日本各地に根付いた「麺料理」を求めて、全国を巡る「ご当地ヌードル探訪」。今回訪ねたのは、宮城県白石市です。城下町として栄えた白石市には、現在も古き良き町並みが残っています。
そんな情緒たっぷりの白石で、江戸時代に生まれたのが「白石温麺(うーめん)」です。さまざまな専門店がある中で、今回は画期的な取り組みをしていると話題の「うーめん番所」に向かいました!
■見た目よし、効能よし! 昔ながらの特産品にひと手間加えた“うーめん三昧”
早速注文しようとメニューを見ると、“温麺”を使ったさまざまな料理の名が連なっています。この日の宮城のように肌寒い日にピッタリな、温かい麺料理なのでしょうか?
わくわくしながら待っていると、店主の松田謙一さんが話しかけてくれました。
松田さん「うーめんは白石に昔からある名産品で、そうめんに似た麺なんです。今回はそれを使った、うちで人気のオリジナルメニューをお出ししましょう」
松田さん「つけ汁の中身は同じですが、薬味が2組あるので2皿に分けているんです。黄色と緑色の麺にはネギと大根おろし、ピンクの麺にはしそと梅肉を入れて食べてみてください」
言われた通りにつけ汁を準備し、まずは黄色の麺から食べてみると、やや苦みがある野生的な味わい。続いて食べた緑色の麺は、若々しい葉物野菜を思わせるフレッシュな風味です。とはいえ全体的に上品な味で、そうめんの薬味としても一般的なネギはもちろん、大根おろしと一緒に食べることでより一層さっぱりといただけます。疲れた時や、食欲がない時などにぴったりの麺料理ですね。
一方、つけ汁からはかつおとこんぶの風味がしっかりと感じられます。やや濃いめなので、麺を半分ぐらい浸していただくことでちょうどよいバランスに。とはいえ、後味はすっきりとしています。
ピンクの麺は最もあっさりした味付けになっているのか、単体で食べると他の2種よりもクセはありません。ただし、しそと梅肉が混じったつゆにくぐらせて食べると、その梅のほどよい酸味とあっさりした麺、しっかりとだしをとったつゆの相性はばっちり! お椀から酸味の強い梅としその香りが漂い、思わず食欲をかきたてられます。松田さんによれば人気が高い麺の一つだそうですが、納得の味。それぞれ個性のあるこのうーめん、どんな秘密があるのでしょうか?
松田さん「黄色にはニンジン、緑にはモロヘイヤとクロレラ、ピンクには梅としそを練りこんで作っています。どれも栄養価が高く、体に良い食材ですよ」
なるほど、それぞれ異なった野菜を練りこんでいるのですね。味を別にすると、麺はいずれもつるんとした歯触りで、長さが10cm程度と短いために食べやすさは抜群。つるつると箸が進み、あっという間に食べ終えてしまいました。
松田さん「麺を食べる場合、一食の目安は80gと言われています。しかし白石うーめんは消化が良いため、1種類につき40g、つまり合計120gお出ししているんです。それでも、女性の方でも簡単に平らげる方が多いですね」
太さ的にはそうめんに似てはいますが、より一層優しい味わいのうーめん。そうめんとの違いは何でしょうか?
松田さん「普通そうめんを作る時は、食用油を使って麺を延ばします。しかし、この温麺には油を使いません。そのため、味わい深く、体にやさしい麺に仕上がるんですよ。麺が短いのも、より消化を良くするためなんです」
松田さんによれば、油を使わない作り方が「温麺」という名前と深く関わっているそうです。
■宮城の人のあったか〜い心が生んだご当地麺
うーめんができたのは、まだそうめんしかなかった約400年前の江戸時代。その頃白石に、胃病の父に好物の麺を食べさせようと、そうめんを作っていた孝行息子がいたそうです。
松田さん「父親の病気はなかなか回復せず、ある日旅の僧侶に相談しところ、油膜を葛でんぷんに変え、長さは片手でにぎれる位にするよう言われたそうです。その通りに作ったところ、おいしくて胃に優しい麺ができました」
息子がこれを食べさせたところ、父は日増しに元気になり、近隣の評判となったとか。献上を受けた白石城主は、息子の“温”かな心をたたえて“温麺”と名付けたそうです。
松田さん「漢字は城主から賜ったものですが、“うーめん”という呼び方には諸説あります。“おんめん”と読むという人もいたり、殿様が『うんめーうんめー』と食べていたから“うーめん”と呼ぶようになったという人もいたり。歴史を感じますね」
なるほど、麺やスープでなく、心の温かさがうーめんの名前の由来なのですね。しかし、話を聞く限り当時のうーめんは非常にシンプルな麺料理のようです。どうして野菜を練りこもうと思ったのでしょうか?
松田さん「うちはもともと明治2年から続く製麺所でした。4代目として店を継ごうとした時、各地の製麺所で修行したり、さまざまなところで勉強したりしたんです。特に力を入れたのがバイオインダストリーの研究。バイオテクノロジーを活用して食品を生産するなかで、うーめんに野菜を練りこむことを思いついたんです」
その当時は戦争の直後で、高価だった薬に替わるものを作ろうと考えた松田さん。そこで注目したのが、栄養価の高い食材だったわけです。
松田さん「葛うーめんの次に作ったのが、今回お出しした梅、モロヘイヤ、ニンジンうーめんです。3色のうーめんは“信号麺”とも呼ばれて、警察の方にも好評だったんですよ(笑)。その後も白石名物の柿や、古代米、そば、ブルーベリーなど、さまざまな“変わりうーめん”を作りました。柿に含まれるタンニンはアルコールを分解するので、柿うーめんは飲んだ後のシメとしても人気でしたね」
その後も松田さんはさまざまな“変わりうーめん”を作り続け、白石城が復元された平成7年に現在の食堂を構えるようになったんだとか。今回いただいたうーめん三昧をはじめ、温かくとろみのある「葛かけうーめん」などを求めて、白石市内外からお客さんがやってくるほどの人気店となりました。
現在でも製麺業は続けていますが、食堂を構えると同時に卸し業をやめたため、特製の麺は店内に設置した売店のみで販売しているそうです。「お店でうーめんを食べて、おいしいと思ってくれた人が麺を買ってくれればそれでいい」と、松田さん。
自身の体調の悪化や2011年の東日本大震災を経て、松田さんの白石うーめんに懸ける思いはより一層強くなったそう。
松田さん「震災の前に体調を崩したのですが、そこで改めて今まで作ってきたうーめんの存在を想いましたね。自分の不健康やその後の震災を通じて、より一層食べた人が満足してくれ、かつ元気になるようなうーめんを作っていきたいと感じました。それまで健康食材を使ったうーめんを作っていたのは、きっと何かの縁だったのだと思います」
伝統を守りつつ、新たなうーめんの歴史を作っている松田さん。白石の人々の温かい心がギュッと詰まったうーめんを食べれば、寒い冬もぽかぽかとした気持ちになれそうですね。
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店舗情報
奥州街道 うーめん番所
宮城県白石市西益岡町2-3
0224-26-2621
[売店]9:00〜17:00、[食堂]11:00~17:00(木休)
※記事中の情報・価格は取材当時のものです。