

松澤さん「実はとん汁ラーメンとは別に、とん汁に中華麺をつけながら食べるつけ麺スタイルの『とんそば』というオリジナルメニューもあります。これは昔からとん汁定食と並んでうちの看板メニューです」

では、たちばなでとん汁ラーメンを提供するようになった経緯はどのようなものでしょうか?

松澤さん「うちでメニューに登場したのは平成4年です。お客さんに頼まれたんですよ。『とん汁ラーメンが食べたい』と。うちにはないよと言ってたんですが、何度か言われるもんだから、試しに作って食ってみようと。当時からラーメンもメニューにあったんで、そこにとん汁をかけたみたんです。それが意外にうまくて。こんなにうまいなら出してみようと(笑)。今では主力メニューになりました」

なるほど。お客さんの声で生まれたメニューだったのですね。地元の方はどのように楽しんでいるのでしょうか?

松澤さん「汁まで残さず飲み干す人は多いです。麺を大体食べ終わったら、ご飯を頼んでスープの中に入れてクッパのようにして食べる人もいますし。中には妙高に古くから伝わる香辛調味料『かんずり』をそこに入れてぐちゃぐちゃにして食べる人もいますよ」

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「かんずり」は唐辛子、糀、柚子、食塩が原材料の調味料。店内でも販売しています。

地元民に愛されるとん汁ラーメン。今ではこの味を求めて、遠方から足を運ぶお客さんも大勢います。週末には100杯を超える注文が入るほど。

松澤さん「創業当時のスピリッツを守り続けながら、枝葉をつけて大きくしていきたいと思っています。あそこに行けば、これが食べれる。あそこでなければ、これが食べられない。そういうオンリーワンを目指しています

たちばなではお取り寄せや、カップ麺の監修を行うなど新しい取り組みも積極的に行っていますが、店で食べるとん汁ラーメンは、わざわざ足を運ぶだけの価値を感じられること間違いなしです。妙高連峰の美しい景色を眺めつつ、ドライブがてら立ち寄るもよし。田舎道を散歩がてらのんびり歩いて辿りつくもよし。とん汁ラーメンを味わいに、妙高へいってらっしゃい!

  • 店舗情報
    ● とん汁 たちばな
    住所:新潟県妙高市栗原2-3-10
    電話:0255-72-2450
    営業時間:10:00〜19:45LO (月曜休 ※休日の場合は火曜)
    http://tontachi.com

※記事中の情報・価格は取材当時のものです。

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