暮らしのコト

麺は口ほどにものを言う~ご当地ヌードル探訪~

島の魅力をギュッと凝縮! 香川県小豆島の「オリーブ生そうめん」

この「記事」が気に入ったらみんなにシェアしよう!

みんなにシェアしよう!

日本各地に根付いた「麺料理」を求めて、全国を巡る「ご当地ヌードル探訪」。今回は香川県の小豆島にやってきました。瀬戸内海では淡路島に次ぐ大きさの小豆島は、3万人弱の人々が暮らす有人島。橋や空港はないので、本州や四国から船で渡ります。

坂手港周辺。小豆島にはいくつもの港があります。

坂手港周辺。小豆島にはいくつもの港があります。

南北朝時代のものとされる城跡が残るなど、古来より独自の文化を育んできた小豆島にはさまざまな名物がありますが、なかでも有名なのがオリーブそうめんです。

花が散るとオリーブは青い実をつけます。まだ小さいですが成熟すると大きく黒っぽい色に。

花が散るとオリーブは青い実をつけます。まだ小さいですが成熟すると大きく黒っぽい色に。

島に一歩踏み入ると、街じゅうで見られるオリーブの木。実は、小豆島は日本のオリーブ栽培発祥の地。さらに島で製造される手延べそうめんは「小豆島そうめん」として知られ、“日本3大そうめん”のひとつに数えられています。そんな島の2つの名物を合わせた「オリーブ生そうめん」が、観光客に人気のスポット「なかぶ庵」で食べられると聞いて、早速行ってみました!

■自社農園のオリーブをぜいたくに使用!

なかぶ庵は小豆島そうめんを製造する中武商店の直営施設。乾燥中のそうめんがくっつかないように箸で離す“箸分け”体験や食事、買い物を楽しめます。

なかぶ庵は工場に隣接。体験施設と食事スペース、買い物コーナーが一体となっています。

なかぶ庵は工場に隣接。体験施設と食事スペース、買い物コーナーが一体となっています。

食事スペース。元々そうめんの乾燥室だった建物を改装したそうです。

食事スペース。元々そうめんの乾燥室だった建物を改装したそうです。

案内してくれたのは、二代目の中武義景さん。昼どきになると島に来たビジネスマンやファミリーが訪れる食事スペースでは、スタンダードな白色の生そうめんかオリーブ生そうめんをいただくことができます。生そうめんとは、伝統的な乾麺のそうめんに対して生麺のそうめんのこと。できたてのオリーブ生そうめんを、早速いただいてみましょう!

オリーブ生そうめん。麺はおみやげに購入することもできます。

オリーブ生そうめん。麺はおみやげに購入することもできます。

オリーブの実と同じ緑色の麺が、華やかさを醸し出す一品! 氷が添えられており、とても涼しげです。

中武さん小豆島の自社農園で収穫したオリーブをふんだんに使った生そうめんです。麺には100%のオリーブ果汁が練りこんであり、さらに表面にエクストラバージンオリーブオイルを塗って作ります」

そうめんにエクストラバージンオリーブオイルを塗るとは意外な製法! でもこれは、昔から続く製造工程を応用したものなんです。一般的なそうめんは麺生地を熟成し、紐のように細く伸ばす作業を繰り返して作っていきます。その工程で“油返し”という麺の表面に食用油を塗る作業があるのですが、オリーブ生そうめんはそこで油の代わりにエクストラバージンオリーブオイルを塗布しているのです。

中武さん「油は麺を乾かすときに保湿の役目を果たしてくれます。あまり急激に乾くと、ひびが入ることもありますからね。ゆっくり乾くことで荒れずに、つるつるに仕上がるんです

ちなみにエクストラバージンオリーブオイルは、最高等級のオリーブオイルのこと。オリーブの実を絞って得られたオイルのなかでも酸度が低く、特に品質が高いと認められたもので、豊かな香りを誇ります。何ともぜいたくですね!

普通のそうめんに比べて、重みを感じるぷりぷりの麺です!

普通のそうめんに比べて、重みを感じるぷりぷりの麺です!

そんなそうめんに合わせる薬味は万能ねぎしょうがかつおだしのめんつゆで、シンプルにいただきます。キュッと氷で締められた麺を一口すすれば、これが普通のそうめんでないことは明らか。その細さとは裏腹にうどんのようなモチモチした弾力があって、においも何だか香ばしい!

