日本各地に根付いた「麺料理」を求めて、全国を巡る「ご当地ヌードル探訪」。今回は、奈良県奈良市にやってきました。修学旅行の定番スポット・古都奈良のシンボルといえば、鹿ですよね!
鹿たちが生息する奈良公園からJR奈良駅まで続く三条通は、いつも観光客で大にぎわい。それと交差するように南北にいくつかの商店街が伸びています。
そんな商店街の一角にある人気店「麺闘庵」が今回の目的地。店主が考案した「巾着きつね」を目当てに、店には連日観光客が殺到しているそうです。ちまたでは“逆きつねうどん”とも呼ばれ話題になっている、謎のメニューの正体に迫りました!
■特大巾着に秘められたこだわり
麺闘庵は、奈良県桜井市で開業したうどん屋。8年ほど前に奈良市に移転し、豊富に取りそろえたユニークなメニューが人気を呼んでいます。
店を案内してくれたのは、店主の津保井勇さん。巾着きつねという名前から察するに、油揚げの代わりに巾着が入ったうどんなのでしょうか。だとすれば、“逆きつねうどん”の由来は……? 考えてもわからないので、実際に作ってもらいましょう!
目の前に現れたのは、つゆに浸された特大巾着! 口はねぎでしばられており、大きさは男性の手のひらと同じくらいありそうです。肝心の麺が見当たりませんが、これは本当にうどんなのでしょうか?
津保井さん「油揚げのなかにうどんがつめてあります。その口をねぎでしばって巾着にしているんですよ。だから、巾着きつねというわけです」
きつねうどんは麺に油揚げをのせますが、巾着きつねは油揚げに麺を閉じ込める料理なのですね。だから、“逆きつねうどん”ですか!
食べるには箸を入れて割れば良さそうです。巾着にずぶっと箸を入れると、なかにうどんがぎっしり入っているのが見えました! しかし、お客さんのなかには食べ方で戸惑う人もいるとか。
津保井さん「口をしばるねぎを、ほどこうとするお客さんもいますよ。だいたい途中で難しいと気がつくのですが、私や店員が教えてあげることもあります。そういった食べ方まで楽しんでほしいですね!」
箸で押し広げた巾着から、うどんを引っ張り出して勢いよくすすります。食感はやわらかでモチモチ! スープを吸いながらも、きちんとコシを保っています。
津保井さん「うどんはちょっと置いても、コシが抜けないような作り方をしています。ゆでたうどんを巾着に入れたあとに、口をしばってつゆで炊いているんです」
うどん入りなのに、普通の巾着と同じように煮込まれているとは驚きです! 巾着にかぶりつくと、しょうゆの味わいが強調されたつゆが、じんわりとにじみ出てきました。実はこのつゆにも、工夫があります。
津保井さん「うちのメニューで巾着きつねだけ、特別なつゆで作るんです。かつおと昆布で取っただしに、2種類のしょうゆをブレンドして濃い口に仕上げたのが巾着きつねのつゆ。その他のうどんのつゆは、かつお、昆布、うるめ、さばを一晩かけて水出しした上品なだしで作っています」
魚介の上品なつゆではなく、あえて濃い口のつゆを使用するのは、巾着のおいしさを際立たせるため。確かに、巾着に歯を立てたときの“じんわりと味が染み出る感”は濃い口でなければ実現できません。ユニークさの裏に店主のこだわりがつまった一杯、おいしくいただきました!
■巾着きつねの誕生!
インパクト抜群の巾着きつね。その誕生はお店が奈良市に移転する前の桜井市にあった時代にさかのぼります。今でこそ豊富なアイデアメニューを取りそろえている麺闘庵ですが、当時はなんと1つのメニューで勝負していたそうです。
津保井さん「秋田県の稲庭うどん、群馬県の水沢うどん、長崎県の船先うどんを3段の引き出しに入れたメニューですね。日本三大うどんに数えられる、3つの地域のうどんにこだわっていました」
なんとも豪華なメニューですが、これが思ったよりは売れなかったそう。さらにお客さんや近所の人から別のメニューも出してくれという声もあったので、日替わりの定食を始めたといいます。
津保井さん「定食のおかずとして、具材を入れた巾着を炊いて出すことがあったんですよ。そこで、ふとうどんを具材として入れられないかなと思いついたんです。でも巾着は小さすぎた…」
そこで近くの豆腐屋に油揚げを別注。ところが完成した試作品はかたちがバラバラで、売り物にならなかったといいます。困りはてた津保井さんは、酒屋として店に出入りしていたおばちゃんに、要望に応えてくれそうな「親切な揚げ屋さんない?」と相談。紹介してもらったのがお隣天理市との境目近くにある豆腐屋だったそうです。
津保井さん「その豆腐屋に別注している油揚げをずっと使っています。大きくてもやぶれないように揚げ方を工夫してくれていて、温度の異なる3つの油で3度手揚げしてもらっています」
周りの人の協力もあって、巾着きつねというユニークな麺料理は完成しました。そして後に奈良市に移転した麺闘庵は、テレビの取材をきっかけに、瞬く間に人気店に成長。注目されたのはもちろん、巾着きつねです。
津保井さん「昔から面白いことを考えるのが好きだったんですよ。だから夜中は1年中、新メニュー開発していました。睡眠不足になって、医者からストップがかかるほどにね(笑)」
そして店内の壁一面に貼ってあるお客さんの写真を見ながら、津保井さんは言いました。
津保井さん「とにかく、うちに来たらちょっと変わったメニューを楽しんでいってください。私にとっては、お客さんの笑顔がごちそうですから」
学生時代に訪れた人も多いであろう奈良。でも見どころは鹿や大仏だけではありません。世界遺産・元興寺周辺の奈良町は、おしゃれなカフェや雑貨屋が立ち並ぶ、女性人気の高いスポット。子どものころは行けなかった、日本酒の蔵元などもおすすめです。この春、巾着きつねとともに奈良の魅力を再発見してみてはいかがでしょう?
- 店舗情報
● 麺闘庵
住所:奈良県奈良市橋本町30-1
電話:0742-25-3581
営業時間:11:00~18:00(火曜休、祝日の場合は営業)
※記事中の情報・価格は取材当時のものです。