暮らしのコト

麺は口ほどにものを言う~ご当地ヌードル探訪~

良寛も食べた、長くておめでたい”祝麺” 岡山県倉敷市の「しのうどん」

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日本各地に根付いた「麺料理」を求めて、全国を巡る「ご当地ヌードル探訪」。新年一回目となる今回は、岡山県倉敷市を訪ねました。

美観地区

人気スポットの倉敷美観地区。江戸〜大正時代の建物を活かしたお店が並んでいます。

今回の目的地は、倉敷駅から2駅の新倉敷駅に近い玉島地域。江戸時代の干拓事業によって、港町として栄えるようになった場所です。そんな玉島ゆかりの有名人には、禅僧・詩人・歌人・書家として江戸時代に活躍した良寛がいます。

円通寺

良寛が長年修行した円通寺には、彼の銅像が建っています。閑静な境内に心が落ち着きます。

歴史を感じさせる江戸時代の社寺が多く点在する一方、昭和初期には流通の拠点ともなった玉島。昭和時代の面影を残す商店街は、観光スポットにもなっています。

通町

レトロな雰囲気を残す通町商店街は、映画「ALWAYS 三丁目の夕日」のロケ地にもなりました。

さまざまな時代にタイムスリップした気分になれる玉島には、古くから伝わる「しのうどん」というご当地グルメがあるんだそうです。そこで、しのうどんをはじめとした玉島文化発信のために尽力しているという「人の駅・カフェWAON(和音)」に向かいました!

交流センター

目的のお店は、公共施設である玉島市民交流センター内にあります。

新倉敷駅から5分ほどバスに揺られ、「文化センター入口」で下車して少し歩くと、親子連れで賑わう施設が見えてきました。 “人と情報が行き交う湊”というコンセプトの玉島市民交流センターには、公園や公民館、武道館、歴史民俗海洋展示室や陶芸施設などが設けられ、市民が気軽に足を運べる憩いの場となっています。

外観

武道館のすぐ隣に、WAONはありました。オープンテラスも設置された、おしゃれな造りになっています。

内観

柔らかな日差しが差し込む明るい店内。広々とした公園が望め、ゆったりとした気持ちになります。

今回案内してくれたのは、WAONを運営する「玉島おかみさん会」の代表を務める浅原真弓さんです。

浅原さん「うちのしのうどんは、炊き込み御飯、おかずとセットで提供していますが、今回は特にしのうどんに注目してほしいので、単品でお出ししますね」

しのうどん

こちらが運ばれてきたしのうどん。一見普通のうどんのようですが…。

長い。

顔をのぞかせた麺が特徴的でした! ゆで時間に8分を要するという麺は幅広く、一本が非常に長いんです。

麺をひと口食べてみて驚くのは、小麦の風味の強さ。そして、小麦本来の優しい甘さが、麺を噛むたびに口いっぱいに広がります。また、コシが弱く、非常に柔らかいのも特徴の一つでしょう。幅広の麺のため、のっぺりとしていて、とてもモチモチ。子どもや女性に好まれそうな、ほどよい弾力があります。のびにくいので、煮込んでも、食べやすく切って揚げても、さらにはパスタの代わりにラザニアにしてもおいしくいただけるんだとか。

浅原さん「しのうどんのこだわりは、小麦の味を楽しんでもらうこと。昨今ではコシの強いうどんが主流ですが、しのうどんは小麦本来の味わいを生かすために油を使わず、小麦と塩だけのシンプルな製法で作っているので、コシが弱いんです。もちろん小麦にはこだわっていて、北海道産とオーストラリア産の良質なものを使っています」

続いてつゆを飲んでみると…こちらも麺と似た柔らかな甘み。しょうゆベースの味わいの中に、カツオやこんぶといったダシがほんのりと香ってきます。麺もつゆも比較的甘みを感じますが、麺の自然な甘みが舌に残る一方、つゆの後味はすっきり。種類の異なる甘みが絶妙なハーモニーを作り出しています。

浅原さん「昔はいりこだしのつゆでしたが、現在は岡山県で二番目に古い玉島の調味料メーカー・豊島屋さんのものを使っています。時代のニーズに合わせながら変えているんですよ」

