暮らしのコト

麺は口ほどにものを言う~ご当地ヌードル探訪~

町民だけが知る思い出の学校給食 秋田県にかほ市の「にかほ☆あげそば」

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日本各地に根付いた「麺料理」を求めて、全国を巡る「ご当地ヌードル探訪」。今回は、2005年に仁賀保町、金浦町、象潟町の三町が合併して誕生した秋田県にかほ市へやってきました。旧仁賀保町エリアのJR仁賀保駅で下車し、海に向かって道なりに歩いて行きます。

駅から海へと続く道沿いには、全国で3番目に古いとされる日本酒「飛良泉」の蔵元があります。

駅から海へと続く道沿いには、全国で3番目に古いとされる日本酒「飛良泉」の蔵元があります。

目的地は、海辺に建つ食事処「潮乃家」。この店で提供されているご当地麺が、旧仁賀保町のローカルフード「にかほ☆あげそば」です。もともとは昭和40年代にある出来事がきっかけで生まれた学校給食だそうですが、“あげそば”というからには揚げ麺を使った料理なのでしょうか? 早速、確かめてみましょう!

■“あげそば”の意外な見た目にびっくり!

潮風を感じられる食べ物屋という意味合いで潮乃家と名付けられたそう。

潮風を感じられる食べ物屋という意味合いで潮乃家と名付けられたそう。

潮乃家は、新鮮な魚介をはじめとした地元ならではの料理をふるまう食事処。旬の味を求める地元客や観光客、店の目の前に広がる穴場の「平沢海水浴場」へ遊びに来たレジャー客も多く訪れます。

平沢海水浴場。潮乃家の2階から一望できます。

平沢海水浴場。潮乃家の2階から一望できます。

店を案内してくれたのは店長の菅原寿宏さん。厨房から運ばれてきたにかほ☆あげそばを見て、「これがあげそば!?」と思わず声を上げてしまいました。

「にかほ☆あげそば」。熱々の鍋に入っているので、器によそいながら食べても。

「にかほ☆あげそば」。熱々の鍋に入っているので、器によそいながら食べても。

菅原さん「うわさだけを聞いて食べに来られたお客さんは、やはり驚かれます(笑)。“あげそば”という名前から、かた焼きそばや揚げた日本そばが出てくると思うみたいなんですよ」

もやしの下に隠れた麺はみずみずしく、“あげそば”というネーミングからはかけ離れているように感じます。油で揚げた麺を使うとばかり思っていましたが、生麺を使っているのでしょうか? すると、菅原さんは首を振ります。

菅原さん「使っているのは間違いなく揚げた麺です。実は一度素揚げした中華乾麺を、野菜や肉と一緒にスープで煮込んでいるんですよ。30分くらい火にかけていますね。フライ麺をお湯で戻すカップ麺のようなものを想像してもらえれば、わかりやすいと思います」

油で揚げたとは思えない、ぷるりとした麺です。

油で揚げたとは思えない、ぷるりとした麺です。

中太の角麺は、生麺のようにつるつるでもちもちな食感! しかも、素揚げで一度水分を飛ばしてから煮込んでいるため、鶏ガラベースのしょうゆスープが麺の芯までしっかりとしみ込んでいます。かめばかむほど、甘くてしょっぱいスープのうまみがじわりとにじみ出てきます!

具材のにんじん、干ししいたけ、豚バラ、メンマ、薄揚げも、よく煮込まれて味がしみています。もやしだけは後のせで、しゃきしゃきとした食感がアクセントに。

スープよりも麺や具材の量が多いのも特徴的。

スープよりも麺や具材の量が多いのも特徴的。

スープが少なめなのは、煮込み料理だからでしょうか。そのぶん干ししいたけや豚バラのうまみが凝縮されて風味豊か! しかも熱い鍋に入っているので、しばらくは温かいまま食べられます。

菅原さん「お客さんには熱々で出していますが、実はスープが冷めてもおいしく食べられるんですよ

意外な一言を聞き、残りは冷めてから食べてみることに。麺がのびてしまうのではないかと心配しながら口に運ぶと、食感はほとんど変わらないまま、おいしくいただけました。むしろ一度冷ましてから温めたほうがおでんなどと同じで、具材に味がしみておいしく感じる人も多いとか。ぺろりと完食しました!

