暮らしのコト

麺は口ほどにものを言う~ご当地ヌードル探訪~

刻一刻と味わい変わるしょうゆスープ! 栃木県那須塩原温泉郷の「スープ入り焼そば」

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日本各地に根付いた「麺料理」を求めて、全国を巡る「ご当地ヌードル探訪」。今回は、栃木県那須塩原市にある、晩秋の那須塩原温泉郷へやってきました。開湯1200年以上の歴史を持つ那須塩原温泉郷は、箒川周辺に点在する11の温泉の総称です。黒色から乳白色まで6種類の泉質を誇る温泉や、谷あいの美しい景観が楽しめます。

箒川沿いに伸びる街道・塩原バレーラインにみやげ店や温泉旅館が並びます。

箒川沿いに伸びる街道・塩原バレーラインにみやげ店や温泉旅館が並びます。

箒川に架かる紅葉の名所「紅の吊橋」。温泉街の中心部にある人気スポットです。

箒川に架かる紅葉の名所「紅の吊橋」。温泉街の中心部にある人気スポットです。

この由緒ある温泉地で昔から親しまれているのが「スープ入り焼そば」。近年はメディアからも注目を浴びて温泉郷の定番グルメとなり、訪れた人がこぞって食べに行くというウワサです。観光客や湯治客から評判の「こばや食堂」で、その味を確かめてきました!

■焼きそばがスープの味を変えてゆく!

こばや食堂は、温泉郷の中心地・古町温泉にある大衆食堂。紅葉シーズンをはじめ繁忙期には、行列必至の人気店です。

JRからのバス利用者が乗降する塩原温泉バスターミナルより徒歩3分ほどの場所にあります。

JRからのバス利用者が乗降する塩原温泉バスターミナルより徒歩3分ほどの場所にあります。

店内にはくつろげる小上がりのほか、カウンター席とテーブル席も。

店内にはくつろげる小上がりのほか、カウンター席とテーブル席も。

店を案内してくれたのは、二代目店主の斎藤太資さん。スープ入り焼そばという名前からすると、焼きそばと何かのスープを組み合わせた料理であることは間違いなさそうですが……まずは作ってもらいました!

アツアツで運ばれてきた「スープ入り焼そば 並」。

アツアツで運ばれてきた「スープ入り焼そば 並」。

運ばれてきたスープ入り焼そばの見た目は、まるでしょうゆラーメンのようです! これは本当に焼きそばなのでしょうか?

斎藤さん「少し変わっていますが、焼きそばですよ。スープ入り焼そばは、しょうゆスープのなかにソース焼きそばを入れた料理なんです」

確かに、麺の上にのる豚肉キャベツは見慣れた焼きそばの具材です。はじめにスープを一口いただいてみましょう。鶏ガラベースのスープはまさしく、昔ながらのしょうゆラーメンのもの。体に染みる、どこか懐かしい感じのする味わいです。

こだわりの麺は栃木県内から取り寄せた中細のストレート麺。

こだわりの麺は栃木県内から取り寄せた中細のストレート麺。

続いて箸を手に取り、麺をすすってみてビックリ。焼きそばがまとうソースの甘みと酸味しょうゆスープの塩味とうまみが上乗せされて、何とも絶妙な味わいに! この相性の良さの秘密は味付けだけでなく、麺にもあるようです。

斎藤さん「普通の焼きそばにはボソボソとした食感のある蒸し麺が使われていますが、うちの焼きそばには昔からラーメンのゆで麺を使っています。そうすることで、のどごしがよく食べやすい一杯に仕上がるんです」

食べ進めていくうちにあることに気づきました。スープの味が、少しずつ変わってきているのです。この甘みと酸味と塩味が入り交じった独特の味わいは、もしかして……。

斎藤さん焼きそばからソースが溶け出しているんです。食べるにつれてスープのソース感が強くなり、味がなじんでコクが出てくるんですよ」

さらにお客さんの間では卓上においてある調味料を使うと、より味の変化を楽しめると評判になっているそうです。

自家製にんにくとうがらし酢(手前)は特に女性からの人気が高いそう。

自家製にんにくとうがらし酢(手前)は特に女性からの人気が高いそう。

斎藤さん粗びきこしょうをかけると、ガツンとインパクトのある味に変わりますよ。最近は自家製のにんにくとうがらし酢を入れるお客さんが多いですね。味がガラっと変わるので、本来のスープ入り焼そばの味を楽しんでから入れてみてください」

8割くらい食べたところでにんにくとうがらし酢を投入。すると、お酢の酸味とにんにくの香り、そしてとうがらしのかすかな辛みが混じり合ったマイルドな一杯に生まれ変わりました! 刻一刻と変化する味に、最後の一滴まで飽きることなく、完食です!

■世代を超えて愛され続ける“スープ入り”

那須塩原温泉郷で50年以上前から親しまれているスープ入り焼そばを提供する店は、温泉郷内に5店舗存在します。そのルーツは店舗によって違うようですが、昭和40年創業のこばや食堂では開店から間もなくして取り扱いをはじめたそうです。

斎藤さん「うちのスープ入り焼そばのルーツは、かつて温泉街に店を構えていた『新生食堂』にあります。そこでは常連さんへの裏メニューとして、ラーメンの麺で作った焼きそばをスープに入れて提供していました

当時、こばや食堂の初代店主・斎藤八郎さんは、いつしか常連の間でスープ入り焼そばと呼ばれるようになった新生食堂の裏メニューを食べて、その味にとても感動したそうです。

斎藤さん「そこでスープ入り焼そばを店で出そうと、おやじ(初代店主)は新生食堂の旦那さんからラーメンの麺を使った焼きそばの焼き方を伝授してもらったそうなんです」

教えてもらった焼きそばと、こばや食堂の独自のしょうゆスープが合うように初代店主は試行錯誤を繰り返しました。そうして完成したのが、こばや食堂風にアレンジされたスープ入り焼そばです。

調理風景。焼きたての焼きそばをスープに投入するというシンプルな手法は昔から変わりません。

調理風景。焼きたての焼きそばをスープに投入するというシンプルな手法は昔から変わりません。

その味は数十年前に廃業した新生食堂に代わり現在まで受け継がれ、温泉郷で暮らす人々に“スープ入り”という愛称で親しまれてきました。そして地元だけでなく、温泉郷を訪れる観光客や湯治客からも愛されるメニューとなったのです。

斎藤さん「もう50年近く出していますからね。なかには子どものころ家族で旅行に来ておいしかったから、今度は親になって子どもを連れてきたというお客さんもいらっしゃいました。温泉場をゆっくり歩いて、おみやげなり、箒川に架かるつり橋や渓谷なりを見ていただきながら、これからもスープ入り焼そばも楽しんでもらいたいです」

紅葉が山々を彩った後、冬の温泉郷にはスキーシーズンが到来します。春はトレッキング、夏はカヤックやキャニオリングなど季節のレジャーを満喫しながら、極上の温泉とセットでスープ入り焼そばを味わってみてください!

目印は店の壁に大きく書かれたスープ入り焼そばの文字。塩原バレーラインを進めば見えてきます!

目印は店の壁に大きく書かれたスープ入り焼そばの文字。塩原バレーラインを進めば見えてきます!

  • 店舗情報

    ● こばや食堂
    住所:栃木県那須塩原市塩原795
    電話:0287-32-2371
    営業時間:11:00~15:00(不定休)

※記事中の情報・価格は取材当時のものです。

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