暮らしのコト

麺は口ほどにものを言う~ご当地ヌードル探訪~

特大の茶わん蒸しにうどんがイン! 大阪府の郷土料理「小田巻き蒸し」

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日本各地に根付いた「麺料理」を求めて、全国を巡る「ご当地ヌードル探訪」。今回やってきたのは大阪市中央区の船場です。船場とは大阪駅と難波駅の真ん中に位置する南北2.1キロメートル、東西1.1キロメートルの四角形の地域の名称。江戸時代には本町通を境に北を北船場、南を南船場と呼び、商都・大阪の中心を担いました。

現在の北船場はビジネス街ですが、高層ビルに混じって明治〜昭和期のレトロビルが見られます。

現在の北船場はビジネス街ですが、高層ビルに混じって明治〜昭和期のレトロビルが見られます。

南船場は今では商業地区のカラーが強く、道頓堀から伸びる心斎橋筋商店街は常に混雑しています。

南船場は今では商業地区のカラーが強く、道頓堀から伸びる心斎橋筋商店街は常に混雑しています。

そんな船場でかつて商売していた大商店は、新年のあいさつに「小田巻き蒸し」という料理をふるまったと伝えられています。紡いだ麻糸を巻いて玉にした苧環(おだまき)から名付けられたとされる、うどんを使った大阪の郷土料理だそうですが、どんなものなのでしょうか? 南船場にある1893年創業の老舗うどん屋「うさみ亭マツバヤ」へ話を伺いに行きました。

■どんぶりサイズの茶わん蒸しの中にうどんが!

観光客でにぎわう心斎橋筋商店街を一本それた通りにある、何気ない店構えのうさみ亭マツバヤ。実は、きつねうどん発祥の店として知られる名店です。

創業時に文楽の三味線弾きからもらった屋号「松葉家」を10年ほど前に「うさみ亭マツバヤ」に変更。

創業時に文楽の三味線弾きからもらった屋号「松葉家」を10年ほど前に「うさみ亭マツバヤ」に変更。

店は縦に長く、1階には8卓のテーブルがあり、2階席もあります。

店は縦に長く、1階には8卓のテーブルがあり、2階席もあります。

店を案内してくれたのは、御年71歳の三代目店主・宇佐美芳宏さん。まず小田巻き蒸しとは、どんな料理なのでしょう?

宇佐美さんうどんの入った茶わん蒸しなんですけどね。おやじ(二代目店主・宇佐美辰一さん)の話だと、戦前は正月やお祝いなどハレの日に作っていたみたいです。今はメニューには出していないけど、言っていただければ用意しますよ」

ふたをされて出てくる「小田巻き蒸し」。要予約メニューなので、事前に店への問い合わせを忘れずに。

ふたをされて出てくる「小田巻き蒸し」。要予約メニューなので、事前に店への問い合わせを忘れずに。

注文すると、目の前に色鮮やかなどんぶりが置かれました。宇佐見さんの言うように、器からしてハレの日の料理という印象を受けますね。では早速、いただきましょう!

どんぶりサイズの茶わん蒸しに圧倒されます。

どんぶりサイズの茶わん蒸しに圧倒されます。

ふたを開けると、何とも美しい具材の数々が目に飛び込んできました! 豪華な具材が盛りだくさんですね!

宇佐美さんえびあなごさわらかしわ(鶏肉)、しいたけかまぼこぎんなんゆりね(食用のゆりの球根)が入っています。それから三つ葉ゆずを飾ります」

かつてはあなごの代わりにうなぎを使っていましたが、それ以外の具材は昔から変わっていないそうです。

さじを入れると、大ぶりのかしわが飛び出してきました。

さじを入れると、大ぶりのかしわが飛び出してきました。

茶わん蒸しの部分だけをひと口食べると、上品な魚介の香りとうまみがじんわりと広がっていきます! そもそも茶わん蒸しとは、具材とともに溶き卵とだし汁を合わせたものを器に入れて蒸した料理。うさみ亭マツバヤでは、うどんのだし汁を使っています

宇佐美さん「だし汁は本枯れ節(かつお節に独特のカビを生やして加工したもの)と宗田節さば節の3種をブレンドしてとっています。昆布は利尻系ですね」

さわらやあなごなど淡泊な白身系の魚は、3種の節の風味豊かなだし汁とよくマッチして上品な味わい。かしわやかまぼこは大ぶりで食べごたえがあり、関西圏以外で見かける機会の少ないゆりねはじゃがいものように甘くてほくほくです!

