暮らしのコト

麺は口ほどにものを言う~ご当地ヌードル探訪~

草津のおもてなし文化由来の新名物! 群馬県吾妻郡の「草津味とうじうどん」

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日本各地に根付いた「麺料理」を求めて、全国を巡る「ご当地ヌードル探訪」。今回は群馬県吾妻郡の草津温泉にやってきました。
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草津温泉のシンボル「湯畑」。湯けむりが立ち上っています。

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自然湧出量日本一! その量は1日にドラム缶約23万本分です。

草津温泉の歴史は古墳時代に始まるともいわれ、源頼朝や徳川吉宗、小林一茶など数々の歴史上の人物が入浴に訪れたとされています。有馬温泉、下呂温泉とともに日本三名泉に選ばれているほか、硫黄分の多い泉質で高い効能をもつことから「湯治の湯」としても有名で、まさに日本を代表する温泉地です。そんな草津温泉で近年、郷土料理をアレンジした麺料理「草津味とうじうどん」新名物として広まりつつあるのだとか。今年でオープン16年目になる発祥の店「そばきち」でどんな麺料理なのか確かめてきました!

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湯畑から徒歩10分ほど。開放感あふれる大きな湯船で有名な「西の河原露天風呂」のすぐ近くに「そばきち 西の河原店」はあります。

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和風で落ち着いた雰囲気の店内。奥の作業部屋はガラス張りになっており、そば打ちの様子を見ることができます。

案内してくれたのは、店主であり、草津温泉観光協会の理事も務める川島武さんです。早速、「草津味とうじうどん」を注文してみると、次々と鍋や料理がテーブルに運ばれてきました!

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鍋、うどん、天ぷら、漬物、薬味がずらり。

あっという間にテーブルがいっぱいに。すごいボリュームですね。

川島さんとうじうどんは、郷土のおもてなし料理で、来客があった時に地域の家に寄り集まって食べていたものなんです。大きな鍋に具材たっぷりの汁を作り、大皿にうどんを盛って、ちょっとしたおかずなどと一緒に振る舞っていたと聞いています。うちでは自家製の漬物や薬味、マイタケの天ぷらなどを添えて、二人分の量をお出ししています。食べ方を教えますので、まずは味わってみてください」

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そう言って川島さんが手に取ったのは、テーブルに置いてあった玉杓子のようなかご。

川島さん「これは“とうじかご”です。この中にうどんを入れて鍋の中で湯がきます。大皿に盛ったうどんは時間がたつと麺が固まってしまうので、湯がくことでほぐして食べるんです。“うどんを鍋に投じる”ことから、”とうじかご”や”とうじうどん”というんですよ」

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少量のうどんをとうじかごに入れ、汁で軽く湯がきます。

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汁にはマイタケ、鶏肉、ごぼう、大根、にんじん、油揚げ、ネギと具材がたっぷり。

麺がほぐれ、味が少し染みたところで器に移し、具材と合わせて早速ひと口。奥深いだしの味わいが口いっぱいに広がります。だしはしょうゆベースの濃い目の味付けで、具材にしっかりと染み込んでいるため、器に汁を入れなくても具材と麺だけでちょうどいいあんばい。たっぷりのマイタケの香りやごぼうの風味が鼻に抜けていきます。

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汁が濃いので、具材と麺だけで食べるのがおすすめなのだとか。

川島さん「汁はかつお節など3種類の合わせだししょうゆ、みりん、砂糖を煮立たせて1〜2ヵ月ほど寝かせた調味料で作ります。寝かせることでしょうゆがまろやかな味になるんです。ここに具材のうま味が加わって、さらに奥深い味わいになるわけです」

麺はコシがあり、ツルツルとして喉越しも抜群。最初は汁や具材の味が印象的ですが、少しするとなんとも爽やかな青葉のような風味が広がり始めました! 緑色が特徴的な麺ですが、これは何の色でしょうか…?

川島さん「その正体はクマザサです。草津にたくさん生えているササの一種で、手のひらほどの大きなササの葉をパウダー状にして麺に練りこんでいるんです。ササを“草”と捉えて、“草津味”と名前をつけました」

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クマザサでしっかりと緑色に染まったうどん。

爽やかな味わいのうどんに箸がどんどん進み、あっという間に完食していました。

■温泉だけじゃない草津を目指して

標高1200メートルに位置する温泉街、草津。有名な温泉地である一方で、農作物が育ちにくく、特産物がないことが地域の課題だったといいます。

川島さん「9年ほど前に、商工会の女性部で地域の特産品を作るための企画会議があったんです。僕は会議にオーブザーバーとして参加していたんですが、食べ物で何かできないかと意見を求められまして。そこで着目したのが“草”でした。農作物はあまりないけれど、クマザサならどこにでもあるじゃないかと。調べてみると、標高の高い草津で育ったササは栄養価が高くて健康にもいいことがわかり、草津の草にもちなんでいますし、クマザサを使って名物を作ろうと決まったんです」

そこから商品開発に励む日々がスタート。1年ほどかけてさまざまな食材や商品とクマザサを試してみる中で、そば屋である川島さん、そばやうどんにもクマザサの粉末を練り込んでみたのだとか。その際、女性部の女将さんたちから小さい頃に食べていたという郷土料理「とうじうどん」の話を聞いたことや、群馬では小麦の生産が盛んなことから、地域の伝統的な食文化と地元産の食材を活かせるうどんを商品化することに。そして、味付けや具材を商品用にアレンジして出来上がったのが「草津味とうじうどん」なのです。

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これがクマザサの粉末。塩と混ぜて「クマザサ塩」として商品化されています。天ぷらなどによく合います。

商品として完成した後は地域で振舞ったり、観光キャンペーンで紹介したりと、観光協会を中心に地道に草津味とうじうどんを広める活動を行ったそうです。

川島さん「草津味とうじうどんは要予約で1日5組限定メニューですが、冬場はほぼ毎日注文がありますし、開発に携わった女将さんたちのいくつかの旅館ではコース料理の〆に提供しています。メディアで取り上げられることもあって、少しずつですが、草津の新しい名物として定着してきていますね。草津に訪れた方には温泉で体を癒やして、草津味とうじうどんで体の中から元気になって帰ってもらえたら嬉しいです」

草津に古くから伝わるおもてなし料理「とうじうどん」を復活させ、草津の草にちなんだクマザサでアレンジを加えた草津味とうじうどん。ササ香る爽やかな味わいのとうじうどんを食べれば、草津ならではの味とおもてなしの心をより強く感じることでしょう。草津温泉旅行の新定番として、湯治のあとは草津味とうじうどんを味わってみてはいかがでしょうか。

  • 店舗情報
    ● そばきち 西の河原店
    住所:群馬県吾妻郡草津町草津469-6
    電話:0279-88-2256
    営業時間:11:00~15:00 ※品切れ次第終了(火曜休)

※記事中の情報・価格は取材当時のものです。

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