つゆ

玉島の味を広めたいという気持ちから、つゆは店内でも購入可能。

具だけは季節によって異なるそうですが、今回トッピングしてもらったのは海老天、ねぎ、とろろ、わかめ。特にとろろはたっぷりとつゆを吸い、噛むと旨味がじゅわっと染み出てきます。優しい甘さの一杯で、食後はおなかも心もポカポカになりました。

温かく、ほっとする甘さのしのうどんは、寒い冬に食べるにはぴったりの一品。さらに、新年1月に食べるのにふさわしい理由があるそうで…。

浅原さん「しのうどんは、良寛さんたち円通寺の修行僧が、托鉢の際に使うお椀に入れて食べていたものです。節から節までの間隔の長い篠竹にちなんで名付けられました。年越しなどのおめでたい機会に振る舞われたため、 “祝麺”とも呼ばれる由緒ある料理なんですよ」

ちなみに、小説「不如帰」などで知られる明治の文豪・徳冨蘆花も、日記の中でしのうどんを「一筋一椀」と紹介しています。

浅原さん「うちでは、食べやすいように長い麺を切ってお出ししていますが、本来は長く太い一筋の麺で一食分だったようですね」

茹でる前

玉島おかみさん会の規定では、ゆでる前の状態で幅が3センチ以上、全長1.5メートル以上!

やがてしのうどんは、円通寺のお茶会やお花見でも振る舞われるようになりました。しかし、昭和後期に入り、変化する時代の中でそのような習慣は消滅。そこで立ち上がったのが、浅原さんが代表を務める「玉島おかみさん会」のみなさんなんだそうです。

■玉島を愛する“ビジネスおかみさん”集団、「玉島おかみさん会」の活躍

浅原さん

快活でパワフルな浅原さん。言葉の端々から玉島愛がにじみ出ています。

東京・浅草に理事会を置き、女性の経営者や個人会員が全国各地で地域活性化のために活動している「ふるさと創生ニッポンおかみさん会」。その玉島支部である玉島おかみさん会は、2002年の運営開始以来、玉島の活性化に努めてきました。昭和に消滅してしまったしのうどんを、記憶を頼りに“復活”させたのも浅原さんたちなんだとか。

浅原さん「しのうどん復興のきっかけは、玉島の有名な和菓子屋さんが閉店してしまったこと。これにより、胸を張って市外に持っていけるような玉島の名産が失われてしまったことに気付いたんです。そこで、“玉島ブランド”の一つとして郷土料理のしのうどんを復活させ、広めようと考えました」

その後、2012年にWAONもオープン。さまざまな施設があり、人々が集まりやすい市民交流センターに注目し、口コミをメインとした情報交換の場を作ろうとカフェの形態を選んだんだとか。

浅原さん「活動を始めて最初の5年間は、我々の活動を地元の人々に認めてもらえるよう努めました。徐々に理解が得られ、製造が難しい上にコストがかかるしのうどんを作ってもらえる製麺所もできたんです。現在では、うちを含め4店舗で“玉島名物”としてしのうどんが提供されるようになりました」

WAONは日替わりで地元の飲食店の人間がシェフを務める「ビジネス型ワンデーシェフ」制度を取り入れたコミュニティカフェのため、毎日しのうどんが食べられるわけではありません。しかし、その日のメニューはHPやブログなどで確認することができるので、しのうどんを提供する日には多くのお客さんが訪れます。

乾麺

店内で乾麺が販売されているのを発見! 市外へのお土産となるよう、乾麺のみを作っているそうです。

玉島の情報発信地としての役割も担っているWAON。従業員は観光案内もできるので、倉敷観光に来た際には少し足を伸ばして玉島にも来てほしいと浅原さんは言います。

浅原さん「いいところがたくさんある玉島を知ってもらうためにも、しのうどんをどんどん発信していきたいです。しかし、しのうどんは無添加のため日持ちがあまりせず、なかなか通販の経路に乗せることができません。店舗では売っていますので、まずは玉島にいらしてください!」

歴史と地元愛がたっぷり詰まったおかみさんたちのしのうどん。おめでたい麺を食べれば、一年のいいスタートが切れそうですね。

  • 店舗情報
    ● 人の駅・カフェWAON(和音)
    住所:岡山県倉敷市玉島阿賀崎1-10-1 玉島市民交流センター内
    電話:086-526-5055
    営業時間:9:30〜17:00(日曜休)
    http://tamashimaokami.com

※記事中の情報・価格は取材当時のものです。

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