小田巻き蒸しのうどんは、見た目は煮込みうどんのようです。

小田巻き蒸しのうどんは、見た目は煮込みうどんのようです。

箸を入れると、底のほうからうどんが顔をのぞかせました。蒸し器で蒸されているうどんは、つるつるシコシコというよりやわらかな食感。だし汁がよく染み込んでおり、噛むとじんわりうまみがにじみ出ます! 町のうどん屋さんでちょっとぜいたくな気分にひたりながら、どんぶり1杯まるっと完食です。

■大阪うどん文化の陰に隠れた郷土料理

うどんといえば讃岐うどんの知名度が圧倒的ですが、大阪にも“大阪うどん”という独自のうどん文化が息づいています。その特徴は“手もみ”だそうです。

宇佐美さん「歯ごたえのある讃岐と違って、大阪のうどんはもちもちとした感じ。手で練って空気を入れ、やわらかいけどコシがある麺に仕上げます」

店内ののれんには「手もみ大阪うどん」という文字が並んでいます。

店内ののれんには「手もみ大阪うどん」という文字が並んでいます。

こうして作られると、節の風味を生かしただし、そして具材3つがうまく調和した1杯が、大阪のうどんであると言われています。特にきつねうどんは、たこ焼きなどの粉ものに次ぐ大阪名物のひとつとして認知され、広く親しまれています。では、同じ大阪発祥の小田巻き蒸しはどうでしょう? 戦前はよく見かけたそうですが……。

宇佐美さん近頃はほとんど見かけません。昔はハレの日に食べる豪華な料理は、今ほど種類がなかったからね。おせち料理にしても本格的なものは料理屋やデパートで売るようなものだったと思いますから、小田巻き蒸しが出されていたのかもしれません」

今や地元大阪ですら、その存在自体を知る人が少なくなったと宇佐美さんは語ります。

三代目店主の宇佐美芳宏さん。

三代目店主の宇佐美芳宏さん。

宇佐美さん「少なくとも私が店で働き始めた戦後20年くらいの頃には、小田巻き蒸しを食べる習慣はなかったかな。(高度経済成長で)悠長に食べている時代でもなかったし」

一説には、小田巻き蒸しは普通のうどんに比べて作るのに手間がかかるため、時代とともに廃れていったと言われています。同じ大阪発祥でありながらきつねうどんだけが全国規模で有名になったのも、調理にかかる時間が要因なのかもしれません。それでも老舗のなかには、その味を確実に受け継いでいる店もあるのです。

宇佐美さん「昔は、こういううどんがあって、ハレの日に食べていただいたということです。蒸したうどんはやわらかくなりますから普通のうどんとは違います。小田巻き蒸しという1つの料理として味わってみてください

たとえマイナーでも伝統を守る職人がいる限り、小田巻き蒸しが消えてしまうことは、きっとないのでしょう。

うさみ亭マツバヤには小田巻き蒸しやきつねうどん以外にも、戦時中に考案された四角い南部鉄器の鉄鍋でご飯とうどんを一度に煮込む「おじやうどん」など変わったメニューが多く、いろいろな味が楽しめます。定番の観光スポット・道頓堀の徒歩圏内にあるので、大阪を訪れた際は立ち寄ってみてはいかが?

  • 店舗情報

    ● うさみ亭マツバヤ
    住所:大阪府大阪市中央区南船場3-8-1
    電話:06-6251-3339
    営業時間:月〜木曜11:00~19:00、金・土曜11:00~19:30(日曜・祝日休)
    ※小田巻き蒸し(税込1000円)は要事前予約。

※記事中の情報・価格は取材当時のものです。

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