暮らしのコト

地域密着 愛されご当地パン

冷めてもサクサクの衣は唯一無二! 宮城県仙台市の「天ぷらパン」

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地域で愛されているパンを探して、全国各地をゆく「地域密着 愛されご当地パン」。今回は「天ぷらパン」という一風変わったパンがあると聞き、宮城県仙台市の「おいしいパン屋さん」にやってきました。

宮城県仙台市長町にあるおいしいパン屋さん

おいしいパン屋さんは仙台市営地下鉄の長町駅または長町一丁目駅から徒歩5分のところにあります。

宮城県仙台市長町にあるおいしいパン屋さんの商品

あんぱんやメロンパンなど親しみ深いパンから、クロックムッシュやシナモンロールなど最近話題のパンまで勢ぞろい。

さまざまな菓子パンや惣菜パンを取り扱っている中で、この店が誇る看板商品が「天ぷらパン」。聞き慣れない名前ですが、海老やかぼちゃなどの天ぷらを挟みこんだパンなのでしょうか…。では、見てみましょう!

天ぷらパンが揚げ終わったところ

これが天ぷらパン。揚げたてアツアツです。

目の前に現れたのはこんがりきつね色の衣をまとった…パン!? 一見、厚揚げのようにも見えますが、中はどうなっているのでしょうか。

天ぷらパンの断面

天ぷらパンを割ってみると、紫色のつぶが…。

中から顔を出したのは、つぶあんを挟み込んだパンでした!  天ぷらパンとは、パンを天ぷらのように揚げたものだったんですね。ちなみに、味はあんの他にカレー、クリーム、チョコがありますが、一番人気が「あん」だそうです。気になるのはその味。早速、食べてみましょう。

衣は薄めでカラッと揚げられているのでサクサク外皮は揚げたての天ぷらの衣を思わせる食感ですが、中のパンはしっとりもちっとしていて、その食感の違いが楽しめます。あんは甘さ控えめで、優しい甘さが口の中に広がります

天ぷらパンの衣はサクッと軽く、揚げ物特有の油っぽい重さはありません。素朴な味わいなので、おやつ感覚でぱくぱく食べられました。

おいしいパン屋さんでは、必ず注文を受けてから天ぷらパンを揚げているそうです。店内にはカフェスペースもあるので、揚げたてをすぐに食べることができるのもうれしいところです。

おいしいパン屋さんの店内

カフェスペースではパンとともにコーヒーや紅茶を楽しむことができます。

もちろん持ち帰りもできますが、天ぷらパンのすごいところは、時間がたって冷めても、サクサク感が持続することです。天ぷらパンを作って25年以上になる加藤さんにその秘密を教えていただきました。

おいしパン屋さんの代表を務める加藤美枝さん

おいしいパン屋さんの代表を務める加藤美枝さん。

「天ぷらパンは衣が命」と言う加藤さん。どのような工程で作られるのでしょうか?

天ぷらパンのタネとなる「あん」を挟んだ食パンを衣に浸します。

天ぷらパンのタネとなる「あん」を挟んだ食パンを衣に浸します。

加藤さん「天ぷらパンの衣には、小麦粉やでん粉などをミックスした一般的な天ぷら粉は使いません。国産の小麦粉が持つうまみを生かすために、水を加える他はシンプルな調合にすることで、通常の天ぷら粉ではなかなかできない『時間がたってもサクッとしたおいしい衣』を作れるんです。調合する材料については…企業秘密です」

また、揚げ方にもコツがあるそうです。

衣をつけたタネを約170℃の油の中へ投入します。

衣をつけたタネを約170℃の油の中へ投入します。

天ぷらパンをひっくり返してもう片面を揚げているところ

パンの片面を2分揚げたら、裏返してもう片面をまた2分揚げます。

加藤さん「油の温度が170℃より低いとサクッとした食感にはなりません。反対にそれより高いと衣が固くなったり焦げたりしてしまうんですよね。試行錯誤を重ねた上で、おいしい衣を作るためのちょうど良い温度にたどり着きました。また、天ぷらパンを食べても重く感じないのは、揚げ油にクッキーやかりんとうなどのお菓子を揚げるときによく使われる『米油』を使っているからなんです。米油は通常の油とは異なり、油臭さやコテコテした油っぽさがないんですよ

なるほど、衣に使う材料や揚げるときの油と温度にこだわることで、いつまでもサクサク感が楽しめる天ぷらパンができあがるんですね。

■天ぷらパンの誕生、そして受け継がれる思い

天ぷらパンはどのように誕生したのでしょうか?

加藤さん「天ぷらパンは今から50年前に、地元にある老舗のパン屋『千成屋』の創業当初に、その当時の店主が生み出しました。ふとした思いつきからパンを天ぷらのように揚げたことがきっかけだそうです。パンを揚げるというアイデアは、時間がたって硬くなってしまったパンを揚げることでおいしさをとり戻した先人の知恵によるものだと聞いています。そして、千成屋の店主が高齢のためにパン作りを引退する際、私が施設長を務めている障害福祉センター事業所『ビッグママ』がパン屋を受け継ぐことになりました。ここでは、パン職人による教えのもと、ビッグママを利用する障がいを抱えた人々がパン作りをしています。私はパン作りで彼らの社会的成長を支援していきたいと考えています」

店内の壁はスタッフが描いたにぎやかな絵でいっぱいです!

店内の壁はスタッフが描いたにぎやかな絵でいっぱいです!

千成屋のチャレンジ精神食べ物を大切にする気持ちから生まれた「天ぷらパン」。誕生から50年たった今でも受け継がれているのは、加藤さんが福祉支援の一環としてパン作りを取り入れたいという思いがあったからなんですね。

■ここでしか味わえない天ぷらパン

おいしいパン屋さんの店内にある4コマ漫画の1カット。

おいしいパン屋さんの店内にある、天ぷらパンに関する4コマ漫画の1カット。

実は天ぷらパンは、かつて「幻のパン」と呼ばれていたことがあるそうです。

加藤さん「千成屋では東北高校で約25年にもわたって天ぷらパンを販売していた時期がありました。天ぷらパンは生徒に大人気で、200個近い商品が、1〜2時間目の時点ですでに売り切れになってしまったそうですよ。あまりの人気ぶりに、上級生にしか買えないパンという伝説もあったそうです。天ぷらパンにゆかりのある卒業生の中には、今でも天ぷらパンを求めてうちに買いに来てくれる人もいます

おいしいパン屋さんでは、天ぷらパンをこよなく愛するファンに向けて、近隣の一部のスーパーでも天ぷらパンを販売しています。さらに、宮城県名取市にある閖上(ゆりあげ)で毎週日曜・祝日に開催される「ゆりあげ港朝一」にも出店しています。こちらには関東や関西など全国各地からはるばる足を運び、天ぷらパンを食べに来る観光客がいるんだとか!

このように地元にとどまらない人気を得ている天ぷらパンですが、おいしいパン屋さんではこれ以上、事業を拡大することは考えていないと言います。

加藤さん「私は障がいを抱えた人々がパン作りを通して社会的なルールや人間関係を学んでもらうこと自分らしい生き方を見いだすことを一番に願っています。そのためには、パンを作るスタッフのペースに合わせることが大切なんです。店名の通りに、みなさまにおいしいパン屋さんだと思ってもらえるように、これからも地元で愛されるパンを作っていきたいですね」

天ぷらパンはこれからも、ここでしか味わえない地元の味として愛されていくことでしょう。仙台を訪れた際には、唯一無二のサクサク感を味わいに足を運んでみてはいかがでしょうか。

※記事中の情報・価格は取材当時のものです。

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