日本各地に根付いた「麺料理」を求めて、全国を巡る「ご当地ヌードル探訪」。今回の目的地は宮城県仙台市。JRから仙台市地下鉄南北線を乗り継いで、Jリーグクラブ「ベガルタ仙台」のホームスタジアムがあることでも知られる泉区泉中央へやってきました。
牛タンやずんだ餅など数々のご当地グルメを誇る仙台ですが、近年になってにわかに脚光を浴びている麺料理があります。その名も「仙台マーボー焼そば」。仙台市民がみんな食べているソウルフードとも“うわさ”されますが、実はちょっとした事情があるようなのです。真相を確かめるべく、発祥の店と言われる「中国菜館 まんみ 泉中央店」にお邪魔します!
■昔ながらなのに初めての味わい!
案内してくれたのは、まんみの経営者で「仙台マーボー焼そば」の普及を進める「マーボー焼そば推進委員会」の委員長でもある大柳憲太郎さん。まずは、“うわさ”のご当地グルメをいただいてみましょう!
現れた大皿には、マーボーが一分の隙もなく敷き詰められています! 具材は豆腐、ひき肉、ねぎの3種のみ。麺はマーボーの下に埋もれて見えませんが、マーボー焼そばという名前の通りの見た目ですね。
大柳さん「焼そばにマーボーをかけたシンプルな料理ですからね。元々はまかないだったんですよ。ウチは今から41年前に俺の親父が仙台駅前に開いた店なんですけど、開店から1年も経たないうちにメニューに並んだみたいですね」
まんみは泉中央に移転する前は、仙台駅近くのジャンジャン横丁にありました。当時はカウンター席のみの小さな店だったそうです。
大柳さん「昔は五目焼そばがよく売れたそうです。だから焼そばをうんと仕込むんだけど、たまたま出ない日もある。そんなとき、親父は従業員に残っている焼そばをまかないで食えとすすめたらしいんです。で、豆腐も余っていたからマーボーをかけてしまえと」
従業員は店の端に座って、まかないを食べました。するとメニューに載っていない料理に興味を抱いた常連さんが「同じのを食わせてくれよ」と注文するので、やがて正式にメニューとして加えられることになったそうです。
昔話を聞きながら、マーボーの下に箸を潜り込ませると、食欲を刺激するマーボーの香りが漂うとともに、コシのありそうな麺がお目見えです! マーボーを絡ませて食べると、いかにも中華料理らしい濃厚な辛みと甘みが舌を喜ばせてくれます。
よく味わうとマーボーだけでなく、麺にも味がついているかのように感じます。そういえばこの麺、よく見る黄色ではなく、やけに茶色いようですが、これは……?
大柳さん「麺は蒸してあるから茶色いんですよ。生麺を蒸して、蒸した麺を乾燥させて、鍋で火にかけながらお湯で戻して、出す前にラードで焼いています。こうすると、麺に甘みが出てくるんですね。そういった麺の仕込み方は昔からあるらしいんですが、あまりに手間がかかるので、今はほとんどやる人がいないみたいです」
なるほど、濃厚な味わいは麺の製法のおかげでもあるのですね! 麺は味だけでなく食感も独特。ラードで焼かれた表面は適度にパリっとし、中身は強い弾力があってかなりのモチモチ感。これはおいしい!
大柳さん「中華というのは甘じょっぱくて味の濃いもの。だから麺が具の存在感に負けないように、でも反発しないように、一緒に食べておいしくなるよう心がけて作っています」
昔ながらの味なのに、今食べると新鮮なおいしさです!
■テレビ番組の勘違いが現実に!?
まんみでは40年前からメニューに並んでいたマーボー焼そばですが、脚光を浴びたのはここ数年のこと。今では大手コンビニとのコラボレーションや、さまざまなメディアで取り上げられて注目を集めていますが、最初のきっかけは何だったのでしょう?
大柳さん「2013年にテレビで取り上げられたことですね。全国のご当地ネタを扱う番組で、『仙台人はみんな食べている』とマーボー焼そばが紹介されたんです」
番組が仙台市内の中華屋にマーボー焼そばの取り扱いについて電話で尋ねてみたところ、なんと半分近くが取り扱っていると回答したそう。まんみのまかないから始まったと言われるマーボー焼そばは、いつの間にか仙台市内の中華屋の間に定着していたのです。ならば、仙台はマーボー焼そばがよく食べられている土地であっても不思議ではありません。
大柳さん「でも、実際のところは知らない人が多かったんです」
見知らぬ料理をソウルフードであると紹介された仙台市民は、さぞ驚いたことでしょう。しかし、番組の宣伝効果は絶大。口々に「知らない」と言う仙台市民を含め、たくさんの人がマーボー焼そばを食べにきてくれたそうです。特に目立つのは若い人でした。
大柳さん「ネットでマーボー焼そばの話題が拡散したんでしょうね。私たち中華屋は、若い人にはあまりなじみがないものだと思います。ラーメンを食べたければラーメン屋に行けばいいし、中華屋の存在は知っているんだろうけど、コレといった機会がない。ラーメン屋とは違う中華屋の料理を食べて欲しいという気持ちは昔からあったのですが、来てもらうのはなかなか難しかった」
そこで、このブームをきっかけに中華屋の良さをもっと知ってもらいたいと、大柳さん率いるまんみが中心となって「マーボー焼そば推進委員会」を設立。ただのマーボー焼そばから、「仙台マーボー焼そば」という地名を冠したご当地グルメとして、普及に取り組むことになったのです。
委員会が定めた「仙台マーボー焼そば」の認定条件は以下の3つ。
1. 麻婆を使い、具は豆腐に限定しない
2. 麺は焼くか揚げたものとする
3. 宮城県中華飲食生活衛生同業組合の認定人が認定したものとする
「当たり前のようなことが書いてあるでしょう?」と大柳さん。確かに、麺とマーボーさえ使っていれば何でもアリと言っているように聞こえます。
大柳さん「マーボー焼そばは、テレビで知名度が上がる前から仙台に定着していました。でも、作り方は店ごとにまったく違います。山椒をたくさん入れて辛くしているものや、麻婆豆腐ではなく麻婆茄子をかけている店もあります。だから、ルールで縛ると昔から守ってきたレシピをイチから作り直すことになりかねない」
それは伝統を否定することにもつながります。だからこそ、「仙台マーボー焼そば」は共通のレシピを設定せず、事実上の条件を認定人の認定としているのです。
誕生から40余年。一方で、ご当地グルメとしては、まだスタートを切ったばかりの「仙台マーボー焼そば」。その未来について、大柳さんは語ってくれました。
大柳さん「いつの日か、学校給食にできたらいいですね。街に出て『マーボー焼そばを知っていますか?』と聞いたとき、『知ってる知ってる、給食で出たから』って答えて欲しい。そのとき『仙台マーボー焼きそば』は、本当の意味での“ご当地グルメ”になると思うんです」
「仙台マーボー焼そば」は、今では牛タンやずんだ餅と並び、仙台市が認定した仙台生まれのおいしい名物「伊達美味(だてうま)」のひとつにも選ばれています。食の都・仙台でグルメを楽しむのなら、お忘れなきよう!
- 店舗情報
●中国菜館 まんみ 泉中央店
住所:宮城県仙台市泉区泉中央1-22-3
電話:022-371-9111
営業時間:11:00〜15:30(LO15:15)、17:00〜21:00(LO20:45)
※スープなくなり次第終了
※記事中の情報・価格は取材当時のものです。