日本各地に根付いた「麺料理」を求めて、全国を巡る「ご当地ヌードル探訪」。
今回訪れたのは、雲仙岳のお膝元の長崎県島原市。
島原市には古くから伝わる「真っ黒い麺のうどん」があるのです!
その名も「六兵衛」。
梅が咲く島原城を横目に、お城からほど近い六兵衛専門店の「六兵衛」さんを訪ねました。
六兵衛は、生のサツマイモを乾燥させて作るサツマイモ粉で作ったうどんのことで、かつては、島原地方の家庭でよく食べられていたのだそうです。さっそく、ろくべ(500円)をいただきます。
真っ黒麺にビックリしながら一口。
サツマイモ粉なので甘い麺だと想定していましたが、意外にもさっぱりとした味わいです。でん粉質の麺の特徴であるプチプチという歯切れの良さがあり、うどんというよりはこんにゃくに近い食感です。出汁は少ししょっぱ目なのですが、その理由は後で判明します。
山村さん「当店の麺はサツマイモ粉100%で、自家製です。サツマイモは、干し芋のように茹でたイモを干しているのではなく、生のまま乾燥させて粉にします。その粉をヤマイモと一緒に練って団子状にして、食べるときに押出機で麺を作ります」
と、押出機を取り出してくる山村雅人さん。
お店ではもっと大きな機械で作っているそうですが、一般家庭ではこちらを使うそうで、市内の金物店で購入できるとのこと。全国、さまざまな麺料理がありますが、押出麺なのは珍しい。
そのまま茹でる方法もあるそうなのですが、「六兵衛」さんでは、ちゃんぽんめんのように一回蒸しています。その方が麺の味が際立っておいしくなるとのこと。ちなみに、麺が黒いのは、黒いサツマイモを使っているわけではなく、サツマイモ由来の色素で、熱を加えると黒くなっていくのだそうです。
■忘れられた郷土食が学校給食で復活
この郷土食の六兵衛。現在では学校給食のメニューにもなっているのですが、一時期、忘れられていたメニューだったのだそうです。
サツマイモ粉100%のため、六兵衛の味はサツマイモに左右されます。戦前戦後のころのサツマイモは旨味が少なかったため、必然的に六兵衛もおいしくなかったそうです。
山村さん「戦後すぐぐらいまでは家庭でも作られていたようですが、食べるものがないからしかたなく食べる料理だったようで、ご年配の方はいい思い出がないらしいです」
こうして、家庭で作られることが少なくなり、忘れられた郷土食になってしまいました。
「六兵衛」さんが六兵衛の専門店を始めたのは約40年前。そのころは行商で売っている人はいたものの、実店舗で出しているお店はありませんでした。
なぜ、六兵衛のお店を始めたのでしょうか。
山村さん「祖母が六兵衛をよく作っていて、たまたま自宅にお店ができるスペースがあったのと、誰も六兵衛のお店をやっていなかったからですね」
ところが、品種改良が進み、旨味のあるサツマイモが登場すると、六兵衛は“おいしくなかった料理”とは思えないほどおいしくなったのです! そして、学校給食のメニューに出るようになって子どもたちに普及し、島原の郷土食として復活します。そのおいしさには地元の方が驚くことが多いそうです。
山村さん「特に年配の方に驚かれますね。こんなにおいしい食べ物だったか?って。島原の人でも30代~40代の人は食べたことない人が多いですよ。先日も学校給食で好きなメニューだからと食べに来たお子さんがいましたが、お母さんは初めて食べたって言っていましたね」
現在では、島原市も観光の目玉として力を入れており、市内には、麺の製法やサツマイモ粉と小麦粉の割合もさまざまな六兵衛うどんがあります。
話に夢中で忘れていた六兵衛うどんをひとすすり。
しょっぱいと思っていた出汁が甘くなっているではありませんか!
「気がつきました?」とニヤリとする山村さん。
時間が経つと麺の甘みが出汁に溶け出して味が変わるのだそうです。味が変わった後も素朴な甘さでとてもほっとする味です。
黒い見た目に騙されたと思って、ぜひ食べてみてください!
- 店舗情報
店舗情報
●六兵衛
住所:長崎県島原市萩原1-5916
電話:0957-62-2421
営業時間:10:30~23:00(火曜日定休)
※記事中の情報・価格は取材当時のものです。