訪れたのは3月13日。開業を翌日に控えた北陸新幹線や、それに伴い役目を終える富山と越後湯沢を結ぶ在来線特急「はくたか」のラストランを目撃するため、観光客や鉄道ファンがカメラ片手に続々と集結! 静かな富山駅が少しずつ熱気を帯びてきていました。
■これが「富山ブラック」の元祖!
やってきた富山市は人口40万人を超える北陸の中核市。そこで市民の足として長年愛され続けているのが路面電車です。目指す「西町大喜 西町本店」は富山駅から少し距離があるので、路面電車に乗って向かいます。
10分ほどで最寄りの「西町」停留所に到着。大通りを渡ればすぐに「西町大喜 西町本店」が並ぶ細い道が見えてきます。
のれんをくぐると、しょうゆの匂いが店中に充満していました。その香ばしい匂いに期待感が高まります!
カウンターに座ってメニューを拝見。早速、スタンダードな「中華そば 小(並)」を注文します。
真っ黒なスープは、ほかのラーメンにない独特の雰囲気! 立ち上る湯気とともに、濃厚なしょうゆと粗挽き黒こしょうのスパイシーな香りが漂ってきます。
そんな一杯を運んできてくれたのは、店長を務める金山樹一郎さん。
金山さん「『西町大喜』の中華そばは“三位一体”。まずは“麺”と“チャーシュー”、“メンマ”をスープの中で混ぜてから食べてください」
すべての具をなじませることで、初めて「西町大喜」の味は完成するそう。てんこ盛りになった具材の山を崩すと、メンマの下から大量のチャーシューが現れました!
金山さん「チャーシューはしっかりした歯ごたえが生まれるように、すべて手切りにこだわっています。量は昔から変わらず100gですね」
100gというと、一般的なラーメンに入っているチャーシューの2倍〜5倍ほどにもなるでしょうか。驚きの量です!
よく混ぜてから口に運ぶと、チャーシューとメンマのうま味がスープに染み出て絶妙な風味に! 具をスープにしっかりと浸さなければ、気づけなかった味わいですね。
金山さん「ストレートの太麺も、スープとの相性を考えて作られている特注麺です。これ以外の麺で、同じ味わいは出ませんよ」
歯ごたえを感じながら、どんどん食べ進めていきます。太めに刻まれたネギのさわやかな甘味も、濃い口のスープによく合ってうれしい。箸が止まることなく、あっという間に完食しました!
■富山の歴史が詰まった一杯
元祖「富山ブラック」と呼ばれる「西町大喜」の中華そば。その生みの親は、創業者の高橋青幹(せいかん)さん。昭和22年、戦後のことでした。
金山さん「かつて西町は繁華街だったんです。青幹さんは、戦後の街を復興するために働く労働者たちに向けて、濃い味付けでチャーシューがたくさん入ったご飯のおかずとしての『よく噛んで』食べる中華そばを考え出しました」
富山市民ならば知らない者はいないという一杯。実際に富山で育った金山さんも、子どものころに親と一緒に食べにきたことがあるそうですが、その味は「変わらない」と語ります。
金山さん「スープの作り方からネギの切り方まで、当時と同じように作り上げています。大切なのは青幹さんが築いた伝統の味を守ること。そして、後世に受け継いでいくことですね」
食文化は時代とともに移ろうものですが、流行に左右されない「西町大喜」の一杯には、富山の歴史が凝縮されていると言えますね!
北陸新幹線の開業で、富山を訪れる機会は増えるはず。全国に名高い富山湾の白えびや寒ブリは夕飯に取っておいて、お昼は元祖「富山ブラック」を食べに、路面電車に揺られてみてはいかが?
- 店舗情報
店舗情報
●西町大喜 西町本店
住所:富山市太田口通り1-1-7
電話:076-423-3001
営業時間:11:00〜20:00(水曜休、祝日の場合は翌日休)
http://www.nisicho-taiki.com/
※記事中の情報・価格は取材当時のものです。