日本各地に根付いた「麺料理」を求めて、全国を巡る「ご当地ヌードル探訪」。今回は栃木県日光市へやってきました。日光駅を降りれば、世界遺産・日光の社寺までバスで数分というロケーションですが、目指すはさらに山深くにある奥日光です。
急カーブが連続するいろは坂を登ると見えてくる巨大な湖が、奥日光で最もにぎわう中禅寺湖。湖畔には、観光ホテルやおみやげ店が並んでいます。
この湖畔の並びに「ちたけそば」のおいしい店があるそうなんです。ちたけそばとは、「ちたけ(ちちたけ)」というきのこを使った栃木県の郷土料理。栃木県外ではあまり知られていませんが、県内で暮らす人にとってはなじみ深い料理だそうです。湖畔の老舗「味処 会津屋」で、その味を体験してみました!
■しいたけともまつたけとも違う“ちたけ”の風味!
大正4年に日光銘水老麺(ラーメン)の店として中禅寺湖畔にオープンした味処 会津屋。やがてそばやうどんなどの麺類や飯モノも扱う食堂となり、創業以来101年にわたって観光客をもてなしてきました。
案内してくれたのは、三代目のご主人とともに店を切り盛りするおかみの金田登喜さん。話を伺うと、ちたけそばは日光名物として知られるゆばを使った料理と並んで、店の一番人気のメニューだそう。早速、注文してみました!
つゆをひと口飲むと、まつたけを彷彿とさせるきのこ特有の豊かな香りが、鼻の中に満ちてきました。こんなにもしっかりと感じられるとは、驚きです。その秘密はだしにあると、金田さんは言います。
金田さん「昆布と干ししいたけ、かつおでとっただしに、ちたけのだしも加えているので香りのあるつゆに仕上がるんです。ちたけは“乳茸”と言われているくらいで、割くと牛乳のような白い液が出てきます。それが香り高いだしの素になるんですね」
そばの上には具材がたっぷりのっています。これがちたけでしょうか?
金田さん「そうですね。正しくはちたけになすを加えて香味油で炒めたもので、ちたけそばには必ずのっているものです。店では炒めた後に、しょうゆ風味のつゆに漬けたものを出しています」
ちたけは食感も独特。プリプリしたしいたけやシャキシャキしたまつたけとはまた違った、グニグニとした弾力があり、かめばかむほど味がしみ出てきます!
麺はそばにしては太めの平打ち。風味豊かなつゆや味付けの濃い具材には、しっかりと主張する太めのそばが相性ぴったり。観光で歩き回っておなかをすかせているときには、この食べ応えもうれしいですね。ちたけの風味を最後の一滴まで満喫しながら、完食しました!
■思い出のきのこは希少な食材に
栃木県内で親しまれているちたけそば。全域ではないようですが、真岡市や壬生町ほか県内のさまざまな地域で食べる文化が息づいているのだとか。日光で生まれ育った金田さんも、昔から食べていたそうです。
金田さん「子どものころは、山歩きが好きな母がちたけを採ってきてくれたものです。急勾配に生えていて採るのが大変だったみたいですけど、いっぱいとれた日は半分をてんぷらに、もう半分をちたけとなすの炒め物にして、大皿で出してくれました」
ちたけとなすの炒め物は、そのまま食べることもあれば、時にそばやうどんにのせて食べることもありました。それが郷土料理として現代に伝わっているのです。ところが材料となるちたけが環境の変化や乱獲によって、あまり採れなくなってしまいました。
金田さん「今ではまつたけ並みの値段になってしまいました。てんぷらもおいしいんですけど、量が必要なのでなかなか用意できません。でもちたけそばならば、ちたけの量が少なくても作ることができます」
おいしいものを安くふるまうのが店のモットー。金田さんもよく食べたくなるという、ちたけをお客さんに味わってもらうのに、ちたけそばはぴったりのメニューだったのです。
金田さん「ほとんどのお客さんはちたけそばを知りませんが、食べてみるとおいしいと言ってくださいますよ。初めて食べるという方は、ちたけ独特の風味をじっくり味わってみてくださいね」
ちたけそばは栃木県内各地の飲食店で扱われていますが、中禅寺湖畔で提供しているのは味処 会津屋だけ。日光名物のゆばも捨てがたいという人は、あげゆばを上品な味付けで煮込んだ「ゆば煮」と一緒に注文するのが金田さんのおすすめだそうですよ!
標高の高い奥日光では、5月ごろから色とりどりの花がほころび始めるそう。日光の社寺から足をのばして自然あふれる奥日光を訪れてみてはいかがでしょう? そのときは、ぜひちたけそばを味わってみてください!
- 店舗情報
● 味処 会津屋
住所:栃木県日光市中宮祠2480
電話:0288-55-0045
営業時間:4月〜11月10:00~17:00
12月〜3月10:30〜15:00(不定休)
※記事中の情報・価格は取材当時のものです。