■旧仁賀保町民だけが知る人気の学校給食

にかほ☆あげそばが誕生したのは、昭和40年代の旧仁賀保町。きっかけは、町立平沢小学校(当時)で起きた学校給食をめぐるトラブルでした。

菅原さん「その日の献立は、栄養価を考えて肉や野菜を入れた鶏ガラスープのうどんでした。ところが配達されてきたのは、乾燥した中華麺。返品してもうどんの麺は用意されていません。そこで栄養士さんと調理員さんは、麺をそのまま使わずに一工夫し、素揚げしてからスープで煮込んでみたそうなのです」

スープのうまみをたっぷり吸い込んだあげそばは、子どもたちから大好評。町内の小中学校にあっという間に広がっていきました。平沢小学校のOBである菅原さんも、あげそばを食べて育った町民の一人です。

菅原さん「当時は何なのかよくわからずに食べていましたけどね(笑)。でも、確かにおいしかったという思い出は残っています。給食の人気ランキングでもあげぱんと並んで一番評判の良いメニューでした。甘みがあってしょっぱくて麺にも味がしみている、子どもが好きな味みたいなんですよね」

イベント出展用の看板を持つ店主の菅原寿宏さん。

イベント出展用の看板を持つ店主の菅原寿宏さん。

こうしてあげそばは学校給食の定番となり、町民なら誰もが食べる思い出の味となったのです。そのレシピは長らく町の教育委員会が給食の献立として守り続けてきましたが、数年前に発足した「あげそば全力普及会」が受け継ぎ、ご当地グルメ「にかほ☆あげそば」として発信しています。菅原さんは料理部長を務め、各店舗への講習も行っているそうです。

菅原さん「にかほ☆あげそばには、しょうゆベースのスープと揚げた中華乾麺のほかに7つの食材を使うというルールがあります。にんじん、干ししいたけ、もやし、長ねぎ、メンマ、豚肉、薄揚げは基本的には必要な具材です」

潮乃家で提供されているのは、誕生当時に近い基本的なレシピ。しかし、同じ町民でもそれぞれが持つあげそばのイメージには、微妙な違いがあるといいます。

菅原さん「あげそばといえば、角麺じゃなくて、丸麺だという人もいます。なぜ食い違うのかというと、同じ町でも学校単位で仕入れ先が違うからです。だから、出身校ごとに『俺はカドだ』、『いいやマルだ』と論争があるんですよ(笑)。地域によってはキャベツやごぼう、ねぎなんかを入れる場所もありますし、時代によっても変わってきますね」

現在でも旧仁賀保町エリアの小中学校では、月1回ほどのペースで献立に並ぶというあげそば。逆に、同じにかほ市でも旧金浦町や旧象潟町エリアの学校では食べられる機会の少ない、かなりローカルなメニューだそうです。

菅原さん「だからまずは地元にしっかり普及させたいです。野菜たっぷりで栄養バランスが良く、家庭でも作ることができますから、今日はカレー、明日はあげそばといった具合に、気軽に食べられるメニューとして認知してほしいですね!」

にかほ市は、実は知られざる自然の宝庫。出羽富士と称される霊峰・鳥海山や、かつて松島と並び称された名勝・象潟など、たくさんの見どころがあります。東北三大祭りにも数えられる「秋田竿燈祭り」ほか県内のイベントには「あげそば全力普及会」が出展することもあるそう。秋田を訪れたら、町民しか知らなかった思い出の学校給食を、ぜひご堪能あれ。

  • 店舗情報

    ●潮乃家
    住所:秋田県にかほ市平沢字家ノ後1
    電話:0184-35-3920
    営業時間:11:30~14:30、17:00~21:00(第1・第3火曜休)

※記事中の情報・価格は取材当時のものです。

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