暮らしのコト

麺は口ほどにものを言う~ご当地ヌードル探訪~

待ち時間も楽しい! 希少なダシでいただく徳島県阿波市の「たらいうどん」

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日本各地に根付いた「麺料理」を求めて、全国を巡る「ご当地ヌードル探訪」。今回は、徳島県阿波市を訪れました。地名の“阿波”は、古代より粟の生産地だったことが由来。神の孫である天富命が、肥沃な土地となるよう開拓したという伝承があるほど、自然豊かな地域なんです。

眉山

阿波市へ向かう途中の徳島市で見かけた、徳島のシンボル・眉山。どこから見ても眉の形に見えるそう。

阿波踊り

道を歩いていると、あちこちに阿波踊りをモチーフにしたオブジェがありました。

目指すご当地グルメは、阿波市の名物料理「たらいうどん」。阿波市内でも特にたらいうどん店が集まっている土成地区に向かうため、まずは徳島市から電車で30分の鴨島駅に降り立ちました。

鴨島駅

鴨島駅は、徳島県内でも主要な駅の一つ。この日も多くの人が乗り降りしていました。

徳島市同様、川や山に囲まれて思わずゆったりとした気持ちになる阿波市。そんな阿波市に店を構える「樽平(たるへい)」さんは、昔ながらのやり方を引き継いだたらいうどん作りをしている人気店なんだとか。一体どのようなご当地グルメなのか、わくわくしながら向かいました。

■シンプルながら飽きない味 たらいうどんの秘密とは?

吉野川


阿波中央橋から見た吉野川。四国4県、12市15町1村にまたがる、四国最大の川です。

のんびりとした景色を眺めながら、国道に沿ってひたすら北上。土成地区へは公共交通機関が通っていないため、タクシーを使うのがオススメです。市街から山の中に入ると、川のせせらぎがすぐ近くに聞こえてホッとした気持ちになります。

看板

そろそろ香川県では…? と心配になったあたりで、看板が見えてきました!

入り口

階段を降りきると、入り口を発見。食事スペースまで、さらに階段を下ります。

川沿い

飲食スペースは川沿いに設けられており、ロケーションは抜群です!

座敷

広々とした和風の座敷。川を眺めながら料理をいただけるわけですね。

早速注文すると、店主の中筋雅明さんが説明してくれました。

中筋さん「うちでは注文をいただいてからうどんをゆでることにこだわっています。ゆでるのに20分ほどかかるので、景色を見ながら待っていてください。外の川に降りることもできますよ」

エントランス

座敷の入り口には中筋さんの奥様が活けた花もあり、お客さんの目を楽しませようとする心遣いを感じます。

澄んだ川を眺めて待っていると、やがて、たらいうどんが到着しました。

たらいうどん

テーブルの上には…その名の通り、たらいに入った釜揚げうどんが!

直径

メジャーで計ると、たらいの直径は約27cm(2人前用)。なかなかの迫力です。

つゆ

「たる平」と書かれた徳利には、熱いつゆが入っていました。

中筋さん「うどんをつゆにつける際は、“湯切り”をするのがオススメ。器に沿わせてうどんを引き入れることでゆで汁が入りにくくなり、つゆが薄くなるのを防げます」

湯切り

こちらが“湯切り”中の様子。それではいただきましょう。

アツアツのつゆにつけたうどんは…とにかくコシがあり、もっちもち! 直径5ミリほどでしょうか、うどんの中でも太めの麺がつるつると流れ込み、口の中が占領されるよう。歯触りはあくまで柔らかですが、噛むほどにねっとりと絡みつくような舌触りに変化していきます。

中筋さん「うちのうどんには土成と香川県の小麦を使っています。この辺りのたらいうどん店の中では一番太いのがウリの一つですね」

そんなうどんは小麦本来の風味が生かされ、しっかりとした甘みが感じられます。しかし、しょうゆベースのつゆをつけた部分は一転して絶妙な塩気。こんぶ、カツオ、しいたけなどのダシが豊かに香り、うどんとのバランスは抜群です。

決して濃いわけではなく、奥行きがあり、野趣のあるコクを醸し出すつゆは、他に類のない味わい。うどんとつゆそれぞれが完成されているので、この組み合わせでいくらでも食べ進められます。とはいえ、ネギやショウガを入れると、ダシの風味がより一層引き立てられてまた感動。ついつい箸が進み、1人で2人前を完食してしまいました。

釜揚げうどんに、風味豊かなアツアツのつゆ。非常にシンプルながら、奥が深いご当地麺という印象です。何か秘密があるのでしょうか?