中武さん生そうめんならではの味わいです。みなさんが夏に食べる乾麺のそうめんは、一般的に冬に製造されています。できてから食べるまで半年くらい間があるので、水分はさらに抜けて、香りや風味が薄れた淡白な味わいになるんですね」

それはそれで、あっさりしたものを食べたいという夏のニーズに合っていると言う中武さん。一方で、生そうめんは生麺ならではの良さがあります。

中武さん「作りたてで生だから、みずみずしくモッチリとして、小麦の香りも残っているんです。それにオリーブの果汁を練りこんだことで、風味も少し変わっていると思いますよ」

豊かな食感とさわやかな味わいが同居しているのは、オリーブ生そうめんならでは。夏らしいさわやかな一品でした!

■小豆島のそうめん作り

小豆島でそうめん作りが始まったのは、1598年ごろと言われています。産業を支えていたのは農家の人々。彼らは春から秋にかけて農作物を作りますが、冬になると仕事がなくなるので、本来は漁に出たり、石切場に出稼ぎに行ったりしなければなりません。そこで、自宅にいながらできる、そうめん作りを営む農家が増えていったそうです。

中武さん「そうめんは伸ばした麺を天日干しして作ります。だから晴れの日が多く、湿度や気温が低い冬が一番白くきれいにできあがるんです。明治時代の終わりには、小豆島にはそうめんを作る農家が650軒もあったそうですよ」

そうめんはハタという道具を使って乾燥させます。

そうめんはハタという道具を使って乾燥させます。

中武さんはその道30年以上のプロフェッショナル。高校生のときには、すでにそうめん作りに関わっていたそうです。

中武さん「昔、そうめん作りは家内工業でしたから、家の手伝いをしないと晩ごはんを食べられなかったんですよ。当時はイヤイヤやっていた気もしますけどね(笑)」

やがて家業を継ぎ、工場を構えた中武さん。若いころからチャレンジングな試みを続けてきました。そのひとつがオリーブ生そうめん。なかでも大変だったのが、原料となるオリーブの確保でした。

中武商店の工場。職人たちが手作業でそうめん作りに励んでいます。

中武商店の工場。職人たちが手作業でそうめん作りに励んでいます。

中武さん「最初は小豆島産のオリーブがなかなか手に入らなかったんです。そこで外国産を使ったのですが、お客さんにしてみればオリーブの産地で作っているんだから、当然使っているのは小豆島産のオリーブだと思うでしょう? だから一度やめたんです

小豆島産オリーブは生産量が少なく希少品。その確保のために、自社のオリーブ農園「なかぶ園」を造ったというから驚きです。今から11年ほど前に木を植えて、実が採れだしたのが5年後。そこから農園のオリーブを使ったそうめんの製造を再開したそうです。

中武商店謹製のエクストラバージンオリーブオイル。麺に塗るだけでなく、数量限定で販売もしています。

中武商店謹製のエクストラバージンオリーブオイル。麺に塗るだけでなく、数量限定で販売もしています。

そんな自らのそうめん作りを振り返って、中武さんは伝統的なそうめんを作っているのが一番楽だとしながらも、「小さな革新」を続けていくべきと語ります。

中武さん「伝統産業は何百年も続いていますから、技術的にはだいたい完成されているものです。でも、人の好みは時代とともに変わっていく。あまりにも固執すると、他の新しい産業に押されて伝統産業は衰退してしまいます。だから100人が100人ともやる必要はないけれど、何人かは新しいものにも挑戦しなければと思うんです」

二代目の中武義景さん。

二代目の中武義景さん。

オリーブ生そうめんが内に秘めるのは、生そうめんとオリーブという2つの革新。伝統の先に踏み込んだ、小豆島ならではの一品なのでした。

そうめんやオリーブ以外にも、小豆島には楽しみがいっぱい。特に2016年は3年に1度開催される「瀬戸内国際芸術祭」イヤー。あのビートたけしと現代美術作家のヤノベケンジが共作した巨大彫刻をはじめ、島の各地に点在する現代アートを存分に鑑賞できるチャンスです。この夏、小豆島を訪れる方は、さわやかなそうめんで涼をとるのはいかがでしょう?

  • 店舗情報
    ● なかぶ庵
    住所:香川県小豆郡小豆島町安田甲1385
    電話:0879-82-3669
    営業時間:10:00〜15:00LO(月曜休、祝日の場合は翌日火曜休)
    http://www.shodoshima-nakabuan.co.jp/

※記事中の情報・価格は取材当時のものです。

この「記事」が気に入ったら
みんなにシェアしよう!

MATOME