中筋さん「うどんの太さ以外にもウリはもう一つあって、それがつゆ。うちは、じんぞくというハゼ科の小魚をダシに使っています。じんぞくというのはこの辺の呼び方で、他にゴリ、カジカ、カワヨシノボリ、チチブとも言いますね」

じんぞく

レジ近くにはじんぞくの棲む水槽が設置されていました。“ゴリ押し”という言葉の語源になった魚だそう。

なるほど、コクのあるつゆにはそんな秘密が隠されていたんですね。それにしても、どうして川魚でダシをとるのでしょうか。中筋さんが、たらいうどんとお店の歴史を教えてくれました。

■木こりの知恵が生んだたらいうどん

中筋さん「たらいうどんの歴史は長く、江戸時代には食べられていたそうです。この辺りはお米がとれにくいため、人々はうどんばかりを食べていました。特に、冠婚葬祭の際には欠かせない食べ物だったようですね」

当時山の中で仕事をしていた木こりが、昼食に食べ始めたのがたらいうどんなんだとか。近くに海がないため、川で取れるじんぞくとしょうゆだけで味をつけたものが一般的だったそうです。最初は釜から直接うどんをすくっていたそうですが、いつしかゆで汁ごとたらいのようなものに移し替えて食べるようになり、“たらいうどん”の形態が完成したそう。

中筋さん「山の中ですから、大勢の木こり一人ひとりにうどんを配るのが手間だったんでしょう。一つの入れ物に入れたうどんをみんなですくって食べれば合理的ですし、人が増えても問題ない。何よりも楽しいですしね」

たらい

店内では大中小のたらいを販売しています。家で手軽にたらいうどんを楽しめますね。

中筋さん「“たらいうどん”という名は、昭和4年につけられました。当時の徳島県知事がこの土地に視察にいらした時、歓待のために提供したたらいうどんに感激したそうで、その場で命名されたようです。以来、たらいうどんはこの土地の名物になりました」

自身もたらいうどんを好んで育ったという中筋さんが、樽平をオープンさせたのは40年前。御所温泉という旅館の別館が建っていた土地を買い取り、全面改装を施して今に至るそうです。

中筋さん「もともと山や川といった自然が大好きで、父と一緒にこの近くの川で釣りをして、その帰りにたらいうどんを食べていましたね。そのよしみで仲良くなったたらいうどん屋の店主から開業を勧められ、23歳の時に脱サラをしてお店を開きました」

開店当初からじんぞくだしと太麺にこだわっているという中筋さん。自家製のうどんは、毎日自分一人で仕込んでいるんだとか。

うどん

しっかり踏み、よく寝かせた麺は、ゆでる前から極太です。

中筋さん「昔はよく獲れたじんぞくも、今では少なくなってしまいました。うちは独自のルートがあるので一定量を確保できるのですが、他のお店ではなかなか…。今ではじんぞくを使っている、唯一のお店になってしまいました」

たとえ一軒でも、伝統の味を守ろうとじんぞくだしを使い続ける中筋さん。樽平ではじんぞくの唐揚げも食べられるとあり、うどんとともに注文する人が多いそうです。

唐揚げ

こちらがじんぞくの唐揚げ。竹の小鉢には甘辛いじんぞくの煮付けも入っています。

じんぞく自体はやや苦味ばしった、個性的な味わい。カラッと揚げられ、さっと塩がふられた唐揚げは、お酒のおつまみにもぴったりです。自身もお酒が好きで、酒樽の「樽」とのんべいの「へい」を店名の由来にした中筋さんオススメの一品。

中筋さん

冗談が好きで、茶目っ気たっぷりの中筋さん。

たらいうどんが、いずれ讃岐うどんのように全国的に知られるようになれば、と中筋さんは語ります。

中筋さん「ここ何年かは自治体も盛り上げてくれてはいますが、まだまだたらいうどんの認知度は低い。特にうちのうどんは待ち時間がかかりますから、時々お帰りになる方もいます。でも、夏は川で沢ガニやじんぞくを獲ったり、川辺にゴザを敷いて涼んだりできますから、待ち時間も楽しめるはずです。それに、じんぞくだしのたらいうどんには待っていただくだけの価値があります。ぜひいろんな方に食べていただきたいですね」

徳島の自然豊かな気候が生んだたらいうどん。時間に余裕のある方は、伝統のうどんを大勢ですくいあってはいかがでしょうか。

  • 店舗情報
    ● じんぞくたらいうどん 樽平
    住所:徳島県阿波市土成町宮川内字上畑102
    電話:088-695-4385
    営業時間:11:00〜19:00(不定休)
    http://taruhei.main.jp

※記事中の情報・価格は取材当時のものです。

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